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第百二十九話 演者勇者と魔道殲滅姫15

「表の方でドンパチさせてるはずなのにどうして、とか思ってるか? 安心しろ、表で騒いでも騒いでなくても俺は余程の事がない限り表に出るつもりなんてなかったからな」

 サンドルトは特に悪びれた様子もなく、そう語り始める。

「お前等ハインハウルスは何度も俺達に「逃げられてる」。いざとなったら逃げる、そのイメージが強いから、必ず別動隊が結界なりなんなりを張りに来る。その別動隊を「上手く使え」ば、俺達は更に有利になるって事だ」

 つまり、この事態も全て、サンドルトの想定内。――焦りが微塵も見えない辺り、本気でそうなのだろう。

「流石の俺もハインハウルスの主力四人五人同時には相手には出来ねえ。でもタイマンなら負けねえ。俺が勝って有利な手駒が増えれば増える程、カーラバイトは不動の物になる」

「まー、確かに理論上はそうだね。――でも、アンタがここで負けたらそれで終わりでしょ?」

 レナが落ち着いた表情のまま、ゆっくりと剣を抜く。その様子を見て、サンドルトが楽しそうに笑う。

「いいね。お前は強そうだ。しかも頭の中に冷静な部分をしっかり残せる。――ネレイザも強かったけど、あれは精神的にまだ子供だな。まあでもそのおかげでオッサン絡みで面白いモン見れてるわけだが」

「サンドルトさん、彼がネレイザ隊長の兄です」

 タンダーの補足。マークとサンドルトの目が合う。

「成程。馬鹿と何とかは紙一重とか言うけど、お前の妹は駄目な方だったなあ? まあでも安心しろ、再教育をオッサンに施させる。才能はある、身体つきもいい。いい女になれるぜ」

「っ……貴様……っ!」

 挑発され、冷静さを失いかけるマーク。

「マーク」「マーク君」

 そのマークを、右からライトが、左からレナが支えるように宥める。

「マークは格好良いお兄さんなんだよ。冷静で、俺達を支えてくれる絶対の存在だ。折角ネレイザちゃんを助けに来たんだ、最後まで格好良くいよう」

「皆、君を信じてネレイザちゃんを助けに来てるんだよ? その君が気持ちを崩したら、意味がないでしょ。ファイトだよ」

 その二人の言葉に、マークも冷静さを取り戻す。

「妹――ネレイザは確かに未熟かもしれない。でも僕は、家族を傷付けられて納得するつもりはない。信じてる仲間と共に、貴方達を倒します」

 スッ、と杖を持ち、身構える。強者の威圧感は無いが、整った綺麗な覇気が、マークから感じ取れた。

「ハッ、真面目だね。――俺の嫌いなタイプだ」

「っ!」

 ビリビリ、とサンドルトから電気の様な威圧が走る。ライトはその場で立っているだけでも一瞬精一杯になる。――サンドルトは強い。それを嫌という程感じる事になった。

「勇者君、マーク君。――あれは、私が対応する。というか現状それ以外の選択肢がないでしょ」

 レナがサンドルトの方を見てそう促す。確かに、三人の中でまともに張り合えそうなのはレナしかいない。

「だからさ、後の事は任せる。――マーク君、勇者君の事、お願いね」

「!」

 レナは基本、自分の仕事だけは確実にこなす。場合によっては他の味方を見捨ててでも、やり方を他から批判されても、自分の任務だけは遂行する。それはレナの副官だったマークは重々承知している。

 レナの今の一番の任務は、「ライトの護衛」。もしこの戦いに勝利しても、極端な話ライトが死んでしまったら彼女の任務は失敗である。場合によっては、この場で自分がライトの護衛を優先し、状況が悪化したとしてもサンドルトはほったらかしであろう。

 そのレナが、ライトの身をマークに託した、その意味。――どれだけ自分を信じていてくれてるのか、どれだけ自分に責任があるのか。そのレナの短い託す一言で、マークは全てを察する。

「わかりました。ライトさんの身は、必ず守ります」

 覚悟を決めて、レナに返事。一瞬優しい笑みをレナは見せると、直ぐに冷静な表情に戻り、サンドルトと対峙する。

「俺は強い女は好きだ。――お前は楽しめそうだ」

「私はバトルジャンキーは仲間でお腹一杯だから。悪いけど、楽しんだりなんてしない」

 張り詰める空気。身構える両者。――その一方で。

「まさかネレイザ隊長のお兄さんと、こうして対峙する事になるとは。わからないものですね」

「……タンダー、さん」

 結果として、タンダーと、マークとライトが対峙する形となる。

「妹の事でその道を選んだ。確かに妹は上官として失格なのかもしれない。でも僕は、貴方と戦わせて貰います」

「いいですよ。貴方を殺して、ネレイザ隊長を絶望に追い込むのも悪くない」

 タンダーの冷静な表情が一瞬だけ崩れ、妖艶な笑みを浮かべる。写真で見たあの笑み。……許せない、あの笑み。

「ライトさん。ライトさんの事は絶対に守ります。だから――僕と、一緒に戦ってくれませんか」

 そしてマークは、ライトを守ると同時に、ライトと共に戦う方法を選んだ。

「ライトさんはアルファスさんの所で剣術を学んできました。接近戦なら、僕よりも出来るはずです。勿論タンダーさんはベテラン、ライトさんよりも強い。でも、その差を僕が必ず塗り替えてみせます」

 ライトはここまで力強い、覚悟を決めたマークは見た事がなかった。――マークなら出来る。根拠のない、でも何処か確実な自信が、ライトの中に芽生える。

「最初から俺が行きたいってお願いした結果だ、危険が嫌だなんて言うわけない。マークが居てくれるなら安心だしな。――戦おう、一緒に。俺達で、ネレイザちゃんを助けよう」

「はい!」

 ザッ、と剣を抜き、身構えるライトとタンダー。ライトの一歩後ろで身構えるマーク。

 かくして、アジトの外れでも戦いの火蓋は切って落とされたのだった。



「オラあぁぁぁ! 叩き切るぜぇぇ!」

 ソフィの咆哮が響く。――攻城兵器で門を破壊後、ライト騎士団とカーラバイト傭兵団の戦いは大混戦となっていた。

 当然ライト騎士団は圧倒的に人数不足。門の周囲ではソフィ、エカテリス、クッキー君、バッキー君がそれぞれ一人で四、五人を相手にしている状態。訓練が行き届いているのか、カーラバイトの一般団員一人一人の実力も低くなく、厳しい戦いとなりつつあった。

 それでも気合、覚悟が違った。その多勢に無勢な状態でも、ソフィ、エカテリスを中心に互角の戦いを見せる。

「ごめんハル、時間がかかるかもしれない!」

「大丈夫、必ず貴女の事は守るから、私達の事は気にせず兎に角解除に集中して!――先輩!」

「聞こえていました! 持ちこたえましょう!」

 一方、直接ネレイザを助ける為に砦に乗り込んだリバール、ハル、サラフォン。ネレイザの身を確保出来れば一気に勝利に傾く為、サラフォンが戦いを無視して持ち前の技術と道具で全力で結界破壊に入り、そのサラフォンを守る為に戦うハル、更にその二人が動き易くなる様に遊撃するリバール。

「…………」

 その状況を、冷静に分析するミゼッタ。何処から叩くべきか。何処から叩けるか。――これ以上のミスは致命的。ネレイザを救出されたら後が無い。

 頭の回転は速い。瞬時に作戦を決め、次の行動に――

「というわけで、貴女の相手は我が務めさせて頂きましょう」

「っ」

 ――出ようとした所で立ち塞がる仮面魔導士。頭の中で組み立てた作戦を中断し、身構える。

「まずは自己紹介。ライト騎士団所属魔導士、ニロフと申します。勇者ライトの魔法の講師を請け負い、我自身もかつて我が主が目指した世界一の魔導士、という夢を捨ててはおりませぬ」

「……ミゼッタ。カーラバイト傭兵団副長、よ」

 その律儀な自己紹介に、何となく引き込まれたミゼッタも短いながらも自己紹介をしてしまう。

 そのままお互い魔力を強く練る事もなく、視線をぶつけ合う事十数秒。

「ふむ、成程。シチュエーション次第とは言えネレイザ殿が撃ち負ける実力、ですか。良い才能をお持ちで」

「……!?」

 前述通り、魔力を練ってもいないのに、その実力を評価された。ハッタリか、とも思ったが何となく嘘にも見えない。

「頭の回転も速そうだ。――どうです、投降致しませんか? 罪にならないとは言いませんが、今からの態度次第では寛大な処置が施されます。その才能を失うのは惜しい。何、条件付きで我の魔法研究の助手として活動も我が懇願すればアリかもしれません。美人ですしなあ。美人の助手というのは主も実現したことのない話。あの世の主に自慢が出来る」

 そのままニロフは投降の説得をしてきた。若干個人的な要望も混ぜて。

「お断り、よ」

 そしてニロフが美人助手というシチュエーションを想像してる間に、ミゼッタは攻撃に入っていた。瞬時にニロフの周囲に鋭い魔力の氷の矢が何本も生まれ、一気に遅いかかる。――パリパリパリィン!

「そうですか、まあ考えておいて下され。勿論時間が経過すればする程難しくはなりますが」

「……っ」

 だがニロフはそれを問題なく相殺。会話を続けて来る。

(こいつ……あの人質の子よりも上……私よりも、上……?)

 「ニロフの判断通り優秀な」ミゼッタは今ので察する。――ニロフは、強い。最初の自己紹介も、自分に対する評価も、投降の説得も、全て本気で言っている事がわかった。

「では質問を変えましょう。――何故こんな犯罪行為をする傭兵団を作り上げたのですか? 貴女が副長ということは、団長の方は相当の実力者でしょう。その力を正義の為に、ハインハウルスの為に使うと誓えば、我が軍の中でもしっかりとした地位が貰えたはず。何もこちらを脅して領土を確保などしなくても」

 誰もがネレイザの救出等に頭を持っていかれる中、落ち着いていれば誰もが持ちそうな疑問をニロフは正直にぶつけた。――奇襲行為はあるとはいえ、天下のハインハウルス軍が手を焼いているのだ。真面目な協力関係を築けば、まったく違う話になっただろう。

「……私達は、自由が欲しいのよ。私達だけの、自由」

「ほう?」

「私もサンドルトも地方のスラムで育った。ギリギリの生活を送って来た。誰も助けてはくれない、自力実力だけの世界。軍なんて信じられないわ。だから、何を踏み台にしても、私達の世界を作るの」

 サンドルトが何を考えているのかは今はわからない。それでもミゼッタの奥底にある想いはそれだった。それはサンドルトとて同じと信じている。だからこそサンドルトに従い、共に戦い、犯罪行為にも手を染めて来た。

「私はその国で姫になるわ。絶対の姫、自由の姫。自分が使える人間には手を差し伸べ、いらない人間は蹴落とす」

 そして――それが、ミゼッタの夢だった。捻じれて歪んで、強く固まった夢。

「成程、中々大変な人生を歩いて来た様ですなあ。――ですが、その経験を生かして、同じ境遇の人を助けようとか、そんな世界を変える為に正義の名で戦おうとかは思わぬのですか?」

「思わない、わ。弱い人間は野垂れ死ねばいい」

「そうですか」

 意思の固さを感じた。ふーっ、とニロフは一度大きく息を吹く。

「――思い上がるなよ、小娘」

「!?」

 そして再び口を開いた瞬間、圧倒的威圧がミゼッタを襲った。

「貴様を傷付けた国が軍が何処の物かは知らぬ。だが貴様らは今、それと同じ行為をしているだけ。結局「次の」貴様らが生まれ、貴様らの国に自由など生まれはしない」

「…………」

「国だ姫だとぬかすが、我の親愛すべき友、仲間の王や姫は、そんな生温い世界では生きてはいない。計り知れない壮大な覚悟を背負い今も戦っているのだ。――貴様には死んでも姫を名乗る資格などない」

「っ……!」

 言いたいことは沢山あったが、それでもその圧倒的存在感にミゼッタは押される。謎の仮面魔導士、先程とはまるで別人。

「悪いが、我は弱きを助ける心はあっても、我が仲間達を侮辱する傷付ける物は排除するのみ」

 ピリピリ、と魔力を練り始めるニロフ。ミゼッタにも、覚悟が生まれる。――自分が勝てなくても、せめてサンドルトが来るまでは持ちこたえれば。

「私も、貴方達と分かり合いたいとは思わない。――邪魔をするなら、こちらこそ排除する」

 ズバアァァァン!――激しい魔法のぶつかり合い。ニロフとミゼッタの一騎打ちが始まる音であった。

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