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第百六十二話 演者勇者、立会人になる3

「ほわあああああああ!」

「うおおおい落ち着け! 今度はお前がやるのかよ!?」

 一旦古虎族の集落を後にし、今度は古獅子族の集落へ挨拶へ――来たのはいいのだが。

「仮面のお兄さん、素敵だわ」

「独特のオーラがたまらないもの」

「流石勇者様のパーティの魔導士様ね、一味も二味も違うわ」

 美男美女が多いというのは本当らしく、とりあえず大勢の美女の歓迎を受けた。しかも本能的に(?)堕とし易いのが誰だかわかる様で、勇者であるライトよりもニロフが大人気に。ご満悦のニロフが先程の叫びを響かせた、というわけである。

「お兄さん、趣味は?」

「ほわ! ほわああほわ!」

「私達の中で、誰が一番タイプ?」

「ほわほわああ、ほわああああ!」

「もう、上手なんだから!」

「というか会話成り立ってるけどほわあほわあってあれ言語だったの!?」

「そうだよライトくん」

「肯定された!?」

 楽しそうに美女達と会話をするニロフと、冷静に頷くサラフォン。世界は広かった(?)。――おかしい。さっきまでは単位だった気がするんだが。

「お待たせ致しました、こちらへどうぞ」

 と、案内役と思われる女性が迎えにやって来た。

「ほら、ニロフ行くぞ」

「何処へ行こうと言うのですか!? 我の目的地はここだったのです……あーれー」

 頼むまでもなくハルがニロフのローブの裾を掴み、ズルズルと引きずって連れて来た。――そのまま案内役の女性についていくと、奥にある広々とした部屋に案内された。

「勇者様、王女様、そして騎士団の一行、よく来てくれた」

 そこには若い男女が一組と、一定距離を置いて男性が一人立っていた。

「族長のイリガだ。宜しく頼む」

「妻のナターシャです。足を運んで頂き、本当にありがとうございます」

 男女は族長とその妻で、挨拶。これまた美男美女の夫婦だった。ちなみに、

「お二人共、お若いですね」

 というのが気になった。族長。古獅子族のトップ――にしては若い。ライトと変わらない位だろうか。

「親父が体を壊してな。二ヵ月前、後を継いで俺が族長になった。その時に彼女とも結婚したんだ」

「私達三人は幼馴染で、それぞれの得意分野を生かして、この集落を守ろうって誓った仲なんです」

 私達「三人」。――と、いう事は。

「護衛のドライブだ。そちらの騎士団にもきっと負けず劣らずの実力を持っているぞ」

 イリガの紹介で、ドライブと視線が合う。

「……宜しく頼む」

 ギリギリ聞き取れる位の音量で、ドライブはそう挨拶。軽く頭を下げてきた。シャイなのだろうか。

「では族長さん、お話を聞かせて下さい」

「ああ。――俺達古獅子族は、鉱山では採掘、探索、戦闘時の護衛等を請け負っている。本来なら我々が鉱山で採掘した品を公平に取引してお互い潤滑に暮らしていかなければならないのに、古虎族の奴らは、加工が自分達しか出来ない事をいい事に、他の都市への輸出売上の割合分配の変更や鉱石の所有権を主張して来る……! 俺達が鉱山でどれだけ苦労していると思ってるんだ……!」

 本当に悔しい想いをしているのだろう、イリガは勿論、妻のナターシャの表情にも悔しさが滲み出て……あれ?

「とりあえずは……ネレイザ」

「うん。――族長さん、公平さ等の確認の為に、仕事の記録、外部や古虎族との取引、契約、帳簿等をお借り出来ますか?」

 悔しさの理由が若干違うものの、今のやり取りは古虎族の長、テルガムとのやり取りのデジャヴを感じさせる。

「勿論だ。我々にやましい部分などないからな。――ドライブ」

「ああ」

 最初からこういう事を言われるのも想定済みだったのか、ドライブが資料をまとめてネレイザに手渡した。

「ありがとうございます。――本格的な調査は明日から行わせて貰います。またお話を伺う事もあるかと思いますが」

「勿論協力する。必要な物は何でも言ってくれ。御もてなしが必要なら我が族自慢の女たちに酒を注がせるぞ」

「お気持ちだけ頂いておきます。そういうのを貰ってしまうと賄賂になって贔屓を追求されたら言い逃れが出来ませんから」

「つまり、我が言い逃れが出来る方法を模索すれば良いわけですな」

「とりあえずお酒だけ貰おうよ勇者君、飲んじゃえば証拠は残らない」

「ボ、ボクが古虎族の人から鉱石を貰えばイーブンになるんじゃ……!」

「君達はもう少し我慢を覚えようか!」

 放っておいたら本当にやってしまいそうで怖い。

「では、俺達は一度宿に戻ります」

「送らせましょう。その程度でしたら構わないでしょう? ドライブ、お願いしてもいいかしら」

「ああ」

 ドライブを先頭に、ライト達は屋敷を後にする。とりあえず持ち帰って話し合いか。

「団長」

「ソフィ? どうした?」

 と、帰り道ソフィがスッ、とライトの近くで小声で話しかけてくる。

「あのドライブさんという方、相当のやり手です。敵対していないので敵意は勿論感じられませんが、それでも「アタシ」の反応が凄いです」

「へえ……」

 確かに体格は良く、背中にもライトが見た事もない武器を背負っていた。

「ソフィ、でも狂人化バーサークは流石に我慢な」

「大丈夫です。最近は「アタシ」もわかってくれてますから」

 ライトも半分は冗談である。二人で軽く笑い合う。――と、

「勇者様、王女様」

「おう一騎打ちの申し込みか? アタシで良ければ相手になるぞ」

「狂人化してるー! ソフィ、バック、カムバーック!」

「あ。――悪い団長、つい」

 ドライブが話しかけてきた途端ソフィ覚醒。本当にドライブが強いのが良くわかる……じゃなくて。

「俺は……俺達三人は、幼い頃から本当の兄弟の様に育った。身寄りのなかった俺を面倒見てくれたのは、あの二人の両親だ。俺はあの二人の為なら、命を差し出す覚悟もある」

 が、そんなソフィとライトのやり取りを差し置いて、ドライブは真面目に話しかけてくる。

「二人が頑張っているのも知っている。あの二人が頑張っているのは、古獅子族の為だ。贔屓をして欲しいとは言わない。だが、しっかりとした目で見て欲しい。勇者様と王女様を疑うわけじゃないが、それでも頼んでおきたいんだ。――宜しく頼む」

 スッ、とドライブはライト騎士団全員に向かって頭を下げた。元々の性格か言葉に抑揚はないが、それでも本当にそう想っているというのは伝わってくる。

「頭をお上げなさい。私達は、どちらか一方を罰する為に来たわけじゃありませんわ。このガラビアが、手を取り合ってしっかりと活動出来る様にする為に来たのです。安心なさい、必ず解決しますわ」

「……ありがとうございます」

 エカテリスのその言葉に、ドライブは再び頭を下げた。

 そのまま少し歩くと、宿が見えてくる。再度ドライブは頭を下げると、集落へと戻って行く。

「――あいつ、芯があるな」

「ソフィ?」

「敵意は無いが、それでも何かあったらアタシ達相手にも戦う覚悟があるぜ、きっと。――ああいうのが居るんだったら、ちゃんと解決に辿り着けられる。そんな気がする」

「そっか。……そうだな。うん、頑張ろう」

 気持ちを新たに、ライト達も宿へと戻るのであった。



「うーん」

 宿に入り、食事、入浴等を終えた後、作戦会議。ライトの部屋に全員集合していた。――ちなみにライト一人部屋ではなく、男性(?)のニロフが同室である。当然ニロフならいざという時レナの代わりにライトは守れるので安心の部屋割りだった。……レナは「別に一緒でいいのにー」と言っていたがネレイザに先回りして手筈をされた模様。

「どうした?」

 唸っていたのはネレイザ。両民族から借りてきた資料を広げている。

「これだけ拗れてるんだから何かしら問題があると思ってたけど、びっくりする位問題がないの。両方とも至って健全。普通これなら揉めないと思うわ。何であそこまで揉めてるのかしら」

「あー、成程ね。国王様がそんなに心配してなかったのも納得だわ」

「? レナ、どういうことだ?」

「つまり、本当にどっちも悪くないんだよ。長年拗れてるから相手が悪い、自分達だけがしっかりしている、って思い込んで。だから案外簡単に解決してきたんじゃないかな。ちょっと第三者、しかも位のある人が立ち会えばそこまでってね」

 実際、勇者チケットを出して喧嘩禁止、仲良くしなさい、でそれなら解決も可能か、とライトは思った。国王様も王妃様もきっとやれやれ、みたいな感じで――

「――あれ?」

「流石ですライト様、姫様が地元特産の乳液をお使いになったのに気付かれましたか。姫様のそもそもの香りと良い割合で混じり合う、練度の高い品だと思われます」

「あ、いや、その、ごめん、そこじゃない」

 すまんエカテリスにリバール、俺はそんな能力は無いんだ。……じゃなくて。

「あのさ、素朴な疑問なんだけど……何で揉めてるんだろ未だに」

「え? その、つい相手と仲良く出来なくて喧嘩しちゃうからじゃないの?」

 ライトの素朴な疑問に、サラフォンの素朴の答え。ネレイザ辺りも分かり易くサラフォンと同じ感想らしいのが表情に出ていた。――でも。

「俺達が来る前から、国王様、王妃様が足を運んで、和平させてるんだよ」

「マスター、具体的にどういう事?」

「ああ、成程。若が足を運んでるとすれば、しっかりと長続きする和平の取り決めをしているはずですな。それこそ若の手腕があれば矢鱈滅多に崩れるような取り決めは作りますまい」

 そうなのだ。何も子供の喧嘩を止めに来たわけではない。民族同士のある意味政治的な話になってくる。それを最低でも一度、国内で最大の政治力、才能を持つヨゼルドが間に取り持ち収束させている。当然、しっかりとした確認、条件、取り決めが行われたはずだろう。ヨゼルドがそれに手を抜くとは思えない。

「つまり、その国王様の計らいがあったのに、再び問題が起きてる。しかもネレイザが確認しても資料には問題は見られない。一体この二つの民族に何が起きてるのか。……何かが、起きているのか」

「確かに、お父様は美女に溺れても政治的取り決めに乱れを起こすとは思えませんわ。お母様だってそうです」

「そうなんだよ。国王様がミスをするとは思えないから、何かもっとこう、違う理由があるのかもしれない。それこそ直ぐには判明しないような。それを解決させれば、相当話が変わってくる」

「でしたら明日はその辺りも込みで調査にしましょうか。ライト殿、この人数です、分かれて調査に当たるのはいかがでしょう」

「そうだな……グループ分けか」

 サボリそうな人間、特定の所に向かわせると理性を失いそうな人間、それをコントロール出来る人間。――グループ分けは駄目な意味で悩ましかった。

「大丈夫だよ勇者君、私は立場上勇者君と一緒の行動だから、必要な時は起きるから」

「必要ない時も起きてなさい! 寝る前提の話を進めるんじゃない!」

 流石の開き直りだった。――そんなこんなでグループ分けをし、翌日を迎える。

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