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第十九話 演者勇者、武器を求めて4

「――んで、今日は私の所に来たわけだ」

「うん」

 騎士団団員見学三日目。ライトは護衛であるレナを選んだ。――が、まったく部屋から出てくる様子がなかったので、私室をノック。部屋にはいたので、事情を話しつつ、部屋へ招いてもらった。

「うーん、言いたいことはわかるんだけどさー、私に関しては意味ないと思うよ。休みの日に何するわけじゃないし。趣味とかないんだよね。しいて言うなら休みの日はゴロゴロしてるのが好きかなー」

「そっか……」

 チラリと部屋を見渡してみると、成程特に珍しい物があるわけでもない。意外にも綺麗に片付いており、無駄な物も見当たらない。

「――今若干失礼な事考えなかった?」

「……気のせいじゃないかな」

 何処かで私生活がだらしなさそう=部屋が少々汚そう、というイメージがあったらしい。「意外にも」は余計だったとライトは心の中で反省。

「まあでも、折角だからちょっと見学させてよ。何がヒントになるかわからないから。レナは自由にしてて」

「強引だねえ……ま、いいけど」

 レナが強いのは知っている。だが、何もせずに強いとはライトとしては思っていない。ソフィがトレーニングを欠かせないように、レナにもきっと何かあるに違いない。流石に同じことをして強くなれるとは思っていないが、それでも今後の何かヒントに繋がればいいと思いそのお願いをしていた。

「よいしょっと」

 レナも諦めたか、ライトに椅子を用意すると、自分はベッドに寝転んで、読みかけらしい本をそのまま読み始めた。――少しの間は普通に読んでいたが、

「……いやいやいやおかしい、絶対におかしい」

 流石に気になって我慢出来なくなった。――ライトがずっと自分の方を見ているのである。

「ごめん勇者君やっぱこれ意味ないって。百歩譲って意味あったとしてもそこまで見られてると普段通りに動く自信がない」

「やっぱり? そりゃそうだよな……わかった。俺、外からこっそり覗くから、それなら大丈夫でしょ」

 そう言ってライトは立ち上がり、部屋を後に――

「――ってストップストップ! それは勇者君じゃなくて変態君になるから駄目だって!」

 レナは急いでライトを引き留める。――この男、一生懸命になると時折周りが見えなくなるらしい。

「ん? 何それ」

 と、そこでレナはライトが手に持っていたメモに気付く。

「ああこれ? 見学の結果をちゃんと毎回紙に書いて残してるんだよ」

「ちょっと見せて」

 ライトから半ば強引にそのメモを受け取り、見てみる。

「えーと……「八時、レナ部屋から出てこない 九時、レナ部屋から出てこない 十時、レナ部屋で寝転んで読書 時折俺を気にする」っておいいい! これ嫌がらせ!? 何の嫌がらせ!? 何これ私脅迫でもされんの!?」

「そこから俺が何かに目覚める可能性が」

「既に今君は違うものに目覚めかけてる! 目を覚ませえええええ!」

「ぐえええええ」

 ショック療法が如く、レナはライトの肩を持ってグラグラと揺らしてみる。

「ああもう、負け負け私の負け! 今日一日話でも何でも付き合うから! そのメモ捨てて、ちょっと待ってて!」

 レナは再びライトを部屋に入れ、椅子に座らせて待機させ、自分は城の食堂から飲み物と菓子を二人分、部屋に持ってくる。それを肴に座談会が始まった。

「勇者君は深く考え過ぎ。真面目なのはいいんだけど、焦っても何も良い事なんてないっての」

「まあ……その、うん。ごめん」

 冷静さを取り戻したライトは、素直にレナに謝った。

「俺自身は焦ってるつもりはなかったんだけど、確かに傍から見たらそう見えたかも」

「でしょ? 勇者君の仕事は強くなることじゃない。皆の見てる所で、勇者らしい振舞いを見せることなんだよ。裏でどれだけ弱くて酷い人間だったとしても、それが一生バレなければ勇者君は任務を全うしたことになる」

「それは最早勇者とは言えないのでは」

「持ちつ持たれつでしょ。世の中の全ての人間が、純粋に勇者に感謝するわけじゃない。上辺だけの感謝で、勇者の善行を利用する輩なんていくらでもいるよ。勇者だってそういう輩だって同じ人間、つまり勇者に裏の顔があったっていいんだよ。だからもっと気楽にやりなって」

 少々呆れ顔のまま、お菓子を口に入れながらレナが自分の考えを語る。相変わらず独特の、でも彼女らしい考えではあった。

「レナの言いたいことはわかるし、否定するつもりはない。でも……何だろう。俺、立ってる位置がレナの話とは違う」

「ほえ? どういう意味?」

「俺、今、勇者らしくなりたくて、こういうことをしてるんじゃないんだ。立場とか関係なく、騎士団の皆に認められたい、近付きたいっていう、自己満足だと思う」

「…………」

 レナが手を止め、ライトをジッと見る。先を促すような、試すような視線だった。

「追い付けるだなんて思ってない。俺は勇者の偽者で勇者じゃないから。きっとこれからもこの立場が続く限り、俺はいざって時にレナや皆に頼る甘える事になると思う。でも――例えそれが許される立場だったとしても、歩みを止めていい理由にはならないと俺は思うんだ」

 あの日、ヨゼルドに演者勇者の提案をされた時、もう二度と歩みを止めないと決めた。あの日過ぎった「歩みを止めた自分」は、今でも遠くから、自分を見ている。「どうせまた、諦めるんだろ?」――そんな事を言いたげな顔で、自分を見ている。

 そんなあの日の自分にも――証明したいのだ。自分はまだ、前を向けるのだと。

「レナからしたら、いい迷惑かも目障りかもだけど、許して欲しい。俺は皆と、お互いの立場を利用し合うだけの間柄なんてなりたくないんだ。俺はその気持ちをちゃんと持ち続ける為の、努力がしたいんだ」

 視線がぶつかり合う。――先に反らしたのは、レナだった。

「馬鹿だね、勇者君は。勇者君の立場なら、やり方次第で何だって出来る。私との間柄なんて――上っ面だけで、いいのに」

「レナ?」

「うん。――君は、馬鹿だよ、うん」

 そして再び目を合わせた時、一瞬、レナは穏やかに笑った。その笑顔は、今までのレナの笑顔とは「何かが違う」、不思議な笑顔だった。

「ま、でも、だからと言って暴走するのは宜しくないけどねー」

 そして再び菓子に手を出すレナの表情は、いつものレナだった。――何かが違うと感じたのは、気のせいだったのだろうか。

「直ぐに答えが見つからないからって、さっきも言った通り焦っちゃ駄目だぞー。間違ったまま進むなら何もしない方がマシ」

「うーん……」

 実際直ぐに答えが出そうにはないことをライトとしても感じ取っていた。ソフィにトレーニングにはついていけず、ハルとは勉強を教えて貰う約束はしたものの日取り等はまだ、仕事に関しては大変(?)なのは把握したがだからといって何か出来るわけでもない。レナは言うまでもなく。エカテリスとリバールが残っているし、後日見学はするつもりだったが、そこで何かが見つかる保証もなかった。

「後はあれよ、自分で規模の大きさと重要さを決めすぎないってのも必要かもね。それこそ騎士団の人間にー、とかに限らず、自分一人でやれる些細な事、騎士団以外の人間との事が大きな変化に繋がるかもしれないんだから、「この程度じゃ足りないぜぐへへへへ」とか思い込むのも良くないかも」

「言いたいことはわかるけど回想シーンの俺の口調が危なくないですかね」

「勇者君みたいな真面目な人間が権力と共に変態になっていくものだと思う。私には将来国王と夜の町に繰り出す勇者君の姿が目を閉じれば浮かんでくるよ。泣ける」

「一緒にしないで欲しいし勝手に泣かないで欲しいかな!」

 本当に目を閉じてうんうん、と言っているレナ。――本当に勇者の権力が自由になったら国王様みたいになる可能性があるのかも、気をつけよう。

「……にしても、自分一人でやれる些細な事……騎士団以外の人間との事……か」

 何気なくそう言われて、ライトは一つ思い付く。――駄目元で、何でもチャレンジしてみようと決めた。だったら試してみるべきだな。

「レナ、午後行きたい場所があるんだ。護衛、お願い出来る?」



「アルファスさんには武器作って貰うの断られたんでしょ? あの人一度決めたら中々覆さないよ?」

 支度をして、ライトはレナを護衛に城下町へ。アルファスの店へと向かっていた。

「いや、武器を作って貰いに行くわけじゃ……って、レナはアルファスさんを直接知ってるの?」

 先程の言葉からして、面識がある様子なので尋ねてみる。

「ああうん、勇者君にはゴメンだけど、私の剣もあの人に作って貰った。勇者君は私が剣に直接魔法で炎を纏わせてるの見たでしょ? その辺の適当な剣でやるとあんなの直ぐ壊れちゃうんだよねー、刃が。あの人の武器にして以来、その心配がいらなくなった。間違いなく凄腕だよ」

「へえ……レナは認めて貰えたんだ、流石だ」

 そんな会話をしている間に店に到着。ドアを開け、店の中へ。

「ごめんください」

「あ、いらっしゃいま――また来たんですねこの不埒女騎士っ!」

「!?」

 出迎えてくれたのはセッテなのだが、ライトへの笑顔もそこそこに怒りを――レナに向けていた。

「アルファスさんをたぶらかす悪女……今日こそは私が始末します!」

「何事!? セッテさん落ち着いて! というかレナ!?」

 肝心のレナは特に表情を変えることなく普通にしたまま。一呼吸つくと、口を開いた。

「何かさー、武器のメンテ来た時に関係を聞かれて、昔から私の運命を委ねていますって言ったら勘違いされちゃって」

「私の運命を委ねてるって、つまり武器の作成及び整備を昔から頼んでるって事だよね……?」

「うん、そしたらこうなった。面倒だから否定もしてないで毎回のらりくらりと回避してる」

「否定して! あとどう考えても言い方が悪い! というかこれだけ殺意向けられてよく毎回のらりくらりで済ませられるな!?」

「覚悟ーっ!」

「何が覚悟だやめろ思い込み女」

 グイッ。――あっと言う間の会話劇の間に、アルファスが姿を見せ、セッテの服を掴んで無理矢理停止させる。

「アルファスさん! 止めないで下さい! あの女を始末しないとアルファスさんの命が危ない!」

「違うって言ってるだろっていうか、最早お前の中で暗殺者になってんじゃねーか! 今すぐ動き止めないとお前この店出禁にするぞ」

 アルファスに怒られ、流石にシュンとなって動きをセッテは止めた。アルファスとライトが溜め息。

「ほら勇者君、毎回どうにかなるでしょ」

「レナは何もしてないじゃん……アルファスさんもお疲れ様です……」

「いやこの前はああ言ったがセッテの今後の完璧な対処をしてくれたら武器作ってやってもいい位だ……」

 目が本気であった。ただライトが何をしてもセッテはこの店とアルファスにしがみ付くであろう。

「――さて仕切り直すか。今日は何の要件だ? 俺が武器をお前に作ってやれないのはこの前説明した通りだ。まさかレナ連れて暴力でってわけでもあるめえ」

「私は付き添いですよー。今勇者君の護衛を担当してるんで」

「マジか……姫さんが一緒の時も思ったが、ガチのガチなんだな……」

 アルファスはレナとライトを交互の見てはあ、と感嘆の息を吹く。ライトが「?」といった顔をしていると、

「こいつは性格が多少独特で扱い難いが、後方で遊ばせておくには勿体ない実力者だよ。いくら今最前線が優勢で安定してるとは言え、護衛役として置いておくってことは国王のこの作戦の本気度が伺えるんだよ。俺も流石にこいつに関しては本気で武器を作ってやってもいいと思った」

「へえ……」

「いぇい」

 アルファスの説明が入った。レナはピースサイン。ライトとしてもレナの実力は知っていたが、第三者からの圧倒的評価にあらためて驚かざるを得ない。――凄い人間に守って貰ってるんだな俺。

「っと、話がまた逸れたな。レナが付き添いって事はお前が俺に用件だろ? 武器を作って貰う事以外に、俺に何の用だ?」

「はい。――お願いです、俺に剣術を教えて貰えませんか」

「は?」

「…………」

 促されて、ライトは口を開く。分かり易く驚きの声と顔をするアルファス、無言でライトをまじまじと見るレナ。

「この前のお話を聞いて、俺はあなたに武器を作って貰うのは諦めました。多分今後努力したとしても、あなたに武器を作って貰う才能はきっと俺にはないと思います。でも、あの日俺に剣を振って言葉をくれた、あなたに剣術を習いたいと思ったんです。あなたの下で、強く――なれるかどうかはわかりませんが、努力がしたいと思ったんです」

 それがライトの答えだった。アルファスの言葉で新しい事に気付き、新たな事を始める決意をした。ならば騎士団の仲間ではなく、その言葉をくれた張本人に、何かを習いたい。そう思ったのである。

「俺は武器職人だ、剣士じゃねえ。剣が習いたいならそれこそお前の今の護衛は一流だろ」

「アルファスさんも凄腕でした。現にエカテリスも驚いてましたし。それに俺は、あくまで分かり易いのが剣術であって、アルファスさんに習えるなら剣術じゃなくても最悪いいんです。――お願いします」

 ライトは頭を下げた。流れる数秒の沈黙。

「アルファスさん、受けてあげられませんか? ライトさん、先日断ったのにこうしていらしてるんです。きっとアルファスさんの事、本気で尊敬しているんだと思います。無下にして欲しくないです」

 最初に沈黙を破ったのは反省から復活したセッテ。優しい口調でアルファスにそう進言。

「んー、私はあまりこういうのに口を挟む主義じゃないんだけど、なんて言うかな。――アルファスさん、今の勇者君が武器を作って下さいじゃなくて、剣術教えて下さいって言ってきた時点で、アルファスさんの「負け」の様な気がするけど」

「……お前何か喋った?」

「まさか」

 意味深なレナとアルファスの会話。勿論ライトにその真意を知る術はないが。――直後、アルファスは溜め息。

「頭上げろ。――ちょっと待ってろ」

 そしてライトに頭を上げさせた後、店の奥へ消えた。――数分後、一本の剣を持って戻ってくる。

「ちょっと持って抜いてみろ」

 手渡された剣を言われるままに鞘から抜いてみる。素人のライトにも直ぐにわかること。

「重くて……扱い難い……?」

 先日貸してくれた剣とは真逆、重さ、感触といい、明らかなる扱い辛さだった。

「それの扱い難さが薄れたら、幾分かマシになった証拠になる。――どうせ色々出向いたりとかして忙しいんだろ。来れない日は、それ振るのを日課にしろ」

「! それじゃ」

「強くしてやれる保証は微塵もねえ。前にも言ったが下手な意識はお前の命に関わる。それでもいいってんなら、空いてる日、俺の所に来い。相手してやる」

「――ありがとうございます! これから宜しくお願いします、アルファスさん……いえ師匠!」

 ライトは再び頭を下げた。その勢いはかなりの物で、ライトの喜びを正に表していた。――アルファスは再び軽く溜め息。

「師匠呼びは止めろ。そこまで本格的な弟子にするつもりはねえ」

「私は将来師範の妻……」

「おいそこ否定項目だらけだ」

「私は将来の師範の妻に命を狙われる女……」

「いい加減にしろテメエら! 兎に角師匠呼びは禁止、いいな!」

 こうして、ライトに新たに剣術の師匠(本人否定)が出来たのであった。

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