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1-17

 トレイターたちは未踏破エリアへ移動する。


「こちら本部! 対象は内部へ向かって進行中。訓練生と難民の皆さんには既に避難を始めています。心配事はこちらがどうにかしますので、全力で討伐に臨んでください! くれぐれも、命を大事に! ご武運を」


 慌ただしくアナウンスが入る。

 トレイターは戦場へ急ぐ。


 木のシメーレはその巨体を揺らしながら内部エリアへ歩み寄る。

 悠志は頭で考えるよりも先に言葉が出る。


「咲良! 行くぞ」


「……ああ、わかった」


 咲良は後ろめたそうに返事をする。深呼吸をし再び、隊長に代わって勝手に指揮を執る。


「全員、なんとしてでも奴を食い止めるぞ!」


 咲良は叫びながら先陣を切る。

 賛同する形で、トレイターたちは攻撃を開始する。


 咲良は二刀流で斬りかかる。

 悠志も体重を乗せた渾身の一撃を打ち込む。

 

 そして、ほぼ全員が一斉にシメーレに群がった時。

 トレイターたちの後方より爆発音が聞こえる。

 刹那、目が眩む。

 頭で理解した時では既にもう手遅れであった。

 大砲の弾がトレイターに直撃する。

 防ぎきれない。トレイターたちがそう悟った時。

 蚊の鳴くような声で「たすけて」と言う声が聞こえた。




「――おい大丈夫か?」

 蓮の呼びかけで悠志は目を覚ます。意識が覚醒し五感が戻ってくる。


「大丈夫だ。問題……まあ大丈夫だ」


「そう言うのは怪我がないときに言うんだぜ」


 蓮は小突いた。

 悠志の怪我は火傷くらいで治癒の方が追いつくくらいで済んだ。


「まあその、レベルⅣとの戦闘は人類の勝利。戦術的敗北はトレイターだ」


 蓮はため息をこぼす。話すのが億劫そうに頭を掻く。

 悠志は立ち上がる。辺りを見回し咲良を探す。


「ペアなら治療室だ。まあ、元気だしアイツにとっては治る怪我だがね。さすがとしか言えねぇな」


 蓮は苦笑いをしながら呟く。いったん話を切ってから喋り続ける。


「本題に入る前に。着弾後に声が聞こえなかったか? 意識がある奴のほとんどがそう言ってんだが」


「聞こえたけど……幻聴じゃなかったのか」


「残念ながらな。まあ、詳しいことは後で情報の横流しをしてやるよ」


「いつも思ってるけど、違反じゃないのか? 情報漏洩は」


「お前には知る権利がある。俺はそう思うがね」


 蓮は力強く言う。確固とした意思があり、今考えてでは言葉ではなさそうだった。


「お前さんのペアの武器がまだ回収途中でな。話ついでに探すか」


 蓮はそう言って歩き出した。

 悠志も足並みを揃えて未踏破エリアを散策する。

 先ほどの戦闘が嘘であったかのように、森は静寂に包まれている。大砲による被害はトレイター部隊の負傷で済んでいるようであった。

 静寂な雰囲気を妨げないような声の大きさで悠志はレンに尋ねる。核心に触れていなかった面倒ごとへの言及だ。


「質問なんだけど、今回の作戦で前衛にでてた中での女性は咲良だけだった? 声的に別人だと思うけど」


「お前さんの言うとおり、声の主は咲良じゃない。アイツが出せるような声じゃないってみんな口を揃えて言っているし、本人も出したことないって言う始末だ。まあ、その、つまりあれだ」


 面倒くさそうだったが蓮は口を開く。身振りとは反して確信に満ちた力強い口調だった。


「煙のないとこには噂はでねぇからな。都市伝説の一つ、同じ顔の子供について調べなきゃいけないようだし――お、アイツの刀だ」


 話の途中で変えて蓮は小走りで歩いた。

 咲良の刀は存在自体が幻のような一品である。普通なら研究対象の品を持たせている理由を知っている者は少ない。本人ですら詳しいことがわかっていないのが驚きだ。


 蓮は刀の側に行くとやけに静かになった。後頭部を搔き、いかにも困ったと身体で示してくる。

 悠志も刀の側へと向かう。

 彼方の側にあった者は意外な物だった。


「蓮さん。これって」


「都市伝説でも笑い飛ばせない、史実があるタブーな方だな。ヒトとヒトが争っていたときでも頭がおかしいと言わしめた特攻兵期の一角。特攻兵器だろうな」


 蓮がそこまで言った代物。それは小学生くらいの児童の片腕だった。




 その後、蓮は腕を袋に詰めた。会話がなく、重い空気のままレンと別れることになった。

 悠志はそのまま治療室へ訪れた。

 治療室と言って病院ではないのでここに運ばれてくるのは怪我が軽い、もしくは自己治癒でなんとかなるトレイターが多い。


「あ、悠志! 生きてた!」


「人を勝手に殺すなよ」


 怪我さえ見なければ咲良は元気そうだった。

 悠志は怪我を見ると、嫌そうに言った。


「こんなのあたしからしたら骨折くらいなんだけどねー」


「片腕吹っ飛んだのにやけに冷静だな」


「慣れたら駄目だけど慣れみたいなもんよ。って、悠志には言われたくないんだけど」


 柄でもなく、咲良は頬を膨らませる。


 トレイターでも腕を生やす芸当はできるものではない。普通の治療ではトレイター本人の細胞から腕を人工的に作り出し、それを接合する方法をとる。

 トレイターの中でも異常な治癒力は、悠志と咲良意外にも数人いるが希少価値だ。また、それ故に、トレイターの中でも怪物扱いする者も多い。


 咲良は目線を合わせずに話を続けた。


「ごめんね。宿泊学習の途中に呼び出して」


「いいって。平和にすることが仕事だし。学生は副業見ないなもんだし」


「……そう。悠志がそう言うのなら良いけど。代わりにってのはおかしいけど、ラーメンでも奢るわ」


 咲良は作った笑顔を浮かべる。


 ふと、部屋に備え付きのテレビを見た。

 臨時ニュースとしてレベルⅣシメーレとの戦いの結果が報道されている。

 

「昨日から本日未明にかけてレベルⅣのシメーレの討伐が行われていました。この任務による死者は六名でした。怪我人は数十名に上るそうです。また、今回の戦いでは民間への被害はありませんでした。現場からの中継です――」

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