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第百八十二話 演者勇者とワンワン大進撃9

「……むう」

 ライト騎士団全員でフラワーガーデンに行った翌日の午前中。ライト騎士団団室にて、椅子に座り、腕を組んで少しだけ眉を潜めてそんな声を漏らすのはドライブ。

「悩み事ですか?」

 その様子を見て声をかけたのはハル。

「……何故俺が悩んでいるのがわかった?」

「その恰好で面白い事を考えていたら驚きですよ」

 真剣にそう尋ねられて来たのでハルは苦笑。――真面目なのか天然なのか。

「宜しければ、相談に乗りましょうか? 珍しく二人しかいませんから、他の方に聞かれる心配もないですし」

 ハルの言う通り、いつもは何だかんだで少なくても四人位はいるのだが、今はハルとドライブの二人だけ。――承諾を得る前にハルは既に二人分の飲み物を用意していた。気になったらお世話したい性分である。

「大した話ではないんだ。ただ、俺が不慣れなだけで」

「大丈夫ですよ。馬鹿にしたり笑ったりしませんから」

 実際、ドライブの中でハルはライト騎士団の中で敢えて選んだら一番真面目に相談事に乗ってくれそうなイメージだった。そしてそのイメージは決して間違いでもなく。――その気持ちに負け、ドライブ自身も答えが見つからない状態なのもあり、打ち明ける事に。

「知り合いに物を渡したいと思っているんだが、無難な品が何かわからなくてな。いらなくはない、でも凄過ぎないというか」

「成程。確かにさじ加減は大事ですね。重すぎて困るというのもありますし」

「そうだろう。俺はその辺りの判断力というか経験に欠ける。誰かに物をあげるなど、ガラビアでイリガとナターシャにあげた位だからな。深い付き合いのある人間にしかしたことがない」

「わかりました。私なりに考えてみますね。――お相手はどんな方だか伺っても?」

「最近知り合った」

「ふむふむ」

「元気というか、活発で」

「ふむふむ」

「笑顔が魅力的で、正直惹かれている」

「!」

 思いがけない言葉にハルは顔には出さないがテンションが上がり始める。――惹かれている。つまり、異性として意識していると。

 ハルも年頃の女子、恋愛話には触手が動く。しかも同じ騎士団の仲間。――これは、思いがけない話に乗っかってしまった。あれ、でもドライブ様は最近こちらに来たばかり。それで知り合った女性……仲間内ではないとすると、まさか……!

 ハルの脳裏に一人の女性のシルエットが浮かぶ。――フラワーガーデン体験時、後半ドライブはその女性と仲良く話をしていた。もしかして!

「ドライブ様。その方の容姿をお聴きしても宜しいですか?」

「見た目か? そうだな……髪が長めで」

「!」

 シンディの髪は長めだった。

「スタイルが良かったと思う。綺麗な体形だった」

「!」

 シンディ、スタイルも良かった。――やはり、これはやはり!

「後はそうだな、基本全裸だ」

「ぶふぉぉぉぉ!」

 そしてハルの脳裏に浮かびあがりかけていたシンディがいきなり全裸になった。良い子の皆に見せられない格好になった。つい物凄い勢いで吹いてしまった。――他の人に見られなくて良かった……じゃなくて!

「? 大丈夫か? 容姿というから答えたんだが」

「ごほ、げほっ……だ、大丈夫です……あの、ドライブ様、そのお相手、もしかして、シンディ様がいつもお連れになっている犬型魔獣でしょうか」

「ああ」

 犬だった。そりゃ全裸だわ。――テンションが上がっていただけに体制を立て直すのに一苦労。ああ、この方こういうのを真剣に放り込んでくる人なんですね……

 そんなこんなでドライブの相談は続き、落ち着いたハルが答えていく。そして――



「……ん?」

 その日は、午後アルファスに所用があり稽古を午前中にして欲しいと言われ足を運んだ帰り道。ハインハウルス城下町、通称噴水広場と呼ばれる大きな噴水がある広場を少し離れた箇所から視界に入れた時だった。

「勇者君どした? お腹空いたから早く帰ろうよ。勇者君の奢りならこの辺で食べていってもいいよ」

「何もしないで寝てたくせになんでそんなにお腹空くんだよ……じゃなくて、あれドライブだよな?」

「うん? あ、ホントだ」

 丁度その噴水をバックに、ドライブが立っていた。時折周囲の様子を伺う辺り、

「誰かと待ち合わせ……か?」

 という推測は直ぐに出来た。だが、気になる点が一つ。

「いや別にドライブ君だって待ち合わせ位するでしょ。ガラビアではアポ無しが当たり前だったとか言っていきなり突撃とかは……ちょっとしそう」

「うん、ちょっとしそう。――じゃなくてだ。なんかあいつ、おしゃれしてない?」

「そういえば」

 普段は動き易い、もっと言えば何処でも直ぐに戦えそうな格好をしているのが、今はカジュアルな若者らしい格好。元々整った顔立ちもあり、様になっている。

 更に手には手提げ袋。その袋にもおしゃれなロゴが。

「これはまさか……女性とデートというやつではないでしょうかレナさん」

「奇遇ですね、私もそんな気がしてきましたよ勇者さん」

 意外な遭遇展開につい丁寧語になる二人。

「でも、デートだとすると相手は……仲間内以外と考えると」

「だよねえ」

 思い当たるシルエットが一人。そんな会話をしつつ、自然とこっそり距離を縮めて行くと、

「折角なのですから、お二人共余計な真似をしない様に」

「え、ハル?」

 後ろから声がしたので振り返ると、そこには私服姿のハルがいた。――私服珍しい。可愛い。……は兎も角。

「その感じからして、ハルは何か知ってる?」

「はい。こうなった以上仕方ないので簡潔に説明させて頂きます」

 そこでハルは二人にドライブから偶然受けた相談について説明。更にそこでハルは気をきかせてシンディにも何かすべき、ちゃんと身なりを整えて会うべきと提案していた。

「そして、プレゼントから着る物まで色々アドバイス、お手伝いをさせて頂いた結果が今日です。なので、邪魔はなさらないで下さい」

「成程ね」

 世話好き面倒見の鬼のハルらしい行動だった。

「えー、でもさ、ハルだってこうしてここにいるってことはこっそり後をつけてニヤニヤするつもりだったんでしょ? だったら私達だって見たい」

「一緒にしないで下さい。私は念の為にドライブ様が忘れ物をしたりアドバイスを間違えたりしてないか、それに相手の方がしっかり来てくれるか確認するだけです。相手の方が普通に来られたら帰ります」

 何か過保護な母親みたい、とライトとレナは思ったが口には出さなかった。――すると。

「あ、二人共、来たみたいだぞ」

 ドライブが何かに気付き、体をそちらの方に向ける。そして視線の先からやって来るのは。

「やっぱりシンディちゃんだったんだねー」

 フラワーガーデン人気三位アジサイこと、シンディであった。シンディはドライブの所へ行き、笑顔で挨拶。流石にこの位置からでは会話内容までは聞き取れないが、悪い雰囲気は感じられない。

「急接近だよな……出会いがあれだったのに」

「出会いがあれだったから良かったんだよー。ギャップだよギャップ。いいじゃん。――勇者君、色々試練用意しておこうよ」

「何の!? 俺達あの二人にとって何なの!?」

 まるで親代わりで育てましたみたいな言い方である。

「さ、確認出来たので帰りましょう」

 そしてハルは冷静だった。本当にちゃんと会えるかだけ確認したかったらしい。ライトとレナ(特にレナ)としては名残惜しい部分があったが、駄々を捏ねるとハルが怖い。その二つを秤にかけた結果、大人しく帰る事に。

「……あれ?」

「どうした? もしかしていきなりドライブが何かやらかしたか?」

「そうじゃなくてさ……ねえハル、私達が帰っても、あれじゃ何の意味もなくない?」

「はぁ……まったく、他にも誰か気付いて興味本位で見てる方がいましたか?」

 溜め息、呆れ顔でレナが促す方を見て見ると意外なシルエット。

「あれ……サクラさん……?」

 道の路地から顔を出して、ドライブとシンディの様子を伺う私服姿のサクラの姿があった。本人はこっそり覗いているつもりなのだろうが、まさに、な見方をしているので傍から見ると若干怪しかった。傍を通る人も不思議そうな目でチラリチラリと見て行く。が、そうやって周囲に見られている事もどうやら気付いてない様子。

 ライト、レナ、ハルの三人は顔を見合わせ意思疎通。近付いて話しかけてみる事に。

「サクラさん?」

「ひゃわぅっ!?」

 声をかけたら想像以上に驚かれた。ガバッ、と振り返ったサクラと目が合う。

「どうも、奇遇ですね」

「あ、ライトさん……えっと……ライトさん」

「はい、ライトです」

 急に話しかけられて本当に驚いたのか、二回存在を確認された。すーっ、はーっ、とサクラはその場で深呼吸。

「察するに、あの二人を見てましたよね?」

「いえ、そんな事は。ただ、視界には入れていましたが」

 それは見ていたと同じではなかろうか。店で話したイメージとは少々違うサクラにライト達も驚く。

「実は」

 そこで簡単にライトは事情を説明。するとサクラが興奮し始める。

「つまり……あの二人、デートなんですよね、これから!」

「まあ、そういう事になるのではないでしょうか。――店の方針からして、駄目でしたか?」

 恋人を作ったら駄目とか、特定の男性と仲良くなったら駄目とか、店によってはあるかもしれない。

「いえ、プライベートに口を挟むつもりはありません。ですが一応、店の先輩、責任者として、従業員の恋の行く末は見届ける義務があるかと」

 が、フラワーガーデンは特に無く、至って健全な店の様子。――そうなると。

「お言葉ですが、それは若干パワハラとかそういった類になるのでは」

「そんなつもりはないです! 何もなかったらそれでいいんです!」

 ハルの冷静な指摘に辿り着くのだが、その指摘に対しサクラは興奮したまま返事。三人にしーっ、声が大きい、と言われるとハッとして軽く咳払い。

「というわけで、私はこのまま尾行を続けますので」

「いやいや続けますので、じゃないって。流石の私も止めるって。絶対見つかるからそんなテンション」

 第三者が暴走しようとすると冷静になれるのか、レナが制止する側になっていた。……これはもしや。

「あの、失礼な事を訊きますけど、サクラさんってもしかして、恋愛経験があまり無い……?」

 その姿、まるで思春期の子が友人の恋愛を見かけた様なテンションだったからだ。――そのライトの質問に、少し冷静さを取り戻したか、恥ずかしそうにサクラが口を開く。

「仰る通りです。丁度その頃色々あってそんな経験皆無で、気付けばこの歳に。お店で男性の方と話す時は仕事のスイッチが入るので大丈夫なんですが、客観的にこういうシーンを見かけると……今日はそれに偶然だったので」

「成程ねー、まあ私達世代の思春期はちょっと戦乱が酷い地域とかもあったしねえ」

 そのレナの発言は偶然である。サクラはチラリ、とレナを見るが、意図的な発言でないと見抜き、再び視線をドライブとシンディに戻す。

「まあそれに、実際お客様とプライベートで交遊を持って、何かあったら問題なのも事実です。なので、一応チェックはしたいと思いまして」

「まあ、それもそうですよね……そういう理由なら仕方が無い――」

「あっ、もしかしてもう手を繋いじゃう!? えっ、今はそんな感じなの!? どっち!?」

 …………。

「ハル先生、如何致しますか」

 冷静なレナの確認に、ハルは溜め息。

「同行しましょう。放っておいたら五分後には駄目になりそうです」

 かくして、ライト、レナ、ハル、それにサクラという不思議な四人組で、ドライブとシンディのデートを尾行する事になるのであった。

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