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第二百五十九話 誰よりも、君の幸せを願う9

「すみません、どうしてもお話がしたくて、御迷惑になるかもしれないのは重々承知の上なんですが、勿論貴方にもセッテさんにも、でも僕としても」

「あー、わかったわかった、落ち着いてくれ。邪険にするつもりはねえ」

 道の真ん中で謝りながら一生懸命事情を説明しようとするトニックをアルファスは制止。その様子で直ぐにトニックがどういったタイプの人間だかわかる。

「まだ開店には時間ある。少し座ろうぜ。……後大声禁止な。俺ちょっと水買って来るから待っててくれ」

「あっ、僕が買って来ますから! そこで待っていて下さい!」

「あー……」

 普段なら一般人に反応で負ける事は無いが、二日酔いのせいか、トニックを止められなかった。……大人しく近くのベンチに座って待つ事に。

 少しして、トニックが小走りで飲み物を買って帰って来た。アルファスが促すとトニックもベンチに座る。そのまま改めてセッテの事はお見合い相手として前情報として聞いていたが、偶然が重なり合って出会い、そして……の経緯を説明する。

「本当に偶然なんです。人から見たら上手く探った近付いたって見えるかもしれませんけど」

「別に疑っちゃいねえよ。というか、俺からしたら偶然でも嘘でもどっちでもいいわな。セッテを騙して利用しようってわけじゃないんだからな」

 実際それが目的だったらセッテは騙されそうだな、とアルファスは苦笑。

「んで? その経緯と挨拶だけをしに俺に接触したわけじゃないだろ? 俺に何か言いたい話があるんじゃないのか?」

「…………」

 世間話をするつもりも時間も無い。その促しにトニックが一瞬躊躇う。ぐっ、と拳を握り締め、勇気を絞り出しているのがわかった。

「お願いです。……セッテさんを幸せにしてあげて下さい」

 そして出てきた言葉は、それであった。――幸せ、だって?

「どういう意味合いで、だ? それだけだと色々な方向性で受け取れるが」

「貴方に、セッテさんの想いを真正面から受け取って欲しいんです。セッテさんを、受け入れて欲しいんです」

「…………」

 ……こいつ。

「俺もお前の事は多少聞いてる。セッテに告白したそうだな。もしも俺が駄目なら、自分の事を真剣に考えて欲しいって」

「! 聞いていたんですか」

「俺にさっさとセッテに決定打を打たせて、自分の物にしたい。そういう事か?」

「違います! そんなんじゃありません!」

 キーン。アルファスの耳に頭に大声が響く。――セッテ云々別にしてこいつ一瞬ぶっ飛ばしたくなった危ねえ。

「あっ、すみません、つい」

「……次から本当に気をつけてくれな。……んで? 違うのか?」

「はい。――僕は、本当にセッテさんに幸せになって欲しいんです」

「…………」

 皮肉にも、そのワードは昨日、アルファスがテーマにアルコールが進んでしまった物。

「セッテさんは本当に素敵な人だと思います。その、僕にとって理想の人というか。こんなに好きになったのは初めてというか。会って間もない僕が言うのは変かもしれませんが」

「別にそんな事を言うつもりはねえよ。――ただなら何で自分で幸せにしてやろうと思わないんだ? そこまでの想いになった相手だろ? 普通は自分の物にしたいと思うだろ」

「決まってますよ。セッテさんが好きなのが、貴方だから。貴方の事を、本当に好きだから。……僕じゃ、彼女を幸せに出来ないから」

 ハハハ、と自虐の笑いをトニックは見せる。――その笑顔が、

「セッテさんをあそこまで頑張らせているのは貴方です。セッテさんをあんなに素敵にしてるのは貴方です。僕じゃない。僕じゃ、セッテさんをあんなに素敵に出来ない。僕の憧れたセッテさんのままで居て欲しいんです。だから、お願いします。セッテさんを、悲しませないで下さい」

 その願いが、アルファスの心に刺さる。……「色々な意味」で。

「……気に入らねえな」

「えっ?」

「だったら何でセッテに告白した。俺との関係が駄目だった後の事を提案した」

「……それは」

 トニックの目が反れて、泳いだ。

「俺に全部託して終わりにしたいなら、余計な事は言わなけりゃ良かっただろ。その結果駄目だった時に、セッテに寄り添ってやればいいだけの話じゃねえのか? 「何かあっても僕が予備でいるから安心ですよ」でセッテが喜ぶとでも思ってるのか?」

「そんなつもりは! でも……僕じゃ、セッテさんを幸せに出来ないから」

「セッテの幸せって何だ?」

「……え?」

「それは俺が決める事でもお前が決める事でもねえだろ。セッテが決める事だ。……セッテが、気付かなきゃいけない事なんだよ」

 そしてアルファスは自分の言葉が、トニック以上に自分の心に刺さった。

「セッテの為を想ってなんて言い訳すんな。綺麗事語りたいだけなら俺に接触するな。本気でセッテを幸せにしてやりたいなら、やらなきゃいけない事が別にあるだろ」

「そこまで……そこまでセッテさんの事を想ってるなら、どうして、どうしてセッテさんの想いに応えてあげないんですか? 貴方なら幸せにしてあげられるじゃないですか! どうして」

「……願ってるからだよ」

「願ってる?」

「セッテの幸せをな。多分、お前なんかよりも、ずっとな」

 そう言うとアルファスは立ち上がり、トニックをその場に残し、店に戻るのであった。



「うーわ、やば。こんなにいるの参加者」

「うん、俺もちょっと予想外だった」

 そこから日付は流れ、ついに「クイーンブライド・コンテスト」当日がやって来た。ライトとしては興味もあったが、何より最早絶対に断れない勢いでネレイザに見に来て欲しいと頼まれて、護衛のレナをつれて会場へと足を運んだのだが、そこはウェディングドレスを着た参加者で溢れていた。見渡す限りの花嫁達。

「勇者君審査員とかで参加して来たら? やりたい放題だよ多分」

「何がどうやりたい放題なのかわからないけど後々大変になりそうだから遠慮するよ……」

 ただでさえ身内から三人も出ているのに余計な火種を作りたくない。

「でもこういうのでよくあるのは、控室で誰かが刺されて容疑者は参加者全員! とかよね」

「イルラナスは本の読み過ぎっていうかイルラナスがいる!?」

 ハッとして見ればイルラナスがいて、イルラナスがいるということはレインフォルもロガンもドゥルペもいた。――どうでもいいがそんな簡単に小説の様に殺伐な事件が起こられたらたまったものじゃない。

「どうしたの? やっぱりこのコンテストに興味あったから?」

「コンテストに興味はあったけど、今日は付き添いよ」

「付き添い?」

「自分が見たいって言ったッス。見届けたかったんスよどうしても」

 ドゥルペだった。流石にドゥルペ一人ではまだ城下町は危険なので、付き添いで三人が――

「――って、えっ、何でドゥルペ興味あるの?」

「勇者君と違って花嫁フェチなのかもよ」

「まるで俺が何か衣装に拘りを持ってるみたいに発言するの止めましょうか俺の隣!」

 別に俺は花嫁でも……いやいやいやそうじゃない。

「ネレイザさんを見届けに来たんスよ。頑張ってたんスから」

「ネレイザを?」

「団長さん御存知無かったんですね。ネレイザさん、ドゥルペに料理を教えて貰ってたんですよ」

 ロガンの補足が入った。確かにネレイザの料理は絶望的だった。何とかしたくて教えを乞いに行ったのは頷ける。――でもドゥルペ?

「ドゥルペは料理好きなのよ。前々から素質はあったけど、こちらでお世話になりだして、食材が安定してから加速したわ」

「裁縫なんかも結構好きッスよ。時間があればドレス作ってみたかったッス」

「マジか……」

 予想外のシルエットだった。家庭的で天然な所はあるが根は優しいし、モテるかもしれない。そういえばロガンも穏やかで優しい印象を受ける。――ニロフといい、俺の周囲の人外はモテる要素多いなおい。

「マスター! 見ててねー!」

 と、ライトを発見したのか、会場にいるネレイザが手をぶんぶんと振ってアピールしてくる。近くにはエカテリス。こちらは参加者達の注目を集めており色々と質問等に答えてあげている様子。そしてハル。ライトに向けて、ゆっくりと頭を下げて挨拶。そんな三人に向けてライトも軽く手を振って返事――

「ネレイザさーん! 教えた事は覚えてるッスかー!? 料理は!」

「一に愛情、二に努力、三に塩で四に爆発です師匠!」

 ――していたのだが、ドゥルペの声援によって掻き消された。というか何だその心得。一と二はまあいいとして三で現実案になって四でぶっ飛んでるじゃないか。本当に大丈夫か。師匠呼びしてるし。

「相変わらずお前んとこは騒がしいなおい」

 と、そんなライト達に話しかけてきたのは、

「え……アルファスさん? それにフロウ」

 アルファスにフロウ。店長店員師匠弟子コンビである。

「二人共このコンテストを見に?」

「セッテが出てるから一応な。どうせこういう催し物やり始めたら俺の店なんて客はまず来ねえし」

「兄者と兄者の仲間達には悪いが、優勝はセッテが頂くぞ。今回の大会の為に完璧になる程準備を進めて来たんだ」

 ニッ、とフロウが挑発的な笑みを見せた。自分が出ないとは言えフロウがこういった催し物に積極的なのは何処か斬新だった。……いや、それよりも。

「アルファスさんどしたん? 店が暇だからってこんなの見に来る様なタイプじゃないでしょ。ついに結婚する気になった?」

 ライトの考えている事を言い方は兎も角レナが代弁する。――フロウよりも断然興味なんて無さそうなのに。

「そうだな。――結婚する気になってたら、どれだけ気楽か」

「?」

 アルファスの返事は的を得ない。ついライト達は頭上に「?」マークを出してしまう。

「で? セッテは何処よ。ネレイザちゃん何かよりもガンガンアピールしてきそうなモンだけど」


『アルファスさーん! 私のドレスどうですかー! 優勝は私じゃなくて私が貰えるアルファスさんでーす! 私が貰えるアルファスさんが羨ましい! そんなアルファスさんが大好きな私が優勝賞品でーす! でも優勝は私なので二人で優勝でーす! おめでとうございますありがとうございます! 結婚は一に愛情二に努力、三に塩で四に爆発でーす!』


「みたいな」

「最早わけわからなくなってるじゃないかそれ。……ちょっとありそうだけど」

 本当に感情が高ぶり過ぎて爆発しそうなセッテが容易に想像出来た。――だが。

「店長、レナ、兄者。あそこだ」

 フロウが促す先。ネレイザ達とは少し離れた所にセッテの姿を確認出来た。でも落ち着いた表情で、真っ直ぐ前を見ている。――と、少しだけ騒がしかったか、こちらに気付き視線を向けて来た。

「こっち見た! 勇者君塩! 塩!」

「それレナの想像上のセッテさんだし最早厄払いになってるから!」

 と、馬鹿なやり取りを二人でしていたが、セッテはライト達に穏やかな笑みを見せて、そのまま奥へ行ってしまう。――あれ。

「セッテさん……?」

 その姿が綺麗で儚くて、遠目ながらドキリとする。

「…………」

 ハッとして見れば、横のアルファスは真剣な面持ちでそのセッテの様子を見ていた。――何かあったのかな、この二人。

「間も無くスタートです! 参加者の皆さんは準備をお願いしまーす!」

 そして会場にその声が響く。――「クイーンブライド・コンテスト」、間も無く開始。

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