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1-3

 トレイターとしての職務が終わったのは翌日の三時であった。

 発見することができたのは悠志と咲良の助けた男女二名と女性の遺体だけだった。残る男性は発見できなかったが、時間を考えると既に死亡している。


 本日の業務は成功とは言えない結果で終わることとなった。

 寮に帰宅後、悠志は今日ある高校の入学式のための準備をしてから眠りについた。


 就寝してから二時間ほどで悠志はスマホから起きろとアラームが鳴る。

 制服で身を包み、一般人の高校生だ、と自分に言い聞かせる。同業者の大人たちからやかましいほど言われ続けている言葉を復唱する。


「バレずに気にせずに」


「お、似合ってるね」


 悠志が顔を赤らめながら振り返ると、パジャマ姿の咲良の姿があった。ちゃっかりとスマホで写真まで撮っていた。


「ノックくらいして欲しいんだけど!」


「恥ずかしがりなさんな。訓練校時代からいつもしてたじゃないか」


「部屋を覗かれることじゃなくて、独り言を聞かれたのが恥ずかしいんだ!」


 ケラケラと咲良は嬉しそうな逸見を浮かべた。

 

「あたしの分まで貴重な学生生活を楽しみなよ」


「ああ――楽しむつもりだよ」


「そうテンションを下げなさんな。あたしは本心でそう思ってる」


 そうだな、と不格好ながら悠志は微笑んだ。

 そんな会話しながら二人は玄関先まで向かった。


 悠志は都市部の私立高校に進学した。

 一方で、咲良は訓練校時代から「進学するつもりはない」と言い続けていた。


 トレイターとしての能力を高めるために創設された訓練学校では勉強以外、つまるところの戦闘力に関しては咲良はトップクラスであった。

 その経緯と過去を鑑みて本部は咲良の思いを尊重した。


「行ってらっしゃい。くれぐれも設定を忘れないでね」


「わかってるよ。いつでも呼び出してくれ」


「……あたしとしては学校生活を楽しんでもらいたいからよほどのことがない限りは呼び出さないよ」


「ありがと。それじゃあ、行ってきます」


 悠志は咲良の見送りで学校へ向かった。


 悠志の高校進学において、いくつかの嘘の情報が学校に伝えられている。


 人類の天敵であるシメーレに対抗出来る唯一の存在としてトレイターが存在しているが、社会生活においては弱者である。

 昔は神とまで崇めるものまでいたが、現在ではシメーレと同じ因子を持つため怪物としての認識が強く、法でも様々な制約が盛り込まれている。


 それ故にトレイターであることを隠すことが生きていく上では必要条件である。

 しかし、平和を守る仕事である以上、いついかなる時に戦場に立つかはわからない。そのためだけに付けられたのが悠志の設定である。


 悠志には病弱な妹がいる設定となっている。学校側に嘘情報は流してあり、教師の間で浸透している。


 病弱な妹がいる設定である以上、お見舞いというイベントが無い訳では無い。そのために感染する可能性のある不治の病を患っているという、募金でもされていれば詐欺罪で捕まりかねない設定も追加された。


 万が一、妹を見せろと言われた時のために咲良は妹役として振る舞うこととなっている。


「一人の男が自分を妹扱いするのに起こらないのか?」と悠志は咲良に何度も訊ねたが、決まって返ってくる返事は「あたしとしては義妹クラスの友情は築いてきたつもりだし、誕生日は悠志の方が早いんだし打倒じゃん」と言うものだった。




 入学式が終わり、自己紹介も終え、新入生テストなるものも終わった。

 放課後になり、クラスメイトは連絡先の交換と尋問のような会話が行われていた。

 しかし、悠志は話しかけてくる人が少なかったこともあり、そそくさと家路についた。


「ちょっと待って」


 靴を履き替えて外に出ようとしていた悠志を引き留める少女がいた。


「どうかした?」


「いや、その――ちょっと待って」


 余程急いできたのか少女は呼吸を整える。気恥しそうに頬を赤らめながら少女は口を開いた。


「電話番号、交換しよ?」


 悠志は呆気に取られた。

 自己紹介の時や担任からの説明で、悠志に話しかけるもの好きは居なかった。そのため、悠志が話しかけられることなど嬉しい誤算であった。


「いいけど……そんなに急がなくても良かったんじゃないかな」


「教室だと話しづらくて。話しかけようって思ったらもういなかったから慌てちゃって。えぇと、ここに書いて!」


 少女はポケットから可愛らしいメモ帳を取り出し、悠志に手渡した。

 メモに書いてある柄を避けて悠志は電話番号を書き少女に渡す。

 

 電話番号を渡された少女は「よし」と小声で呟いた。

 雰囲気から溢れ出る天真爛漫なオーラと童顔であることが相まって一見すると中学生と見間違えるほどあどけなかった。


「ありがとう。ところでだけど、わたし同じクラスだけど、名前覚えてる?」


「……ごめん。わかんない」


「わたし月宮光里つきみやひかり。よろしくね、織部君」


「こちらこそ。よろしく」


 再び呆気に取られながらも、悠志は光里の目を見つめて言葉を返した。気恥ずかしく、ほのかに笑みがこぼれ落ちた。

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