戦えない事の意味もその驚きも
オッドは戦えない。力が弱いから。
オッドは戦えない。殴る前に殴られてしまうから。
オッドは戦えない。そう創られていないから。
だが、だからこそ培ってきた物がある。戦えないからこそ得てきた物が。
彼には、様々な戦闘を見ていたと言う経験があった。戦えなくても前線に繰り出される能力故に、彼は様々な場所へ強要される様に、強者達と行動をした経験がある。
彼には、覚えているかどうかどうかでは無く、「見る」という行為を培ってきた経験が。
要するに、オッドには見えていなくても、戦闘を見る目があった。
オッドは見ていた。イヤ、何をしているかは分からないが流れを目で追う様にジルの戦闘を追っていた。
勿論安全なところから。
「ふ〜ん」
オッドはジルを見ながらどうでも良さそうに一言を漏らすが、内心驚いていた。ジルの成長に。
何度目になるだろうか。二桁に及ぶ戦闘の始まりをオッドはもう覚えてはいない。言った文句の内容さえカケラも覚えていないだろう。だがジルの戦闘は彼の記憶力が乏しいことを差し置いて尚、強烈なインパクトを与え続けた。だからこそ常に新鮮で、忘れるよりも早く育つジルの戦闘を、オッドは楽しんだ。
そしてまた相対す。十数の魔物と。
11階層へ続く階段の前、洞窟のような内部でヘラでならした様な人工的な壁はここが何か特別な場所であるかの如く。そこで待ち構える様に荒く息を吐き出す魔物達。
ミノタウルス。オーガ。ガーゴイル。スネーク……亜種なのか今までの魔物とは身体の大きさも色も全てが異なる。大きく、そして知性があるかの様に佇むその姿に今まで以上の力を感じさせる。
様々な種類の魔物がジルを睨め付ける。もちろんオッドは隅っこで存在を消して待機である。
ニタリとジルが笑う。今までの比じゃない数の暴力の前でもジルには己の糧にしか見えなかった。命を狙われる事で得られる経験値の高さが訓練のソレとは全く質が違く、その経験が自分を成長させていると、本人も気付いていたが為。
ジルが翔ける。大量にストックしていた『弾跳』の魔法をいくつも背に展開しながら一歩毎に加速を繰り返すし距離を一気に詰める。群の最後尾が佇むそこまで。
気を抜いていたのか、ジルが翔けてきた事に一切の反応を見せず拳に込められた魔力が佇むオーガの腹を貫通した。
「ガッハ」
殴られてやっと気付いたのか目を見開いてジルを見るオーガ。目を合わせることもなく空いた腹の中でまた『弾跳』を展開。身体を裂く様に青白い魔法陣が展開された所で、他の魔物達もジルの居場所が自分たちの後ろだと気付き一斉に振り返る。
「おせーよアホ」
殴った反動を利用して、展開した『弾跳』の効果で反対方向に吹っ飛ぶジル。後ろに居たミノタウルス目掛けて。
空中で器用にミノタウロスに振り向きながらジルはミノタウロスの顔を目掛けて蹴り上げる。
ただやられている訳にも行かぬとその蹴りを紙一重でミノタウロスは躱す。が、躱されると気付いた瞬間にジルはまた魔法陣を展開。
足先に展開された魔法陣に、押し戻される様に急加速。1発目の蹴りを躱し仰け反っていたミノタウロスの顔にジルの踵がめり込み、魔力で強化された身体はそのままミノタウロスの身体をズドンっと地に沈めた。
土煙が舞う。
そこにガーゴイルが空中から、スネークが地を這い挟み込む様に舞う土煙に。
牙を、爪を、ジルの小さな身体を抉るために。
トンと軽く身体を浮かせ下から迫る牙を、上から凪ぐ爪を空中で身体を寝かせながら躱し、魔法陣を2つ展開。
1つは『弾跳』。もう1つは『重力』
重力が先に働く。自分を含む全てが地面に向けて吸い寄せられる。展開した『弾跳
(バウンド)』が重力をバネにジルの身体を刎ねあげるその瞬間に『重力』を解除。叩き付けられる魔物達、別にジルだけがまだ舞う土埃から跳ねる様に飛び出た。浮き上がる瞬間魔物達の背に触れながら。
だが、土埃を囲み様子を見ていた他の魔物達が一斉に、顔を出したジルへ襲いかかる。
「よし」
敵の強さを甘く見ていたジルだったが、概ね作戦通りだと笑みを溢し迫り来る魔物達に魔法陣を展開した。
……指の数だけ。
ジルを囲むいくつもの魔法陣が光る。
「俺に向かってきても、空中で……避けれねーしさわれねーだろ?」
展開した魔法陣は10。
展開された魔法はオリジナル魔法『風舞踏』。初級の風魔法『ウィンドカッター』をいくつも絡めただけだが、絡まる風が相乗効果で倍々に威力を増し、ジルの周りを踊る様に舞う。
ジルへ飛びかかる魔物達はベクトルを変えることも出来ずその魔法に向かい、身体中を切り裂かれた。
端から削られる様に身体を削り取られた魔物達は原型を留めることなく絶えた。
ジルはそのまま自然落下で土煙に入る。風が全てを薙ぎ払い、重力で地に伏せその後体制を整えていた2匹の魔物を露わにする。
視界が急に晴れたことに驚愕の声を上げながら上を見上げる2匹は、状況を把握してすぐさま離脱をしようとバックステップで距離を取ろうとする。が、ここでジルは魔物の背に仕込んでいた『弾跳』を展開。バックステップした同じ速度でジルの方向へ跳ねてきた魔物は、その身を風の刃で切り裂かれ絶命した。
1匹だけ残った、腹に穴を開けたオーガが膝を付きジルを睨むが、ジルはそれを一瞥する。
「向って来れるなら来いよ」と挑発的な目で。
その目を見たオーガは力の入らない足に力を込めプルプルと立ち上がろうとするがままならず。そのまま血が足りなくなったのか、膝をついた体制のまま頭から地面に倒れ伏せ、生を終えた。
「ふう、こんなもんか」
ジルのその一言が、戦闘終了の合図となった。
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