無防備な、その大きな背中を
「おいオッド。終わったから行こーぜ」
完全に見学モードだったオッドが角っこで親父の様に寝っ転がっていたが、面倒臭そうにイヤイヤといった感じに立ち上がる。「よっこらしょっと」まで口に出しちゃう始末。
立ち上がると、不機嫌を全開にジルをじと目で見やる。
「な、何だよ。今回はまあまあ早かったじゃねーか。まだ文句あんのかよ」
「……ふん。行くぞザk…ジル」
「お! もう雑魚って言うのやめたのか? いやー早い卒業だったぜ」
オッドは、この末っ子の成長が嬉しい反面…いや反面どころかかなり不満であった。もっと弄らせとっつーの!と言ったところである。
ジルはオッドの不機嫌な顔を見てしてやったりとニヤニヤと笑う。
「ん? もしやオッド、ちょっと認めちゃった?」と言いたげなにやけ面が目に煩い。
オッドはジルのその顔に一瞥すらくれず、前だけを見てスタスタと階段を降りる。
その横で未だニヤニヤ。早くこっちを見てこの顔を見ろよとジルはオッドから目を離さない。
2人は、”初めて“仲良く並んでダンジョン内部を歩いていくのであった。
「ジル、お前うぜーな」
「アホ抜かせ。オッド程じゃねーよ」
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〜11階層〜
「オッド、行けんのか?」
「誰に口聞いてんだよ末っ子。黙っておにーちゃんの背中を見てろよ」
汚名返上と言うのか名誉挽回と言うのか……兎にも角にも末っ子に良いところを見せたいオッドは鼻息を荒く腕まくりのポーズ。ジルの視線を背中に感じながらやる気に鼻息をフンスと荒げる。
見た目失神しているだけであってもオッド的には見せ場なのだ。見せ場ったら見せ場なのである。
ヨシ!と心で気合いを入れオッドは地に根を張る。
「『共鳴』」
根を染み込ませる様に沈める。
「ジル、見ておけ!これがお兄ちゃんの力だ!『侵食の根魄』」
そしてオッドを気を失った。「イヤ、それ一回見てるし」と呟くジルの冷たい眼差しを一身に受けながら。
体の力が抜け、まるで倒木のように倒れるオッドを横目に耽る。
「起きた時に枝の一本でも折れてたらうるせーだろうなぁ」
まるでこの世の終わりかの様に騒ぎ立てるオッドを目に浮かべながらジルは呟く。
此方に迫る魔物の気配を感じながら。間も無く彼方も気付き駆けてくることだろう。
今から無防備なオッドを守りながら戦わなければならない事に辟易とした気持ちになるが、そんな事を思っていても仕方なしと気を入れ直す。
「しゃーねーな。ケツは拭ってやるよ、おにーちゃん」
先手を打つために魔法陣を宙に描く。ジルはその淡い光に照らされながら凶暴な笑みを見せた。




