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第百六十六話 演者勇者、立会人になる7

「えー、まずはお集り頂きありがとうございます」

 黒騎士遭遇の翌日。ライトは仲間達と古虎族、古獅子族のそれぞれ族長、幹部数名ずつをガラビアの役場の近く広めの広場に召集。役場には立場を利用して急だが利用させて貰う形となった。

「昨日、双方が仲違いになってしまった理由を聞きました。思う事はありますが、過去の事を今言っても今回は解決に繋がりません。我々としては、まずは今後しっかりと双方に手を取り合っていって欲しいと思っていますし、俺はそれが可能だと思っています」

「勇者様がそう仰ってくださるのは嬉しいのですが、私達としては到底譲れない物がありまして」

「それは俺達とて同じ事だ。そもそも採掘場で襲われたのもそちらの手引きじゃないのか」

「何だと……!? それを言うのなら、この前の鍛冶場での事故もお前達が仕組んだんだろう!」

「何を……!」「この……!」

 ピピーッ!

「!?」「!?」

 突然鳴る音。テルガムもイリガも流石にハッとして音のした方を見ると、ネレイザがホイッスルを咥えて音を出していた。

「今回の話し合いに関して禁止事項があります。まずその一、意見はまず立会人である俺に通す事。冷静に、落ち着いて話をして下さい。内容は俺達が公平な目で吟味します」

 直接言えば今の様に直ぐに喧嘩になってしまう。話し合い所ではない。

「次に、だからといって俺や俺の仲間に賄賂を贈るのも禁止です。決して俺達は受け取りません。なのでそちらで珍しそうな鉱石を色々抱えている古虎族の方々、お酒を抱えて露出多めな服を着た美人の古獅子族の方々、一度お帰り下さい」

「ライト殿、一つ確認なのですが、話し合いが決着したら頂いても宜しいのでは」

 ピピーッ!

「ちなみにこのホイッスルは注意勧告です。これを一定以上積み重ねた場合、問答無用で意見の取り下げを国家として指示します。――あくまでこちらの冷静公平な話し合いの場を崩そうとした時のみの勧告ですので、落ち着いていればどんな意見でも自分達になら言っても構いません」

「ちなみにマスターの事務官である私が基本ジャッジします。とりあえずニロフさんペナルティ、一ポイント」

「うっ」

 最初にペナルティ貰うのが仲間なのはどうなのだろうか。――それは兎も角。

「まず、大事な事をいくつか確認しましょう。以前はこんな関係では無かった、そしてお互いに納得がいくなら以前の様な関係に戻したい。そのお気持ちはありますか?」

「……ええ」「……ああ」

 テルガム、イリガ両者とも少し考えた上でそう返事。周囲の幹部達も同じ考えの様子。

「お互い得意分野が違うので、相手の得意な箇所に関しては認めている?」

「……ええ」「……ああ」

「よくよく考えてみたら喧嘩しなくてもいい事案が結構あった?」

「……ええ」「……ああ」

「自分達に非がある喧嘩もいくつかあった?」

「……ええ」「……ああ」

「……うーん」

 落ち着いてくれていれば案外素直に何でも認めてくれる。これならば確かに定期的に足を運べば一旦は落ち着くというのは本当なのだろう。

 しかし結局しばらくすれば元に戻ってしまう。それを止めるには根本的な物を取り除かなくてはいけない。

「二つの民族が今の間柄になってしまったのは二十四年前の出来事が切欠、というのは間違いないですね?」

「……ええ」

「俺はまだ子供だったから直接はわからないが、親父から聞いていた話ではそうだ」

 イリガは若い。その頃はまだ年齢一桁前半といった所か、確かにそれはなら直接の感想は持っていないだろう。――でもそれならば。

「禁忌を犯した二人が憎い。あの二人が禁忌を犯さなければ。あの二人のせいだ。――そう思っている?」

「…………」「…………」

 二人が返事をしない。だが表情に表れて――ピピーッ!

「マスターが質問してるの、答えなさい。というか貴方達だって恋愛は普通にしましたよね? それを禁忌だのなんだのって――」

 ピピーッ。

「ネレイザちゃん私情が混じる。ペナルティね」

「レナさん!? アンタいつの間にホイッスル持ってるのよ!?」

「勇者君以外全員持ってるけど」

「いつの間に!?」

「というかそれ俺も知らないけど!?」

 ハッとして見れば確かにいつの間にか全員ホイッスルを首からぶら下げていた。何だこの集団は。いや俺の仲間達だけど。

「ち、ちなみに一番ポイントが少ない人には豪華な賞品が出るってボク聞いたよ! ボクの本気を見せて――」

 ピピーッ、ピピーッ。――ハルがサラフォンとレナにホイッスルを鳴らした。二人共ペナルティが加算。

「ちょっと待ってハル、何で今ので私もペナルティ?」

「サラにそういう嘘を吹き込むのはレナ様以外考えられませんので」

「うーわ偏見だ。……まあ私だけど」

 そんないつもの(?)やり取りは兎も角。

「……思っても、仕方ないでしょう。実際あれは禁忌を犯したせいだ。処分を下したら治まったんです」

「実際に禁忌がある。だから禁忌が無ければと思っても仕方がない。そしてそれを破った人間を憎むのは当然の行為だろう」

 正直な意見だろう。両民族とも結局禁忌、そして実際それのせいで起こり、治まったと思われている事件を恐れている。――仲違いは無意識の内のその延長と考えると合点がいく。気を許したらまた同じ事件が起こる。相手を疑いの目で見なくてはいけない。その風習の表れが今なのだとしたら。

 でもそれは、彼らの苦しみでもあった。それが十分に伝わってくる。――そこを乗り越える手助けが出来れば、未来は変わるかもしれない。

「――禁忌と、向き合ってみませんか」

 一時凌ぎの逃げでは同じ事の繰り返し。心の何処かで傷付き続けなければならない。ならば――真正面から、向き合うしかない。その想いを、ライトはぶつける。

「勿論、勇者の名に懸けて、国の力を持って、全力でサポートします。ですから」

「勇者様。――私は、族の皆を守らなければなりません。仰りたい事はわかります。それでも、禁忌と向き合った時、もしも勇者様のお力を越えて事故不幸が起こってしまったら。たとえ誰もが許してくれたとしても、私は私自身が許せなくなります」

「国の、勇者様一行の手を煩わせてしまっている事は申し訳なく思っているし、必要ならばいくらでも謝罪しよう。俺達に落ち度があるのは事実。今後は気を配って出来る限り気を付けよう。――だから、これ以上は」

「…………」

 ライトも言葉が出てこなくなる。――実際に禁忌と思われている災害に遭遇してしまった人間の言葉は重い。テルガムの言う通り、本当に防ぎ様のない禁忌という力があるのなら、再び大きな事故を招いてしまうかもしれないのだ。

「……わかりました。無理強いは出来ませんし、しません」

 これを国家命令にしてしまったら違う亀裂が産まれる。それはそれで問題になるし、そもそもそこまでの権限がライト自身にあるという保証がなかった。――確認しておけば良かった。

「勇者君、世の中何とかなるって。私なんてそれで今まで生きて来たんだから」

「ネレイザ、ホイッスル」

「はーい」

「アドバイスのつもりなのにぃ」

 レナ、ペナルティ二個目。――レナみたいな実力と精神がありゃそれでもいいだろうけどさ。……は、兎も角。

「その代わり、俺達に少しだけ時間を貰えませんか? 害を成さない程度に、禁忌の事を調べてみたいんです」

 もしも本当に禁忌が存在するのなら、その力の根本が何処かにあるはずなのだ。それが突き止められたなら、光明が見える様になる。

「…………」「…………」

 テルガムもイリガも直ぐには返事をしない。――悩み所なのだろう。それはやはり前述通り禁忌に対しての「恐怖」。立場ある人間としては尚更。

「……イリガ」

 と、そんな沈黙に割って入って来たのはドライブだった。

「立ち向かって、みないか」

「……ドライブ、だが」

「お前達がトップの時代は……俺達の世代の時代は、まだこれから何十年も続く。……怯え続けるのか? 困ったときにこうして誰かの手を煩わせるのか? それで本当に、俺達がここを守っていると言えるのか?」

「…………」

 イリガが言葉に詰まる。冷静なドライブの言葉に、心が揺れる。

「この街を変えていこう。お前は族長になる時にそう言った。その為に力を貸して欲しいと。――だから俺は力を貸す。お前の一言で、俺は力を貸す」

「イリガ。……ドライブの、言う通りかもしれない。私達、何かを見失ってたわ」

 妻のナターシャもイリガに寄り添う。――ふーっ、とイリガが大きく息を吐く。

 誰もがイリガの次の言葉を待った。そして、イリガが口を開きかけた――その時だった。……グサッ。

「……な……?」

「余計な事を……言うな……!」

 イリガの次の言葉を待つように近付いて来ていた幹部の一人が、そのまま剣でドライブを刺した。貫かれた剣と共に、ドライブがその場に崩れ落ちる。

「族長、騙されたら駄目だ! 俺達は誇り高き古獅子族だ! 禁忌を終わらせるとか、古虎族と手を取り合うとか、考えるな! そんな考えの奴は切り捨てて、奴らも滅ぼして、新しい俺達の街を――」

暗鬼篭絡あんきろうらく!」

 ドガガガガッ!――ドライブを刺した幹部を、黒い牢獄が捕える。リバールの忍術だった。走り出すライト騎士団。

「皆さん、気を付けて下さい!」

「ソフィ!?」

「あの男から、殺気を感じません! 「アタシ」が反応しないんです!」

「成程ねー、そう来たか。……勇者君、一緒に行くけど絶対に私の近くから動いちゃ駄目。次の瞬間に何が起きるかわからない」

「っ……わかった」

 この緊迫した場面で、ソフィが狂人化バーサークしていない。――仲間内だからこそわかる、その異常さ、危険さ。レナもそれを危惧し、ライトに念を押す。

「ソフィ、そのままドライブの治療を! ハル、サポートに入って!」

「姫君、サポートは我が。魔力量の勝負でしょう」

 不幸中の幸い、狂人化していないという事はソフィの聖魔法の効果が高く使える。それに魔力でのニロフでのサポートで、急ぎドライブの治療に入る。

「ドライブ、しっかりして、ドライブ!」

「ぐ……ナターシャ……イリ、ガ……」

「退いて下さい! 治療をします!」

 焦り、ドライブに寄り添うナターシャをソフィがどかし、聖魔法の詠唱を開始。

「貴様……何故こんな事をした!」

 一方でリバールの忍術で拘束されている幹部にイリガが詰め寄る。

「族長こそ……何を迷っているんです! 禁忌は、禁忌は終わらないんです! ならば、いっその事奴らを滅ぼせばいいだけの事でしょう! それだけの事です!」

 拘束されている幹部は、何故自分が拘束されているのか、何故分かって貰えないのか、といった様子。

「おい……」

「あいつら、狂ってる……!」

「俺達を滅ぼすだと……? だったら……!」

 その不穏の空気は当然古虎族にも伝わる。辺りが一気に緊張感に包まれる。ライトの背中にも嫌な汗が流れた。……その時だった。

「もう……もう止めてえええ!」

 その悲痛な叫びが、不意にその場に響き渡ったのだった。

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