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1-14

 宿泊学習当日。

 学校では一年生たちが校門前でたむろしている。生徒たちの顔は全員が楽しみにしていたと言うわけではないようで、既に疲れた顔をしている者もいた。


 今回、宿泊学習は一泊二日。内容としては学習がメインであるがレクリエーションも多少ある。現在となっては希少な動物園の見学と校歌合唱だ。


 登校するとバスの席決めが行われていた。普通、事前に決めるべきではないかと悠志は心の中でツッコんでいた。

 主席番号派と適当派の二つに分かれていたが、最終的には出席番号派となった。よくある担任の鶴の一声による忖度と感じさせる決め方だった。


 出席番号順と言うことで悠志は後ろの方に座る。

 隣の席に座る人は悠志と話す気が無いタイプだ。一目でわかるパーティーピーポー感が溢れ出でいた。

 隣の人との会話もなく、ただただ窓の外を見て時間を潰していた。


 到着して直ぐに荷物を部屋へ下ろしてから数分間のトイレ休憩があった。

 今回、宿泊学習で止まるのは青少年の家。今となっては希少な安全に自然とふれあうことができる施設だ。


 ロビーで各クラスごと班になって並ぶ。

 悠志の班は寄せ集め感が半端なく、仲はそれほど良い者たちの集まりではなかった。悠志が話したことがあるのは光里だけだった。

 引率教師から諸注意と連絡事項を受け手から生徒は各グループで行動を始める。




 悠志としてはあまり動物園は好きではなかった。

 トレイターという仕事柄、人類に悪をなす生き物を自身の手で葬ってきた罪悪感もあってのことだが、変に元の姿の生き物に愛着がわいてしまうと命取りになりかねないからだ。

 動物園に到着し、真っ先に消毒が行われた。外部から変な病原菌を持ち込みたくないから行われているそうだ。

 旧来の動物園とは違い、完全に室内で動物は飼育されている。文明の利器を最大限にまで生かした、動物にとっての理想郷のような作りになっている。


 時代が時代故に生きている動物自体が珍しい。

 高校生たちは保育園児のように物珍しい顔をしながらガラス越しに生態を観察している。

 悠志は群衆から少し離れた位置で遠目から動物をぼんやりと眺めていた。


「織部君、見えてる?」


 横を向くと小動物的な女の子である光里がのぞき込んでいた。


「俺は見えてるけど、月宮は見えてるの?」


「んー一応、見えてるよ」


 そう言って背伸びをする。

 悠志の身長でも見えるか怪しい。


「アルパカが見えるね。なんとも言えない顔をしたムッキムキな」


「残念ながらリャマだよ」


「んー難しいね。見分けるの」


「そうだな」


 悠志から見える位置に名前と説明がされているプレートが見えていた。「本当はよく見えないんじゃないのか?」と言うのは野暮だと思い言わなかった。

 しばらくはラクダ科の動物が続き、代わり映えがしなかった。

 悠志は律儀に飼育されている順番で見ているが、他の生徒たちは飽きて別の動物を見に行ってしまった。

 リャマ、アルパカ、グアナコと続づけば無理もない。

 少なくなる人の中、光里は悠志と同じペースで動物を見て回る。

 人と積極的に関わらないようにしている悠志も、さすがに気に留めた。変に下心を持たないよう深呼吸をしてから別の動物を見に行く。


 さすが、元首都ということもあって見ることができる動物の数は多い。

 昆虫と海洋生物はいないと言っても、トレイターをしていても出会うことのないようなモデルの動物がいて悠志は驚いていた。


 そんな中、とある動物が悠志の目に留まる。

 キタシロサイという旧代では雄が絶滅した生物だ。

 希少な動物がこんな所にいる次点で――っと悠志は嫌なことを思い出す。


「絶滅寸前だったサイだって」


 悠志がプレートを読んでいると光里は話しかけてきた。

 トレイターをしているか、学者くらいしかわからないような事だろうが、レッドリストのカテゴリーで野生絶滅になっている動物が今も生きている次点でその種の本来の姿ではない可能性がある。


 よく言えば科学技術の進歩。

 悪く言えばシメーレ因子の産物。


 悠志は無言でサイを見つめていると館内の職員が話しかけてきた。


「このシロサイの絶滅が免れたのはどうしてだと思いますか?」


 気まずい時間が流れる。

 トレイター教育でシメーレ因子についての授業があった。 その中にはシメーレ因子を用いた成功例として、絶滅危惧種の動物を増やしたと言うことが挙げられている。そのことを知っている悠志にとってはどうやって言葉を返すのか難しい問いだった。


「正解は科学の進歩のおかげだよ」


 職員はそう言って生態の話を始めた。

 話の内容は旧代の事が主だった。しかし、その科学の核心を突く事は言わなかった。どうして雄がいないのに主を増やしたのか、という疑問にはうやむやにして話しを続けた。

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