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第二百四十六話 演者勇者と忠義の白騎士19

「っ……酷いわね……」

 バンダルサ城内へ突入したライト達。直ぐにリンレイが顔をしかめてそう漏らす。――覚悟をしていたが、瘴気が濃い。ライトもレインフォルが施した防壁に守られてるとはいえ、空気の重さを感じる。実際レインフォルの施しが無ければ、ライトは発狂して再起不能になっていただろう。その予感が、ライト本人にも直ぐに過ぎる程だった。

 当然魔王軍の拠点の中、魔王軍の兵士や使役されているであろうモンスターも直ぐに確認出来た。だがこちらを見ても襲ってくる様子が見られない。何処か明後日を見てボーっとしていたり、座り込んでいたり。

「彼らも、この瘴気にやられてるのですわね……好都合なのかもしれませんけど」

 魔王軍だからだろうか、発狂したりボロボロになったりする様子は見られないが、それでも生気のないその姿は何処かゾッとするものがあった。

「好都合だ。奴らはイルラナス様とは無縁、イルラナス様の兄のビジラガの配下達だ。異常無しなら問答無用で襲ってくるぞ。時間の無駄になる。――先導する、こっちだ」

 何処か複雑な気持ちになるエカテリスに考える暇を与えないかの如く、レインフォルが進軍を促し進む。――そのまましばらく進むと大きな扉が見て来た。バァン、とレインフォルが迷わずその扉を音を立てて開けると、

「邪魔をするなぁぁ!」

 大鎌を持ち、ライト達が戦った白い人型複数と対峙する獅子の獣人騎士と、

「しっかりするッス! 落ち着いて、でも急いでこの城から出るッス! パニックになったら終わりッスよ、気持ちをしっかり持って外に逃げるッス! 城から出たら本城まで退却するッス! ここは危険ッス!」

 瘴気にやられたと思われる仲間達を必死に逃がそうとしている竜人の騎士が居た。――ロガンとドゥルペである。

「はあああっ!」

 そして誰よりも早くレインフォルは動いていた。ロガンが対峙していた白い人型を圧倒的速度で殲滅させる。――黒騎士としての甲冑を纏っていた頃とは違う、二刀流と圧倒的速度。そして戦いのセンス。甲冑なくとも、彼女は圧倒的強さを誇っていた。

「遅くなった、済まない」

「黒騎士様……! よくぞご無事で……!」

 再会。信じていなかったわけではないが、それでも何日も音沙汰がなかった。その姿をこの目で見れて、ロガンは安堵する。

「ロガン、そのお姉さんは知り合いッスか?」

 そしてあらかた避難誘導を終えたドゥルペがそう尋ねて来る。――って、

「ちょっ、お前本気で言ってるのか!? 黒騎士様だよ!」

「いやいやロガン、こんな時に冗談は良くないッス。黒騎士様はこう黒くて、硬くて、何て言うか、鎧ッス」

「それは甲冑の見た目だろ!? お前中のお姿見た事無いのか?」

「中……? 中あるんスか……?」

「あるに決まってるだろ!」

「馬鹿だ馬鹿だと思っていたが、お前そこまで馬鹿だったか……」

「あれ? その馬鹿って言い方、黒騎士様っぽいッスね……本当に黒騎士様ッスか!? 綺麗なお姉さんにジョブチェンジしたんスね! 何にしろご無事で何よりッス!」

 あっけらかんとそう言い放つドゥルペに、レインフォルもロガンも頭を抱えた。――うん、悪い奴じゃないんだ。馬鹿なだけで。

「しかし黒騎士様、確かに無事は嬉しいのですが、甲冑も失い、それに後ろの人間達は……」

「あっ、フウラさんじゃないッスか! 元気そうで何よりッス!」

 と、フウラの姿を見つけたドゥルペが、フウラに向かって笑顔で手を振る。

「? フウラ、お前の知り合いなのか?」

「あー、違うよマックさん、この前――」

「友達ッス! 自分、人間で初めて友達作ったッス! マブダチッス!」

 …………。

「フウラ、念の為に尋ねますけれど、内通していた、という事で合っているのかしら? お母様に報告案件と見ていいのかしら?」

「いやいや王女様違います全然違います。何が楽しくて魔王軍と内通しなきゃならないんですか。――おいお前、俺はいつお前と俺は友達になった?」

「剣士なんて剣を交えて相手を認めたらもう友達ッス」

「子供同士の喧嘩じゃねえんだぞ!?」

 そこで埒が明かないと感じたか、レインフォルが簡単に事情を説明。

「凄いッス! じゃあ皆自分と友達ッスね! こんなに一杯人間の友達増えたッス!」

「ボ、ボク剣士じゃないけど、友達になれる……?」

「勿論ッス! 銃格好いいッス! こちらこそ仲良くして欲しいッス!」

「勇者君さあ、ハーレム止めて保育園作るの?」

「いや流石に俺のせいじゃないだろ……」

 ……再度事情を説明。

「私はこの身を差し出し、知っている情報全てを差し出し、魔王軍を捨て、イルラナス様の安全を保障して貰う。――お前達に同行は強要するつもりはない。今この場で邪魔をしないのなら、お前達の助命も頼む」

「邪魔だなんて! 僕は一緒に行きます、イルラナス様にお仕えするという意思は変わりません」

「イルラナス様と黒騎士様が居ない魔王軍なんて居る意味無いッス。自分は馬鹿だから、一度決めたらその道しか歩けないッスよ。だから、何処までもお供するッス」

 ザッ、と綺麗に並び、レインフォルにそう宣言するロガンとドゥルペ。――その二人の意思を背中にレインフォルは振り返り、

「この通りだ。彼らの身の保証も、して貰えないだろうか」

 そう、ライトに願ってきた。――(片方は特に)個性豊かだし、何より人間ではない。でもそんな小さな事などどうでもいいと直ぐ思える位の、忠誠心をライトは感じた。

「レインフォルの大切な仲間なんだろ? だったら拒む理由はないだろ」

 だから迷わずその返事を出した。――俺が勝手に決めて良かったかな、とハッと周囲を見たが、全員同じ答えに辿り着いていて安心したのは余談。

「お前達が無事という事は、イルラナス様もご無事だな? この先におられるな?」

 そして話が纏まった所で本題に入った。――ここは玉座の間へと繋がっている大きな扉の前の広間。

「はい。この先でビジラガ様と共におられます。ですが……」

「何だか様子が変だったッス。あの薬を飲んでから」

 二人はそこでビジラガに薬を渡された事、それをイルラナスが飲んだ顛末を話した。

「イルラナス様はその後、ビジラガ様と二人だけで話をするからと僕達に部屋を離れる様に命じられました。僕らとしては危険なのでお傍に居るべき、居たいと思ったのですが、大丈夫だ、と。それに……その」

「逆らったら殺される。――そんな気が、一瞬したッス。イルラナス様に限って無いって思いまスけど、でもロガンも自分もその威圧に逆らえず、部屋を離れたッス。でも気になったんで、こうして部屋の前で様子見してたッス」

「直後でした。この城が重い瘴気に包まれ、そして無差別に襲ってくる白い人型の召喚物が現れたのは。僕らはそれの対処と、無事な奴らを外に逃がすので手一杯になってしまって」

 そしてそこにライト達が現れて今に至る、という事らしい。――つまり、

「この異様な瘴気も、白い人型も、イルラナス姫が出してる……のか?」

「馬鹿な……!」

 という仮説は直ぐに成り立つ。聞いていた穏便派のやる事ではない。――レインフォルは確かに予測はしていたし覚悟もしていたはずだったが、それでも納得がいかない様子。

「兎に角イルラナス様にお会いする。話はそれからだ」

 そして直ぐに迷わず大きな扉にレインフォルが向かおうとした、その時だった。――キィィィィン!

「! 総員警戒! 先程よりも気配が重い!」

 リンレイのその叫びの直後、この広間に無数の魔方陣が生まれ、新たに召喚される。だが召喚されたのは白い人型ではなく、

「白い……甲冑……!? これ、まるで」

「レインフォルが甲冑着てた頃、上から白いペンキぶっかけたみたいじゃん。……余程レインフォルに思い入れがある人が召喚者だね」

 歯にもの着せぬレナのその感想は、少なからず誰しもが思った。――黒騎士っぽい、とかそんなレベルではない。思い起こす限り、色が違うだけで完璧に黒騎士の鎧が再現されていた。それが各魔方陣から出現。

「ォォォォォォ!」

 そして動揺する暇すら与えてはくれず、白い甲冑は一気にライト達を襲い始める。

「っ! 皆さん気を付けて! あの白い人型よりも、コア部分のガードが堅い!」

 再びゴーグルをつけたサラフォンからの一言。甲冑は本当に甲冑の様な役割を果たしているのか、撃破が困難に。

「チッ! 何のやる気も感じられねえ癖に、剣筋だけはいっちょ前とか気に入らねえ!」

 更に応戦に入ったソフィのその一言。白い甲冑は白い大剣を持っており、攻撃も鋭い。

 要は、レインフォルによく似た、白い人型よりも数段強力な白い騎士が無数に襲い掛かってきているのである。

「リンレイ殿、ライト殿、ここは相手のホームグラウンド、この召喚も無尽に繰り出せる! 消費魔力も多くない、ここで応戦しているだけではこちらの疲弊が溜まるだけです!」

 更に直ぐに召喚を分析したニロフの一言が響く。――悪条件ばかりが重なっていく。そして増えていく白い甲冑。

「黒騎士様! ここは僕らが押さえます、黒騎士様はイルラナス様の元へ!」

 埒が明かない。――その想いから、ロガンが決死の提案をする。

「! だがお前達は」

「大丈夫ッス! 自分馬鹿だからよくわからないんスけど、イルラナス様が落ち着いてくれたら落ち着くんスよね? だったらその位、頑張れるッス!」

 続いてドゥルペがロガンの案に同意。

「なら俺も残ろう。耐久戦は得意だ」

「私の剣術はコアの破壊に適しているわ。私もこちらに!」

 そしてマクラーレン、リンレイ。

「行って来いよ、勇者ボーイ、黒騎士。――エリートは、損な役回りを損だとは思わないんだぜ。仲間の為ならな」

 フウラ。

「ライト! ここは大丈夫だから、レインフォルと共に! 団員として、同じ姫として、イルラナスさんを救って差し上げて!」

 エカテリスの号令で、ライト騎士団。――チャンスは、出来た。

「レインフォル。――行こう」

 なら、その全員の心意気を無駄にしている時間はない。――ライトが、力強い目でレインフォルを促す。

「わかった。――必ずイルラナス様を、助ける!」

 そしてレインフォルの決意も固まり、レインフォル、ライト、ライトの側近としてレナとネレイザ、以上の四人だけで強引に白い甲冑の包囲網を突破、玉座の間の扉を開けて、中に転がり込むように入った。

「! イルラナス様……!」

 そこに、イルラナスは居た。――凛とした立ち姿で、黒いドレスと纏って、

「レインフォル! 無事に戻って来てくれたのね、良かったわ……!」

 その華奢な右手に、繊細かつ強力な魔力を込めて、

「が……は……っ」

 ボロボロの、ビジラガを掴み上げた状態で。

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