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第二百五十七話 誰よりも、君の幸せを願う7

 ぼーっ。……武器鍛冶アルファスの店、居住スペース。いつも通り閉店後、アルファス、セッテ、フロウの三人で夕食を囲んでいたのだが、セッテが虚空を見つめたまま動かない。

「おい、どうした?」

 ぼーっ。……アルファスの問い掛けにも無反応。

「セッテ、調子でも悪いのか?」

 ぼーっ。……フロウの問い掛けにも無反応。

「おう、これ以上意味も無くその謎の喪失状態続けるんならこの店出禁でクビにするぞ」

 ぼーっ。……セッテ、ついにクビになる。――じゃなくて。

「セッテ!」「セッテ!」

「ひゃうっ!? はい何でしょう、セッテはここに!」

 アルファスとフロウが同時に強めに呼びかけると、驚いた様にやっと反応。呼びかけた二人は溜め息。

「まあいいや。もうお前クビになったし」

「待って下さいいつの間に!?」

「さっきお前がぼーっとしてる間に宣告したら受け入れたじゃねえか」

「すみません何でもしますから撤回して下さい!」

「じゃあ一年間出禁な」

「もっと現実的な案をお願いします!」

 やっといつもの(?)セッテに戻ったが、アルファスは再び溜め息。

「それで? 何かあったのかお前。疲れてるんじゃないのか? 無理してんのか? 体力削っておかしくなったら元も子もねえだろ」

「大丈夫です、何でもないです」

「お前なあ……」

 何でもないわけないだろ、一応どれだけお前の事見てきたと思ってるんだ。――そう言いかけて、何となく止めた。

「……まあいいよ。フロウ、今日セッテを家まで送ってやれ。今日は危なっかしいから何するかわかんねえから」

 代わりにフロウを促した。同性のフロウになら話せる内容かもしれないという意味合いも込められている。

「わかった」

 フロウも意図を組み、その案を受け入れる。

「大丈夫です、子供じゃないんですから一人で帰れますよ!」

「セッテ。店長の気遣いを受け取っておけ」

「…………」

 そうフロウに窘められ、セッテはつい黙ってしまう。気を使われているのがわからない様なセッテではない。

「……あの、アルファスさん」

「あん?」

「アルファスさん、誰かに告白された経験、ありますか?」

 だから少しだけ、心の弱さが漏れた。――セッテにしては、珍しいパターンだった。

「お前が俺に好き好き言うのは告白と違うのか」

「違いません。大好きですアルファスさん」

「つーわけで結論兎も角経験はあるが。――変な奴に告白でもされたか? なら抱え込んで変な結果や大事になる前に話せよ。ライトに頼めば軽く軍で抑えてくれるだろうし、秘密裡に処理したいなら俺とセッテでどうにかしてやるぞ」

 あっさりとそう言い切るアルファス。――セッテの事を嫌いなわけではない。寧ろちゃんと想ってくれているのがわかる言葉に、セッテの心がチクリと痛む。

「逆なんです。……とっても、良い人で」

 そして変な人だったらどんなに良かったか。アルファスとセッテに黙らせて貰って終わりに出来たらどれだけ良かったか。でも。

「その人、私がアルファスさんの事好きなのを知っていて、応援してくれるって。それでその結果、もしも、本当にもしも駄目なら、自分の想いに応えて欲しいって」

「……あー」

 流石のアルファスも一瞬言葉が出なくなる。――成程、そういうパターンか。

「私としては寧ろ今までそういう奴が出てこなかった方が驚きなんだが」

「俺が言うのもあれだが、こいつは商店街でもまったく隠さなかったからな、その、俺への態度。有名なんだよ。それでいてこいつ自身も商店街の人気者と来た。知らないのは新参者位だ」

「成程。言おうとする奴が出てくる事が無かったのか」

 一部では既に婚約済みと誤解されるレベル。どれだけアルファスが否定しても誤解されるレベルである。

「私としては、そんな想いをその人にずっとして欲しくないし、でも……それを理由に、アルファスさんが義理で私を受け入れてくれるのも何か違う。……何が正解なのかな、って。……念の為に訊きますけど、これを機に私を受け入れてくれるつもりは。義理でもいいです」

「お前自分で言ってる事滅茶苦茶になってんじゃねえか」

 はぁ、とアルファスは溜め息。――セッテ、か。

「なあセッテ。お前、そうやって周囲に優しく、誰も傷付けないで生きようとするのは悪い事じゃないし、お前の利点だとは思う。でも、もう少し、自分にも優しくしてやれよ」

「自分にも……優しく?」

「嫌々だが俺はお前を近くで見て来た。その俺から言わせて貰えば、お前は幸せになる権利がある女だよ。――人は、周囲の人全てを幸せにして生きてはいけない。時に誰かを傷付けて生きなきゃいけない。でも、お前は十分周囲の為に、周囲を優先してばかりして生きてきた。だから、大切な時位、自分の幸せを優先して考えろよ」

「……アルファスさん」

「目先の事に捉われるな。将来を見据えろ。自分の幸せが何か。――それを考えた結果、そいつをどうするか、もう一度考えてみたらどうだ」



「セッテには悪いが、私はセッテが少し羨ましいかもな」

 夕食後、帰り道。大丈夫だと再度拒んだセッテを押し切り、フロウが一緒に帰り道を歩く。――アルファスにはこっそり「そのまま泊まって女子会でもしてこい」と言われた。アルファスの優しさが垣間見えた。

「フロウさんだって、最近じゃ商店街でも人気に」

「百歩譲ってそうだったとしても、セッテに勝てる事は一生無いさ。それに……そうだな、セッテにはまだ話して無かったな、私の昔の事」

 そこでフロウは簡単に自分の過去、アルファスの店に来る前の事を話す。「死神」と呼ばれていた頃の事。

「だから私に対して純粋な好意で近付いて来る人間なんて居なかったし、私もそいつらに対して何かしてやろう、助けてやろうなんて思った事も無かった。……セッテとは、真逆の人間だったんだ」

「そうだったんですか……」

 初めて聞くフロウの過去に、セッテも驚きを隠せない。何か過去がある人間だとは思ってはいたが。

「だから今はとても充実した毎日を送っている。店長がいる。セッテがいる。兄者達がいる。初めて誰かを信頼するというのを大袈裟じゃなく覚えた気がするんだ。感謝に耐えない」

 そっと手を太刀に伸ばす。この人を傷付ける道具を、誰かを守る為に使える日が来るなんて思ってもなかった。

「だからかな。セッテが周りの為にいつも一生懸命で、誰かの幸せばかりを優先しているのは本当に凄いと思う」

「いえ、私はただ」

「そうやって当たり前だと言って謙遜する所も、だ」

 先に大体言いたい事を言われた。ハッとして見ればフロウは笑っていた。

「勿論セッテの悩みが軽いとは言わない。私だったら本当に店長との仲をそいつは応援してるのか? 位に思ってしまうシチュエーションだ。悩むのは仕方がない。悩んでいいと思う。でも、辛かったら吐き出してくれ」

「……フロウさん」

「私も店長も、セッテの味方だぞ。セッテが選んだ選択肢で誰かが傷付いて、その傷付いた姿を見せセッテが傷付いたとしても、私はセッテを守ってみせるから。いつも私を、私達を、この街を包んできたセッテの様に」

「……っ」

 フロウの優しいそれでいてストレートな言葉に、つい泣きそうになるのをセッテは堪える。――十分優しい、優し過ぎますよフロウさん。

「……何だかんだで、居心地良かったんです」

 セッテはその優しさに触れ、逃げていた本音から声が漏れ始める。

「アルファスさんが振り向いてくれなくても、近くには置いてくれている。突然やって来たフロウさんもとても良い人で。そして商店会の人達も、ライトさん達のお城の人達も良い人達ばかりで。現状維持でも、幸せだったんです」

 馬鹿な事を言ってアルファスに怒られる時も、何だかんだで一緒に店を切り盛りして来た時も、時折来る個性豊かな客を相手にする時も、商店街に繰り出せば色々な人と話が出来て仲良くなれた時も、本当に幸せだった。

 一度、全てを失った自分に、もたらされた幸せな時間。これ以上なんて、求めてはいけない。そんな気すらしてしまう程に。

「でも、永遠じゃないですよね。いつか変化が、終わりが来ますよね。……このままじゃ、駄目だったんです」

 そして気付いた。今こうして吐き出して気付いた。トニックに想いを伝えられてわかった。――今、新しい一歩を踏み出す時なのだと。

「よし!」

 パン!――セッテは自分の両手で頬を叩く。気合を入れた。

「覚悟、決めました。――私の人生の、全てを賭けます。その結果次第では」

「……次第では?」

「私、この街から……アルファスさんの所から、離れます」



「……ふーむ」

 夜の繁華街を一人、アルファスは歩いていた。

 様子が変なセッテの為にフロウを泊りがけで送り出した。よって家で一人。――別にフロウがセッテが来る前はいつでも一人だったのだから寂しいとかそんなわけではないが、何となく外で飲みたくなって出てきた。


『その人、私がアルファスさんの事好きなのを知っていて、応援してくれるって。それでその結果、もしも、本当にもしも駄目なら、自分の想いに応えて欲しいって』


「……セッテ、か」

 入る店を探して歩きながらも、頭の中にセッテの言葉が過ぎった。

「まったく、いつまでも世話が焼ける奴だ」

 何で気にしてやらなきゃいけないのか。あいつが俺に拘るからわけがわからなくなってんじゃねえか。いい加減見切りをつけろっての。

「……まあ、外から見たらそれは俺にも言える事なのかもな」

 どうしてやる事が、あいつにとって「幸せ」なのか。――ここまで関わったら、考えてやらなきゃいけないのかもな。

「っと、散歩しに来てんじゃねえんだよな。……何処に入るかな」

 手頃に軽く飲める店……と思って、ふととある店が目に留まった。――そういえば、あの店。

「いらっしゃいませ、当店は初めてですか?」

 その店のドアを開けると、店員の男性が受付にいた。――そういや俺、こういう店入った事無かったわ。ああでも。

「そうなんだけど……この人に会えたりするか?」

「名刺……ってサクラさんの直筆サイン付き!? ど、どうぞこちらへ!」

 アルファス、フラワーガーデンに入店。

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