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第百七十三話 幕間~drive to the brand new world 後編

「団長、レナ、ドライブ、おかえりなさい」

 アルファスの店から帰還すると、ソフィが出迎えてくれた。――ちなみに店ではそのままライトの稽古もあった。ドライブはそのまま見学、レナはそのまま……寝ていた。

「ドライブは、アルファスさんに武器を作って貰えそうですか?」

「うん、合格を貰った」

「そうですか、良かったです。あの方の武器があると無いとでは全然違いますからね」

 ソフィの愛用の斧もアルファス手製の品である。使っているからこそよりわかるのだろう。……と、

「……おい」

「ん?」

 ドライブがライトの一歩後ろでレナに話しかける。

「あれは誰だ? どちら様だ? 何者だ?」

「うんドライブ君表情変えないけどそれ三つとも同じ意味合いだからね。君が少々パニックなのはわかった」

 ドライブは表情の変化に乏しい。傍からみたら冷静そのものの表情で。……は、兎も角。

「あれソフィだよ。途中と最後一緒に戦ったでしょ」

「……同一人物か? 表情も声もまるで別人だぞ?」

「私の知る限りでは同一人物だね。ま、直ぐに慣れるよ」

 淑女状態のソフィを見ていないわけではないが、逆に言えばほとんどガラビアで見てなかったドライブ。最早記憶から一旦消えていないものだと認識してしまい、驚き意外の何物でもない様子。

「ドライブ、夕食までの時間、少し宜しいですか?」

「俺か? 構わないが」

「少しお付き合いして欲しい所があるんです。――団長、ドライブを少しお借りしますね」

 そんなドライブの様子に気付かない(!)ソフィからの誘い。そのままライト、レナと別れ、ソフィの後について行く様にドライブも移動。

「御城での生活には慣れていけそうですか?」

「まだ何とも言えない。先日までの生活とは一変するからな」

「お気持ちはわかります。でも大丈夫ですよ、環境はこれ以上ない程整っていますし。困った事があったら団長でも、私でも相談に乗りますから」

「感謝する」

 そんな会話をしつつ移動。移動中にもすれ違い様にソフィは挨拶をされ、笑顔で返す。挨拶をしてくる人間は様々だったが、共通しているのは羨望の眼差し。ソフィの淑女オーラに包まれ憧れているのがドライブも直ぐにわかった。

「不思議ですか? 今の私が」

「え? ああ、いや」

「お顔に出てますよ」

 と、ソフィから不意にそんなツッコミ。ドライブも意識はしていなかったが、やはりそのソフィのギャップに何処かで思う事があり、それをソフィに見抜かれた。

「大丈夫ですよ、気にしていません」

 が、実際にそう思っている様で、ソフィは優しくそう続けた。

「今は「アタシ」とも上手くやれていますし、何より認めてくれる人達が、仲間がいますから。その人達の為なら何も怖くないです」

「……そうか」

 自分の力を認めてくれる人達。――もしももっと違う時に、自分の力を告白していたら、果たしてどうなっていただろうか。許してくれただろうか、一緒に戦ってくれただろうか。全てが……壊れただろうか。

「そしてドライブも、その輪の中に入ったんですよ?」

「!」

 そして自分と重ねて想う事があった事もドライブはソフィに見抜かれ、そう優しく告げられる。

「過去を全て消す事は出来ませんし、してしまえば今の大切さが薄れてしまうからしない方がいいです。でも、団長は新しい世界を、とドライブに約束したのですから、団長を信じてみて下さい。そして私達は、団長の仲間ですから」

「そうか。……そうだな」

 前を向こう。過去に囚われず、新しい一歩を。――その為に、自分は彼に着いて来たのだから。

 そんな会話をしつつソフィがドライブを連れて来たのは、

「……訓練所?」

 ライト達も定期的にお世話になっている訓練所だった。流石ハインハウルス城、訓練所も立派で……

「ドライブ。今日から遠征や用事が無い時は、この時間アタシの訓練に付き合え」

 ……などと感じる暇もないままに、ソフィ――気付けば既に狂人化バーサーク済み――に、訓練用の武器を投げ渡されていた。

「訓練も強くなる事も嫌ではないが、突然だな」

「「私」が言っただろ。お前はもう輪の中にいる、つまり仲間だってな。だったら――次、黒騎士に会った時に、リベンジしなきゃなんねえだろ。団長を守らなきゃなんねえだろ」

「!」

 ガラビアの採掘場に突然現れた魔王軍最強の一角、黒騎士。――ソフィもドライブも、歯が立たなかった。あの場にライトがいたら無事に終われただろうか。その保証は全く無かった。

 そして――その「もしも」を作り上げるわけにはいかない。仲間として。

「アタシもお前も、このまま終われねえ。そうだろ」

「……そうだな。――訓練、付き合おう。宜しく頼む」

「おう」

 こうして、ソフィに力強い訓練仲間が出来たのだった。



「友情は裸の付き合いから出来る物です。裸一貫、隠す物など何もない、本音でぶつかり合いましょう」

「ニロフが言うと違う意味で説得力があるわ」

 裸を通り越して骨だしな。

 というわけで夜。ニロフの誘い、手回しにより城内大浴場をライト、ニロフ、ドライブの三人で貸し切り。男だけでの入浴歓迎会を開く事に。

「最近我筋トレを始めましてな。ほら、腹筋が見事に割れて」

「骨なのに筋トレ意味あんの!? 腹筋割れるの!?」

「アンデットジョークです」

 あっはっは、と笑いながら体を洗うニロフ。恐らく世界一清潔な骨の持ち主だろう。ライトもドライブも見習い(!)体を洗い、三人で並んで湯舟へ。アルコールも軽く用意されており、三人の喉を通す。

「うーん、やはりいいものですなあ。――ライト殿、その内落ち着いたら皆で温泉に慰安旅行にでも行きましょう。混浴風呂がある所がいいですな」

「混浴があっても一緒に入ってくれるかどうかは別だろ……」

「そこは上手く空気を醸し出して事を運ぶのです。男なら美女との混浴は夢の一つ。ドライブ殿もそうでしょう?」

「ああ」

「予想外に返事がストレートで早かった!」

 クールに迷いのないドライブの返事。――いや俺だって出来る事なら混浴してみたいけど。

「……魔導士ニロフ、尋ねたい事がある」

「ふむ、何でしょう?」

「結局……ガラビアの厄災とは、何だったのだろうか」

「ドライブ、お前」

「誤解はしないでくれ。今更あの地に戻ろうとかあれをどうにかしようとかそういう話じゃない。――ただ、存在として気になっただけだ。……勇者ライトは気にならないのか?」

「……まあ、そりゃあ気にならないって言ったら嘘になるけど」

 実を言えばライトとしてもずっと気になる所ではあった。

「本格的な調査は出来ていないので、あくまで我の経験上の推測に過ぎませぬが、それを鵜呑みにし過ぎないと約束してくれるなら仮説ならお話しましょう」

「それで構わない。頼む」

「では。――そもそも、あれを「厄災」という名で呼んでいた事が間違いなのかもしれませぬ」

 ふぅ、と少し寂しげな表情(普通は骨なのでわからないがライトは付き合いが長くなってきたので段々わかる様になってきていた)をしながらニロフが続ける。

「あれは、あの地に昔、それこそ我が存在する前から居た「存在」かもしれませぬ。そして、あの地を豊かにしていこうと根を下ろした民族に希望を持ち、力を与えた」

「この……紋章の事か」

 ドライブが両手を少し掲げ、薄っすらと紋章を出す。

「ですが、あれは自分の力だけでは一人の人間には片方の力しか与えられなかったのでしょう。だから古虎族、古獅子族という二つの民族が生まれた。あれは、民族同士が手を取り合って、民族同士で両方の力を扱える様になるのを望んでいたのかもしれません」

「ニロフ……それじゃ、まるで」

 厄災なんて最初は無かったんじゃないか、というライトの表情に、ニロフは頷く。

「ですが、長い歴史の中で誤解した事実が生まれ、いつしか手を取り合わず、一線を越えてはいけないという言い伝えが出来てしまった。あれは悲しんだ。自分が与えた力が違う方向に進み始めている。あれは悲しんだ。自分が、厄災と呼ばれてしまう事に。――だから決めたのでしょう。自分を厄災と呼び、自分の希望を禁忌と呼ぶならば、いっそ本当にそうしてやろうと。自分をそこまで馬鹿にするのなら、試練を与え、乗り越えられないなら滅ぼしてしまおうと」

「俺が……俺達があの地で厄災と呼んでいたのは……あの地の神……だった、のか」

 悲しい話だった。ただ純粋な気持ちで与えた物が捻じ曲がり、そして与えた自分さえも捻じ曲がり。――あいつは、どんな気持ちで俺達と戦ったんだろう。

「あくまで我の仮説です。証明する物は何もありませぬ。そして、恐らくライト殿ドライブ殿が生涯を終える位までの間は、もう何も起きないでしょう。――それに我から言わせて貰えば、随分と器の小さい神です。折角いつの日か望んだ様な存在、ドライブ殿が現れたというのに厄災として出てくるとは。もうあれは、神ではない。本当の厄災になってしまったのでしょう。ドライブ殿を見捨てた神など、必要ありませぬ」

「そう……か。……そうだな」

 思う事はある。振り返ってしまう事もあるかもしれない。――でも前を向こう。ドライブの表情は、そんな風に見えた。

「感謝する、勇者ライト。改めて、こうして俺をこの地に連れて来てくれて。お前の近くで、新しい世界が見つけられたらいいと本当に今は思っている」

「その勇者ライトっての何か止めてくれ。俺、本物じゃないしな」

 ライトは苦笑。レナに呼ばれるのとは違い、ドライブに呼ばれると何だか小恥ずかしい。

「そうか。なら……そうだな、「長」と呼ぼう。俺にとっての、新しい長だ、お前は」

「えぇ……また俺称号増えるの……」

 演者勇者、勇者、団長、兄者、マスター。……俺は一体何者なんだ。

「はっはっは、ライト殿、慕われる証拠、良いではありませんか。新しい長に乾杯、ですぞ」

「乾杯」

「いやいやもう決定したみたいな流れ止めて! 俺はまだ認めてないぞ!」

 だがこの後、ドライブが言い方を改める事はなく、ライトも成り行きで諦める事になるのだった。

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