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それから数分後、本部の人間の中では最も若い京極蓮が二人のもとに現れた。
「お勤めご苦労様。討伐されたシメーレを回収しに来たぞ。それと、追加の依頼だ」
「その依頼って、話題になっている大男の捜索かしら?」
「パッと出のよくわからん奴の相手をお前らになんか託せねぇよ。依頼はこの縄を届けることだ」
蓮は縄を咲良に投げ渡し話を続けた。
「高天原にそれを持って行く依頼だ。この依頼が終われば本日の任務は終わり。織部は学校に遅刻しないように、椿はバイトに遅刻しないように早く寝ろ。以上だ」
蓮は一方通行に話すだけ話すと、本部へと戻っていった。
蓮の姿が見えなくなった後、悠志と咲良は高天原へと向かった。地理的には現在、人類が取り戻した区画の最前線に位置している。
咲良がしかめっ面を浮かべながら悠志を見た。
「高天原ってあんまり好きじゃないのよね」
「そりゃ、戦死者が多いからな」
悠志が何食わぬ顔でそう言った。
咲良は納得がいっていない様子で言葉を続けた。
「そんなんじゃないのよ。神が住まう場所ってのが名前の由来って聞いて何か嫌な思いになったのよ」
「御加護って言うのじゃないか?」
「うーん――だったら戦場にはしないでしょうし」
「ヴァルハラ的な?」
「死んでんじゃないのよ!」
「神殿だけに」
咲良は無言で悠志に対して撫でるようにして峰打ちをした。痛くないが視線が痛い精神攻撃も続けてした。
「……正確には王宮だよ」
「もっとマシなことを言いなさいよ。いつもの悠志らしくないわよ」
咲良は悠志の意図には気づいていたのでそれ以上は何も言わなかった。
悠志は苦笑を浮かべながら目線を落とした。
生産性のないような会話をしていると、直に高天原にたどり着いた。
着くや否や、待ってましたと言わんばかりに職員が悠志へ近寄ってきた。
「おお、ありがとありがと」
「お疲れ様です。網仕事って言うことは近々、ここを使うんですか?」
「なんだ、聞いてないのか? 誘導班の人たちが任務で使うかもしれないって連絡が入っているんだよ」
職員は縄を受け取ると一礼して業務に戻った。
高天原はシメーレを誘い込む仕掛けとして縄を使った仕掛けを用いている。飛行するシメーレは誘い込むことができないが、地上を歩くシメーレは一網打尽できるようにできている。中に入ってしまえば、ネズミ返しの付いた落とし穴で地下に落ちる仕組みになっている。
任務が終わり、悠志と咲良は本部へと戻ることにした。
その帰り道に「大男が出た」といっていた同業者の男と出会った。
男は咲良を見つけると話しかけた。
「よう。さっきは悪かったな。あの後、大男を追いかけていったんだが、誰も出会わなかった」
「そうなんだ。疲れてるんじゃないの?」
「違いねぇ」
男の顔にも笑顔が浮かぶ。
悠志と咲良も笑顔を返し、家路へと急ぐ。
次第に同業者の姿も見え始め、本日の業務は終わり、ぞろりぞろりとトレイターたちは本部へ脚を進めた。