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1-10

 数十分間にも及ぶ戦闘の末、シメーレは討伐された。

 討伐完了後、触手を覆っていた粘液と謎の液体は全て地面に流れ出る。

 場に静寂を訪れ、空気が一気に重くなる。

 つい先ほどまで人間だったシメーレを倒したのだから無理もない。

 咲良はその場にいる者たちに聞こえるよう言った。


「次の生存者を探すよ」


 悠志と咲良を除くその他のトレイターたちは深いため鋭気の後、顔を上げた。


 そこからはしばらく、ペアごとの行動となった。

 悠志と咲良は先ほどの隊員がいた付近の捜索を始める。


「そういえばだけど、さっきの人って一体全体、何の生物かわかる?」


「……わかんない。因子が作り出したオリジナルだと思うけど」


「オリジナルねぇ。普通のトレイターであのレベルってのはっちょっと――ね」


 咲良は察しろと言わんばかりの苦笑いを浮かべる。


「別に、気にされたいわけじゃないわよ。仕事だって割り切らないとSAN値直送だから――ってあそこ、野営跡地じゃない?」


 話を切り上げて咲良はその場所を指さす。

 駆け寄ると、確かに人が生活していた痕跡があった。


「焚き火と食事の後があるわね。わんちゃん、まだここに隊員のがいるかも」


「だと良いけど……それより、食事の後ってのが気になるのだけども」


「それこそ気にしすぎよ。あたしと同じでシメーレ食べてるかもしれないし」


「食べる人の方が少ないって」


 悠志はそう言いながらも、周辺の捜索を始めた。

 シメーレを食べることは可能である。しかし好んで食べるのは下手物食いくらいだ。別名としてジャンクフードや安い商品にも使われているがバレれば第炎上間違いなしだ。

 トレイターになる上でのサバイバル訓練で全員一度は食べたことがあるが、調理次第という味であった。とはいえ、食糧問題が解決された今となってはトレイターでも食べる人間はごく少数だ。


「探すのは良いけど臭くない? 今年の訓練生が盛んなのかしらね?」


「もうちょい恥じらいをだな。って、訓練生はここまで来ないだろ」


 生産性のない話をしていると、蚊の鳴くような音が聞こえてきた。

 悠志と咲良はその声が聞こえた付近を探すとそこには隊員に一人がいた。


「大丈夫――ってのは愚問ね」


 咲良は平常心を装って呟いた。

 その隊員の命は持って僅かだと瞬時に理解することができるからだ。一般人であれば即死、トレイターだから重体と言った具合の怪我だ。


 咲良は淡々と悠志の耳元で囁く。


「電話を頼んだわ。一応、シメーレ化したらあたしが処理する」


「――任された」


 返答を聞くと咲良は刀を抜き、隊員の元へ歩み寄る。

 悠志も電話を取りだし、連絡を取ろうとした。


「!? ちょっと待った! 」


 他人が見ても動揺した様子で咲良は悠志を制止した。

 滅多に見ない姿を見て悠志は慌てて咲良の元へ駆け寄る。

「そこの茂みに隠されてるの、多分だけどこの前の行方不明者よね?」


「……だと思う。蓮さんに電話する」


「そうしてちょうだい」


 咲良が発見したのは行方不明者の死体であった。一目でわかるくらいに姿は変わり果てていた。

 咲良が目線を合わせずに囁く。


「生き残るわよ」


 その後は時が止まったかのような静寂が訪れた。

 しばらくして蓮が到着すると、脚早く二人の元へ駆け寄った。


「お勤めご苦労さん。今日はもう上がって良いぞ」


 すまない、と重い口調で蓮は目線を落とす。

 他のトレイターが袋を持ってやってきた。

 軽く、悠志と咲良の方を見て無言で作業に取りかかる。


 しかしその時。


 誰もがお通夜の空気の中で気を抜いていたときに、隊員のシメーレ化が始まろうとしていた。

 その刹那。

 咲良が一撃。頸椎を断ち切るように刃を入れた。




 結局のところ、発見できたのは隊員四は一名を除き殉職した。生存者も精神的にも肉体的にも再起不能な状態で、下見任務自体が失敗に終わる結末となった。

 この前の行方不明事件は片付いた。が、遺体の発見によって未踏破エリアの都市伝説が実体を帯びてくるという更なる問題が浮上することとなった。


 蓮は悠志だけを呼び、今回の件について説明した。


「織部が発見した遺体だが死因は――まあ、そんな生々なしいことは言わんが、あの都市伝説は知ってるだろ?」


「部族が居るってやつですか?」


「ああ、あれが信憑性を増してきた。今後、そういったことで命令があるかもしれんが……しなくて良いぞ」


「大丈夫ですよ。それに俺たちが戦っているのはシメーレ。ヒトじゃないですよ」


「だといいが……」


「気にしすぎっすよ」


 蓮は険しい顔をしながら「椿にもよろしく」と言って本部へ戻った。

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