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1-4

 その後、悠志はバス停に向かったがバスはすでに出発してしまっていた。時刻表で次にくる時間を確認すると、どうやら一時間後のようである。


 歩いて帰る方がバスを待つより早く帰れるため悠志は「少し遅くなる」と電話で咲良に伝えて自宅である寮まで歩くことにした。


 トレイターは一般人とは違い、身体能力が段違いに高い。少なくとも、過去に実験でスポーツの大会で優勝できる才能と努力を積み重ねてきた天才アスリートと全くの素人のトレイターが熱い接戦を繰り広げられると証明されているくらいには異常な能力を有している。


 悠志も全力を出せばバスよりも速く移動することが可能だが、そこには一つの避けては通れない問題が存在する。


 ランニング程度の速さで歩いていると、目の前にプラカードを掲げている集団を発見した。集団に居るのは老若男女問わず、服装も様々だ。プラカードには「私たちは認めない」と書かれている。


 悠志は道を変えた。散々、同業者から言われ続けている「バレるな」の「誰に」の部分に当てはまる存在が目の前に居たからだ。


 反トレイター運動。シメーレが出現した当時から叫ばれ続けている。一般人にシメーレと同じ因子を体内に取り込ませるのは倫理的に間違っているから止めようというものだ。

 しかし、その理念は生まれた瞬間より破綻しており、人類が生き延びるには必要なものとして処理された。


 中には賛成の声もあるが、どれも度が超えている。シメーレを神と崇め奉る終末思想により生まれた新興宗教の出現や旧来最後のジャンヌ・ダルクと称されるトレイターの少女を現人神とする過激派組織の誕生といった社会組織が生まれたためだ。


 悠志は聞こえてくるトレイターへの罵声の数々から逃げるようにして小走りに歩いた。


 中央エリアから遠くなるにつれて、景色は移り変わっていき、自衛エリアに近くなればなるほどトレイターへの罵声もが讃美に変わっていった。


 悠志はその団体に見つからないようにして寮へたどり着いたのは学校を出て約四十分後であった。

 玄関先にそわそわしていた咲良も悠志の姿を見ると落ち着いた様子でにこやかに挨拶を交わす。


「おかえり」


「ただいま。出迎えだなんて心配でもした?」


「心配はしてない。ただ、笑顔で返ってくるかが知りたくてね」


「真顔で返ってきて悪かったな」


 悠志は遅れながらも笑顔で返事をした。

 咲良は一瞬、考えたそぶりを見せたが、その考えを捨てたように態度を変えて会話を続けた。


「ところで、クラスに気になる子は居た?」


「気になるって言っても、恋愛的にじゃないなら一人居たよ」


 その返事を予測していなかったのか、咲良は遅れながらもにやけ顔で言葉を繋げた。


「そうなんだ。どんな子?」


「連絡先を教えてって、下足箱で聞いてきた女の子」


「ふーん。それは間違いなく恋の予感だぜ。あんちゃん」


「誰があんちゃんだ」


 見る側からすると本当に嬉しそうに咲良は笑っていた。

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