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第百三十六話 演者勇者と天騎士2

「ライト君っ……! ヴァネッサ、ヴァネッサだけは許してくれ……! 可愛い女の子が入用ならいくらでも用意するから、だからヴァネッサだけは……!」

「誤解です、誤解ですから放して下さい!」

 うおおおお、と半泣きでライトに抱き着いて訴えてくるのはヨゼルド。――同じ抱き着かれるでもこうも違うか。

 さて、ライトがエカテリスだと思っていたのはエカテリスの母、つまりヨゼルドの妻、つまりつまり王妃であるヴァネッサであった。というわけで玉座の間、ライトは騎士団の団員を招集し、改めて挨拶を、という事になったのだがヴァネッサとライトの今日の顛末が若干歪んでヨゼルドに伝わってしまったらしく、結果ヨゼルドがヴァネッサを「奪われる」と思いこういう行動に出ていたのだった。

「あら、私は本気よ? デートの約束」

「ヴァネッサぁぁ! ライト君の前に私とデートだろう普通ぅぅぅ! ライト君なんて団員を美女で揃える助兵衛君だから駄目だぞぉぉぉ!」

「そこで更なる誤解を与えないで貰えます!? 団員が美女揃いなのは偶然ですから!」

 その様子を楽しそうに見るヴァネッサ。

「さて、それじゃライト君には改めてご挨拶ね。――ヴァネッサ=ハインハウルス。ハインハウルス王妃よ。君の話は報告を受けてるわ。夫と娘がお世話になってます」

「そ、そんな、お世話になってるのは俺の方で」

 ヨゼルドで慣れたつもりだが、初めて会う位の高い人間にそんな風に挨拶されると、何処かやはり緊張してしまうライトだった。

「そんなに堅くならないで大丈夫よ。今回は半分は内部での軍備関連の仕事だけど、半分は休暇も兼ねてだから、一個人として接してくれると嬉しいわ。短い間だけど、宜しくね」

 そう言って優しく笑うヴァネッサ。ヨゼルドとは違った雰囲気で人当りの良い、優しい印象を受けた。――にしても。

「本当に良く似てますね、エカテリスと……」

 こうして見比べてみれば、確かにホランルランの様に双子で瓜二つ、とまではいかないが、顔立ち、雰囲気、かなり似ていて面識がないライトでは見間違えるのも無理はなかった。意識して相手がエカテリスに似せてくれば尚更。エカテリスの母親ということは若くても三十代後半のはずだが、年齢もまったく感じさせない若々しさ。

「思えば、リバールは最初から気付いてた?」

「はい。ヴァネッサ様を見間違える……というより、私が姫様を見間違える事はありませんから。あそこまでよく似た姫様の偽者はヴァネッサ様しか考えられません」

 リバールは最初からヴァネッサの悪戯に気付きつつも、仕方なく便乗した形の様子。そう考えると様子が少しいつもと違ったのも合点がいった。

「ライト殿もまだまだ修行が足りませぬなあ。美女を見るとは何か、美少女を見るとは何か。それを考えれば見極めは容易」

「皆がニロフと同じレベルにはなれないって……なあレナ、レナは区別つかないよな?」

「……引き合いに出されるの悔しいけど、まあ変装されたら私は見分けつかないわ」

 ホランルラン的中率ゼロパーセントの名は伊達ではないレナである。――実際、今回の様に意識して変装された場合絶対的に間違えないのはヨゼルド、エカテリスといった血縁者、エカテリスを間違えないリバール、そして美女を見間違えないニロフといった所だろうか。

 と、改めてニロフの存在をその会話で認識したか、ヴァネッサはニロフの前に。

「無事にこうして再会出来て嬉しいわ、ニロフ。セイロ空洞封印の件、本当にありがとう。貴方とガルゼフには感謝しきれない」

 そう言うと、ゆっくりとニロフに対して頭を下げた。――そこでライトは思い出した。ガルゼフ曰く、当時はヴァネッサもニロフの犠牲に反対していたと。ヨゼルド同様、ずっと気掛かりだったに違いない。

「頭を上げて下され、お嬢。我は、主の為に、仲間の為にこの身を呈したのです。悔いも迷いもありませぬ。それに確かに主は亡くなってしまいましたが、今、新たな仲間に恵まれております故」

「変わらないのね。でもそう言って貰えるのは嬉しい。――明日、午前中時間を貰えないかしら? 私も遅ればせながらガルゼフの墓参りに行きたいわ。案内してくれる?」

「ありがたいお話です。案内させて頂きます、主も喜びます」

 ニロフも久々の再会、そしてガルゼフへの想いの言葉を受けて、嬉しそうなのが仮面越しにも伝わる。

「さーて、それじゃ今日はこのままオフだから、夕食の時間まで「ちょっと」体を動かそうかしら」

 そう言ってヴァネッサはライト騎士団の面々を見渡す。そして――



「念の為に聞くけど、騎士団結成に浮かれて、訓練をさぼったり手を抜いたりはしてないわね?」

「勿論ですわ。いつかお母様と並ぶ為に、越える為に私はこの槍を握っていますもの」

 一行はその足で訓練所へ移動。ヴァネッサが直々に稽古をつけてくれるとの事で、特にエカテリスとソフィは興奮していた。

 まずはエカテリス。いつもの愛用の槍を持って――

「――って、訓練用の槍じゃなくて、本物の槍でいいの?」

 エカテリスの槍はアルファス作。一つ間違えれば大事故である。

「大丈夫よマスター、姫様も強いけど、でも王妃様は桁が違うから」

「ネレイザは、王妃様の強さを」

「前線にいた頃何度か目にしてる。魔法と剣技、私とじゃお門違いだけど、それでも桁違いなのはよくわかった。天騎士、っていう称号に相応しい人だと思う」

「成程……」

 ネレイザの説明を受け、改めてヴァネッサを見る。

「ソード・オブ・ワールド」

 ヴァネッサは両手をそれぞれ左右にかざし、詠唱。するとヴァネッサの周囲に五本、騎士剣が浮かび上がり、その内の一本を手に取った。

「あれが天騎士を代表する技の一つよ。本物の剣に魔力を通して、使役するの。ただ周囲に浮かばせておくだけじゃなく、色々な使い方が出来る」

「参ります! はああああ!」

 ネレイザの更なる説明の直後、エカテリスが全力で地を蹴り、突貫。本気の突貫は圧倒的速度、迫力。――ガキィン!

「うんうん、確かにさぼってる様子はなさそうね」

 そのエカテリスの攻撃を、一つ一つ確かめるようにヴァネッサは受けていく。軽く反撃はするが、あくまでエカテリスの動きを確認する為であって、エカテリスの様に本気で攻撃はしていない。

 エカテリスは強い。でもそのエカテリスよりも確実に強いのが素人のライトでも良くわかった。……と、感心していると。

「(くいくい)」

「は……?」

 ヴァネッサはエカテリスの攻撃を捌きながら、チラリ、とソフィを見て、指で招く合図。……まさか。

「っしゃあああ! 行くぜぇぇ!」

 待ってましたと言わんばかりにソフィがヴァネッサに向かって突貫。エカテリスも特に攻撃を止めるでもない。つまり、エカテリス、ソフィ対ヴァネッサの、二対一の戦いに切り替わるのだ。

「嘘、だろ……?」

 エカテリスは強い。そのエカテリスを相手にレクチャーとして攻撃を受けられるだけでも凄いのに、更にここからソフィが加わる。――待て待て、ソフィも物凄い強いぞ!? いいのか!?

 新たに参加するソフィにも一寸の迷いもない。全力の突貫でヴァネッサにぶつかっていく。――訓練所に響く、激しい衝突音。

「変わったわね、ソフィちゃん。斧に迷いがない。前よりも鋭くなってるわ」

 そして二人同時相手にも一歩も引かないヴァネッサ。時に持つ剣を入れ替え、時に二刀流で同時に防ぎ、完璧に二人の攻撃を防ぎ続ける。

「うおお……」

「おっ、それお金持ち以外でもやるんだ。ほらネレイザちゃん、これがかの伝説の勇者君の持ちギャグ」

「……いや、普通に驚いてるだけなのに持ちギャグの意味がわからないんだけど」

 ライトのギャグ(?)が大好きなレナ、そう説明されても意味がわからないネレイザ。――ライトはレナ曰く金銭関係でしか発動しないギャグがここで出てしまう位に驚いていたのだ。

「ネレイザちゃんもやればいいじゃん何か。「うっふーん」とか「あっはーん」とか」

「馬鹿じゃないの!? 驚く度にそんなリアクション!」

「勇者君と御揃いになるのに?」

「御揃っ……いやいやそんな御揃い誰とでも嬉しくない!」

 そんな風にレナがネレイザを弄って遊んでいる間に、三人の訓練が一区切り。

「うんうん、二人共、前にやった時よりも成長してるわ。まずは――」

 そのままヴァネッサは二人に良かった点、改善点などをレクチャー。あの状況下でそれを見極めて一流と呼ばれる二人に対してレクチャー。ライトからしたら言い方こそ悪いが最早化物である。――そこまで凄い人だったのか。

「お嬢、我バトルメイジを始めたのです。まだつたないですが、我にもレクチャーをして頂けると」

「勿論。リバールちゃんもハルちゃんも、順番に見てあげるからね」

「はい」

「ありがとうございます」

 確かにライト騎士団の面々は強く、自分よりも強い人間に出会う事は中々ないし、ましてやレクチャーを受けられる機会など滅多にない。

「それから、レナちゃんもよ」

「げっ」

 そしてそれは、一人レベルが違うライト、完全後衛職であるサラフォン、ネレイザと共に何食わぬ顔で離れて見ていたレナにも言える事であり、ヴァネッサもそれを見逃さない。――訓練嫌いのレナは、あからさまに嫌そうな表情になる。

「ライト君の護衛、ちゃんと務めてる様だけど、一人で戦うのと護衛として戦うのでは訳が違うわ。その辺りもちゃんと見直さないと」

「いやー、私はイメトレ派なので、王妃様の手を煩わせるまでもないというか何と言いますか」

「レナ、良い機会だから行ってくるんだ」

「そうよ、良い機会だから行ってきなさいよ」

 ぐいぐい。――レナは何とかして逃げようとするが、そんなレナの背中を同時に押していくライトとネレイザ。

「ちょ待、私はそこを御揃いにしろって言ったわけじゃなくて」

「うおお(ぐいぐい)」

「うっふんあっはん(ぐいぐい)」

「言えばいいってもんじゃない!? ごめんて、私が悪かったって――あ」

 ガシッ。――そしてヴァネッサがレナの腕を掴んだ。

「さ、始めるわよー」

「いやああぁぁぁ」

 レナの悲鳴が響く。引きずられて行った。――そんなこんなで、訓練は続いた。そして、

「さてと、それじゃ最後にライト君。見てあげましょうか」

「え?」

 全員の訓練が終わった後、ライトはヴァネッサにそう持ち掛けられた。

「いや、あのでも、俺皆とはレベルがあまりにも違い過ぎるから、失礼になると言いますか」

「大丈夫よ、ちゃんと合わせてレクチャーするから。合間を縫って訓練してるって耳に挟んだわよ。見てあげる見てあげる」

「あの……それじゃ、お願いします」

 そう言われて断る理由もない。思えばアルファス以外の人間に教わる機会も無かった。当然ヴァネッサのレベルなら教わる価値はある。ライトは気さくにそう提案してくれるヴァネッサに感謝。

「勿論やるからには真剣によ? 私を倒すつもりで剣を抜いて」

「はい。――宜しくお願いします」

 ライト、剣を抜いて構える。――その姿を見て、ヴァネッサは驚く。

「ライト君、私ライト君が訓練してるって話を耳にしただけで、具体的な事までは聞いてないの。――誰か、個別に教えてくれてる人がいない?」

「あ、はい。武器鍛冶のアルファスさんに」

「アルファス君に……そう」

 その返事を聞いて、何処か感慨深げになるヴァネッサ。ライトとしては意味がわからない。

「あの……?」

「ああ、ごめんなさい、こっちの事。――それじゃ、始めましょう」

 こうして、ライトも無事、ヴァネッサから特別レクチャーを受けるのであった。

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