守護者ユービス、満場一致で覚悟を決める。
いくつもの傷を身体中に刻む。
この傷は彼が強さを求めた見返りであり、その求める強さの対価として体に刻んだ、自分の存在を肯定してくれる存在価値であると、彼は思っている。
過去にどんな戦闘をしたのか、その傷を見れば、まるでつい先ほど戦ってあるが如く、彼は戦闘の1つ1つを覚えている。
まあ、あくまでも強者との戦いに至ってはだが…。
だからこそ、身体中に刻まれた勲章は彼がどんな生き方をしてきたかを物語っているだろう。
その一つ一つに強者達の戦い方を、技を、思いの重さを、命を___
彼の名はユービス。
体長は3メートルと22センチ。
オーガとエルフのハーフである。
オーガの蛮勇と、エルフの高潔さを持って産まれたハイブリッドだ。
驕ることなく鍛錬を積んだ巨躯は、見るものを竦みあがらせるだろう。
冷たく光るその眼差しは命を狩る狩人であると否応なくわからせてくれる。
無骨な骨格に付いた引き締まった筋肉は、想像以上のしなやかさで敵に迫る。
___ここはトレーニングルーム
具現化されたイメージがユービスに迫る。
ユービスは数値化された項目で、過去に戦った相手を再現しては復習の様に、彼らの思いを確かめるように、過去に降した相手とまた相対していた。
連戦を重ね、勝利の文字が二桁に届こうかかどうかというところで、具現化された歴戦の猛者以外の気配を感じる。
その気配には触れず、浮き上がった意識をまた戦いに沈め、目の前の相手と相対す。
冷静に、それでいてがむしゃらに相手を追い詰め、予定調和のごとくトドメを刺す。
____具現が消える
「Congratulations」
機械的な声が勝利を祝辞をあげる。
「お前に祝われてもなあ……」
先ほどまでは修羅のごとく戦っていた彼も、戦いが終われば苦笑して、システムが告げる賛辞の言葉に、一言漏らす。
「続けて戦われますか?」
システムのその問いかけに「イヤ」と応える。
「来客がきたようだ。戦闘終了だ」
「終了の合図を確認……終了致しました。またのご利用お待ちしております。お疲れ様でした、ユービス」
そう言い終わると、今までは荒野だった背景が、一瞬にして四方系の幾何学模様の刻まれた味気のない部屋へ変貌を遂げた。
その事実を確認してからユービスは虚空に語りかける。
「なんか用か?ペテクベルディ」
「気付いておられたのですか、ユービス様」
「仲間の気配くらい覚えなくてどうする。お前らを守るために強くなろうとしてるんだぞ?目を瞑ってても周りの仲間全員答えられるぞ!」
ふふんと自慢げに鼻を鳴らすユービス。
魔力経路から本人特有の魔力波を探れば目を瞑ってても出来るのは当たり前だと思うのですが……と、そう思うが、そこは声に出さないペテクベルディ。
このスライム、中々に優秀なのだ。
実はユービス、彼は魔力というものを一切当てにしていない。
そんな目に見えないものは無いに等しいと鼻で笑い飛ばし、己が肉体のみで立ち向かう。
言わば脳筋のスペシャリストである。
感覚で敵を察知し、敵味方の区別も感覚。
敵は正面から襲いかかり、腕力でなんでも殴り飛ばせると、まっすぐ敵に向かう。
魔法が構築され目の前に具現化すれば、それはもう殴り飛ばす対象である。
具現された現象はもう彼の中で魔法ではない、物体である。
目に見えるなら拳がなんとかしてくれる!それを地で行くのが彼である。
存在するならば全て力で解決できると豪語し、どんな魔法でさえ殴り飛ばし、幽霊種さえ拳の風圧でパパッと散らす。
実際その風圧に魔力が乗っているし、走るときは身体強化に魔力を回しているのだが、彼はそんなことに一切気付いてないのだ。
もちろん 仲間も彼が気付いていないことを察して、余計なことは言わない。
だってユービスの拳はすごいのだから
「仲間の気配は分かるといいぞー?なんかな?魂が叫んで来るんだ。コイツとは繋がってるってな!」
それは同じ創造主から作り出されたパスが皆に繋がってるからだ。みなのシグナルを魔力回路を通して受信出来るようになっているからだ。
だがそんな野暮なことペテクベルディは言わない。
だってユービスはみなと魂で繋がっているんだから。
だが、実はペテクベルディはそのシグナルを限りなく0まで弱く出来る。自分の性質的な問題ではあるが、仲間にも気づかれないように行動することが多いため、そう創られている。
今、ペテクベルディは最小にしていた。
それさえも当たり前のように感知出来るものは片手の指ほどもこの場所には居ないだろう。
それを当たり前のように感知するユービスには純粋と凄いと思うのだが…
「お前も早くこの頂きまでこれるといいな」
……何故か余り尊敬はしたくないものである。高笑いをするユービスを見る目は冷たい。イヤ、目はないのだが。
スライムは妙なその矛盾に苦しんだ。
一連のやり取りにハッハッハと心からユービスは笑う。
魂がそうさせるのだ。
……ペテクベルディは「精進します」と一言だけ漏らし、黙る。
魂がそうさせてるのだ。
「そうそう、それで何の用なんだ?」
「はい、マスターからの伝達事項です。『聞きたいことがある、ラボまで来てもらえないか』とのことです」
ドキリ。彼には思い当たる節があった。ユービスは跳ねる心臓を筋肉で抑える。
「ラ、ラボに行けばいいんだな?」
「その通りでございます。『あ、そうそう。少しラボが荒れているが気にしないでくれ。ユービスには関係のないことだ』ともおっしゃられておりました」
ば、ばれてる
ジル坊め、まさかあれだけ口止めしたのに俺の名前を出しやがったか。と、内心で毒づきながら冷や汗が止まらないユービス。
。
「わ、分かった。ち、ちなみに全く関係ないんだが、ジル坊はどこに?」
「ジルは昨日、少々おいたが過ぎたようで。今は懲罰房に。ジルが何か致しましたか?ユービス様」
「い、いや‥‥なんでもない」
目をつむり状況を整理。
もう逃げられない。
バレてると考えるのが自然。
ここで腹も決められないようなら身体に刻まれた勲章達に笑われてしまう。筋肉もユービスのその考えに賛成の様だ。キュっと全身の筋肉が引き締まる。満場一致でどこにも逃げ場のないユービスは覚悟を決め、スッと目を開く。
___正々堂々、いざ!
「そうか。ならばいこう。ペテクベルディ」
その目を見たペテクベルディは一瞬にしてユービスの覚悟を察知!
覚悟の間から、ジルと同じく犯人の1人であることも察知!
これからのユービスの未来を憂いながら、スライムはぷるるんと背筋を伸ばす。背筋は無いのだが。
「お供致します。ユービス様」