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その日も少年は夢を見ていた。
何度も何度も繰り返し見てきたこの悪夢の結末は少年の脳裏に焼きついている。
悪夢は他人に話すことで、オカルト的ではあるが、言霊の力により悪夢の原因が取り除かれるというが少年には効果がなかった。
そしてこの夢は明晰夢である。夢をいていることを夢の中で理解し、夢をコントロールすることができる現象だ。
しばしば明晰夢は体験したいことに数えられることがある。だが、少年にとっては悩みの種であった。
炎に包まれた森に生き物たちの足音が狂乱する。
今すぐこの夢から覚めなくてはならない。そう、少年は理解することは出来た。
しかしそうはしなかった。
少年は目線を正面に構え、向かいにいる少女を見つめる。
少女は夢の中でだけいつもと変わらない姿で少年を見つめ返していた。
現状はロマンチックな吊り橋効果を感じざる得ない。
少女は中学生であると想像が付かないほどに完成された容姿を持っている。
今の今までは屈しない精神を持っていた彼女だが、その顔は疲れ切った表情と共にやり切ったと達成感に溢れていた。
少年は次に少女の言う台詞を知っている。
台詞を言わせないぞ、と口を開こうとするが出来なかった。
「一つだけ……一つだけ、お願いがあるの」
少女は蚊の鳴くような声で言葉を紡ぐ。
「自称姉として――血の繋がりとか関係ない、私のお願い。こんなこと――こんなこと言うなんて私はいい人じゃないけど」
少年は身構えた。悪夢のストレスから少しでも逃れるために。
たったそれだけで、少しは精神が強くなる。
少女が走って少年に抱きつく。普段より力強かった。
そして少年の耳元で少女が泣きながら囁く。
「私と一緒に――」
その言葉を皮切りに織部悠志は目を覚ます。