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1-7

 翌日の学校。

 午前中はテストの返却や授業のオリエンテーションなどが行われ、学校の施設の説明や学校方針などが伝えられた。

 その後、クラスの大多数が教室で昼食を食べている中、悠志は食堂へと向かう。

 昼食代は経費で落とされると説明されているが、悠志はあまり嬉しそうではなかった。


 顔にはその様子を一切出さず、食堂に着くがそこには一年生の姿は一人もなかった。

 一番安いラーメンを注文し、暗黙のルールをお構いなしに席に着く。

 高校生活二日目にして食堂一人飯はいくら何でも寂しいものがある。そう悠志は実感しつつ麺をすする。


 腹が満たされたかと訊ねれば、腹八分にも満たないほどしか食べなかったが、悠志は教室へ戻った。


 教室では既にいくつかのグループが結成間近にまで迫っていた。

 トレイターの訓練学校の頃から特定のグループに属すことのない悠志にとっては眼中にない話であるが、今回は違う。


 本日の午後から行われる宿泊学習の班決めをするため、悠志は頭の片隅程度には気に留めていた。

 そして案の定と言うべきか、悠志を含む、グループに属していない生徒が固まった半が結成されることとなった。その中には昨日、悠志と電話番号を交換した光の姿があった。


 教師は今日中に決めなければならないことを言うと後は我関せずな態度をとる。

 生徒は自主的にその話をすると共に、関係のないだべりを続ける。


「織部君、夜更かししてた?」


 必要以上の話しかしていなかったこの班で、光里は悠志の目を見てそう訊ねる。


「いや、別に。普段よりは早く寝たけど」


「そうなの? クマができてたから、忙しかったのかなって思って」


「気遣いありがとう。よく気づいたね」


「え? ん、まぁね」


 声が裏返りながら光里ははにかんだ。

 その様子を見ながら悠志は話を続ける。


「宿泊学習って何するんだっけ?」


「動物園のバックヤード見学があるんだって。私、行ったことないから楽しみだよ。織部君って動物園、行ったことある?」


 少し考えてから悠志は言葉を続けた。


「行ったことはないけど、野良の動物は結構見てる」


「野良って事は織部君って家、郊外の方なの?」


「ん……まあ、そこら辺だね」


「私も郊外の方に住んでるの。もしかしたらご近所さんかもね」


「ああ、だといいな」


 悠志は光里と目を合わせないようにして呟く。

 郊外に住んでいると言っても、未踏破エリア付近のトレイターのための団地である。

 野良の動物に至っても、シメーレのことであり、今の動物園に展示できないような動物のことだ。


 絶対に正体を知られてはいけないからこそ、悠志は一般人との接し方が下手だった。考えて物事を話すことが悪いわけではないが、気が置けない友人ができるのはまだ先のことなるのは明白であった。


「そろそろ終わります。級長、あいさつ。織部は挨拶の後で俺のところまで来い」


 何事の前触れもなく担任はそう言った。

 悠志は嫌な顔を浮かべながら、挨拶の後、廊下に出た。重い気持ちを隠しながら担任に尋ねる。


「話は何でしょうか?」


「お前もわかっていると思うが、妹のことだ。入学前に早退することが多くなる旨の書面をもらったが、学校としては緊急時を除いて早退はさせないと言う事になった」


 悠志に病弱な妹が居る設定はもちろん嘘である。しかし、あからさまに、目つきを変えて悠志は応じた。


「別に学費も学力も問題ないじゃないですか。欠席より早退の方が理由としてはマシだってそちらが言ったんじゃ――」


「口答えするな。早退が多い奴を娑婆に出ても通用せん」


 わかったか、と捨て台詞のようにして担任は言うと職員室へと向かった。

 ため息をしてから悠志は教室へ戻る。席に戻るも、教室の雰囲気は先ほどよりは良い居心地ではなかった。


 まだクラスの人と関わりが少なく、ボロが出にくい現状だが、クラスの勢力図は既に決まり始めていた。SNSによる早期の友人ネットワーク構築が影響しているだろう。

 その中でも、クラスで最も影響力を持つことになることが火を見るより明らかなグループは悠志にとっては脅威だった。驚異、と言っても現状は生徒よりも親の方が心配であるが。


 その後の授業には充実感がなく、あっという間に放課後になってしまった。

 今日から部活動見学で、一人何カ所は回らなければならないという決まりになっている。


 半強制的に、かといって入れば活動は強制的に行われるため、悠志にとっては関係のないことであった。

 荷物をまとめて帰り支度をしていると、小声で話しかけられた。


「織部君って、部活する?」


 顔を上げると、光里が返事を待っていた。

 なんと答えるべきか、戸惑いながらも、悠志は答える。


「部活には入らないよ。前から部活はしてなかったし」


「そうなんだ。運動してそうな雰囲気だったから意外だなー」


「そうでもないと思うけど。月宮は部活入るのか?」


「私は……入るとしたら文化部かな。部の存続とかが掛かっている部に籍だけ置いておく感じで」


 一度話を区切ってから、光里はにこやかに悠志を誘う。


「良かったらだけど、部活動見学しない? 見るだけでも楽しめると思うし」


 やや顔を赤らめながら光里はそう持ちかけた。

 戸惑いながらも悠志は答えようとした。

 しかし、悠志が口を開いたのと同じタイミングで通知音が鳴る。


 スマホを隠すようにして内容を確認すると、緊急招集とのこと。差出人は咲良ではなく、本部からの直接的なものだった。

 スマホから目線を上げ、光里の顔を見て返事をする。


「わるい。ちょっと急用が入った。ごめん」


「いいって。明日も見学できるからね。ばいばい」


 光里は小さく手を振った。

 急ぎながらも、悠志は手を振り替えし学校を後にした。


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