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第百七十九話 演者勇者とワンワン大進撃6

「あの……当店がどういったお店かご存知ですか?」

「はい。女性の方のおもてなしで、お酒を飲んだり楽しく会話したりするんですよね?」

「ええ、まあそうなんですが……」

 店の入り口で、男性店員が訝し気にその集団の客を見ていた。とてもこの店の客層とは思えない。

 代表と思われる青年、それから背中に見た事ない武器と思わしき物を持つ青年。――男性はこの二名だけだった。残りは女性ばかり。

狂人化バーサークは……狂人化だけは気をつけないと……」

「もしかしてソフィ、お酒飲み過ぎると狂人化する?」

「あ、はい。結構好きなので飲めるんですが、一定以上酔うと……大丈夫です団長、今日は気を付けますから」

 しかも綺麗所が勢揃い。特に今代表の男と話してる女が一段階越えて綺麗だった。――まさかウチの店のサクラさんといい勝負が出来る様な容姿の人がいるとは。

「ここがそうなのね……代表の方はどちらかしら? お父様がお世話になっているお礼がしたいですわ。それから本当に健全なのか隅々までチェックを」

「姫様、お気持ちはわかりますが控えましょう。一度ライト様が足を運ばれて安心との事ですから」

 あの何処か高級そうな口調の女の子は何処かで見た事がある気がする。何処で見たかは思い出せないが。とりあえず隣の銀髪のメイドに宥められている。――どんな関係だろう。

「す、凄いねハル、皆ドレスみたいな恰好だよ! ボクもドレスアップした方がやっぱり良かったかな、一応ラーチ家の令嬢だし」

「サラ、違うの、そういう社交パーティするお店じゃないの、対抗心とかいらないの」

 一番目を輝かせてるのが少し小柄なあの女の子なのも不思議だった。こちらも隣のメイドに宥められている。――何でメイド二人いるんだ。

「ニロフが予想以上に落ち着いてるのが私としては予想外なんだけど」

「フフフ、甘いですなレナ殿。こういう店ではしゃぐだけではただのカモ。我としてはお店の嬢達にも楽しんで貰いたいのですよ。なので紳士の心掛けを忘れない様にするのがポイントなのです」

 そして極めつけは仮面。最早不審者じゃないか。仮面つけて店に来た人は初めてだ。

「マスター、早く入りましょ。予約してあるんでしょ?」

「あるけど……ネレイザ、その手帳は何?」

「マスターに話しかけてきた女のチェック表だけど。不必要にたぶらかす様なら事務官として処分するわ」

「事務官の仕事ってそんな野蛮だったっけ!?」

 埒が明かない。店に通していいんだろうか。店長に相談すべきか。

「あのすみません、予約してあるんです。ライトといいます。アジサイさんの紹介で」

 と、青年は鞄から店の人気嬢の一人であるアジサイの名刺を取り出す。しかも、

「! 直筆サイン入り! 名前まで……!」

 ライトさんへ、という直筆サイン入りが入っていた。――これは本気のお客様だ。そういえば確かに予約は入っていた。まさかこんな……いえ、この方達だったとは。

「ご案内致します、どうぞ」

 男性店員は自分の未熟さを反省。――まだまだ俺も見る目が足りないな。こういうのを見極められて初めて出世出来るんだろうな。

 というわけで、今更ながらの紹介になるが、ライト騎士団である。事の始まりは、アジサイ――シンディとライトとレナの三者面談(?)の時。



「私をスカウトして来たのは、あの店の人気一位のサクラさんです」

 シンディにフラワーガーデンで働く事になった経緯を尋ねていた所、シンディはスカウトされており、そのスカウトをしてきたのが、

「人気一位のサクラさん……って、あの凄い綺麗な人か」

 サクラだった。ガルゼフと共に行った時の事を思い出す。あの美貌はソフィと同じくインパクト絶大だった。

「あー、私もあの人は覚えてる。見た目もそうだけどおじいちゃんの接客も見事だったよ」

「シンディさん、レナが覚えてるって事は最早相当だと考えていいです」

「コラ、私を基準にするんじゃない」

 びし、とレナはライトを軽く叩く。――だってそういうの全然記憶に残らないじゃないか。

「その、よくわからないですけど、そのサクラさんです。――私がバイトを探してる頃、毎日街の求人掲示板と睨めっこしてたら突然声をかけられて。私も切羽詰まってたし何よりサクラさんのトーク力が上手くて、つい事情を喋っちゃったんです。そしたらウチで働いてみない? って。サクラさんはサクラさんで時折そうやってスカウトに出歩いてたらしくて」

「? サクラさんがスカウトに出歩いてるの? そういうのってオーナーとか裏方スタッフの仕事じゃないの?」

 少なくともライトのイメージではそうだった。

「あ、サクラさんは運営にも関わってます。まだ若いのに凄いですよね、そういう所も。スタッフの教育とかもそうだし、私もサクラさんの弟子ですから」

 えへん、と自慢気にシンディは言う。――サクラを尊敬し、そのサクラの弟子である事を誇りに思っている様子。

「で、話を戻しますと、私も最初は怪訝な気持ちでした。突然夜のお店で働いてみないか、って。確かに事情は喋っちゃったけどでも躊躇しちゃって。そしたら一度お店に遊びにきて、私の誘いだからタダでいいから、って。――その時は食事代浮くかもラッキー、って程度の考えで足を運んだんです。そしたら私が考えていた夜のお店と全然違って。あ、ここならバイトでやっていけるかも、って思って働き出して、今に至ります」

「それで人気三位って凄いねえ、才能あったんじゃん」

「シンディさん、レナが褒めるって事は最早相当だと考えていいです」

「私が多少そういうのしないとは認めるけど勇者君の目から見てそんなに……?」

 何とも言えない間柄、でもお互い信じあってるんだろうな、というのが伝わり、シンディとしてもつい二人を見て笑ってしまう。

「でも、やっぱり叔父さんに言うのは憚られて。普通の飲食店でバイトしてるって嘘ついちゃったらもう戻れなくて」

「マクラーレンさんってそんなに厳しいの? 確かに真面目そうな人には見えたけど」

「んー、なんつーか、マックさんはそういうお店を認めないんじゃなくて、そういう苦労――あくまでマックさんの視線で苦労と見える、ね――をさせたくないんだと思う。例えばシンディちゃんの夢が最初からサクラさんに憧れてそこのお店で働きたい! だったらお店の様子を見る事はしても、お店の様子が大丈夫だったら反対はしない。でもシンディちゃんの夢はテイマーでしょ? そうなると男の人をお酒で接待するお店でバイトするなら自分が費用を出す! になるわけよ」

「あ、言い得て妙です。そういう人です叔父さん」

「成程ね……」

 堅いは堅いでも頑固親父で融通が利かないとかではないのか。……となると。

「今からでも、マクラーレンさんに認めて貰うってのはどうかな? ほら、今丁度マクラーレンさんお休みでこっちに来てるし。良かったら俺達協力するよ、お店行ってなかったお詫びに」

「えっ、いいんですか?」

「えっ、それ私も巻き込まれますか? 私名詞貰ってませんし行く約束してませんよ?」

「えっ、なんでレナさんいきなり丁寧語なんですか!? 怖いんですけど! お店で奢ってあげるから護衛として働いて!」

「あ、じゃあ行くー」

「いつものレナさんでしたー!」



 ……というわけで、とりあえず改めて視察(?)というわけで、折角なのでライト騎士団全員を誘ってお店に予約、来訪したのである。当初は男性であるニロフ、ドライブ、護衛のレナの四人で行こうと思ったのだがネレイザにバレて、あれよあれよと言う間に全員にバレて、それならば事情を話していっそ……という形である。

 ガルゼフの時は気持ちの前準備無しで行ったので細かく見る余裕は無かったが、店内を改めて見てみる。夜のお店としては明るく女性でも入り易そうな雰囲気。でも普通の食事する店とは少し違う、良い意味で絶妙で独特の雰囲気を醸し出していた。

 客層も普通であり、パッと見える範囲に若者三名のグループ、真面目そうな男性一人、中年二人組、国王。

「……あれ」

 若者三名、男性一人、中年二人組、国王――

「待っていたぞ、ライト君」

「当たり前の様に先に居るのは何故ですか!?」

 ヨゼルドだった。私服だった。――ここまで情報が割れていたのか。国王だから独自の情報網があるのかもしれない。

「勿論ライト君がエカテリスが心配だからに決まっているではないか。決して公式に来れるチャンスだから来ているわけではないぞ、決して。公務だから護衛もいるぞ」

「あれ、バルジ君じゃん」

「どーも。ただ飯食えるって言うんでついて来てます」

 レナの指摘にヨゼルドの隣にいた若い男がこちらに挨拶。

「ハル……じゃなくて、リバール、彼はどんな人?」

「最前線ではなく内陸部専門での軍事担当者です。要人の護衛、緊急の内部での出撃が主。我々が騎士団を結成するまでは彼が内陸部では一番の戦力だったと思われます。勿論今でも十分な戦力です」

「成程」

 冷静に考えればそういう人間がいても当然だろう。ヨゼルドの立場を考えても尚更。……ちなみにハルに尋ねようとして途中でリバールに切り替えたのは、

「む……ぐ……!」

 ハルが歯痒そうな顔をしていたから。――ヨゼルドが来ている。ここぞとばかりに来ている。対処法として色々な選択肢が浮かんだが、どれを選んでもベストではないのだろう。情報を先に掴まれたのが悔しい様子。

「それじゃ国王様、俺達は予約している部屋があるので」

「うむ。何か困った事があったら直ぐに私を呼ぶのだぞ」

 キャバクラでの会話とは思えない台詞である。何に困るのだろう。何に困って彼を呼ぶのだろう。

「お客様、宜しいですか?」

「あ、すみません、行きます」

 案内役の男性店員に促され、ライト達は移動を開始。

「あっ、ヨゼルド様、久しぶりー! どうしたの、今日はイケメンのお兄さんまで連れてきて」

「フフフ、今日はお忍びじゃなくてな、彼は付き添いなんだ。だからちょっと奮発しちゃおうかな」

「ホントー? それなら皆呼んでいい?」

「勿論勿論。あっ、彼へのサービスも頼むぞ」

「やったー! ヨゼルド様好きー! サービスは任せてー!」

「はっはっは」

 背中越しに聞こえる会話は忘れた方がいいのかどうなのか。そんな事を思いつつ、案内された部屋へ。流石に前回ガルゼフと共に来た部屋程ではなかったが、やはりこちらの人数が多いせいかそれでも中々広く立派な部屋だった。

 各々思い思いの場所に座り、寛いでいると、

「いらっしゃいませー! フラワーガーデンへようこそ!」

 総勢八名の接客嬢と飲物食べ物を乗せたカートを一台ずつ押す男性店員二名が部屋にやって来る。素早くテーブルの上にセッティングされ、接客嬢達も綺麗にバランス良く座り、

「それじゃ乾杯しましょ。かんぱーい!」

 全員でグラスを鳴らす。――こうして、ライト騎士団のフラワーガーデン体験会(?)が始まった。そして数分後、

「ごめんなさい、遅れちゃって。――ご予約ありがとうございます。フラワーガーデンへ、ようこそ!」

 きらびやかな衣装を纏った、アジサイ――シンディが、部屋へとやって来るのであった。

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