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第百四十話 幕間~恋の旅路は隼の如く

「というわけで、私もトークしに来たぞ」

 ヴァネッサが前線に戻って数日。場所はハインハウルス城下町、武器鍛冶アルファスの店。わっはっは、といった感じで国王ヨゼルドが先陣を切ってアルファスの店に入って来ていた。

「おうライトとレナ、俺は」

「すみません、ですから俺としても一応逆らえない立場でして」

「右に同じ」

 どうしてこのオッサン俺の店に連れてきた、というアルファスの問いかけがわかったので先に謝罪と釈明をするライトとレナ。――いつも通り、ヨゼルドは稽古の為に足を運んだライト、護衛のレナについてきた形である。

「ヴァネッサがアルファス君との思い出トークで盛り上がったんだろう? 私もしに来た」

「あっ、国王様もアルファスさんとの思い出あるんですか?」

「セッテ、そっちとはガチで無いぞ。確かにヴァネッサさんとは俺が軍入ってから辞めるまでの間に色々あったし共闘も何度もしたけど、この人とはそれに比べたら全然だ」

「あ、そうなんですね、ならいいです」

「セッテ君がシュール!? もうちょっと掘り下げてもいいのだよ!?」

「お客様、当店は武器鍛冶の店となっておりまして、ご依頼がない場合は営業の邪魔になりますので」

「この新しいお店の子はもっとシュール!? 私国王なの知ってる!? これでも偉いんだよ!?」

 物怖じしないアルファス、セッテ、フロウ。色々な意味で強力な三名であった。

「というか国王様、アルファスさんとのトークは建前で、実際は逃げてきたんでしょ。王妃様と入れ替わりでリンレイさん休暇で帰って来るから」

「うっ」

 レナの指摘にヨゼルドはあからさまに動揺。――ライトも聞き覚えのある名前だった。確か。

「リンレイさんって、元々は王妃様の側近で今はハインハウルス軍の主力部隊を率いる一人だっけ?」

「そうそう。真面目で王妃様を大尊敬してる人でさ、それ故にこの感じの国王様が許せないらしくて」

「前回戻って来た時も怒られたんだ……今回は出来る限り穏便に過ごしたいんだ……だから――」

 ガチャッ。――ヨゼルドの弱気発言の途中で店のドアが開いた。

「失礼します。――お久しぶりです、アルファスさん。今日は……」

 入って来たのは女性騎士だった。長い髪、凛々しい顔立ちは美人と呼ぶに相応しいオーラを纏っている。……と、ライトが感じていると。

「っ……! またこんな所でサボって……! 今日という今日は許しません!」

「ぎょへぇー!」

 ヨゼルドを見つけ、怒りの表情を浮かべ迫る。驚愕のまま店の中を逃げるヨゼルド。

「勇者君、私中々「ぎょへぇー」って言って驚く人は見た事がない」

「今重要なのそこじゃなくない!?」

 まあ確かに俺もないけどさ、とライトもつい冷静に思ってしまうのであった。



「ご無沙汰しています、アルファスさん」

「おう。ちゃんとやれてるか?」

「はい、お陰様で」

 ヨゼルドを追いかける前にアルファスへの挨拶が先と判断されたのか、入って来た女騎士はレナにヨゼルドを捕まえておいてと依頼し、

「レナ君! 離してくれ……! 国王命令だ、離すんだ……!」

「いやー、私としても一応先輩の言う事を拒むわけにも」

「私そこより立場上のはずなんだけど!?」

 レナが承諾、ヨゼルドの服を掴んで離さない状態。ヨゼルドは今も何とか逃げようと頑張っている。――ということは、この人が……

「レナも、確保依頼が先になったけれど、久しぶりね。ちゃんと任務は果たせてる? 貴女はどうも楽な方楽な方へと逃げようとするから」

「大丈夫ですってー、今横の勇者君が元気なのが証拠」

「ならいいのだけれど。……ということは、貴方がライトさんね? ハインハウルス軍騎士、リンレイと申します。ヴァネッサ様から貴方の事は伺っているし、良くしてあげてと言われているわ。あまり関わる機会はないかもしれないけど、どうぞ宜しくね」

「ライトです。こちらこそ、宜しくお願いします」

 噂のリンレイだった。レナの先輩、アルファスの後輩に位置する様子。

「それから、そちらのお二人はお店の方になるのですか?」

 更にそのままリンレイはセッテとフロウの方へ。

「はい。セッテといいます」

「フロウだ」

「リンレイです。どうぞ宜し――アルファスさんの店に女性従業員が二人、しかも可愛い!?」

 気付くの今なのかい、といった感じで大小あれど全員がズッコケそうになる。

「国王様……アルファスさんに何を吹き込んだのですか……アルファスさんは国王様と違って女性をはべらかす趣味はないはずなのに……!」

 一方のリンレイはヨゼルドが仕組んだと思い込み、再び怒りの表情でヨゼルドに迫る。

「ちょ、流石に私じゃないぞ! アルファス君が自分で連れてきてるんだぞ!」

「それはそれで違え。二人共半ば押しかけなんだよ」

「私を従業員として雇うって言ってくれたのはアルファスさんからですよ!」

「お前正式に雇う前から今と変わらねえ感覚で入り浸ってたじゃねーか!」

 いつものセッテとアルファス。

「まあ、私は押しかけなのは認める。どうしても弟子入りしたかったからな」

 一方で素直に押しかけを認めるフロウ。――が、

「アルファスさんが……弟子……!?」

 今度はまた違うワードに引っかかってしまうリンレイ。

「ちなみに私は弟子としては二番目だぞ。一番弟子はそこにいる兄者――勇者ライトだ」

「あ、はい、俺はそうですね」

「っ……い」

 無意識に追い打ちをかけるフロウ。一応承諾するライト。――リンレイは若干わなわなと震えて何か呟いていた。え、どうしたの、と思っていると。

「羨ましい! アルファスさん! 私も弟子入りさせて下さい!」

 と、力の限りアルファスに頭を下げるのであった。


 …………。


「……大変失礼致しました」

 我に返ったリンレイが、オホン、と咳払い一つした後、恥ずかしそうに謝罪した。

「私、ヴァネッサ様は勿論なのですが、負けない位にアルファスさんの事も尊敬していまして。一時期は部隊長にヴァネッサ様、その部隊内での先輩にアルファスさんが居まして、本当にお二人にはお世話になったんです。ヴァネッサ様の副官に私を強く推薦してくれたのもアルファスさんで」

「んなもんに恩義感じるな。適材適所だったから俺は推しただけだ」

「勿論それだけじゃないですから。何かと真面目一筋で傲慢だった私を随分と面倒を見てくれて。憧れのヴァネッサ様、尊敬のアルファスさん。かけがえのない存在です。――アルファスさんに作って貰ったこの剣は、私の誇りです」

 リンレイは腰から鞘ごと剣を持ち、抱きしめるように前で持つ。――装飾が美しい、一般的な剣よりも多少細めで長い、特殊な雰囲気を感じる剣だった。

「ちなみにリンレイ君のヴァネッサ副官着任を許可してサインをしたのは私なのだ。つまり私が居なければ――」

「ああ、そうやって私を脅すんですね? そうやって一体何人の女性を手籠めにしてきたかは知りませんが、私はそんなものに屈しません。この剣で、隼騎士の名に懸けてその悪事を打ち破ります」

「誤解が酷い!? 本当にそんな事をやってたら君の前にヴァネッサに殺されてるから!」

 本当に剣を抜きかけていたが、それもそうか、と思ったらしく、リンレイは剣から手を放す。

「おう、茶番はその程度にしろよな……剣のメンテに来たんだろ?」

「あっ、そうでした、アルファスさんへの挨拶も大切でしたが、それも大切な用件でした」

 呆れ顔でアルファスが促すと、リンレイは剣をアルファスに手渡す。

「あの、アルファスさん。――今からでも、軍に戻って来ませんか?」

 そして、真面目な表情でそう切り出した。そのフレーズに、流石に大小あれどその場の全員が反応を見せてしまう。

「何の冗談だ今更」

「私は冗談で言いませんこんな事。――確かにアルファスさんの武器は素晴らしいです。でもやっぱり、アルファスさんは剣士として戦っていて欲しいんです。私にまた、戦う背中を見せて下さい」

「何弱気な事言ってんだ。戦う背中だ?――もうお前に俺の背中はいらねえよ。今は、お前がそれを部下に見せてるだろ。その為に俺が武器を作ってる。それで充分じゃねえか」

「でも……」

「勘違いすんな、お前等が嫌いになったわけじゃねえ。でも、こっちの方が性に合ってるよ。面倒見なきゃいけない奴らもいるしな」

 チラッ、とアルファスはライトとフロウを見る。――セッテがどうして自分は見てくれないんだ、と言わんばかりに不満気な表情を浮かべたのは余談。

「――わかりました。アルファスさんに迷いがないならそう決めたなら、これ以上は誘いません」

「断っておいてなんだが、わりとあっさり引き下がるんだな」

「アルファスさんの目を見ればわかりますよ。アルファスさんは今、ちゃんと大事な物を持っているって」


『アルファスさん! 軍を辞めるって嘘ですよね!?』

『本当だよ。王妃様にも許可得た』

『どうして……!? アルファスさんは悪くないです! 私と組みましょう、私は死にません! だから――』

『落ち着け』

『だって……!』

『確かに俺は逃げるのかもしれない。――でも、捨てるわけじゃない。抱えて抱えて抱え込んで、新しい道、選びたいんだ』


「アルファスさんに軍を退くって言われたあの日、初めてアルファスさんを、そしてその許可を出したヴァネッサ様を疑問に思いました。でも、間違いじゃなかったんですね。……それが、わかったんです」

「……そっか。悪いな」

「謝らないで下さい。この国の為に、ヴァネッサ様の為に、アルファスさんの為に、必ず勝利に導きます。見ていて下さい。だから、アルファスさんも、これからも支えて下さいね」

「おう」

 二人にしかわからない会話であったが、それぞれ信頼で繋がっている、お互い納得がいったであろう事は周囲で見ていた面々にもわかった。

「あ、でも、軍が勝利して平和になったら、私もアルファスさんの所で修行したいです」

「それこそ何の修行すんだよお前が俺の所で。剣の稽古はヴァネッサさんに付けて貰えるし鍛冶師目指すわけでもあるめえ」

「花嫁修業です」

「おうそうか、なら問題無い――花嫁修業?」

「はい。ハインハウルス軍が勝利したら、私退役して、アルファスさんと結婚の予定です」

「ぶっ」「ぶっ」

 同時に吹き出すアルファスとセッテ。おー、といった感じのその他面々。

「な――アルファスさん、どういう事ですか!? 私という物がありながら! 私は遊びだったんですか!?」

「俺も初耳だわっていうかセッテお前とも何にもねえよ!? リンレイ!?」

「私、夢だったんです。お嫁さんになるの。――アルファスさんと離れてわかりました。私、ヴァネッサ様の下で、そしてアルファスさんの隣で生きていきたいんです」

 うっとり。――いやいやうっとりじゃなくて! 何だこれ!? どいつもこいつも!

「セッテさんだったかしら。その様子からして、貴女はアルファスさんの……愛人枠?」

「正・妻・です! 順列第一位です!」

「ふふっ、じゃあ勝負ね。貴女と私、どちらが本当にアルファスさんに相応しい存在か」

「っ……いいでしょう、正々堂々と挑まれて逃げるセッテではありません! 私がどれだけアルファスさんの為に尽くす女だか、証明してあげます!」

 バチバチと火花を散らす二人。何とも言えない表情で見守る周囲。――項垂れるアルファス。……なんだこいつら。どうしてどいつもこいつも俺の意思を無視するんだ畜生め。

「ライト君もアルファス君も……私が推薦するメンズはどうしてこうも私よりモテるんだ……!」

「国王様は王妃様一筋なのでは」

「そうだけど、そうだけどこういう贅沢な悩みを持ってみたいの!」

「王様ー、今リンレイさんが見てる限定で抱き締めてあげましょうか」

「あ、待ってレナ君、それ本当に私殺されちゃう」

 新しい恋の風が吹く武器鍛冶アルファスの店。季節は夏だが春の装いといった感じか。

「さて、とりあえず今日は城へ戻ります。皆さん、また」

 笑顔で挨拶すると、リンレイはレナから引き継いでヨゼルドの首根っこを掴んで引きずって――

「――ってちょっと待ってリンレイ君!? どさくさに紛れて私捕獲されてる!」

「色々確認したい事があります。主にヴァネッサ様が居ない間の事について」

「落ち着くんだ! 私に優しくしれおけばアルファス君の好感度が」

「特に上がんねえぞ」

「ノォォォォウ! 私もアルファス君に弟子入りしたいぃぃぃ!」

「そんな暇ないでしょう。さあ尋問です」

 ――引きずって、店を出ていくのであった。

「リンレイさん、今日は穏やかだわー」

「あれでそうなんだ……」

 確かにあまり会う機会はないが、色々気をつけようと思うライトなのであった。

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