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第百五十一話 演者勇者と筋肉大迷宮(マッスル・ラビリンス)11

「勇者ライトにクレーネルさんにそれから……誰だ……!?」

 ライト、フュルネ、クレーネルの三人と再会したマッチ。が、当然マッチはフュルネを知らない。当たり前のリアクションである。一方のフュルネは、

「えっ……私の事、忘れちゃった……?」

 ちょっと撫で声でマッチに一歩迫る。――いやまさか。

「あ、あの、人違いでは……自分、貴女の様な美人と知り合いの記憶が」

「そんなっ……! あんなに激しく私の事求めてくれたのにっ! 酷いっ!」

「うおおおお!? は、は、激しく……!? まさか俺、知らない間にそんな事を……! 申し訳ありません! この筋肉と共にお詫びします……!」

 激しく悶えて筋肉と共に(?)謝罪するマッチ。物凄い大げさに泣いて――泣き真似を見せるフュルネ。

「いやお前絶対知り合いじゃないだろ」

「あ、やっぱわかる? 凄いやろウチの観察眼。彼がウブやって一目でわかったで」

「だったとしても彼を騙す必要性はないのでは?」

「そこはクレーネルの出番やん。迷える子羊を導いてやりーな」

「あ……成程、確かに……」

「いやクレーネルさん流されないで!」

 一通りコントを繰り広げた後、改めて紹介と現状確認。

「そうか……確かに知らない建物内だが、それでも城に似ていると言えば似ている」

「マッチが知る限りでは真の筋肉大迷宮マッスルラビリンスは」

「跡地にこの城を建てたとか、城と融合するだとか、そんな伝説は一切無い。俺はそもそも真の筋肉大迷宮は今ある筋肉大迷宮の最下層の更に下にあると思っていたからな」

「マッチョ君具体的になんかそういう説あるん?」

「最下層には祈りを捧げる祭壇があるんだが、そこで更なる筋肉を求めし者が法具を使い祈りを捧げると願いを叶えてくれるそうだ。後俺はマッチョ君じゃない」

「偽物やったんかその筋肉」

「そういう意味の否定じゃない! おいライト何なんだお前の暗部とやら!」

「すまん腕は立つんだ。ライも真面目な話してるんだから」

「ほーい」

「しかしそうなるとその法具と復活の細かい手順が気になる所ですね。マッチさん、そういうのは国が管理されているんですか?」

「あ、いや、どうなんだろ……俺は息子としてとりあえず筋肉を鍛えておけば何とかなると思ってたから……」

「成程、マッチョさんでも御存知ないと」

「いや、あの、俺の名前は」

「マッチ、今のクレーネルさんの弄りは真摯に受け止めろ」

 失望の意味合いが大いに込められているだろう。――ライトは薄々感じていたが地味にクレーネルは厳しい。

「親父殿、お袋殿、叔母殿に訊けば……特に叔母殿がそういう箇所の管理に大いに携わっている」

「その人達と合流して再確認、か。――他の皆も誰かしらと合流出来てればいいけど……マッチはそっちから来たって事は、向こうにはもう誰もいないのかな」

「保証はない。俺は上質の筋肉の気配のする方に動いているだけだからな。親父殿か弟達に遭遇出来ると思って」

「そ、そうか。ならひとまずその方向に行ってみるか」

 真面目な顔で言うので本当なのだろう。――上質の筋肉の気配とは一体。

「にしても、暗部まで連れて歩いてたとはな……ハインハウルス、流石だな……しかも……その、また美人……!」

「お、そうやって素直に褒めてくれるのは嬉しいで、おーきにー」

 フュルネ、可愛らしくマッチにウインク。マッチが「はうっ!」と言いながら仰け反った。――ピュア過ぎる。

「彼女に来て貰ったのは非常事態だったからな。レナはエカテリスが気掛かりで一緒に転送出来たけど別行動だから」

「!? 姫になにかあったのか!?」

 ぐいっ、と移動しながらライトに詰め寄るマッチ。その大柄さもあり迫力満点。

「い、いや、まだわからないって。それを確かめる為に別行動なんだ。それにレナが行ってくれるなら安心だから落ち着いてくれ」

「そ、そうか、すまない」

 ふーっ、とマッチは大きく息を吐く。当然そのリアクションの大きさにフュルネが気付く。

「なあなあクレーネル、マッチョ君ってもしかして姫様の事」

「一目惚れ、だそうですよ」

「マジで!? ええやんええやんロマンスやん! そういうのは障害がデカい程熱いねんて! マッチョ君のストーリーでウチ酒飲めるわ! 当然勇者君は敵として出てくるんやろ? 立ちはだかるんやろ?」

「出て来ません! 俺は邪魔しないって約束しました!」

「なんやつまらん。――あ、でもほならウチが特別出演してもええで。ウチ位は倒せんと姫様の相手に相応しくないやろ」

「……例え誰が出てきても、本当にそれを乗り越えるのを姫が望むのなら、俺はやってみせる。そのつもりだ」

「「「おおお……」」」

 ぱちぱちぱち。――ライト、フュルネ、クレーネル、同時に感嘆の声を上げ、マッチに向けて賞賛の拍手。

「ぐ……と、兎に角、姫……じゃない、誰かと合流するのが先だろう! 行くぞ!」

「ああ」

 そんな会話をしつつライトは思う。

(エカテリス……レナ……無事、だよな……? 大丈夫、だよな……?)

 その不安が消えたわけではない。寧ろこの不安定な箇所で不安要素は増えるばかり。

「……俺も、必ず助けに行くからな」

「? ライト、何か言ったか?」

「いや、何でもない。急ごう」

 気持ちを新たに、ライトは歩を進めるのであった。



「む? 近くに整った筋力を感じるな」

 一方こちら、ネレイザ・ストム・ムキム・ボディビ・気絶しているミルラ組。角を曲がってみると、

「っ! ハルさんっ!」

「! ネレイザ様、それにストム様に――おっと」

 タタタタ、ドシッ。――ヨゼルド、アクラ、ハル組だったのだが、確認して直ぐにネレイザがダッシュでハルに抱き着く。

「ご無事で何より……ですが、何かございましたか? 怖い目に合われたとか」

「だってあの人達暇さえあれば筋肉の話しかしないんだもん! もう嫌!」

「そうでしたか。それは辛かったですね」

 ハル、そのまま抱き締めながらネレイザを軽くあやす。母性溢れる抱擁にネレイザも落ち着いていく。――ちなみにストムが感じた整った筋力の正体はハルである。

「あなた! それにムキム、ボディビ、無事だったのね!――マッチは」

「兄貴はまだ見つけてねえ。――それにお袋」

「!? ミルラ!? どうしたの、何があったの!?」

 ボディビの背中に背負われているミルラを見つけてアクラが驚く。――実の妹だ、当然だろう。

「母さん大丈夫、今は気を失っているだけだよ。――原因はわからないけど」

「お前達も遭遇したか? 謎の影の怪物に。それに襲われかけていたのを助けたんだが、既にその時には気を失っていてな。軽いショックだけならいいんだが」

 そのストムの言葉に、ハル、ヨゼルド、アクラも顔を見合わせ、頷く。

「こちらもその影のモンスターに襲われた。アクラ妃と一緒にいる所だったんだが運よく戦闘中にハル君と合流出来てな、それで助かっている」

「そうだったのか……ハルといったな、妻を助けてくれたこと、礼を言う」

 ストムがハルに頭を下げる。この辺りは国王として人としてしっかりしている様子。

「いえ、当然の事をしたまでですから。それに無事が確認出来る方が増えたのは良い事です。――残りは」

「マスターとレナさんと王女様と……あとタカクシン教のクレーネルさんと……マッチさんね」

「これだけの人数がいるなら起点を決めて役割を分けよう。ミルラ君もしっかりした所で休ませた方がいい」

 ヨゼルドにしてみればエカテリスの所在が確認出来ないのは不安要素であるが、その気持ちを表には微塵も出さない。――そして出さない様に気を付けているのを、ハルは知っている。

「ヨゼルド様。ヨゼルド様さえ大丈夫でしたら、私は単身でも姫様を探して参ります」

 だからこそハルはその申し出。急いで見つけて、安心させたかった。

「気持ちは嬉しいが落ち着くんだハル君。単独行動は何が起きるかわからん。最低でも二人以上で――」

 それでも一定の気持ちを保つヨゼルドが冷静に各々の能力を考え、チーム分けをしようとした――正にその時だった。

「こっちや! こっちから気配がするで!」

「気配ってだから誰の!?」

「美人メイドさんの気配や! お帰りなさいませとか言うて貰おうかな! なあマッチョ!」

「何で俺に振るんだ!?」

「言うて貰いたいやろ?」

「ぐ……も、も、貰いたい……! ご主人様って言われてみたい……!」

「勇者様はいつも言われ慣れてそうですね?」

「言われてないですそんな疑う目を向けないでクレーネルさん!」

 丁度また別方向から姿を見せたのは、

「マスター! 無事だったのね、良かった……!」

「皆、それに国王様達も!」

 ライト、フュルネ、クレーネル、マッチの四人組だった。ネレイザが安堵の表情でライトに駆け寄って――

「――っ!?」

 ――くるより早くライトが感じたのは、鋭い殺気。でも正確には自分にではない。自分の隣に、だ。

「ハル!」

 その事実に、理由に直ぐに気付けたライトはダッシュで殺気の元へと駆け寄り、

「!? ライト、様……!?」

 ガバッ、と有無を言わさず抱き締めた。自分がこうすれば一旦動きを止めてくれる。一種の賭けであった。

「大丈夫だから。俺を信じて欲しい」

「!」

 ライトは直ぐに察した。――ハルは、キリアルム家の騒動時、素のフュルネに遭遇している。今回のメンバーでレナを除けば唯一フュルネの正体を直ぐに見抜ける存在なのだ。

 そして当然ハルはライトの隣にフュルネが居る事に直ぐに気付く。今回の騒動もあり、ライトの隣で当たり前に居る事もあり、危惧を察して戦闘態勢に入った。――ここでフュルネとハルが戦い、フュルネの正体がバレるのはまた単純に厄介事が一つ増えるだけ。そう気付いたライトの行動が今なのだ。フュルネを、レナを信じている。

「……畏まりました。ライト様がそう仰るのであれば、今は矛を収めます」

「ありがとう」

 ハルから殺気が消えるのがわかる。ライトとしては一安心だった。

「……あの、それでライト様」

「うん?」

「その……もう大丈夫ですので、そろそろ離して頂けると」

「あ」

 安心した衝動で、抱きしめたまま時間が経過していた。

「ご、ごめん!」

「いえ、お気になさらず。――決して、嫌ではありませんから」

 ハルを急いで解放する。言葉の後半は小声だったのでライトには聞き取れない。――ハルの顔は、少し紅潮していた。

「マスターァァァ! どういう事なの!? 何で再会と同時にハルさん抱き締めてるの!? ももももしかして……!?」

「違う勘違いするな、これには深い訳が」

「せやで、男には時に止められない衝動があるもんなんやで」

「元凶のお前が拍車を掛けるなよ!?」

 ハッとして見れば、フュルネはハルに向かって「メイドさんお久ー」と挨拶していた。フュルネもハルの事は覚えていて、ライトが止めたので察したのか遠慮の欠片もない。

「ライト君。――仲人は私がしようか」

「ご無事で何より元気そうでいつも通りで何よりです国王様!」

 ヨゼルドは物凄い優しい目でライトを見ていた。――ああもう。

「兎に角、これで思い当たるので見つかっていないのは勇者ライトの護衛と、ヨゼルドの娘か」

「っ、そうよマスター、レナさんは? 多分一緒に転送されたはずでしょ」

「ああ、それなんだけど……ここにいる皆さんにも、聞いて欲しい話が」

 ライトが(黒幕がこの中にいるかもしれないという可能性を除いて)仮説を色々話しようとすると、

「あの、とりあえずこちらの部屋で一旦休みませんか?」

 クレーネルだった。見れば手近なドアを開け、中を確認している。

「危険な物も無さそうですし。時間も沢山あるわけではありませんが、皆さん少し落ち着いてからの方が良いかと」

 かくして、促されるようにメンバーは一旦その部屋で休憩をとる事にしたのだった。

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