その日、僕は彼女に出会った
僕、佐々木幸太は秩序のあるものが好きだ。
それは幼少の頃からの性質らしい。幼稚園児の頃なんかは、色鉛筆はグラデーションを描くように整理していなければ不快で、適当に配置されて片付けられている色鉛筆やクレヨンを見ると必ず整理していた。
そんな僕は恋愛についても、きちんと正しい順序があり、ゆっくりと距離を縮めていって付き合うものだと思っていた。相手の外見だけで好きになるだなんてことは許せないし、まして一目惚れだなんて僕が法律を作るなら死刑になるような重罪だと思う。親友の聡太は、好きでもない相手と付き合うカップルもいると言っていたが、そんなのは信じられない。
「付き合ってください!」
そんな訳で僕は、名前も知らない女の子に向かって言ったその言葉を耳にしたとき、本当に自分の口から出たのか疑ってしまった。なんでいきなり告白をしてしまったのか僕には分からない。これが一目惚れか…、だなんて考えながら返事を待っている時、告白の時に自然と頭を下げて手を差し伸べる形になり、女の子の上靴の上に書いてある名前が見えた。柳さんか……。なんだか名前にも好感が持ててしまう。
しばらく待っていると
「ごめんなさい…」
そんなか細い声が聞こえて、柳さんはどこかへ行ってしまった。これが失恋なのか、なんて考えながら僕は何も出来ずしばらくその場に立っていた。
以上が、高校人生の始まりである入学式に僕の人生を大きく変えていくことになる事件である。