見えた!予め言っておくが、目は無い。
秘書たるもの、この程度の壁は易々と超えねば成らぬのだ。
1 叩いて目を覚まさせ、無理やり食べさせる。
……論外。後者はちょっとやってみたいが……うん良い!マスターに「あーん」とかしてみたい! だがマスターに手を挙げるなどあり得ない。イヤ?そうゆうプレイも有ると聞く。有りか?……イヤ論外だ! 論外ったら論外!
2 デスクの横に置き、マスターが気付くまでそのまま放っておく
……堅実な方法にも思えるが、もし、気づかずに作業するマスターが何かの拍子にこぼし、大切な魔法陣を汚し、薬品に入り込んだら?「ノオオオオオオ!」と叫ぶマスターの顔が浮かぶ。ぶるぶるぶる。スライムボディが震えちゃう。却下しよう
3 後ろにそっと置いておく。その際は置き手紙も忘れずに
……これはいい案ではなかろうか。こぼしてしまう心配もなく、マスターが「腹が減ったな」なんて呟いて、椅子をギィと回転させて立とうとすればあら不思議、足元にお食事が。
待たせる事なくマスターは食事を楽しめる。
完食したマスターがゲフッとしながら、私からの手紙を読み「この字は・・・ペテクベルディか。アイツは気がきくなあ」と褒めてくれるんじゃ。
手紙には「昼食をお持ち致しましたが、集中していた様なので後ろ置いておきます。」を冒頭に、ここにきた時間、机の上に置かなかった理由。今日のメニューの総カロリーに、脳を使うマスターのために組んだ献立から得られるであろう効能をササッと書いておこうかな?
最後に「貴方のペテクベルディより」とでも書いて締めよう。うふふ
青い身体をほんのりとピンクに染めて、イヤイヤと首を振る様に全身を左右に動かすペテクベルディ。だがハッとした様に身体をピンっとする。
見た感じはプルンッだが、背筋を伸ばしているペテクベルディ。
イヤイヤ待て、と。まず私が言わなくても元々全てがマスターの物でしょうが、と。
そんな当たり前の事を再確認のように言ったらマスターが不愉快になるんじゃ。
「貴方のペテクベルディって、今更なんで……今までは違かったのか??」と眉毛をハの字曲げて、口を3の字にして、訝しげな表情をするマスターが思い浮かぶ。
だが最終的には、「貴方のペテクベルディより」という一文さえさえ無ければ問題ない!と結論付け、体内に持っていた用紙とペンをポンっと出す。
さて。と、お盆を水平に保ったまま書こうとしたところで気付き、呟いた。
「あれ?私、手が無いけどどうやって文字を・・・」
今まで一切、全く気づかなかった……口頭での伝達のみ特化されていたのか!
お盆はこぼさないように、頭を水平に保ったままだが、気分的には頭を下げてガックシと四つん這いに手を付いてる気持ちだ。
もう一度言うが、手はない。
今までそんな事にも気づかなかったのかと、青い身体を更に蒼くさせて落ち込むペテクベルディ。
ゴクリ、と無いはずの喉が鳴る。
さ、さすがです・・と。
この大役、確かに私以外のものがこなせるわけが無い。
たった1つの行動でいくつもの選択があり、その中で最善を選び続けなければならない。
……だが、だからこそやり甲斐があるというものです!
いつまでも落ち込んではいられないと気を入れ直す。
任された責任の重みがズシリとくる。 ___クッ、たかがお盆がここまで重いとは・・・
これまでの全てを思い出す。
今まで培ってきた経験の中に何か、何かこの状況を打破するヒントがあるはずです!
ペテクベルディは己が持つ力をここぞとばかりに発揮する。そりゃそうさ。ここで発揮しなきゃいつするかって話よ!
「記憶の照合・・・ソート、ソート対象。《メイデイ・オーリー》対象の音声、視界情報に該当する全てを一括適用。」
《絶対記憶》・・・ペテクベルディが持つ能力のうちの1つである。今までの見聞きした映像の記憶。その記憶は色あせる事なく、いつでも、キーとなる言語をパスとして、自由意志で取り出しが可能。保存期間は無期限。本体の消滅と共に記憶は抹消される。
今スライムは、メイデイが放った言葉が……産まれてから今までの全てが一気に駆け巡る。
その中でメイデイ情報を整理、好きなもの、嫌いなもの、何に笑うか、何を不機嫌に思うか。
趣味嗜好を、セリフやそこに乗った感情、更には表情迄も。
そして見つけた。思わず声が出る!
「見えたあ!」
カッっと無いはずの目が見開く!
『分かる、やっぱ食事ってのは楽しく、美味しく取りたいもんだよな。例えばどんなに美味しい料理でも一人は味気ないし、冷めたりしたらそれだけでなんかちょっぴり美味しくなくなるよな〜』
これだ!前者は、今は難しいにしても、後者の食事の温度。これはかなり問題ではなかろうか?
お盆に意識を向ける。
まだ温かいが、冷めはじめている。
マスターが気づく頃には、この料理が冷め切ってしまっているかもしれない。
マスターにそんな料理を食べさせる?ノンノン。そんなのナンセンスだ。
……ということは
正解は〔マスターが食事を取りたくなった時に、最速で温かい料理を提供出来るような状況を整えてマスターからのオーダーを待つ〕ですね!
提供スピードに少々難があるかもしれないが、火にかけておけば常に温かく提供出来る煮込み系や、スープ等を用意してもらい、最速で出せる環境さえ整えてしまえば最小限の不快指数で楽しんでもらえる。
ステーキ等の焼き物が欲しいと仰られたら……コースにしてしまえばいい!
前菜から始め、焼きあがる迄の間も料理を楽しんでもらえる。これは間違いない!完璧です!
そうとなれば早速行動しなければ!