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第十二話 演者勇者と聖戦士4

「モ、モンスターだ! モンスターの集団が町に向かって来てるぞぉ!」

 偶々少し町の外に出ようとしたのだろうか、その町人は転がるように転びそうになりながらそう叫びながら走ってきた。

「――っ」

 町の入口の方を見れば、まだ多少距離はあるが、それでも目を凝らせば肉眼で確認出来る位の距離に、モンスターの集団が見て取れた。

「レナさん、ソフィさん、ライトさん!」

 宿から出ると、直ぐにマークが合流する。

「気付きましたか」

「ソフィが私と会話してる途中に狂人化バーサークしたから気付いた。そっちは?」

「坑道前に待機させてる兵士達から連絡はありません。緊急用のアイテムも持たせてるはずなんですが」

 念の為に、例の坑道前には連れてきた数名の兵士が見張りのキャンプ中だった。つまり町にいる軍の人間は四人のみ。

「連絡をする暇もないままやられてここに来られたか、別方面の何かかってことか!? でも俺達が話を聞いた時は町長さん他のトラブルは何も言ってなかった……!」

「御託は後だ! まずはアタシとレナで迎撃、マークとライトは住人を避難させろ! マークは避難誘導がライト一人で完遂出来ると判断したらアタシらのフォローに回れ!」

「はい!――ライトさん、町の中心に集会所がありました、そこに避難させましょう! 僕はこちら側から行きます」

「わかった!――レナ、ソフィ、二人とも気をつけて」

「はいよ。勇者君も頼むね、ガンバ」

「へっ、何処の化物かは知らねえけど、このアタシがいる場所に奇襲なんて百年早いんだよ! 腕が鳴る、蹴散らしてやらぁ!」

 ソフィは笑みを浮かべ、移動を開始。レナが直ぐ後ろに続く。――気付けばあっと言う間にモンスターの集団は町の入口、目と鼻の先まで到達していた。

「住人の方、いますか! いたら直ぐに集会所まで避難をお願いします!」

 ライトはまずその場から声を出しながら、避難を促す。家は一軒一軒ノックをして人がいるかどうか確認。――文字にすれば地味な作業だが、やはり確認に時間がかかり、骨が折れる作業となった。

(急げ……急げ……! あの二人の足を引っ張るわけにはいかない!)

 やはり普通に戦うのと視界に入る範囲内の住人を守りながら戦うのでは、素人のライトが考えても難易度がまるで違うであろう。そのシチュエーションを作るわけにはいかない。今の自分に出来る、精一杯の事なのだ。その想いを胸に、ライトは声を出し、ドアを叩いていく。

「オラオラオラァ! さあアタシが叩き潰してやるからまとめてきな、雑魚共が!」

 一方で、ソフィとレナは交戦を開始。兎に角見える敵、自分の射程範囲内の敵を愛用の両刃斧で正に叩き切っていくソフィと、

「よっ、ほっ、いよっと」

 そのソフィの範囲外の敵、討ち漏らした敵を中心に、冷静に倒していくレナ。初動は順調だった。――しかし。

「バオオオオオォォォ!」

「!?」

 敵の前衛陣を撃破した所で響く咆哮、感じる圧倒的存在感。――ハッとして見れば、

「うーわ、ガチじゃん……」

 身長は三メートルはあるだろうか、強靭過ぎる肉体で、頭は牛。二本足で歩き、手には巨大な斧を持ったモンスターが、ドシ、ドシ、と足を響かせてこちらへ近付いてきていた。見た目からもそうだが、今までの戦闘経験からしても、先程戦った前衛陣、更には坑道で戦ったモンスターとは格が違うことが二人には直ぐに感じ取れた。

「レナ、あいつはアタシがやる! お前は周りを何とかしろ!」

「了解、マーク君来たら援護させるから、持ちこたえてね」

「その前にすり潰せば問題ねえ! 行くぜ!」

 二、三体いた周囲のモンスターを強引に吹き飛ばすと、ソフィはそのまま巨大牛頭に真正面から突貫。

「バオオオオ!」

 ブォン、という大きな風切り音と共に、牛頭はソフィに斧を振り下ろす。ズバァン、という衝撃音が地面に突き刺さる。

「!?」

 そう、地面に突き刺さっただけで、牛頭の視界にソフィがいない。

「っらあ!」

 その時既にソフィは牛頭の真後ろで、両刃斧を切り上げていた。ズバッ、という斬撃音が走り、

「ブオオ!」

「っと!」

 遅れて牛頭が振り返りながら斧を振り回す。ソフィはバックステップで回避。

「見た目通りのノロマだな、力の持ち腐れだ! そんなんじゃその辺の雑魚は余裕でもアタシは倒せねえぞ!」

「フーッ、フーッ」

 言葉が通じるかどうかはわからないが、ソフィの挑発に、牛頭は鼻息を荒くする。

(まあ、逆に言えば一発はやべえだろうな……後地味に皮が硬え)

 回避出来たからいいものの、相手の攻撃力は見た目通り尋常ではなく、ソフィでも一発でも喰らえば形勢が危うくなる事は直ぐに感じ取れた。更に皮膚が硬いようで、先程入れた斬撃が思ったよりもダメージになっていない。

 その強引な防御力と攻撃力で、一発相手に当てたら勝ち。それが相手のスタイルの様だった。

「ブモオオオォォ!」

 今度は牛頭からの突貫。圧倒的迫力と破壊力で斧を振り回してくる。

「まあ、斧が一番破壊力があって分かり易いって所だけは気が合うかもなぁ、牛頭!」

 その言葉とは裏腹に、冷静に回避を続けるソフィ。――自分の斧で受けるわけにもいかない。押し負けたら終わりだ。

(硬えなら、柔らかい場所を狙うまで!)

 再び上から地面へと振り下ろされる牛頭の斧。だが今度は避けるだけではなく、振り下ろされ地面に触れている斧を踏み台にし、ジャンプ。

「そこだ!」

 ズバッ!――振りぬいたソフィの両刃斧が、牛頭の右目を捉える。感触で伝わる、先程よりも確実な斬撃、ダメージ。

「他所が硬え奴は大抵目とか耳とかは柔らかいってお決まりなんだよ!」

 そのまま振り向き様にもう一度斬撃を入れ、一旦間合いを取る。

「ブモ、ブモ、ブオオオオオオ!」

 右目を抑え、苦しそうにする牛頭。その隙を見逃すまいと、ソフィは再び突貫。

「バゴオオオオォォ!」

「!?」

 だがここで予想外の展開が起きる。苦しそうにしていたのも束の間、牛頭は今までにない位大きく力強い咆哮。そしてその咆哮が波動となり、口から極太の魔力によるビームが発せられたのである。

「チィッ!」

 勿論標的はソフィ。咆哮で既に違和感を感じ取っていたソフィが、紙一重での回避に成功する。――ズバァァン!

(っ……脳筋は魔力使っても脳筋かよ)

 避けた先にあった古びた物置小屋が、牛頭の咆哮ビームで音を立てて崩れた。――今までの力任せの斧攻撃よりも、更に喰らえばアウトであることは、一瞬で廃屋と化した物置小屋を見ても明らかだった。

「フーッ、フシューッ……バゴォォ……!」

「来たな!」

 余力があるのか、牛頭は再び咆哮。だが種がわかっているソフィとしては、回避さえすれば大きなチャンスに繋げる自信があった。カウンターで更に追い詰める段取りは瞬時に固まっていた。

 だが、再びここでソフィの目論見は崩れる。牛頭の咆哮の角度が、若干ずれている。つまり――標的が、自分ではない。

「っ!?」

 ハッとして見れば、丁度咆哮ビームの射線上になると思われる所に、まだ五、六歳位と思われる子供がいた。先程崩れた物置小屋の材木に隠れていたのが、小屋が無くなったことで隠れられなくなってしまったのだ。――つまり、狙われたのは……

「バゴオオオオォォ!」

「クソッたれがぁ!」

 放たれる咆哮ビーム、本当に直前で気付いたソフィ。精一杯の力で地を蹴り、子供を抱え、転がりながら避ける。――ズバァァン!

「っらああ!」

 間一髪、子供は無事だった。ソフィの判断力と瞬発力の勝利である。――だが。

「っ……ぐ……クソッ……!」

 ソフィ本人は、全てを避け切れなかった。割合にして四割程度だろうか。左半身の部分部分で咆哮ビームを浴びてしまい、焼けるような猛烈な痛みが走る。

「あ……あ……あ……」

 助けた子供は無傷。だが恐怖とパニックで声も出せない様子。ソフィは子供を立たせ、抱きしめながら口を開く。

「坊主、怪我はないな?」

「う……うん……でも」

「あのバケモノは、必ずアタシが倒す。この町は、アタシとアタシの仲間が必ず守る。だから、お前に頼みがある」

「え……?」

「集会所に町人は集まってる。今のアタシの言葉を、全員に伝えてこい。お前が、皆を安心させてくるんだ。出来るか?」

「う……うん」

「よし、走れ!」

 軽く背中をポン、と叩き、ソフィは子供を離す。子供はそのまま走って行った。――「ここから逃げろ」ではなく、「大丈夫だから他の皆を安心させてこい」という前向きな言葉が、子供に勇気を与えた様だった。

「つ……ぐ……っ……」

 ズキン、ズキン、ズキン。――そして徐々に確実に激しくなる、体の痛み。牛頭を見れば、流石に二連発は反動があるのか、ヨロヨロと体制を立て直している模様。

「ソフィ! 大丈夫なのか!?」

 と、そこで姿を見せたのは激しい物音に気付いて走ってきたライトであった。

「ライト!? 来んな、足手纏いになる!」

「わかってる! だからこれだけ渡したら直ぐにいなくなる!」

「は?」

 ライトはそのまま、手に持っていた小瓶を二つソフィに手渡した。見ると、小瓶にはそれぞれ「勇者の痛み止め」と「勇者の傷薬」と書かれていた。

「国王様に渡された勇者グッツの中にあった。今までの流れからして国で作った最高級回復薬のはず、これで今のソフィが何処まで回復するかはわからないけど」

 ソフィはそのまま二瓶を同時に一気飲み。空をライトに投げ返した。

「わかってるよ俺がこの状況のソフィ相手でも足手纏いだって。仲間のピンチに薬渡すだけとか死ぬほど悔しいよ。でも――その悔しさと同じ位、ソフィの事信じてるから、負けないって」

「……お前」

「マークなら邪魔にならないんだろ? 直ぐに連れてくるから、待っててくれ!」

 そう言い残し、走り去ろうとするライトを、

「ライト!――サンキュ」

 一瞬呼び止め、ソフィは軽く礼を告げる。――ライトは頷くと、再び走り出した。

「……ふーっ」

 実際精度の高い回復薬だったようで、ソフィの体の痛みが多少マシになる。同時にライトの言葉が、ソフィの背中を後押ししてくれた。

「ブオオォォォ……」

 牛頭も体制を完全に立て直したようで、再び身構え、ズシン、ズシンとこちらに向かって来ていた。その姿をその顔を、ソフィは真正面から見据える。

「曲りなりにも真正面から戦う戦士かと思ってたが、所詮ただのクソヤローか。――テメエの相手は、このアタシ一人だろうがぁ!」

「……ォ……!?」

 広がるソフィの叫び声は威圧となり、牛頭さえにも動揺をもたらす。

「聖なる加護よ、今この手に重複せし力を。――聖刃双生せいばそうせい!」

 そしてソフィは愛用の両刃斧に祈りと魔力を込め、詠唱。不思議な光に包まれると、直後にソフィの手にもう一本、聖なる光で出来たまったく同じ形の両刃斧が生まれる。そのまま右手に愛用の両刃斧、左手に光の両刃斧の二刀流に。

 聖刃双生せいばそうせい。――魔力を消費し、使用している武器と同じ物を魔力だけで具現化する技である。具現化された武器は形こそ同じだが、込められた魔力次第で元の威力を大幅に越えることも可能であり、また魔力によって作られているので重量の心配もいらない。ソフィにとっては奥義と言ってもいい奥の手でもある。

 勿論デメリットもある。まず単純に消費魔力が非常に多い。長期戦に使う技ではない。そして二刀流には圧倒的不向きである両刃斧という武器。扱うだけの技術、精神力、体力が大幅に必要である。――今回、先程の咆哮ビームで大幅に消耗してしまったソフィが使うのは、危険と背中合わせ、背水の陣である。

 持って数分。――覚悟を胸に、ソフィは地を蹴った。

「バオオオ!」

 鳴き声と共に、ブンブンと斧を振り回す牛頭。多少の学習はあるのか、ソフィの回避に備え、範囲の広い攻撃方法に変えてきていた。

「さっきから牛の癖にバオバオ五月蠅えんだよ!」

 一方のソフィは、その攻撃に対して回避行動を取らない。――ガシィン!

「オラァ!」

「!?」

 左右の両刃斧で、上方から牛頭の斧を叩き付ける。――聖刃双生せいばそうせいによりソフィ自身の攻撃力が大幅に上がったこと、牛頭が叩き付けではなく回転を選んだことにより、範囲こそ広がれど力加減が落ちたこと、更に絶妙のタイミング。三者を利用したわずかなチャンスをソフィは物にする。牛頭に隙が生まれた。――ズバッ!

「ブモオオォォ!?」

 そのまま今度は牛頭の右目を攻撃、両目の視界をほぼ奪うことに成功する。

「ふーっ……」

 その隙に一旦間合いを置き、呼吸を整える。牛頭は視界を失った痛みと混乱で無意味に暴れていた。――余力もあまりない。ソフィは最後の一振りに出るつもりでいた。

「つまんねえ小細工しなけりゃ、もうちょい楽しい戦いだったかもなぁお互い。――終わりだ!」

 ソフィは再び全力で地を蹴り、体を捻り、回転するように宙を舞い、両手の両刃斧で時間差で攻撃。一回の斬撃では深い傷を付けられなかったのを踏まえ、初手で愛用の両刃斧で斬撃、間髪入れずまったく同じ個所を光の両刃斧で斬撃。その信じられない程正確で圧倒的な二連撃が牛頭の肉体を真っ二つに切り裂いた。

「ブォォォォォ……」

 響く牛頭の最後の咆哮は、ソフィの勝利を決定づけるものとなるのだった。

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