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第百三十七話 演者勇者と天騎士3

 ライトがヴァネッサと正式に出会った日の翌日。約束通りヴァネッサとニロフは午前中、ガルゼフの墓参りへ。積もる話もあったのか、二人だけでゆっくり行ってきた様子。

 そして午後、ライトは一緒に行きたい所があるから、と言われ、ヴァネッサと城下町で待ち合わせするのだった。



「にしても、俺と一緒に行きたい所って何処だろ」

 指定の場所に到着。時間前であり、ヴァネッサはまだ来ていない。

「色々な意味で読めないからねえ王妃様も。まあ流石に変な所に行くわけじゃないでしょ」

 流石に合流まで一人にさせておくわけにはいかず、レナも一緒に待機中。

「逆に今日の王様だったらヤバかったかもよ。勇者君が王妃様に変な気を起こさない為にそれこそ怪しい大人のクラブに連れて行かれるかもしれない」

「……案外洒落にならないんだよなそれ」

 あれからもチラチラとヨゼルドはライトを見ていた。何かを警戒していた。ヴァネッサの為ならやりかねないかもしれない。

「でも、逆に言えばそれ程国王様は王妃様の事を想ってる、って事だよな」

「私、噂で耳にしたことがあるけれど、何でも国王様の一目惚れで、それはもう熱烈なアタックだったらしいわ。そういうラブロマンスって憧れちゃう」

 そう言いながら何処かうっとりしてるのはネレイザ。――ネレイザ?

「そういえばネレイザは何でいるの? 護衛はレナがいるから大丈夫だぞ?」

「私がマスターの事務官だからよ?」

「いや、事務官だからって無理にいつでも付いて来なくて大丈夫だぞ?」

 マークなんて別に一緒じゃなかったしな。

「そうだぞネレイザちゃん、私もいるし、王妃様もいるし、心配いらないから帰りたまえよ」

「むっ」

 何処か見透かしたような眼でニヤニヤしながらレナはネレイザにそう告げる。――こいつ! だから好きになれない!

「あんたにそんな権限無いでしょ! マスター、居ていいでしょ?」

「まあ、ネレイザが居たいなら俺は構わないけど」

「ほら! 居て欲しいって!」

「いや勇者君そこまでは言ってないでしょ」

 と、そんなやり取りをしながら待っていると。

「ごめんなさいね、待たせちゃったかしら」

 ヴァネッサがニロフと共にやって来た。

「いえ、大丈夫ですよ」

「それじゃ、行きましょうか」

 五人パーティとなり、移動を開始。急ぐでもない、のんびりと城下町を進む。

「そういえば王妃様、国王様の一目惚れで結婚まで行ったって今聞きました」

「ええそうよ。私がまだ十八の頃、地方で戦果を挙げて初めて国王様――ヨゼルドの父親ね、に閲覧する事になったんだけど、その時に居たの、第一王子として。その場で口説かれたわ」

「素敵な話……! 王子様に口説かれたんですよね? 恋愛物の小説みたい!」

 年頃か、ネレイザが一番興味津々に話を聞いていた。

「そんな素敵な物じゃないわよー、「あれ」だし」

「はっはっは、お嬢そう言わずに。若はあの頃お嬢に振り向いて欲しくて必死でしたぞ。暇さえあれば我の所に相談に来てましたからな」

「その割には今もだけど可愛い女の子を見つけては入念にチェックしてたわよ?」

「若は病気なのです。女の子を見ないと死んじゃう病なのです。そういう設定なのです」

「あら不治の病なのねって設定って言ってるじゃない!」

 そんな昔話に花を咲かせながら歩いていると、辿り着いたのは――

「……アルファスさんのお店?」

 お馴染み、武器鍛冶アルファスの店だった。ヴァネッサは迷いなく先頭で店のドアを開ける。

「やっほー、来たわよー」

「げっ」

 店に入ると丁度アルファス、フロウ、セッテ、三人共店内にいた。と、そんなヴァネッサを見ていち早くリアクションしたのはアルファス。

「ちょっと、人の顔見て「げっ」は無いでしょ「げっ」は。元上官で現お得意様でしょう?」

「そうなんだけど、一度に持ってくる量が半端ないでしょうよ」

「仕方ないじゃない、アルファス君に任せるのが一番安心なんだもの。――というわけで、メンテお願いね」

 そう言うと、ヴァネッサは何処からともなく(実際はソード・オブ・ワールドで召喚)、十数本の騎士剣を取り出しカウンターに置いて行く。

「……凄いな。どれも業物だぞ」

「騎士剣コレクターなんだよこの人は……」

 カウンターで店番役だったフロウが目を丸くして驚きながら一本一本確認しながらまとめていく。流石に持っている剣は全て最高峰の様子。

「アルファスさん、このお方はどういう方なんです?」

 一方のセッテは武器よりもヴァネッサの存在、そしてアルファスとの関係性が気になった様で素直にそう尋ねる。

「俺の軍時代の先輩。一時期は同じ部隊の直属の上官だったよ」

「初めまして、ヴァネッサ=ハインハウルスです。宜しくね」

 笑顔でヴァネッサは挨拶。――って、

「ヴァネッサ……って王妃様!? 王妃様ですよね!?」

「ええ。――あ、でもそんなに堅くならないで。どうせウチの人も遊びに来たりしてるでしょう? だったら私にだけ堅くなるのは無しで」

 驚きを隠せないセッテ。フロウも声は挙げずとも驚いている様子。

「アルファスさん、凄いです! 王妃様直々の部下だったなんて! 流石私のアルファスさんです!」

「別に偶然だっていうか俺はお前の物じゃねえ」

「でも私はアルファスさんの物です」

「よーし俺の物なら俺の自由だな、明日辺り処分するわ」

「その場合持ち主の名前を書いておくので自動的にアルファスさんのお家に帰ってくるシステムにします」

「ホラーじゃねえか最早!」

 そんないつもの(?)やり取り。――その様子をヴァネッサは楽しそうに眺める。

「知らない間にアルファス君のお店も賑やかになったわね。明るい看板娘さんに――」

 そう言いながらさり気無くヴァネッサはスッ、と剣を取り出し、握る。――すると、

「!」

 ズザッ!――フロウが太刀を持ち、居合の構えで身構える。

「――店員さんにしては指折りの太刀使いの子、と。――ごめんなさい、ちょっと試してみただけよ。構えを解いて」

 ヴァネッサが剣を仕舞うと、フロウもふーっ、と息を吐きながら構えを解いた。

「勘弁して欲しい所だ。かの天騎士に流石に普通に勝てるとは思えない」

「それでも、私相手に迷わず戦う覚悟を見せた。――アルファス君のお店の子じゃなかったらスカウトしたい所ね」

「?」「?」

 一連の流れの意味がわからないライトとセッテ。ほんの数秒の間にヴァネッサとフロウの間に何があったのか。

「王妃様が、フロウに一瞬だけ、微量の殺気を飛ばしたんだよ。一般人は勿論、普通の兵士レベルでも気付けない、結構な熟練度がないとわからないレベルのね。多分王妃様、フロウを見た時から実力を見抜いて、具体的にどの程度か試したんじゃないかなー」

「へえ……」

 レナの解説が入りライトは納得。当然レナは気付いていた様子。

「王妃様! 私、アルファスさんと王妃様の話、聞きたいです!」

 一方もう一人の察せなかった人間であるセッテがはいはい、と挙手をしてリクエスト。王妃を前に緊張、遠慮よりもアルファスとのエピソードへの興味が増してしまった様子。

「そうね、折角だから少しお話しましょうか」

「やった! 今お茶お淹れしますね!」

 ダッ、とダッシュでセッテは裏へ。フロウはフロウで地味に興味があるのか、素早く人数分の椅子を用意し始める。

「って、待て待て肝心の俺の許可が下りてないだろうが」

「いいじゃないの別に。アルファス君格好悪いエピソードとか無いんだから恥ずかしがることもないし」

「そもそも興味あるのはセッテと……ギリギリでフロウ位だろ」

「すみませんアルファスさん、俺も多少興味が」

「私もー」

「我も」

「マスターの御師匠様なら、知っておきたいです」

「はい多数決よ」

「ぐ……つーかここ俺の店なわけで」

「そのお店が建っている国の王妃様が私なわけで」

 …………。

「……勝手にしてくれ、ったく」

 はぁ、とアルファスの溜め息。――こうして、ちょっとしたヴァネッサとアルファスの思い出話が始まるのであった。



「ふぅ……」

 アルファスはヴァネッサの思い出トークが始まるや否や工房へ退避。――聞かれて困る話はそこまでないし、本当に駄目な話はヴァネッサがしない。その信頼はあった。

 それでもやはり聞いていて恥ずかしさもあったので、こうして退避してきて、ヴァネッサから依頼された武器の確認を行っていた。

「相変わらず、か」

「何が?」

「完璧に程近い使い方をしてるなって思ったんだよ。剣一本一本の特性を見事に使いこなしてる、流石――っていつからそこに」

 気付けばヴァネッサが作業の様子を覗き込んでいた。

「思い出話は終わったんすか?」

「今一区切りした所。後半はこの後」

「……さいですか」

 前後編の長編となってしまったらしい。戻った時にセッテが自分をどんな目で見てくるか、想像しただけで面倒だった。

「でもやっぱりアルファス君視点の話も欲しいわー。アルファス君から見た私!」

「いらないいらない。あんたいつでも完璧だったじゃないすか」

「具体的にそこを掘り下げて褒めて欲しいのに」

 天騎士として褒め慣れてるでしょうよ、とアルファスは心の中で溜め息。――変わらないな、この人も。

「でも、驚いたわ。アルファス君が、二人も弟子を取ってるなんて。フロウちゃんも弟子なんですって?――前を向いてくれてて、嬉しい」

 アルファスの事を「知っている」ヴァネッサが、本当に嬉しそうに、穏やかな笑みを浮かべながらそう言ってくる。

「前を向いてる、か。――本当にそうなんすかね。俺はただ、逃げてるだけかもしれない。逆に弟子を作って、逃げ道を作ってるだけかもしれない。例え同じ過ちを繰り返さなかったとしても、あの時の俺の失敗が消えるわけじゃないのに」

 ライトもフロウも、あいつらとは違う。違うはずなのに……時折、何処か被る。それが正しいのかどうか、俺にはわからない。――その想いは、喉まで来ても、言葉にはならなかった。

「私、アルファス君が軍を辞めて武器鍛冶に専念するって言って来た時、止めなかった」

「そっすね。止められるモンだと思ってたし、実際ほとんどの人から止められた」

「これが目的もなく辞めてニートになるって言うなら殴ってでも止めたわ。でもそうじゃない。アルファス君は立場を変えて、また戦う気でいる。――そう信じてたから。そして実際こうして、立場は違えど私達と一緒にまだ戦ってくれてるじゃない」

「一緒に戦ってる、か」

 事実、アルファスの武器はアルファスが認めた人間だけとはいえ、ハインハウルス軍の主力に流通している。その恩恵はかなり大きい。

「それにね。私だって、直ぐに天騎士になれたわけじゃない。何度も失敗して、きっと私を恨んでる人だっているわ。その事を忘れるつもりもない」

「……そっすね。人は、強くなればなる程、抱えなきゃいけない物が多くなる。実力と心の強さは別なのに」

「ええ。でも、私は――私達は、引き返せない」

「大丈夫ですか、先輩は」

「ええ。辛い事もあるけど、それ以上に大切な人達に囲まれてるもの。お姉さん頑張っちゃう」

「もうお姉さんって年齢も厳しくないっすか」

「アルファスくーん? 久々にタイマンでガチ訓練しない? やっぱりアルファス君位じゃないと私の本気の訓練に対応出来る人いないのよねー?」

「だー冗談ですよ! 今も昔も綺麗なまんま!」

「わかれば宜しい」

 一瞬本気の気迫を感じた。――変わらねえなこの人。

「アルファス君」

「はい?」

「頑張りましょう。まだまだ、私達の時代が終わらないわ」

 ポンポン、と両手でヴァネッサはアルファスの両肩を叩く。気付けば、アルファスの気持ちも随分と晴れやかになっていた。――ホント、変わんねえな、この人は。

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