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第百九十三話 演者勇者とワンワン大進撃20

「竜が……喋って……人に変化した……!?」

 状況を忘れて驚きを隠せないライト。今まで激闘を繰り広げていた竜は、今は自分とそう背丈の変わらない美女になってしまっている。――え? 人間なの? 竜なの?

「うーわ、こういうパターンかー。マックさんどうする?」

「腹を括れ。最悪の場合は命を捨ててでも喰い止める。――悔しいが、とりあえずはシンディの対話に期待するしかない」

 シンディと竜美女から一定間合いを置いて話すレナとマクラーレン。何となくその場所に残りメンバーも集まる形となる。

「ああ、今の内に勇者君の疑問に答えておこっか。あれは竜だよ。ただ当たり前の様に人語を喋って人の姿に変化したでしょ。相当の存在だと思う。ジャンルは違えどニロフ並みにレア」

「!」

「うーん、そうだね。何かあったら、兎に角逃げて。下手な同情とか信頼とか捨てて、兎に角逃げて。そういう相手だよ」

 ニロフはリッチキングというアンデットの中でも頂点の中の頂点、伝説級の種族である。――それと同等の竜、だって……? それにレナ、軽く言うけど、自分が守るじゃなくていざとなったら逃げろって、そこまでか……

「この姿も久々よの。さて小娘、名を名乗れ」

「シンディ」

 一方でシンディは臆する事無く、竜美女と対峙している。真っ直ぐその目を見て逸らさない。

「シンディよ。妾の願いじゃったな。――妾は、退屈じゃ」

「退屈……?」

「うむ。妾は長い事生きておる。故に強くなり過ぎた。刺激のない日々はもう飽きた。だから下界に降りて来たのじゃ。じゃが長らく下界の様子を見てなかったせいで、下界の事はよくわからぬ。そんな時、あそこの小僧が権力に物を言わせてモンスターを強引にテイムしておった。これは何かハプニングの匂いがすると思っての、「敢えて」テイムさせてやったのじゃ」

 確かに、ニロフ級の存在なら、余程の事がない限り人と絆を深める事はないだろう。――竜の方が、わざと釣られたのか。

「小僧の家は金持ち。確かに美味い物は食べれたが、それだけじゃ妾はつまらん。小僧は何をするのかと思ったら妾を使って何をするでもない、ただ魔法陣を並べておくだけ。さて潮時かと思った時、今回の騒動が起きたんじゃ」

 そう言うと、竜はライト達を見てニッ、と笑う。

「久々に人間と戦ったが、中々刺激的じゃったぞ。お主ら何処の所属か知らんが、やるではないか。人間も捨てたものじゃないの」

 その言葉で合点がいく。――竜は、戦いを楽しんでいた。だから本気を出さず、技も敢えてセーブして戦っていたのだ。

「というわけで、特に何も無いのであれば、妾はそこの金しかない小僧に妾の無駄遣いをした「仕置き」をして、また違う所に遊びに行こうと思うておる」

「ひっ」

 今まで笑顔で喋っていた竜美女が、トームに鋭い視線を送る。

「小僧、小僧の様な引け腰が妾をテイム出来るわけなかろう。まるで妾を使いこなしてますみたいな言い方をしていたが、妾にとってそれは侮辱である。――覚悟しろ」

「だからそれは駄目!」

 ザッ、と再びトームをシンディが庇う様に立ち塞がる。

「言ったでしょ、貴女が手を出したら、貴女の名誉に傷がつく!」

「シンディというたな、テイマー云々抜かしたが、別にこの小僧一人どうにかしても妾の存在がどうなるわけでもない。妾と戦争がしたいならすればいい。それで妾が楽しめるなら妾は満足じゃぞ? 第一テイマーとは何じゃ? この小僧の様な半端が転がる職業なら、妾が全て灰にしてやっても良い位じゃ」

 竜美女は鋭い視線を止めない。びりっ、という痺れるような威圧感が辺りを覆う。――軽い気持ちで言っているのではなく、やろうと思えば本気で動くのだろう。

「全てのテイマーが彼の様なやり方だなんて思わないで。少なくとも私は違う」

「ほう、お主もテイマーか。ならば、お主の思う本当のテイマーとはなんぞ? お主はテイマーとして、契約した魔獣をどの様に見ておる?」

「友達、仲間、家族。上も下もない。テイマーとは魔獣と心を通じ合わせ、信頼し合い、共に戦える存在」

「ウォン!」

 シンディの言葉に同調する様にシルバーが吠えた。竜美女はチラリ、とシルバーを見た後、再びシンディに視線を戻す。

「まあ、口だけならどうとでも言えるの。ここで嘘をついておいて逃げ道を作り、後で妾をどうにかする可能性もあるじゃろ」

「そんなことしない。私のテイマーとしてのプライドに賭けて、絶対に」

 シンディの力強い言葉。侮辱された事に対する怒りすら垣間見える視線を、今度はシンディから竜美女にぶつける。その強い視線を受け、竜美女は再びニッ、と笑う。

「なら証明してみせよ。お主が、魔獣にとって理想的なテイマーであると」

「証明?」

「妾の名を呼べ。妾に名を授けてみせよ」

「!」

 そしてシンディにその試練を与えた。――名前? え、名前考えてあげるだけでいいの、格好良い名前とか美人っぽい名前考えるだけ、とライトが思っていると、

「竜よ、待ってくれ。シンディはまだ鍛錬中の身、あまりにも荷が重過ぎる、考え直してくれないか」

 マクラーレンが急ぎ介入、必死な様子で案の変更を要求。――もしかして、名前を付けるのって。

「私も専門外だから詳しい事は知らないけど、テイマーの人が魔獣に名前付けるのって、結構深い契約らしいのよ。通じ合えれば普通の契約よりもより強固な物になるらしいけど、失敗するとそれ相応のリスクを背負うんだと」

「つまり、今回シンディさんが失敗すると」

「安く見積もっても命の保証は無いだろうね」

「!」

 マクラーレンが必死な理由がわかった。それ相応所ではない。リスクが大き過ぎる。

「外野は黙っておれ。これは妾とシンディの問題じゃ」

「しかし――」

「叔父さん、ありがとう。でも彼女の言う通り、これは私と彼女の問題」

「ふふ、よくぞ申した。さあ、舞台を作ろう」

 竜美女が手を挙げると、竜美女とシンディを包む魔力のドームが生まれ、

「くっ……! こいつは」

「止めておけ。簡単に壊せるものではないぞ」

 完全に介入出来ない空間となってしまう。バァン、と悔しそうにマクラーレンがドームを握り拳で叩いた。

「さあ訊こうシンディ。妾の名を言うがよい。お主が決めた、妾の名は?」

 シンディは冷静に竜美女を見て、一度目を瞑り気持ちを整える。そして数秒後、再び目を開くと、

「スーリュノ。それが、貴女の名前。今から貴方はスーリュノよ」

 スーリュノ。その名前をシンディが告げると、竜美女とシンディの足下に大きな魔法陣が生まれ、二人が光りに包まれる。――あまりにも眩しいその光りに、シンディは目を開けていられない。

「シンディよ。其方は妾に何を望む?」

 でもその声はハッキリと届く。耳に届く――というよりも、まるで心の奥底に響く様に。

「新しいテイマーとしての道標の、手伝いよ。証明する。従わせるだけがテイマーじゃないって。手を取り合って戦ってこそ、本物のテイマーだって。一人前のテイマーになって、その証明をする。テイマーが皆同じ気持ちになってくれたら、人類が貴女と争う理由も無くなるもの。架け橋になってみせる」

 嘘も誤魔化しも通用しない。そもそもそんなものを伝えるつもりもない。ありったけの本音を、シンディは念じる。

「架け橋、か。そんなもの、本当になれると思うておるのか?」

「やりもしないで決めつけるの? 伝説の竜が聞いて呆れちゃうじゃない。それに――壁が高いなら、やりがいがあるでしょ? 退屈もしないでしょ?」

「くくっ、あははは! お主は何処までも妾に怯まぬのだな! それがお主のテイマーとしてのプライドで、信念か。――面白い」

 パリィン!――直後、竜美女とシンディを囲っていた魔力のドームが割れ、足下の魔法陣も消えた。

「妾の名はスーリュノ。以後、其方が妾にとって相応しくない存在になる事無ければ、その名を名乗り続ける事を約束しよう」

 そして彼女は、勝ち気な笑みを浮かべ、自らの新しい名を名乗った。――シンディが認められた瞬間だった。

「……本当に?」

「二言はない。お主の邪魔をする低俗な輩がいたら、存分に蹴散らしてやろう。じゃからお主も、精々妾を楽しませよ」

「ありがとう。――宜しくね、スーリュノ」

「うむ」

 その宣言と挨拶をして落着かと思った直後、へなへな、とシンディが尻もちをつく。

「シンディ! 大丈夫なのか!?」

「叔父さん、大丈夫……気が抜けたら急に」

 急いでマクラーレンが駆け寄る。何だかんだで緊張の連続だった。当然の結果だろう。――ライトは自分はそうならない様に必死に踏ん張っていた。

「ワン! ウォンウォン!」

 次いでシルバー達も心配そうにシンディの周りに。

「うん、大丈夫。皆、ありがとうね。叔父さん達を連れてきてくれて、本当にありがとう」

「ワォン!」

 そうなのだ。結局シルバー達がここに導いてくれなかったらどうなっていただろうか。根本的な所はそこだった。それはシンディとシルバー達の絆が出来た技。シンディが目指すテイマーの、大きな一歩だろう。

「ふむふむ、そうかそうか。お主らは妾の先輩にあたるのじゃな。宜しく頼むぞ」

 竜美女――スーリュノも腰を屈め、シルバー達に挨拶。こちらも先程までの緊張感が嘘の様な。……だが。

「兄者、この状況はどうするつもりだ? はいそうですか、でハッピーエンドで終わるのか?」

 フロウが心配そうに小声でそう告げてくる。――シンディ誘拐、屋敷崩壊、事件に大きく関わる伝説級の竜、そしてそれをテイムしたテイマー見習い。

「うーん、この量をネレイザちゃんが処理し切れるかどうかだねえ」

「昔からそうやってマークに全部投げてきたんですねわかります。――まあでも、ここは俺の踏ん張りどころだな。フロウ、証言とかはもしかしたらお願いするかもしれないけど」

「その位なら私は全然大丈夫だ」

「サクラさんも構いませんか?」

「私はシンディを攫った犯人を捕まえたかっただけですから。シンディが無事に終わるのであれば、従います」

 軍人以外の了承は得た。――ライトは腹を括り、前に出る。

「えっと……スーリュノさん。少しお話があるんですが、いいですか?」

「話? ああ、何だか色々ちょろちょろしていた小僧か」

「ライトといいます。シンディさんの知り合い……というか、友達というか」

「こうして助けに来ている以上それなりの信頼関係か。――よい、肩ぐるしい言葉使いは抜きじゃ。気楽に話せ」

「それじゃ、遠慮なく。――今後、そして将来のシンディさんとスーリュノの事についてを」

 そしてライトが考えた案とは――

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