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第二百五十二話 誰よりも、君の幸せを願う2

「ハインハウルス・ブライダルキャンペーン?」

 バンダルサ城攻略から少ししたある日、ライトは一人、ヨゼルドの私室に呼ばれていた。そこにいたヨゼルドと妻ヴァネッサにそのフレーズを出されたのだ。

「そう。今度ね、その名の通り城下町を主催とした、結婚関連のお祭りイベントをやるのよ。それにライト騎士団に協力して貰いたいなって思って」

 ちなみにヴァネッサは未だ療養中。リハビリで訓練しているのを見たがとてもリハビリの動きとは思えない圧倒的動きだったのは余談。あの調子なら戦線復帰も間も無くであろう。

「成程、収穫祭の時みたいに警備で色々すればいいんですね?」

「それもあるが、ぜひこれにも参加して欲しいと思っていてね」

 ヨゼルドからチラシを手渡される。そこには、

「クイーンブライド・コンテスト……ですか」

 ででん、とタイトルと出場者募集、更に募集要項等が書かれていた。

「その名の通り、ハインハウルスで一番の花嫁さんを決めよう、っていう明るい企画よ。ウェディングドレスを着たり、奥さんとしての魅力のアピールだったりで勝敗を競う。見る方もやる方も嬉しい、シンプルだけど魅力的な大会」

「ちなみにヴァネッサは出場禁止だぞ。ヴァネッサが出たら優勝確実だからな。ちなみにこれが結婚の時の写真だ」

 わっはっは、と自慢気にヨゼルドが大きめの保存用写真を開いて見せてくれた。ウェディング姿のヴァネッサが写っている。

「ちょ、いつそんなの用意したのよもう……流石に今はもう無理よ」

 ヴァネッサが少し照れながらそう苦言。実際とても綺麗な姿、写真だった。でも。

「国王様の言う通り、今でも全然お綺麗ですよ。自信持っていいですって」

「ホントに? ありがとう」

 恐らく二十年近く前のはずなのに、実際写真と今の区別はほとんど付かない。ヴァネッサの美貌は見事だった。――ガシッ。

「ライト君……ヴァネッサを褒めるのはいいが……やらんぞ?」

「直ぐにその発想に辿り着くのはよくないと思いますけど!?」

「えーっ、ライト君、私の事貰ってくれないの?」

「王妃様!?」「ヴァネッサ!?」

 両肩を掴み謎の牽制をするヨゼルドと、笑顔でライトを誘い拍車をかけるヴァネッサ。――相変わらずの夫婦だった。

「話を戻そう。――つまり、ライト騎士団の中から、三人程この大会に出場して欲しいのだよ。美女美少女が集まるライト騎士団なら申し分なし、勇者の仲間が出場となれば盛り上がりも間違い無し。騎士団に話を通して検討してみてくれ」

「わかりました。皆に話を通してみますね」



「――というわけなんだけど、皆どうかな」

 ハインハウルス夫妻に話を貰って、早速ライトは団室に集合をかけ、話を持ち掛ける。――実際ライト騎士団女性陣は目を惹く容姿の持ち主ばかり。誰がやったとしても何の問題もないだろうとライトは思った。

「はい、やりたいです!」

 と、すぐさまに挙手をして立候補したのはネレイザ。

「一度着てみたかったのウェディングドレス! マスター見てて、私頑張るから!」

「うん、ありがとう」

 残念ながらネレイザの頑張るから、はライト個人に対してだが、ライトのありがとう、は国の為に参加してくれてありがとう、である。――勇者君その内ネレイザちゃん病んじゃうけどどうすんの、と言いかけてレナは止めたのは余談。

「三人位は参加して欲しいらしいんだけど、他には」

「はい」

 スッ、と続いて綺麗な挙手を見せたのはリバール。

「リバールね。わかった、これで二人目――」

「いえ、私ではなくて推薦を」

 が、リバールは自分が出たいのではなくて。

「是非とも姫様に出場して頂きたく」

「あー、成程」

 全員の注目がエカテリスに集まる。――エカテリスは溜め息。

「リバール、出たければ私は自分で挙手しますわ。貴女の気持ちはわかるけれど、街のそういった催し事に王女の私が参加したら他の方に気を使わせてしまいます」

「そんな事はございません!」

「きゃっ!?」

 ガタン、と立ち上がりリバールはエカテリスに迫る。

「圧倒してしまって構わないのです! 姫様の素晴らしさを、改めて街の方々に見せてしまって良いのです! 姫様のウェディングドレス姿をこの目に焼き付けておきたいのです!」

「最後、本音が出てますわよ……」

 要は普段着ない格好のエカテリスを見たいリバールの欲望が剥き出しであった。……まあ、でも。

「実際、エカテリスはどう? 立場が気になるなら特別枠とかにして貰っても良さそうだし、ウェディングドレス、着てみたいとかない? 似合うと思うよ」

「まあ、着てみたいとは思いますけれど……いいですわ、ライトがそこまで言うのなら、私も出ますわ」

「ありがとう。リバールじゃないけど、楽しみにしてるよ」

「ええ」

 ライトにそう言われ、少し恥ずかしそうにでも嬉しそうに頷くエカテリス。リバールはライトに向かってお礼のお辞儀。――ネレイザがエカテリスに対して「ぐぬぬ」と嫉妬を隠し切れず。……それにライトは気付かず。

「それじゃ、後一人。他の皆はどう?」

 順調に二人決まった所で後一人。ところが。――しーん。

「……あれ、その、えーと……いない?」

 いなかった。残る女性陣は……

「レナは?」

「やると思う?」

「ですよねー」

 容姿は申し分ないのだが、何せこの手のイベントは絶対に乗り気にならないタイプ。

「着てみたいっていうネレイザちゃんと王女様の気持ちは否定しないけど、私は別に。結婚するとしても着なくてもいいと思ってるもん。譲って着るとしたらその結婚式で着る位。見せる人は選ぶよ」

「そっか」

 裏を返せば着るシチュエーションと相手は大事にする様子。あっ可愛いな、と思ったが口に出すとマズい気がしたのでライトは心に留めておく。

「ソフィは?」

「興味が無いわけではないのですが、そういうイベントだと狂人化バーサークしてしまう可能性がありますから、辞退させて下さい」

「ふむ……」

 何か騒ぎになった途端狂人化して「何だこのドレス動き辛え!」とか言って裾をビリビリ破って走りだす姿が想像出来てしまった。――それがなければ是非ドレスを着てみて欲しい逸材だけに残念。

「ハルは?」

「街総出のイベントとなると、城も色々と騒がしくなると思います。そうなると騎士団と使用人の二足の草鞋を履いている私は少し難しいです。すみません」

「いや、謝る事じゃないから。でもそっか」

 忙しくなければ着てくれたという事でもある。一度キリアルム家のパーティで見たドレス姿も綺麗だった。残念。

「サラフォンは?」

「ボ、ボクは無理だよ! 人前でそんなの恥ずかしくて……!」

 こちらもキリアルム家での変身ぶりは見事だった。着れば当然似合うだろう。――同時に本人も言っている様に実際参加したとしたら緊張の余り爆弾とかを投げたりする姿が想像出来た。……無理だな。

「となると……どうするかな……」

 ヨゼルドからは三人欲しいと言われた。事情を話せば二人でも大丈夫だろうか。

「とりあえず皆の意見はわかった。ちょっと今から他も当たってみる」

「長、シンディが面倒を見ているレイはどうだろうか。メス……女性だぞ」

「そこに辿り着くならその前にシンディさん本人を推せよ!?」



「あっ、ライトさん! お疲れ様でーす!」

 コンテスト出場枠残り一つの参加者を探して、まずライトが訪れたのはハインハウルス魔術研究所ハインハウルス城支部。出迎えてくれたのは、

「お疲れ様です、副所長さん」

「あー、確かにそうなんですけど、名前でお願いします。なんかそれ痒くって。というかフリージアは名前だし!」

「あはは、すみません、ソーイさん」

 フリージアに徴集され、先日めでたく副所長に就任したソーイと、

「どうしたの? まさかソーイをからかいに来ただけじゃないでしょ? 何か依頼?」

 所長のフリージアだった。

「実はさ」

 ライトは経緯を説明。

「で、もし出る気があるなら枠があるんだけど、っていう話なんだ」

「あたしはパス。大切な時、大事な人に最初に見せたいから、そういうの。――ごめんね、力になれなくて」

「いや大丈夫、こっちが駄目元で訊いてみてるだけだから」

 当然ながらクールビューティーなフリージア、着れば似合う事は想像に容易かった。ライトとしては見てみたかった所もあり残念。

「おほんおほん大事な人に最初におほんおほん」

「? ソーイさん風邪ですか?」

「違います!」

 ソーイとしてはフリージアの更なる本音が当然わかるのでわざとらしく咳をしてみたが、肝心な時にライトに伝わらず。――あーもう、ライトさんのこういう所本当に駄目だなー。

「それじゃ、ソーイさんはどう?」

「私も遠慮ですかねー。興味はあるんですけど、ここで受諾するとライト騎士団枠なんですよね? そうなるとネレイザさんと王女様と並んで出場出来る程自分に自信が無いですよ」

「そんな事ないですけど……まあ、無理矢理どうにかする話でもないので、わかりました」

 二人共断られてしまった。――余談だがソーイも元気! が全面に出る、可愛らしい容姿の持ち主である。

「そうなってくると、後は……」



「出る! 出てみたいわ、そういうの! 面白そう!」

 ハインハウルス城敷地内にある塔の一つ。元魔王軍のイルラナス達が暮らすその塔をライトは尋ね、事情を説明するとイルラナスが目を輝かせてそう返事。

「駄目ですイルラナス様。まだ大衆の場に公式に姿を晒すのは早過ぎます。先日の事をお忘れですか」

 そして直ぐにレインフォルから釘を刺された。――何でも先日レインフォルに内緒で城下町に出かけてひと悶着起きかけたのだとか。イルラナスがわざとらしくむくれ、レインフォルは溜め息。

「団長さんも色々な事してるんスねー。協力してあげたいッスけど自分竜人の雄ッスからどうにもなんないッス」

「その気持ちだけ受け取っておくよ、ありがとう。というかドゥルペは今この瞬間ドライブより賢い事がわかった」

 犬魔獣を出そうとするドライブに対し、竜人だから無理だと当たり前な事を言うドゥルペに何故かライトは感動。――まともな言葉に俺は飢えているのかもしれない。

「やったッス! ロガン、自分褒められたッスよ! 今日から賢人ッス!」

「団長さんに褒められて嬉しいのはいいけど、賢人の意味、わかってて言ってる?」

「賢な人の事ッス! 自分は竜な人ッス!」

「ああうん、わかってないよね、うん」

 ロガンが喜ぶドゥルペを暖かい目で見ていた。――は兎も角。

「じゃあ、レインフォルは?」

「旦那様の願いだから叶えてはあげたいが、私が大っぴらに出てもやはり同じだろう。すまない。――警護等戦力が必要ならば協力するからその時は言ってくれ」

「そっか、わかった。――二人共美人だから残念だなあ」

 いつか本当に蟠りが無くなったら、ぜひとも何かしらのイベントに四人とも参加して欲しいと思う。――は兎も角、これでここも駄目という結論に達してしまった。



「うーん」

 ライトは一人、ハインハウルス城の廊下を歩く。――差し当たっての充ては駄目だった。そもそもそんなに充ては無い。後はアルファスの所のセッテとフロウか……と思っていると。

「ライト様」

「ハル。お疲れ様、どうした?」

 ライトを待っていたのか、ハルがライトの自室の前に姿勢正しく立っていた。

「いかがでしたか? 出場者は」

「取り敢えずの充ては駄目だったよ。最悪国王様に二人で妥協して貰おうかと思う」

 別に二人でも大きな問題にはならないだろう。……と思っていると。

「……私で良ければ、やはり出ましょうか?」

 と、そんな申し出が。

「え、嬉しい申し出だけど……大丈夫なの?」

 期間中忙しくなるから、が理由だった。無理矢理出て過労などもってのほか。

「ヨゼルド様、ホラン、ルランに説明し、仕事のセーブをさせて頂きます。それならば出れますから。後はライト様が私で宜しければ、になりますが」

「本当に? ありがとうありがとう、ハルが駄目だなんてとんでもない! ハルのドレス姿、楽しみにしてるから!」

「はい」

 ライトは勢いの余り、ハルの手を両手で握って軽く上下に振ってしまう。ハルは少し恥ずかしそうに、でも何処か嬉しそうに、そのライトを見ていた。

 こうして、ライト騎士団より、ネレイザ、エカテリス、ハルの三名が、クイーンブライド・コンテストに出場決定。

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