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ここはぼくらの秘密結社  作者: たかはしうたた
ここから始まるぼくらの秘密結社
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お前の代わりに俺が喧嘩売っといてやったよ

 自分の意識を相手の存在の中に溶かしていく。口にするのは簡単だがその行為がどれだけ恐怖を駆り立てるか。


 盆に満たされた水。そこへ一滴垂らした『黒』がその水を染め上げることがどれだけの困難か。

 オッドはその行為を幾度となく、恐怖を意識することもなく平然と行っている。が、その精神がどれだけ強固なものであっても、確実に蝕んでいいた。

 だが、行う度に効率良く侵食していくことも本能で理解していた。


 無意識下では自身の変調に気付いてはいるが、その無意識の中でさえ恐怖の一切を感じてはいない。自身の存在理由を本能で理解しているからこそ、言動とは裏腹に冷静に引き際を見極められていた。

 数多の経験で培った物が、意識の外とは言え冷静な判断をさせていたのだ。


 彼は能力の使用を誤らない。誤ったら最期、オッドという存在はただ霧散することにから。

 盆の水。混じったら最後『黒』はもうそこから取り出すことは出来ないのだから。



 オッドは潜るように侵食をしていた。広がる自身の存在を無理やり凝縮し、元素を自身の色へ染め上げようと深く相手の懐に潜る。


 オッドがダンジョンを乗っ取るときは、大きく分けて二つの工程から行う。


 1 ダンジョンの外殻を剥がす

 一つの()から成るダンジョンは階層と言う名の外殻に、その場所に植え付けた自身の存在を守らせている。個を守るために構築された城壁と言い換えても良い。それを侵食し、個から引き剥がす事で主導権を奪う。

 主導権を奪うと、その階層の魔物の意思の他、少なくない対価を支払えば環境さえも改変出来る。


 2 ダンジョンの主の意識を奪う

 ダンジョンは一つの()から成る。その者の力と時間をかけて、徐々に育ちダンジョンは階層を増やしていくが、階層……外殻がなくなればむき出しの存在のみとなる。その存在を喰らうことでダンジョンそのものを管理下に置くことが出来る。



 他にも細かな制限はあるが大きく分けてこの二つの工程でオッドはダンジョンを侵食していた。

 そして今、外殻は全て()()()()()、元となるその強大な存在の元まで来ていた。そして目の当たりにする。


「え?聞いてないんですけど。何このでかさ」


 オッドはあっけらかんとその存在を見上げる。意識の中ではあるが視覚情報を知覚しながら、いまだかつてない程に大きなその力の本流に意識を向ける。

 自身の経験を振り返っても遭遇したことがないだろうその渦は、明確な敵意、殺意をこちらに放ちながら本流を蠢かせる。


「キサマ、ガ、元凶カ……」

「おい待て待て、なんでコイツ意思疎通できるんだよ。スピリチュアルなこの空間は俺の独壇場だろ」


 精神に意識を持たせる、それは言葉で表すほどに簡単なことじゃない。事実オッドはそれ以外の全てを捨てて、その力のみを育てたからこそ出来ているのであって……生半可な力では行使するどころか糸口さえも見つけられない。存在からの感情が向けられることがあっても意思疎通をされるなど青天の霹靂であった。


「これは……無理だな」


 オッドは小さく呟く。今まで意識を向けられたことがない環境のみだったため、相手に意識があるという未知の状況はリスクが大きいと漠然と頭に過ぎり、オッドは相手取ることを早々と諦めた。無理はしない、出来ないことは出来ないとすっぱりと諦めるのがオッドのモットーなのだ。


「ヤハリキサマガ……」


 初めて行ったであろう、存在……概念のみで行う意思の疎通に早くも慣れてきたのか、徐々に流暢になる言葉遣いが殺意を、敵意を、明確な嫌悪感を乗せ、渦の本流は言葉を響かせる。


「ワタシヲ、ワタシソノモノヲ……キサマ分カッテイルダロウナ、タダデハ、タダデハ済マサンゾ。楽ニハ殺サン、貴様ノ存在モ全テ否定シテヤル」


 響く言葉には、間違いなくそうしてやると

 逃がさないと明確な意思が籠っているのがこの環境だと身体の芯まで感じる。その言葉だけでも呑まれそうになる程の本流。

 今のままではこの存在を掌握出来ないと、力関係さえも明確に感じたオッドは内心冷や汗をかく。


 が、それはそれ。これはこれ。

 相手の方が格上?知るか、と。

 だからなんだと。


「ああ、そうか。出来たらいいな。口だけじゃないことを祈るぜ、ハンッ」


 彼は気持ちだけは指を指し続ける。

 本当に口だけなのはどちらか定かではないが、オッドはペラペラと喋り始めた。


「存在が大きいからって調子に乗るなよ、今すぐお前の所に行ってぶっ飛ばしてやることに決めた。まあ、ほんとはこのままお前を食ってやってもいいんだけどな」


 出来もしないことを?ノンノン、オッドはもう心底信じ切っている。

『出来ない』ではなく『やらない』と。信じる心がパワーとなりオッドの口はより流暢になる。だって相手は格下だから。


「キサマガ、ドレホドクチヲヒラコウガ「お前の運命は決まった。俺に喧嘩を売ったんだからな」


 おいおい何を勝手に話してるんだ?まだまだ俺のターンだよ。と、言葉を被せてオッドは自分の言いたいことだけを言う。

 ずっと俺のターンだ。口を挟むな。

 力の本流から怒りの感情が一気に膨れ上がる。黒い靄が漂い始め、空間を飲み込もうと広がる。この場に長く居れば何かしらの影響が自身にも降りかかるだろうことを察し、すぐに逃げ出そう心に決めるオッド。だがまだだ。もっと言ってやらねばと口だけをペラペラと動かしてギリギリまで煽りに行く。


「ちょっと強いからって調子に乗って随分とでかく出たもんだ。上には上がいるってことをすぐに思い知らせてやる。ちょっとそこで待ってろ。今すぐお前の本体をぶっ飛ばしてやるよ」


 空間を満たす、なにやら危なげな黒い靄が身に触れるや否や、オッドはビシッと手……木の枝を本流に向けて最後の言葉を残す。


「俺の()()がな」

「ウゴアアアアァアアアア……」


 怒りを乗せたその叫び声を尻目に、ざまあみろとオッドは霧散する様にその場から掻き消えた。

言いたいことだけ言ってそのツケは人に押し付けたオッド「ちょろっ、またやろっと」

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