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第十八話 演者勇者、武器を求めて3

「アルファスさんと模擬戦……?」

「うん。結果として俺が気に入ったら、全力でお前の為の武器、作ってやる」

 気付けば、アルファスの左手には剣が。だが素人目のライトが見ても明らかに安物の剣だった。――というかこの人、武器職人だろ……?

「あの……大丈夫なんですか?」

「何が?」

「俺が今借りてるこの剣、さっきも言ったけど物凄く使い易いです。俺、あなたの実力知りませんけど、でも今アルファスさんが持ってる適当な剣で、もしものことがあったら」

 それは当然の心配だったかもしれない。先程エカテリスにも兵士と一対一で戦えるかもしれないと言われた。今のライトが剣のお陰でその実力まで高まってしまったのならば、アルファスの実力次第では事故が起きるかもしれない。――その想いが、ライトを過ぎったのだ。

「ふむ。……その言葉は、本心か?」

「はい」

「そか。――なら問題ない。模擬戦だ。ほれ、遠慮しないでこい」

 ろくに身構えもせず、空いた右手でヒョイヒョイ、と来るように合図。――ここまで言われたら仕方がない。ライトは覚悟を決める。

「でやあ!」

 掛け声と共に、ライトは前進。全力で剣を振るった――次の瞬間。

「はい、終わり」

「な――」

「え……」

 カァン、コロンコロン。――気付けばライトの手に剣はなく、かわりに喉元にアルファスの剣が突き立てられていた。驚きを隠せないライト、そして見ているエカテリスからも驚きの声が挙がっていた。

「アルファス……まさか、ここまでの使い手でしたの……!?」

 その様子からして、エカテリスには何が起きたか見えてはいたらしい。

「まあ言わなくてもわかると思うけど、お前実戦なら死んでるわな」

「…………」

 一方のライトは、何が起きたかまったくわからなかった。いや自分の剣が吹き飛ばされてすぐにアルファスが自分の喉元に剣を突き立てたのはわかるのだが、その一連の流れを、まったく視認出来なかったのである。

「というわけで、結論。俺は、お前の為に武器は作らない」

「俺が……弱いから、ですか」

「違うよ。まあ弱いのは弱い。でもそこは間接的な理由だ」

 間接的な……理由?

「お前は、今俺の作った武器持ったら、多分早死にする。――流石に目の前で死に急ぐ人間を作りたいとは思わねえ。ましてや理由が俺が作った武器とかまっぴらごめんだ」

「俺が……死ぬ?」

「お前に貸したその剣、お前が思ってる通り、兎に角扱い易くをコンセプトに俺が作った剣だ。今のお前の感じを見る限り、そこから突き詰めていけば、かなりお前にフィットする剣が作れると思う」

「それが……どうして、死に繋がるんです?」

「お前、俺が模擬戦を提案した時に、俺の身を心配したな?」

「確かにしました。――考えが甘い、とか」

「それも違う。俺が一番懸念してるのは、お前が自分の実力を履き違え、自意識過剰になることだ」

「え……!?」

 アルファスがライトの喉元から剣を離し、かわりに手を差し伸べる。ライトも素直に手を借り、立ち上がった。

「さっきのお前は、その使い易い剣を手に入れ、自分の実力が自分でわからなくなった。相手の実力もわからないまま、相手を傷つけてしまうと決めつけた。その感覚は、実戦では命取りだ」

「…………」

 指摘されて、気付く。――もしもアルファスが強かったら、という考えは先程のライトには一切なかった。自分が負けるイメージが浮かんでいなかった。どちらにしても負けてはいたのだろうが、油断して負けるのと、覚悟して負けるのとでは、話がまったく違う。

「自分で言うのもあれだが、俺は武器職人としては一流だ。俺の作る武器は、持ち主の戦闘力を確実に上昇させる。持ち主の実力を自分自身で測りにくくする位のな。結果として、いざという時の行動をお前は間違えることになる。自分に出来ないことでも、出来ると判断し、挑まない選択肢があるのに挑み、失敗する。――即ち、死だ」

「…………」

 先程から、ライトは言葉を失っていた。――突かれる言葉が正論過ぎて、何を発していいかわからない。

「結果、俺は専属で武器を作ってやる相手は見極めてからにしてる。――姫さんに作ってやったのは、俺が軍に居る頃から、姫さんの努力は俺は知ってた。姫さんの一振りを試しに受けて、この人なら間違えないだろうと思ったからだ。――でもお前は違う。だからお前には武器は作れない。――勘違いすんな、お前が悪いんじゃない。お前が武器を欲する理由も間違っちゃいないさ。でも俺の武器は駄目だ。わかってくれ、悪いな」

「……わかりました」

「あー、重ね重ねになるが、気に病むんじゃねえぞ。ある意味俺の我が侭も含まれてるからな。――そうだな、一つアドバイスをやる。これに懲りず、お前に出来ることをもっと探せ」

「俺に……出来ること?」

「姫さんがお前の近くにいるのも驚きだが、逆に言えばそこまでのレベルならまだ周りにやべえレベルのが護衛とかにいるな? その状況に埋もれるな。それはそれで良からぬことを引き寄せる。俺の武器が欲しいとか、誰かに何かして貰うとかじゃなく、お前が出来ることを探せ。多分、今の状況なら、それがベストだよ。――ま、頭の隅にでも入れておいてくれ」



「――ごめんなさい、ライト。私が浅はかでしたわ。私が誘ったばかりに」

 アルファスの店を出て少しして、神妙な面持ちでエカテリスがライトに謝罪を入れた。アルファスに武器を作って貰おうと提案した責任を感じているらしい。

「エカテリスのせいじゃないよ。少しの時間だったけど、あの人の武器を勧めたいっていう気持ちはよくわかったし、それにこれは俺の――俺のせいでもない、って言われたな、アルファスさんに」

 自分のせいだ、と言おうとして言い留まった。――アルファスは決して怒っていなかった。本当に諭すように武器をライトに作れない事情を説明していた。だからこそ思うこと。

(俺に出来ることを……探せ、か)

 決して自惚れたつもりはなかったが、ほんの少しの緩みが、大きな失敗に繋がるかもしれない。今自分は、そういう立場なのだ。そのことを実感した。そのことを再確認する切欠になった。

「……よし」

 気持ちは前向きだった。――探してみよう、一つ一つ、自分の出来ることを……



「というわけで、色々みんなの事をまずは見て回ろうと思ったんだ」

 アルファスの店に行った翌日の早朝。直ぐに出来ることが見つかるわけもなかったので、ライトは団員が一人の時は何をしているのかをとりあえず知っておこうと決めた。――団長として団員のことがわかるのは良いことだし、何かヒントになる物が見つかればそれはそれでよし。

「そういう事でしたか。私の行動が参考になるかはわかりませんが……」

「大丈夫、参考はおまけ。知って構わない部分を知るだけでもまた何か変わってくる気がする」

 初日はソフィ。概要を伝えてみると、早朝からしている事があるとの事なので、同じ時間に起きて付き合ってみることにしたのだ。

「珍しいことをしているわけではないです。軽く走って、軽く体を動かして、軽く素振りをするだけです」

「そっか。それじゃ付き合うよ」

 確かに今の所参考になる様子はなかったが、体を動かすのは良いことだろう、と付き合うことをライトは決める。

「それじゃ、行きますね」

 ダッ、とソフィが走り出し、ライトが後に続く。まだ人気の少ないハインハウルス城内の庭を、風を切って走っていく。――中々のハイペースだ。ライトは付いていくので精一杯。

「団長、大丈夫ですか? 無理しないで下さいね」

 少しだけ振り向いて、ソフィが気を使ってくる。その様子からしてソフィは余裕の様子。――毎日やっているから当たり前の速度なのか、これが。

「はは、大丈夫だよ、これ位なら」

 そしてライトは見栄を張った。――本当は中々に辛いのだが、流石に走るのすらついていけないとか恥ずかしい。

「流石です。――それじゃ、あそこで一旦体を動かしますね」

 そんなライトの心境を知ってか知らずか、ソフィは優しく微笑んだ。

 指定された場所に辿り着くと、止まらずにジャンプや腕立て伏せなど運動、というよりも最早筋トレを開始。――辛い。結構所かかなり辛い。でも辛さを乗り越えないと次に繋がらないぞ俺。

 自分を励まし、何とかライトは食らいついたまま筋トレをクリア。

「じゃ、また走りますよ」

「え、ちょ」

 間髪入れずにソフィはランニング。有無を言えないままライトも強制的に。――あ、あれ、何かがおかしい。流石にハードじゃないかなこれ。

 一回目と同じ位の距離を再び走る。若干ソフィとの距離が離れるが、まだ見える距離だ。

「それじゃ、あそこで一旦止まります」

「ぜはー、ぜはー、ぜはー」

 や、やっと休憩か。――既に返事も出来ないライトに安堵が訪れ、

「ではこちらを持って素振りです」

「……ぜはー!?」

 すぐにその安堵は走り去っていった。素振り用の斧を手渡される。――待て、待ってくれ、休憩はどうした。

「行きますよ。一、二、三、四……」

 どうしたソフィ、もう一回大丈夫ですかと訊いてくれていいんだぞ、そしたらちょっときついって言うから。寧ろ訊いてくれ頼むから。

「ぜはー……ソ、ソフィ、素振り、終わったら」

「素振り終わったら一セット目が終わりです。団長は今日が初めてですから、三セット位にしておきましょう」

「!?」

 とんでもない言葉が聞こえた。要約すると手加減してここまでで三分の一、残り三分の二あるらしい。

 そこでライトは気付いた。ソフィの言葉の意味。


『軽く走って、軽く体を動かして、軽く素振りをするだけです』


(ソフィ、それぞれを単品としてじゃなく、全部まとめて一つの考えで言ってたのか……!)

 ライトの中では走る、トレーニング、素振りがそれぞれ一つで、合計三つが朝の運動と思っていた。しかしソフィは違った。それぞれをまとめて初めて一つ。間に休憩がないのも納得――

「出来……る……か……ふぐぅ」

 バタッ。――ライト、二週目の最初のランニングで痛恨のダウン。補足をしておけば、一つ一つのペースが少々厳しかったのも事実ではあった。

「でも、誰かと一緒に、ってのも新鮮でいいですね。早朝一人で、っていうのも悪くはないんですけど、こうして共有出来ると能率もやる気も違ってきます。そうです団長、毎日とは言いませんが、騎士団全員でやる日を作りませんか? 共有という部分では――団長?」

 返事がない。――気になって後ろを振り返ってみると、既に離れた箇所で倒れているライトが。

「――って団長!? 大丈夫ですか、しっかりして下さい! まさか毒を持つモンスターに!? もしかして私、団長の傍だと狂人化バーサークしなくて気配に気付き難い……!? そんな、私のせいで団長が! 団長、しっかりして下さい、団長ー!」

 こうして初日は多少はソフィのせいではあるのだが、理由を大きく勘違いしているソフィに医務室に運ばれていくのだった。



「うおおおおお! 待って、待ってくれえええ!」

 ズルズルズル。

「成程、皆様の事を知りたくて、今日は私の所へいらしたと」

「う、うん、そうなんだけどさ」

 二日目。ライトはハルに密着取材してみることに。……したのはいいのだが。

「それは、それは本当に捨てちゃ駄目なやつ! マイベストセレクション永久保存版! お願い!」

 ズルズルズル。

「ただ申し訳ございません、ご存じの通り私はヨゼルド様の専属使用人の仕事がございまして、完全オフの日以外は中々プライベートな事はしていなくて」

「いや、そこはいいんだ。エカテリスが誘ったからとはいえ、ハルの仕事がどれだけ忙しいか知っておくってのも大事だし。だから俺の事は邪魔じゃなかったら気にしないで」

「邪魔だなんてそんな。そういう事でしたら、気が済むまで見学していってください」

 ハル自身が言う通り、騎士団の仕事がない日は(現状ない日の方が多い)、ハルはヨゼルド専属使用人として忙しく働いている模様。今も忙しく――

「隠してたのを見つけたのは凄いけど、あの金庫どうやって開けたのハル君!? 普通には開かないようになってるのに!」

 ズルズルズル。

「え、えーと、この時間は、よくこういう事を?」

「はい。ヨゼルド様の私室の清掃、ゴミ処理を行っております」

 ――忙しく、「ゴミ処理」を行っていた。ゴミか。まあゴミなんだろうけど。

「わかったハル君、君の要求を呑もうじゃないか! 君専用にもっとセクスィーな仕事着をオーダーメイドしてあげ――ぶぼぼぼ!?」

 ズルルルルルル!――移動速度が上がった。いやその交渉は逆効果だと何故気付かないのかこの人は。

 状況を今更ながら説明しておくと、ハルは両手にヨゼルドのスケベ本、それの処分を防ぎたいヨゼルドがハルの足にしがみ付いているのだが、物ともせずハルが引っ張って歩いている状態。――ライトとしては最早恐怖すら感じる光景だった。成人男性一人足にしがみ付かれて普通に歩くハルの脚力が計り知れない。それでも離れないヨゼルドの根性が計り知れない。この二人の関係がこの国のトップと仕える使用人というのが信じられない。

「ヨゼルド様、私はヴァネッサ様から不在時のお世話を直々に頼まれております。いつ何時ヴァネッサ様がお戻りになられたとしても、恥ずかしくない状態にしておかなければならないのです」

「ヴァネッサが戻ってくるってわかったらライト君の部屋に隠せばオールオッケー!」

「さり気なく人を巻き込まないで貰えませんかね!?」

 何もオールオッケーではない。

「あ、無知でごめんハル、ヴァネッサ様って」

「ヨゼルド様の奥様、エカテリス様の母君、つまり王妃様です。公務で今は城を離れております。聡明でお綺麗な方です。エカテリス様の容姿は、ヴァネッサ様似です」

「そうなんだ。その辺りの事、何も知らないな俺」

 そういう勉強も必要だな、と気付く。――うん、意外な所から新たな発見。

「お時間が合えば、私で良ければ簡単にお教えする事も出来るかと思います。私はあくまで使用人ですので、客観的な見方が出来ると思いますし」

「そっか、それじゃ今度頼もうかな……でも」

「ハル君、もう直ぐ外! 流石に外は引きずられると小石とか痛いよ! とりあえず止まろうか!」

「あ、土で汚れるのも洗濯が大変ですね。ヨゼルド様、服脱いで下さい」

「最早それ拷問だよハル君!? 私王様だよ! ちょ、ま……イヤー!」

 でも、本当に客観的な見方出来るの? という言葉を飲み込む、二日目の見学なのであった。

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