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ここはぼくらの秘密結社  作者: たかはしうたた
ここから始まるぼくらの秘密結社
34/38

天秤等無い。否応も無く受け入れる。受け入れ難い現実も


屋敷には、地下にそれ専用で作られた部屋があり、今はその部屋で男爵と、飽きずにヘラヘラとおべっかを繰り返す四人の兵。四男という、いつもの顔ぶれで、この喜劇を見ていた。


男爵が街で()()()()()と言う母子二組と、既に部位が欠損し、そのまま放って置かれたのだろう。欠けた部位が壊死している数名の若い男女。息はしているのか?それさえも分からないが生きていたとしても死ぬばかりであろう。

 その彼らを主役としたこの見せ物を見ながら、四男はふと、初めて人で遊んだあの日を思い出していた。



男爵が女の奴隷を買いつけてきた。


「ふっひひ、奴隷は良い。壊れても文句を言うものが居ない」と、男爵は楽しそうに拍手かしわてを打つ。


早速買ってきた奴隷たちに手枷をし、口枷、目隠しをした状態で、広めの檻に放り込む。

何度も使われているのか、所々錆びた長剣を手に持たせて。

奴隷は状況についていけてないのだろう。ビクビクと震えながら、持たされた剣を握る。

その様を見ながら男爵は下卑た笑みで四男の隣へと近寄る。



「賭けを、しませんか?」

「…賭け?」

「ええ。この奴隷同士を戦わせるのです。双方がどちらが勝つか予想し、勝ちを当てた方が欲しいものを一つ要求できるなんて如何でしょう?」

「面白そうだ、乗った」


初めての状況に昂ぶっていた四男は、男爵のそんな申し出を間髪入れずに快諾した。


「俺は長髪の女にしよう」

「なら私は、短髪の方で」


 そう端的に取り決めると男爵は鞭を持ち、慣れた足取りで檻へ向かい、一つ鞭を打つ。

 石造りの、無骨な部屋に思った以上の音で鳴り響く鞭の音に、女奴隷たちはビクリと身体を震わせた。


「殺し合え、勝ったほうを解放しよう。やらぬと言うなら、ただどちらも死んでもらうだけだ。ふっひひ」


そう言われた奴隷達は状況を飲み込めず座り込んだままだ。動かぬ奴隷に男爵が鞭をしならせながら「殺せ!」と、唾と一緒にわめき散らす。

四男は、座っていた椅子から腰を浮かして煌々とした表情で様子を見守る。抑えられない昂揚感を何とか抑えているといった様子だ。


口枷のせいで何も言えぬ奴隷。内心何を思おうとも、彼女らにはその自由さえない。

 男爵の怒声は鳴り止むことはない。はやし立てるように「立て!」「殺し合え!」と、暗示の如く繰り返す。

その声に覚悟を決めたのか。

はたまたこれまでの辛い日々のせいで、思考を停止させ、ただ言われるがまま身体を動かしたのか、長髪の女奴隷がよろよろと剣を杖に、立ち上がった。


「よし立ったぞ!いけ!その短髪を殺せ!」



浮き立っていた腰を完全に立ち上がらせ、四男は声を荒げる。

「真っ直ぐだ!早くそのまま剣を突き出して刺せ!早く殺れえええ!」


指示を出しながら、四男は口の横に泡を浮かべ怒鳴り散らす。

その声を聞いた短髪の女奴隷が、恐怖からか体を反射の様に身体を立たせる。四男の声は、寧ろ短髪の女奴隷の覚悟を決めさせてしまったようだ。


『このままでは自分が殺られる』と思った短髪の女奴隷は、四男の声から相手の位置を把握し、錆びた剣を腰の辺りに持ち、走り出す。

そのまま、放心したまま未だ立ち尽くす長髪の女奴隷を錆びた剣が貫いた。


「何やってんだお前ええええええ!」


四男が怒鳴る。


刺された場所が悪かったのだろう。倒れた長髪の女奴隷は痙攣を繰り返しながら…やがてその命の火を消した。


 四男は勝ったら解放してやると言っていたことも忘れて、悔しくてソイツを煮える油の竈に蹴り落とした。

 イヤがる奴隷をズルズルと引きずっている時に目隠しが取れたのだろう。露わになった目が「話しが違う」と四男に訴えかけていた。蹴り落とされた後油で皮膚を焼き、苦痛の表情を浮かべた。

そんな女奴隷と、目が合った気がした。悲痛な訴えを乗せるその表情。四男は、それを見て愉悦の表情を零しながら、その場から背を向けた。


人の肉を油で熱するとこんな匂いなのか。と、今までにない興奮を覚えながら。


 興奮が収まらず、その日あてがわれた女さえも、情事の最中に首をかっ切った。

 ゴポゴポと血が溢れて、魚の様に口をパクパクとさせながら涙を流し此方に手を伸ばす。

 そんな女に構わず腰を振り続ける四男。切った首の傷に指を突っ込んでみたら、暖かい肉の肌触りが心地良く、表情が緩む。


 『もっと、もっと』と傷口を広げ、手の平まで突っ込んだところで四男は果てる。

 ふと我に返り女を見ると、涙を浮かべて死んでいた。

血の香りを楽しみながら、四男は連れてきていた兵を呼び出しその女を処分させ、満足そうに床に付きグッスリと眠った。



〜〜〜〜〜



「おがあぁあああさああああああんんんん」


その声で四男は、過去に馳せていた意識を現在に引っ張られる。どうやらいつのまにかクライマックスの様だ。

子の親らの決着が付いたらしい。刺した長剣を首から抜き、肩で息をする母が目に入る。殺された方の子が、檻の中から縄で吊るされたまま叫び声上げ泣き喚いていた。


この長剣はあの時に使われたものと同じ、あの錆びた長剣だ。血を吸いすぎたその長剣は、腹を膨れ上がらせた持主の様にその錆を以前より膨らませている。

勝った母の方も無傷では無かった。左手、左足を刺されて苦悶の表情を浮かべていた。

別の檻に隔離された子の方へと、足を引きずり血をダラダラと垂れ流しながら母は這いずる様に歩く。


「か、勝ったわ。だからお願い…息子をその…魔物の檻から出して」


檻の下には、弱いながらも肉食の魔物を数十匹と敷き詰められている。その檻の上に吊るされた子どもを開放してくれと、死闘を演じた主役は懇願する。

この母親も長くはないのだろう。同じくサビで腹を膨れ上がらせた長剣で刺された場所が、早くも青く腫れ上がってきている。この母親も最後には、身体を壊死させ転がっている者と同じ末路を辿ると、否応ながらにも理解させられる。


「ふっひっひ。叶えてやる願いはそれでいいのか?その傷、放っておいたら貴様が死ぬぞ。」


こうなることが分かっていたであろう男爵が、答えが分かっているだろうに、そんな質問を投げかけた。


「私は…構わないから、息子を開放してください。お願いします」


一つだけ叶えられる願いを、命乞いをするように希う母親。それを見る男爵の目は、どこまでも欲望に塗れたものであった。


「分かった」


喉で笑いながらそう言う男爵は、重い腰をあげ。子どもが吊るされている檻に近寄り…勝者の子どもの縄を手に持っていたナイフで切り裂いた。


「イヤアアアアアア! やめでええええええ!」



母親が叫ぶ。その声に背筋をゾクゾクとさせ、男爵は笑みを浮かべていた。

子は、食事を取ってない魔物達に貪られ、やがて骨すらも残らずその身を消した。


「さあ!()()()()()()()()! ふっひっひっひ」


子の名を叫び、涙を流しながら嗚咽を漏らす母親を、男爵は満足そうに見る。それを堪能した後、振り向き未だ泣く敗者の子を見る。


「貴様の母は負けてしまった。なので、貴様にも罰を与えねばならん」


そう言うと、泣き噦るもう1人の子の縄も切った。

「お母さん」と叫びながら落ちていく子どもに応える声は、もう無い。泣いてくれる者も居ないこの空間で、1人痛いと泣き叫ぶ子どもの声は、やがて聞こえなくなった。


「ふっひひ、ふっふ。ふっひひひひひひ」


血を垂らしながらすすり泣く母親の声が響き、それを上書きする様に、男爵は抑えきれずに笑いを零す。


それを眺めながら、いつもなら自分も興奮を感じている筈だと…なのに今日はそう言った気持ちにならず、四男は何故か落ち着かなかった。

今まで、一度たりとも思い出したことのない昔の事を思いだしたりと、妙な胸騒ぎを感じて四男は椅子に座ったままその胸騒ぎを押し殺してた。

男爵の粘りつくような下卑た笑いがイヤに鼻に付く。落ちつかない四男は、今日はもう寝ようと明日になれば全て忘れているだろうと席を立とうとした瞬間だった。


美しい、鈴の音が鳴いた様な綺麗な声が響いた。


「ふーん。こいつらはゴミね」


俺たちしか居ないはず。誰だ。何故ここに部外者が。様々な思考が一瞬のうちに浮かぶ。男爵も似たような思考を浮かべながら、その疑問を打ち払う様に声がした入り口方面へ振り向く。



そこには…その声の通り美しい金髪の、身丈ほどの銀の針を持つ少女が立っていた。

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