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ここはぼくらの秘密結社  作者: たかはしうたた
ここから始まるぼくらの秘密結社
33/38

人の命は地位より軽い


要塞の様にそびえ立つ、権力を誇示した砦。

 阿鼻叫喚が響いていたその場所から、人の声が途絶えた。


 だが、糸で体を引っ張られるように立ち上がり、フラフラとその身を揺らしながら歩くそのものたちは何なのか。


 悲鳴どころか声も上げず、開ききった瞳孔で何を見つめているのか。

 何も語らず沈黙が支配する砦の中で、引き摺るように歩く足音だけが、響く。



~~~~~~~~~~



少し過去に遡る。


この日、男爵家の屋敷の中では宴が行われていた。

 使者として訪れたのは公爵家の四男。跡取りではないが莫大な権力を持つ公爵家との太いパイプになると喜び、懐柔しようとあの手この手で使者としてきた四男を持て成していた。

女をあてがい、高級な料理や珍味、酒を用意して、宴を開く。

 文字通り、民の血税を湯水の如く使い、男爵は使者を持て成し、使者はそれを受け入れた。

気を良くした四男は、何かと理由を付けては男爵の家に訪れた。その度に行われる豪勢な宴の数々。


……実はこの使者、肩書きとは程遠いただの厄介者だ。公爵家と言っても四男でしかない男。

普段はこの様な扱いはされない。ことある事に長男、次男を引き合いに虐げられ、その度に心を腐らせてきた男である。

ただ食わせてもらっているだけのこの穀潰し……名家の生まれであるという理由のみで、自意識ばかりが膨らみ、その膨らんだ自意識が病の様に身体を蝕み、自分が兄弟の中で1番優れていると思い込んでいる。



___俺は、やれば出来る。


___俺はまだ、日の目を見ていないだけだ。


___兄弟は俺の才能妬んでいる。


俺は、俺は……


何もしていない事を棚に上げ、全てを周りの責任に押し付ける。それが四男であるこの男が今まで培ってきた生き方で、考え方である。

だが、ただ飯を食うだけの能無しでも、両親はまだ僅かな望みを託し、使者と言う仕事を与えた。



「お主に頼みがある。存じぬやも知れぬがシュバン男爵と言う男がいる。その男は、辺境伯の領土の端、という理由で、親の目が届かないのを良い事に民に重税を課し、私益を肥やす事にしか目が行かぬ哀れな男だ。この男が、法国首都に手を伸ばしてきた」


「へぇ。それで?」


「此奴は羽振りがいい。民に重税を課しているからな。だからこそ、金の亡者が集まる。だが、知っての通り、今の法王を見よ。この件で奴が齎す不利益を見逃すわけがない。たかだか男爵如きに彼が動くことはまずないが、その小金に集まった亡者共が首都で何をしでかすか分からん。その場合、巡り巡って私の友人である辺境伯に被害が及ぶ」


「…結局何が言いたいんだよ!」


痺れを切らして、四男は声を荒げる。


此処まで言っても、察する事が出来ないのか…と、公爵は顔を顰める。

確かに、彼に奮起してほしいとキツい言葉を投げかけていたが、此処まで及ばない物か、と。

公爵は、目をかけずに此処まで放っておいた自分を責めるが、今は其れよりも自分の息子に成功という報酬を与えてやりたかった。


何かが出来れば、きっとそれをきっかけに変わってくれると信じて・・・


「お主に、男爵の元へ行ってもらいたい。この手紙を預けて欲しいのだ。民への重税や、首都の商会への寄付金を取りやめる様に書いた手紙だ」


詳しい話しをしても煙たがれるだけだと、端的に最低限の情報だけを与えた。


「なんで俺がそんな使者みたいな事をしなきゃねーんだよ! 領土を任せるや、騎士団長として推薦とかあるだろうが。親父の権力ならそんくらい出来るだろ!」


また、眉を顰める。

剣の稽古もまともにやってこず、ましてや魔法の素質も兄弟で1番低い。頭を使うことに至っては、怒鳴ることしか出来ずにいる今の会話でも、絶望的なものだと分かる程情けないものだ。

運動もしてこなかったそのだらしない身体から、怒涛のごとく声が飛ぶ。


「親父。この際だから言うけど、長男だからってちょっとアイツのこと甘やかし過ぎじゃね?」


___甘やかされて育ったのはお前だ。


「アイツに任せた仕事なんか俺に任せりゃすぐに終わらせるぜ?なんであんな甘えたガキに任せてるんだよ」


___息子は良くやってくれている。人を見て土地を見て教えを守り、自分の時間を削り相互利益を確保してくれている。


「遠征遠征って部下を連れ回してその度遊んで帰ってきてんだろ。更に遠征手当?とか訳の分からん金まで勝手に使って、身分の低いものに与えてるって聞いたぞ」


___部下の信頼も厚い。居ない間、家族を養うために別途支給される給料を作り出し、部下の遠征中の士気も上げた。天晴れな対応だと現公爵の私でさえ思う。息子のおかげで、効率が上がっている。


「親父にゃ悪いけど、親父、あんた見る目がねーよ」


はあ…公爵は内心ため息を吐く。

だが、今これを言った所で彼は受け入れはしない。反発を生むだけ。これ以上息子の心が荒むことは不利益にしかならないとそれが分かっているからこその無言である。


「…お主にしか頼めないのだ。行ってくれるか?」

「……」


不機嫌な顔で親を睨む。これが答えだと言わんばかりに。


「…お主に任せたい領土がある。その領土を任せる実績づくりに簡単な仕事をして、やれる男だと評判をあげたいのだが?」


もちろんそんな物はない。口からでまかせである。

だがあるように匂わせ続ける事は出来ると考え、公爵は目の前に餌をぶら下げた。


その効果はてき面だった。


「なんだ。そう言う事か。親父も人が悪い、最初からそう言ってくれれば俺だってすぐ動くのに」


打って変わって、笑顔を咲かせながら四男は快諾した。

はあ、公爵のため息が聞こえてきそうである。


「なら早く行かないとな。親父、今から行くぞ」


手のひらを返した様に行動を移す。が、そのやる気は認めざるを得ないなと、公爵は了承を下す。


「そうか、気をつけて行け。兵を数人連れて行くと良い。人選はお主に任す」

「分かった。領地の件忘れんじゃねーぞ!」


兵の屯所向かうのだろう。走りながら、最後にこちらを振り向き領地を催促していった。


「……はあああ」


公爵は、さっきまで溜めていた息をやっと、これでもかと言う程吐き出せた。



その後、自分に似た匂いを持つ4人の兵士を引き連れ、彼は男爵領へと向かったのである。

馬に跨り、野を越え山を越え、初めての野宿に周りに八つ当たりをしながら2日程で着いた。彼は、自分の不遇に苛立ちながらも、保身を露わにした様な巨大な砦を潜り、男爵家へと着いた。


「男爵ってのはドイツだ?親父があんたに手紙を……」

「よくぞおいでくださいました!ふっひひ、さぞお疲れでしょう。立ち話もなんです、食事をご用意しておりますから、中へ」


そう歓迎され、四男は悪い気がしなかった。寧ろ心地よくすらある。今まで耐えてきたのだ。このくらいの役得があって自然と、彼は目的も忘れその話しにのる。


「飯か。確かに野宿に疲れたし美味いもんが食いたい」

「そう仰られると思っておりました。どうぞ、準備はできております。…よろしければこちらも」


そう言いながら小指を立てる男爵。すぐに察した四男を嫌な笑みを浮かべながら言う


「ほう、それは…存分に楽しませてもらおう」


一晩中楽しんだ四男は、次の日に帰路へ着く。


「あー、手紙渡し忘れたな」


帰路の中そのことに気付くが、「まあ良いか」と手紙を破き捨てた。



〜〜〜〜〜〜〜



「それで、手紙は渡してくれたか?」


屋敷に無事帰った四男にひとしきり喜んだ後、そう声をかけた公爵。


()()()()()()()()()

「そうか、良くやった」


その成功を喜び破顔する。これが息子のきっかけになってくれればと想う親心が、彼を只盲目に喜ばせた。


「それでなんだけど、町状況が変わっているか確認する必要があると思うんだ」


何事もなく仕事をこなしてきたかの様に平然な顔で、四男は話す。


「その為に足を運ぶ役目を俺がやろうと思うんだけど、どうかな親父」


公爵は思案する。

文句は垂れても行動を起こすことがない息子が自分から行動を起こすことに、何か引っかかりを感じたのだ。だが、相手が息子ということで曇った眼では、その引っかかり気付くことができなかった為に。


何か良くないものを感じとったのは四男も一緒だった。親の思考を遮る様に、不安を隠す様、矢継ぎ早に言葉を紡ぐ。


「ほら、俺がしたことだから最後まで責任を持ちたいんだ。これで変な奴に状況を見に行かせて、変わってなかったけど何も出来ずに帰ってきたなんてあったら大変だろ?その点おれは親父の息子だ。男爵如き話しを聞かざるを得ない」


今までで1番頭を使ったのではないだろうかという位に頭を使い、四男は弁明した。

その理由を聞き公爵も、四男がきっかけを見つけてきたと、先ほどまでの引っかかりを消し去り大いに喜び。承諾する。

これにより大義名分を得た四男は、頻繁と足を運ぶ様になる。


男爵家に行くたびに、まるで自分が神にでもなったかの様に振舞われるその持て成しの数々に、四男は大いに気を大きくしていく。また男爵も、出来てもいない太いパイプが出来たと、脂肪で垂れた醜い口角を上げる。

架空の利害を一致した2人は、大いに喜んだ。

そして、その宴は次第にエスカレートしていく。その中で使者は、タガを外しこんな願望を口した。


()()()()()()()()()()()()()


シュバン男爵は僥倖だった。 この四男、男爵と()()()()()()()()()()()()


「ふっひっひ。崇高な趣味をお持ちのようで。実は私も……」



この日を境に、かれらの宴は色を変えた。


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