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学校を出てから急いで悠志は電話をかける。数回の呼び出し音の後、咲良がでた。
「もしもし――って、話はわかるけど、さっきのメールのことでしょ?」
「そうだ。緊急って事は何があったんだ?」
「んー詳しくはあたしも知らないけど学校は大丈夫?」
「心配しなくて良い。じゃあ、切るね」
悠志は電話を切ると、自転車に飛び乗った。
バスで登校するより自転車の方が時間が掛からずに、なおかつスピードが速くてもトレイターとは疑われないことがわかったためだ。
ガラガラな自転車専用道路を突っ走ること十数分で本部に到着した。
肩で息をすることもなく、平然としている悠志を見てか咲良は声をかける。
「早いわね。あたしとしては急がなくても良かったのに」
「遅れたせいで全滅しましたじゃ洒落にならんからね」
「あたしが言えた台詞でもないけど、この仕事よりも青春を楽しみなさいよ」
「……善処する」
返答を聞き、咲良は作り笑いを浮かべる。
しばらくの沈黙の後、同業者が徐々に集まり始めた。
その中に混ざって本部の人間も数名到着した。
「今回、お前らに集まってもらったのは単純だ。ゴールデンウィークにある遠征任務の下見に行っていた部隊が消息を絶った。その部隊の捜索が本日の通常業務だ。もう一つが、大事だ」
話を一度切ってから本部の人間は淡々と話しを続ける。
「消息を絶った部隊は途中で引き返してきたんだ。その理由なんだが、レベルⅣのシメーレの姿を確認したためだ。今回の任務で万が一出くわしても手を出すな。直ぐに連絡して、逃げろ」
以上、と言って本部の人間は帰り始めた。
蓮は帰り際に悠志と咲良にだけ聞こえるボリュームで呟いた。
「この前の不法侵入した学生の片割れも一応、探しといてくれ」
それだけ言い残し、蓮は脚早く帰って行った。
トレイターたちは重い空気の中、未踏破エリアの奥へ歩み進めた。
未踏破エリア内で日を跨ぐ任務であるため、リュックサックを背負っての捜索任務となった。
また、ゴールデンウィークにある遠征任務の練習もかねて、実践形式の作戦が用いられることとなった。とは言っても、ご飯を作る担当が割り振られたことと生存確認を多く行うようになっただけである。
咲良が高天原を超えたあたりで場の沈黙を破り悠志に話しかける。
「そういえばだけど、レベルⅣのシメーレ出現ってニュースあったっけ?」
「少なくとも、俺が帰ってきたとはカメラすらなかなったけど」
「成功した例しがない情報止めってことね」
最上位であるレベルⅤシメーレの出現率を考えると、実質的なトップが今回出現したレベルⅣシメーレである。
過去の戦闘でもレベルⅣシメーレの有無によって選挙区が一変することがよくある。トレイターであっても、一撃で絶命するほどの破壊力を誇る。学者たちは「シメーレが人類を掃滅することを考えて進化した姿」とまで言う。
殉職する可能性が高いシメーレが徘徊している中での捜索任務は、現場をピリピリさせる。
咲良も自重して、キャンプ地までは無言で歩いた。