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第百二十三話 演者勇者と魔道殲滅姫9

「皆、良く聞いて!」

 ハインハウルス軍第六騎士団本陣。全団員約百名を集め、団長であるアンジェラが口を開く。

「間も無くの出撃よ。作戦は全員に伝わってるわね? 私達の動きはあくまで敵を追い詰め、反対側で布陣しているライト騎士団の協力の元、一網打尽にすることよ」

 全員がしっかりとアンジェラの言葉に耳を傾けている。適当な人間など誰もいない。統率が取れている証拠であった。

「幹部クラスの敵は、私、ソフィ、ネレイザの内誰かが相手をする。勝てないと思ったら無理に挑まず、周囲と協力し時間を稼いで三人の内の誰かを呼ぶ事。無駄な負傷、無意味な死など許さない。周りに仲間が、向こう側に仲間がいる。その事を忘れないで」

 アンジェラも全員の目をしっかりと見渡す。一人一人の表情を見て、力強い言葉を続ける。

「今回で必ずやれるわ! この手に勝利を、出撃!」

「オーッ!」

 号令の共に、団員達の雄叫び。――作戦が、始まった。

「それじゃ、私は行くわ」

 号令直後、そう切り出すネレイザ。

「ネレイザ、無理はすんじゃねえぞ。お前みたいな奴でも傷付いて悲しむ奴がいること位わかってんだろ」

「アクシデント、何かあれば対応するわ。無理だけはしないで」

「馬鹿にしないで、二人共無理するな無理するなって。その辺の犯罪者混じりの傭兵団に負ける様な訓練はしてない。――タンダー、行くわよ!」

「はい」

 そう言い残すと、タンダーを連れ、力強い足取りでネレイザは隊を離れる。



「ネレイザ隊長は、団員の指揮を執らず、単独で動いた方がいいかと思います。なので三部隊にわけるのではなく、二部隊にして欲しいです」

 会議でのタンダーの意見はそれだった。

「理由を訊いてもいいかしら?」

「ネレイザ隊長が指揮を執るのが苦手というわけではありません。ですが、兵士達の動きを考えるその労力も自分の戦闘に注いだ方がより戦力になれると思います。今回臨時で、指揮を執る相手がネレイザ隊長の事を知らなかった場合尚更です」

 チラッ、とネレイザを見ると、腕を組んで、ただ黙ってタンダーの話を聞いていた。

「単独で動きたいのはわかったわ。でも今回の作戦の場合、単独だと陽動役、奇襲役、危険な役回りになるわ」

「それで構いません。自分が徹底してサポートに入ります。ネレイザ隊長が自由に動ければ、負ける事はありません。今までも、そうやって勝ってきましたから」

 相変わらず表情からは分かり辛いが、タンダーは迷いなくそう言っているのが何となくだがアンジェラにはわかった。

「ネレイザ隊長」

 タンダーはそのままネレイザの方に向き直る。

「何?」

「戦闘開始後も隊長は戦闘第一で考えて貰えますか。戦闘に集中出来るように周囲の索敵、状況判断、出来る限り自分がやります」

 そこでタンダーとネレイザの目が合う。強い目で厳しい目でネレイザがタンダーを見る。

「それで私が活躍して、作戦が成功する?」

「ネレイザ隊長の戦闘力なら」

 先に反らしたのはネレイザだった。ふーっ、と大きく息を吐く。

「わかった。そこまで言うならアンタに任せる」



「理由は邪だけど、アイツはアイツなりに何とかしようと思ってるんだな」

 ネレイザとタンダーの背中を見送りながら、ソフィが呟く。

「? どういう意味?」

「ああ、実は――」

 そこでソフィは簡単に現在のネレイザの状況を説明する。

「成程、そういう子だったの」

「マークの奴が参っちまってますよ。アイツの性格上、強く出れないもんだから」

 ソフィは苦笑。――まあ、そう都合よく兄妹揃って立派ってわけにはいかねえよな。

「ソフィ。出来る限り指揮は私が執る、貴女はネレイザに気を配って」

 一方でそう告げるアンジェラの表情は、先程よりも若干深刻になっていた。

「どういう意味です?」

「自分で今の答えに辿り着いたのならいいけど、心の何処かで「半ば仕方なく」という想いが強ければ強い程、彼女とタンダーさんの体制は崩れる。それさえ乗り越えられる実力があるから魔道殲滅姫の異名を誇るんでしょうけど……」

「――わかりました。アタシも出来る限り気を配りますよ」

「お願いね」

 そう言うと、ソフィも小走りに移動を開始。

「……何か、嫌な予感がするわね。心配性なだけで終わればいいのだけど」

 心の靄を抱えながら、アンジェラも行動を開始するのだった。



「隊長、位置的に間も無く敵の前衛部隊とぶつかります」

 移動開始から少しして、ネレイザとタンダーは先頭の更に先を率いるような位置になっていた。

「索敵出来たの?」

「いえ。ですが、辺りの地形からして、斥候なり前衛なり部隊を置いてなければおかしいです。相手がハインハウルス軍の接近に気付いてもいるはずです。第六騎士団が苦戦する相手、その位の準備はしてあるでしょう」

 この辺りはタンダーの経験の成せる技である。地図地形をしっかりと記憶、相手の規模を考えての結論である。――そして、正解を言ってしまえば、見事にタンダーの推測は当たっていた。

「先制攻撃でいいわね」

「範囲が広く、見た目分かり易いのがいいと思います。あぶり出されて逃げるも向かって来るもどちらも好都合です。向こうは真正面からぶつかろうとは思ってはいません。この周辺からの退避が目標です。ネレイザ隊長の魔法で、その考えに決定打が打てるはずです」

「わかった」

 先日までのネレイザとタンダーからすると、有り得ない現象である。ネレイザはタンダーの意見に耳を傾ける事など微塵も無かった。ネレイザは当然優秀だが、やはり若く、経験は浅い。そのネレイザに経験から来るサポートが入る。それは一般的に見て、かなり大きな差であった。

「唸れ! フレイムバーストウェーブ!」

 ネレイザが激しく広範囲の炎の波の魔法を放つ。炎の波動が勢いよく広がっていくと、

「敵だ! ハインハウルス軍だ!」

「クソッ! レベルの高い魔法使いが前衛にいるぞ!」

「囲まれたか? 連絡要員を……くっ、炎が……!」

「魔法だから直落ち着く! 今は迎撃だ!」

 慌ただしい様子で敵の前衛第一陣が現れた。その数六名。今の魔法で焦ってくれるなら、ネレイザとタンダーからすればある程度実力を測る事は出来た。

「タンダー、アンタ何人やれる?」

「……二人なら」

「なら少しでいい、三人相手して。持ちこたえる戦いでいい。直ぐに私が三人倒した後、アンタが相手してる三人も倒す」

「わかりました」

 結果導き出される作戦。無理がある作戦に聞こえるが、ネレイザの攻撃力なら可能であり、そしてそれがわかっていたタンダーも素直にその案を呑む。

「吹き飛べ!」

 作戦が決まればネレイザの行動は早かった。巨大な魔法の風の塊を何個も作り出し、敵の周囲を取り囲む様にランダムで動き回り、

「ぐほっ」

「く……くそ、こんなのどうすれば……!」

 判断を鈍らせた所で攻撃。素早く、確実にノックアウトさせていく。

「…………」

「こっちは三人だ、急ぐぞ!」

「チッ、このオッサン、何考えてやがる……!?」

 一方のタンダーは防御に徹し、ひたすら時間稼ぎ。自分が勝てなくても間も無くネレイザが勝てる。そうすれば自分も勝てる。

 初めてのコンビネーションの作戦だったが、お互いの才能を生かし、見事に嵌っていた。

「ぐああ!」

「よし……! タンダー! 行くわ!」

 そしてネレイザが相手にしていた三人を倒し、タンダーが抑えている残り三人にターゲットを切り替えた……その時。

「ライトニング・ウォール」

「!」

 ネレイザに向けて、雷系統の魔法攻撃。範囲こそ広くはないが、威力、速度、正確さ、どれもレベルが高く、ネレイザも今の行動をキャンセルせざるを得なくなる。

「たった二人で突っ込んで来るなんて、ね……勿論後方にまだ兵士はいるんでしょうけど」

 そして姿を見せる女魔法使い。――カーラバイト副長、ミゼッタである。

「女魔法使い……アンタがカーラバイトのトップね」

「……そう。そういう認識なの、ね。……まあ、それでもいいけど」

 ザッ、と睨み合うこと数秒後。

「イフリータ・サンモーション!」

「ムウラ・ボルケート」

 ズバババァン!――ネレイザとミゼッタの魔法が激しくぶつかり合う。問答無用の戦闘開始である。

「成程、私の攻撃魔法と撃ち合うつもりね、やるじゃない!」

「別に、褒められても嬉しくはないわ」

 そのまま二人の連続した魔法の撃ち合いが始まる。

(確かにそれなりに出来る人でも手こずるかもね……)

 ネレイザからしても、ミゼッタの実力は認める所である。自分と魔法の撃ち合いが出来る相手はそうはいない。

(軍も痺れを切らしてきたの、ね……今まで相手にしてきたのとは攻撃力が比べ物にならない)

 そして逆もまたしかり。ミゼッタもネレイザの実力を認めざるを得ない。

 互角の様な二人だが、厳密には攻撃力はネレイザが上。コントロール等の技術類がミゼッタが上。お互いが得意とするジャンルを上手く使う事で、五分の戦いを展開させていた。

「私は長ったらしい戦闘とか好きじゃないの。――決める!」

 先に勝負に出たのはネレイザ。より一層魔力を込め、威力でごり押しを狙う。

「……っ」

 ズババァン!――ミゼッタは応対に一歩遅れ、ついに均衡が崩れる。ダメージと共に後退。

「副長!」

「よそ見しないで。貴方達は前を向いて」

 その状況、タンダーと対峙していた三人にも動揺が走る。ミゼッタが押される相手など、見た事が無かったのだ。――と、その会話の中にネレイザは気になる点が。

「……副長? アンタがトップじゃないの?」

「そんな自己紹介は一度もしていないと思うけれど」

 確かにされていない。実力からしてトップだと思い込んでいた。それは作戦開始前、会議の時から。つまりアンジェラ達もその認識である。――なら、トップは一体……

「見ーつけた」

 と、直後そんな声が上空から聞こえた。ハッとして見れば、何処から飛んで来たのか、人間離れした跳躍でミゼッタの隣に着地する一人の男が。

「中々楽しそうな戦いしてんな?」

「別に、楽しくはないけど」

 ニヤリ、と笑いそうミゼッタに男は告げる。一方のミゼッタは呆れ顔。

「それで? 作戦は決まったの?」

「ああ、やっと決めたぜ。というか今お前等の戦いを見て決まった」

「はぁ。――さぞかし立派な作戦なんでしょうね?」

「ああ。作戦はシンプルだぜ。――こいつら全員ぶっ倒して、正面突破だ」

 そう言うと、男がバッ、と両手を左右に広げる。直後、周囲一帯が風に包まれ、外界とシャットアウトされる。

「さて、始めるかハインハウルス軍。俺達はカーラバイト傭兵団。お前等を踏み台に、この世界に名前を轟かせる集団だ」

 男は楽しそうに自信満々で、そう告げてくるのだった。

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