第二百六十話 誰よりも、君の幸せを願う10
「それでは、記念すべき第一回、クイーンブライド・コンテスト、開催です!」
司会者のその声と、観客の完成と共にクイーンブライド・コンテスト、スタート。まずは第一審査、着ているドレスと共に自己アピール。
「……はいいんだけど、何で俺達こんな特別席みたいなの用意されてるの?」
「上手くいけば勇者君が一夫多妻制の権利を得られるからじゃないの?」
「何の話だよ!?」
種を明かせばエカテリスの手引きによりこうして良く見れる特等席に案内されたのだが、それは後に知る。
兎にも角にもあの場にいた関係者――ライト、レナ、レインフォル、イルラナス、ロガン、ドゥルペ、アルファス、フロウ、漏れなく全員が案内され椅子に座って楽に見学出来る形となった。
ライトとしては近くで見れるのはまあいいのだが、
「勇者様ですって! もしかして結婚相手を探してるのかしら!」
「初めて見るけど素朴で優しそうな人ね……アピールしてみようかな」
いつの間にかぽつぽつと勇者(勿論演者である事は内密だが)である事がバレ始めており、審査中に色々とアピールしてくる女性陣も出て来た。ライトとしてはそれとなく愛想よく会釈したり。……久々だなこういうの。
「成程、名誉目当てに旦那様にアピールする輩共というわけか。第二関門を用意しておくか」
「何かそこで物騒な事考えてない!?」
愛想笑いで疲れ、横の仲間の過度な警戒心で疲れ。……久々なんだけど、味わいたいもんじゃないよな、うん。
「それでは次の方、どうぞ!」
「はい。――ネレイザといいます。マスター……勇者様の騎士団で、事務官を務めてます」
と、ライトが疲れ始めた所でついに仲間一人目、ネレイザが登場。観客からもおお、と歓声が上がる。あの若さで勇者の事務官、しかも美少女。注目度が上がる。
ドレスも大人な雰囲気というよりも、お洒落、ファッションをアピールするような感じで、それが見事にネレイザにマッチしていた。
「今日は、勇者様の事務官として、勇者様に相応しい称号の為に参加しました!」
そう言うと、ガバッとステージから降り、ライト達の前に。
「マスター、どう? 似合ってる?」
「うん。贔屓目無しに可愛いと思うよ」
「本当に? ありがとう!」
実際そう言って眩しい笑顔で訊いてくるネレイザは、元々の素質もあり、輝いている。ネレイザに対して鈍感なライトでも(!)ドキリとしてしまう。
「ネレイザちゃんの良い所だよね。ああやってストレートに直球を投げまくってくるのは。中々出来る事じゃないよ」
「そうだな。マークにも見せてあげたかったな、きっと喜ぶ」
「……そして勇者君の悪い所だよね。そうやって何故かネレイザちゃんに対しては保護者感覚なのは」
「?」
そんな会話をしている内に、司会者に促されネレイザがステージに戻って行く。戻る途中もこちらを振り返り、笑顔で手を振っていた。可愛い。――え、これをマークに見せてあげたいと思うのは駄目なんだろうか。
そのまま数名審査が続くと、突然ワッ、と大きな歓声が上がる。ひと際大きな歓声を浴びての登場は、
「エカテリス=ハインハウルス、ハインハウルス王国の第一王女ですわ」
「キャー! 王女様よ! 素敵!」
「輝いてる……輝いてて見えない!」
王国民が誰もが慕い羨むお姫様、エカテリスであった。煌びやかなドレスに負けないその姿は、全ての視線を漏れなく集める。エカテリスも慣れた物で、歓声に笑顔で手を振って応えていた。まるで本当に結婚式に出ているかの様で。
「姫様……姫様、御立派になられました……! このリバール、何処までもついて行きます……!」
「ごめんリバールいつから俺の後ろにいた?」
そんなライトの疑問には答えず、リバールは感動の涙を流していた。――うんまあいるだろうとは思ったけど。
「王女様は、理想の結婚、結婚相手等はございますか?」
と、司会者がそんな質問をエカテリスにぶつける。
「今は勿論この国の平和が最優先だから、結婚等考えていませんわ。でも……そうですわね、上辺だけじゃない、全ての私の事を理解してくれて、私の横に居てお互いを支え合える殿方でしたら、立場も気にしませんし、完璧な方ではなくても私は構いませんわ」
そこで一瞬、エカテリスとライトの視線が合う。エカテリスは穏やかに笑い、観衆に手を振るのとは別に、小さく手を振った。それがライト個人への合図だとわかると、ライトとしてもついドキリとしてしまう。
「ライト君。まずは父親の私への挨拶が必要ではないかね?」
「すみません国王様いつから俺の後ろにいました?」
そんなライトの疑問に答える暇もなく、ヨゼルドはハル不在の為か、ホランとルランに捕まり引きずられていった。――流石ハルの弟子。ヨゼルドの扱い方がハルに似てきていた。
と、そこから数名の審査が終わると、
「ハルといいます。ハインハウルス城で使用人として働いています」
そのハルが登場。その美しさからか、会場の注目が他の出場者よりも集まる。
ネレイザが可愛らしさ、エカテリスが美しさとするならば、ハルは整った鮮麗さとでも言えばいいのか。エカテリス程煌びやかではないがでもシンプルかつ綺麗なドレスに負けないハルの姿に、ライトの目はつい釘付けになってしまう。
「こんな事を言ってしまえば失礼になるのはわかっていますが、頼まれての出場なので、優勝等は狙っておりません」
表情一つ変えずクールなまま、そうあっさりと言い切る。司会者も突然のコメントに動揺を見せる。
「――でも、折角この様な格好、ドレスを着れたので、大切な人、大事な人に見て貰いたい、という想いはあります」
そんな司会者を物ともせず、ハルはそう言い切ると、ふっと視線を動かし、ライトと見つめ、その先程までのクールな表情からは想像出来ない程のあどけない笑顔をライトに見せた。
そう、その笑顔は、まるでこの格好を、ライトに見せたくて着たとでも言いたげで――ギュウ。
「痛っ!? レナ何で今俺の足踏んだ!?」
「何か凄いリアルな感じがして何処となく腹が立った。団員を代表して」
「そんな事言われても見てただけだし見るだろ!?」
そんなやり取りをしている間に、ハルの表情は元に戻っていた。でもライトの脳裏からあのハルの笑顔が消えない。思い出せば胸の奥がドキリと――
「勇者君ちょっと手ぇ出して。指と指の間、どれだけ高速でナイフを通していけるかチャレンジする」
「何で今それ俺の手でやらなきゃならない!?」
――しそうになる度にレナがやけに恐ろしい悪戯や邪魔をしてくるので中々出来ない。
その後も順序良く出場者が壇上でアピールを続けていく。勿論皆綺麗なのだが、身内贔屓抜きにしてもライトとしてはネレイザ、エカテリス、ハルの三強な気が見ていてした。――ウチの騎士団、本当に凄いんだな。
ところが、ライトのその考えはまたしても覆されることとなる。――四強目の登場である。
「セッテといいます! 宜しくお願いします!」
セッテが壇上に上がると、エカテリスの時に勝るとも劣らない歓声が上がった。
「セッテちゃーん、可愛いよ!」
「セッテ、素敵ー!」
どうやら皆セッテと認識した上での大歓声らしい。
「……凄い人気なんですね、セッテさん」
「ああ、うん。……正直俺もここまでとは思ってなかった。あいつ商店街の何なんだマジで」
「アルファスさん、今後とも勇者君と私をどうぞ宜しくお願いします」
「お前は何を想像してその挨拶っつー結論に辿り着いた!?」
その人気はセッテの身内としても驚きを隠せない状態だった。セッテを知らないイルラナスがレインフォルに素性を訪ね、レインフォルが恐らく自分の武器を作ってくれたアルファスの婚約者か何かだろうと推測から説明していたが、それにツッコミを入れる余裕が無くなる程だった。
老若男女問わずセッテに上がる声援。セッテもそれに笑顔で応える。前述通りエカテリスに勝るとも劣らないその人気、違いを強いて挙げればエカテリスが「王女」なのに対し、セッテは「超人気アイドル」といった所か。警備員に観客が宥められ、ようやくセッテが落ち着いて話をする状態になる。
「皆さんありがとうございます。この街に来てそこまで日が長くない私を、こうして暖かく応援してくれるの、本当に嬉しいです」
そのセッテの言葉に、再びワッ、と色めき立つ会場。――と、ふと気になる事が。
「セッテさんって、ずっとこの街に居たわけじゃないんだ?」
「あー、そういやそうなのかな。勇者君よりかは長いけど、ずっと前からアルファスさんの所に居たわけじゃないもんねえ。前はアルファスさんが一人寂しく店に居た」
「寂しいは余計だわ。――少なくとも去年の収穫祭の時は俺の店には居なかった。この街に居たかどうかは知らねえ」
となると、アルファスの店に居るのは長くても一年経過していない事になる。凄い馴染み方だな、とライトは改めて感心。
「今回この大会に出場したのは、勿論こうやって綺麗なドレスを着てみたいっていうのはあります」
壇上でくるりと回ってみせるセッテ。純白で綺麗なアクセサリーが飾られたそれは、セッテの可愛らしさを引き立てている。
「でも、それ以上に今の私を、これ以上ない私の全力を、見て欲しいと思ったからです」
「それは、大切な人がいて、この格好の貴女を受け止めて欲しい人がいる、という事ですか?」
「それは想像にお任せします!」
その言葉の直後、セッテがこちらを見る。でもネレイザ、エカテリス、ハルと違い、セッテが見たのはライトではなくて。
「…………」
アルファスは何も言わない。ただ真剣に、壇上のセッテを見ていた。
「大好きです! この街も、皆さんも、それから! 受け止めて貰えなくても、私はずっと、あれから――」
そして、名前こそ明かさないが、セッテの告白が響く。いつも、何度も聞いていたはずのその告白が、不思議な風と音になり、心に響いていく。
何かが動き出す。例えその結末が、誰かが望まぬ物でも。――そんな気がした、瞬間だった。