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第百五十九話 幕間~例え君が強くなかったとしても

 コンコン。

「どうぞ、開いてます」

「失礼します」

 ガチャッ。――部屋でライトが寛いでいると、ドアをノックする音。許可を出すと、兵士が一人。

「ライト様にお手紙が」

「手紙? 本当に俺宛?」

「はい。親愛なる勇者ライト様へ、と。魔力検知も行いましたが危険もない模様なので」

「そう……あ、どうもありがとう」

 いつまでもそこに立たせているのも悪いので手紙を受け取り、兵士を開放する。ドアを閉め、手紙を確認。

「差出人は無し、か……」

 補足であるが、ライト自身は個人的に今演者勇者をしています、というのを伝えてきている個人的な知り合いはいない。有無を言わさずこちらへ連れてこられ演者勇者になる事自体は自ら受け入れたが、その事を知っているのは演者勇者になってから知り合った人間――つまりライトを演者勇者と知っているか、本物の勇者だと思っているかの二種類の人間のみ。

 演者勇者である事は言えずともハインハウルス城に居る、という事を必要最低限の人間に伝達する事は禁止されてはいなかったが、あえてライトはそれをしてはいない。

 つまり、手紙を敢えて送ってくる様な人間に心当たりが無いのである。

「危なくはない、って言ってたから……大丈夫だよな」

 一瞬誰か念の為に呼ぼうかと思ったがそれはそれで何となく弱気過ぎる気もしたので、一人で開封してみる事に。……にしても、この筆跡、何処かで見た事ある様な。

「……あ」

 そして手紙の内容を見て思い出す。そう、この文字を見たのは「あの時」、あの一瞬のメモ書きだ。

 手紙は、綺麗な便箋の中央に、一文だけの物だった。


『今夜七時、城下町「白狼亭」にて待つ 雷鳴の翼』



 白狼亭。――ハインハウルス城下町でも人気の食事処だった。食事時になれば客で賑わい、明るい声が各テーブルから響く。

「というわけで、任務お疲れ様でした! かんぱーい!」

 そしてこのテーブルでも漏れなく明るい乾杯の声が。――するのはいいのだが。

「え、どうしたん? 任務後腐れなく終わったんやろ? 今日はお疲れ様会やで? 楽しく飲み食いしようやー」

 とりあえずそのテーブルに座る三人の内、二人が未だ戸惑いの中に居たりする。

「あ、もしかしてレナ連れてきたこと気にしてるん? 全然かまへん、寧ろどうせ連れてくる思っとったから」

「いや、そういう事じゃなくてだな」

 テーブルには、フュルネ、ライト、レナの三人。

「多分勇者君としては、任務も終わったのにそんなに堂々と姿見せてていいのかどうかの戸惑いなんだと思う。いや私も多少はまだあるけどその思い」

「え、そんなんいちいち気にしてたら何も出来ひんやん。四六時中怪盗やったら気ぃ休まらへんやんけ。ウチはただ普通に勇者君とレナとご飯食べたかっただけやで。ほら乾杯しよーや」

「いやいや、俺にも一応立場って物が」

 ここはレナに頼ろう。レナだってちゃんと立場をわかっていて――

「かんぱーい(ごくごく)」

「即刻折れていらっしゃる俺の隣!?」

 レナは既にグラスに口をつけていた。軽いアルコールだった。――飲む気食う気満々かよ。いや予感はしてたけど。

「とりあえず食べながら考えた方がいいよ勇者君。こいつそういう奴だから」

「レナが言える立場なのかなそれは!」

 そのやり取りに、フュルネもクスクス笑う。

「普段から振り回されてそうやねえ」

「……まあな」

「でもま、ホンマにウチはご飯食べたいだけやから、出来れば警戒とかせんといて。な?」

「……わかったよ。――乾杯」

「はい、かんぱーい」

 悪い奴じゃないのはわかっている。ライトも疑うのを止め、食事をする事にした。

「それで? 後腐れなく終わったのはわかっとるけど、具体的にはどうやったんあれから」

 フュルネは真の筋肉大迷宮マッスルラビリンス脱出後、暗部よろしく直ぐに姿を消していた。ライトは掻い摘んでの説明をフュルネにする。

「ほーん、成程。まあ妥当な所やろなあ。マッチョもやっぱり振られてもうたかー」

「フュルネには感謝してる。フュルネが居なかったらレナが単独行動出来なかったし、出来なかったらコアの破壊、状況の打破に繋がらなかった可能性もあるから。――ありがとう」

 実際フュルネの功績は大きかった。ライトを助け、遺憾なくその戦闘の才能を発揮、貢献してくれた。

「ええねんええねん。ウチが助けたくて助けたんやし。これでウチも堂々とレナの友達を語れるわけやし」

「そういえばそんな話だったな」

 ライトがチラリ、とレナを見る。フュルネはニヤニヤしながらレナを見る。――レナは大きく溜め息。

「友達ってこうやって作るもんじゃないでしょうよ」

「そ・れ・で・も?」

「まあ、変わり者の私にはアンタ位の変わり者が丁度いいかもね。負けたよ。――ありがと」

 飽きれつつも、穏やかな笑みを一瞬浮かべてレナはフュルネにお礼を言う。

「尊い。今ウチ天国に召される所やった」

「根っ子は相変わらずなんだな」

 綺麗な物、可愛い物、人が大好きなフュルネからしたらそのレナの表情は大好物だった様子。――まあ、確かに綺麗だったけどさ。

「そうや勇者君、レナとの友情も生まれたわけやし、ウチ勇者君とも友情を育みたいんやけど。仲良し三人組にしようやいっそ」

「俺とも?」

 ライトとしても最初こそ疑ったが、今となってはフュルネの人柄を疑う余地は無かった。――ぶっ飛んでるけど、俺を本気で助けてくれたし、根っ子はしっかりした奴だよな。

「まあうん、俺で良ければ」

「キター! 勇者様と秘密の友達やでウチ! めっちゃ熱いやん!」

「…………」

 勇者様と秘密の友達、か。――何て言うか、それは俺にとって「友達」と言えるのか。

「なあ、レナ」

 レナを呼ぶ。それだけでレナはライトが何を言いたいか察し、軽く溜め息。

「いいよ喋って」

「自分から訊こうとしておいてあれだけど……いいのか?」

「大丈夫でしょコイツなら。秘密はお互い様だしね」

「うん? うん? どしたん?」

「なあフュルネ、実は俺――」



「はー、成程なぁ。そういう訳やったんか」

 ライトはフュルネに、自分が演者である事を説明。

「そら弱いわな。普通の人なんやもん」

「うん。騙しててごめんな」

「別に構わへんよ。つーかあの時言うてくれたら良かったのに。――ああ、流石に躊躇するか。一応国家秘密やしな」

 フュルネの反応はあっさりしていた。驚くでも軽蔑でもなく。――ライトとしては拍子抜け。

「だからその、俺と友達になりたいって言ってくれたのは嬉しいけど、俺はその特別メリットとか」

「要はその勇者云々抜きで仲良くなればええんやろ? レナの言葉を借りるなら秘密はお互い様やんけ」

「うん、まあ、その、そういう事ではあるんだけど」

「なんや、ウチがただ勇者様と友達になりたいだけやと思ったん? ちゃうちゃう、ウチは勇者君とあそこで一緒に戦って、勇者君の背中を見て決めてきたんやで。肩書なんて別に無くてええ。それにな」

 コトッ。――持っていたコップを一度テーブルの上に置き、フュルネはライトを見る。

「勇者君、立派に勇者してたやん」

「え?」

「普通にウチ、騙されたって事。今言うてくれなかったら、今でも本物の勇者のままやで。――つーか、勇者が物理的に強いって誰が決めたん?」

「それはずっと言い伝えられてる事だから」

「ただの尾ひれのついた伝説かもしれへんやん。偏見やで。勇者やて普通の人かもしれん。これ、本物の勇者が大して強くなかったら、実際どうするつもりなん?」

「…………」

 考えたことも無かった。本物の勇者も、実は強くなかったら。

「まあそれはお偉いさんが決める事か。――話それたな。話を戻せばウチは全然気にせんって事。秘密は守るし、結局ウチの正体やて全然バラしてないやろ? そういう所や、気に入ってるの」

「……そっか」

「つーわけで、蟠りも無くなった所で、改めて三人の友情にかんぱーい!」

 フュルネは再びグラスを持ち上げ、ごくごくと喉を潤す。――不思議な奴だけど、良い奴だ。友達になれるのは、正解かも。

「ああでも、出来れば勇者君呼びはレナ一人でお腹一杯だから」

「そう? ならハーレム君? ヒモ君?」

「肩書が好きなわけじゃなくてというか百歩譲って肩書好きでもその肩書は心外ですが!?」

 そういう風に見えるのだろうか。ヒモ君って。

「あはは、冗談冗談。じゃあ普通にライトな。勇者君はレナの特権で」

「譲ってもいいよ私は。私が代わりにヒモ君って呼ぶし」

「大切にして欲しいなあ! 俺レナには勇者君って呼ばれてるの慣れたし!」

 そんなこんなで楽しく食事と酒は進み――



「……すぅ……」

「……寝ちゃったな」

 しばらくして、テーブルに持たれるように寝てしまったフュルネが。

「お酒進んでたしね。楽しかったんでしょ」

「そっか……にしても、友達、か」

 実際レナではないが、友達ってこういう風に作るものだろうか、公言して明日から友達ね! でやるものだろうか、とライトは疑問が過ぎった。フュルネは確かにもう友達ではあるが。

「多分、苦労してきたんだと思うよ」

「え?」

 疑問が顔に出たのか。レナが酒をまだ飲みつつも口を開く。

「雷鳴の翼は言っても泥棒だから。バレて周囲からの目とかあっただろうし、親ともそのせいで仲違いしてるって言ってたし。――無意識の内に、分かり合える相手を作るのに慎重になってたんじゃない?」

「……そうか」

 そう言われて納得がいった。フュルネはフュルネで「普通の子」ではなかったのだ。その鬱憤を晴らすかの様に、今自由に生きて、こうして友達を作ろうとしている。

「……オトン……オカン……ごめんな……ウチ、どうしても……むにゃむにゃ……」

「…………」

 そして不意に聞こえてしまうフュルネの寝言。それはライト達の仮説を証明するかの様だった。

「また今度、三人で何かするか」

「んー……ま、偶にならいいよ」

 素っ気ないが、受諾してくれるレナにライトは嬉しく思う。……レナは俺の演者任務が終わったら、俺をどう思ってくれるんだろう。友達でいてくれるのか、仲間だと思ってくれるのか。そんな疑問が過ぎるけど、でも今はまだ――目の前の事に集中しよう。

 そう、今は、まだ――



「……嘘でしょ」

 そんなこんなでライトとレナの二人だけで酒を嗜んでいたら、

「うーん……実は俺、本物の勇者じゃなくて……でも……むにゃむにゃ」

「じいちゃん……ウチ、新しい友達が……むにゃむにゃ」

 気付けばライトまで眠ってしまい、レナだけが取り残される形に。――いやいや、おぶって帰れっての? 二人も? つーかフュルネは何処へ連れて帰ればいいの?

「ごめんね二人共。友情は無かった事にしたい」

 というわけで、初日から友情崩壊の危機になる三人なのであった。――ああもう。

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