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ここはぼくらの秘密結社  作者: たかはしうたた
ここから始まるぼくらの秘密結社
32/38

秘密結社で寛ぐ。科学者は慈しむ



ここはモニタールーム。普段は、ペテクベルディが映し出す戦闘を見て反省会や、自作のシアターを

作っては放映、鑑賞など、多目的な理由で作られている部屋だ。

普段使われているいくつもの椅子は、部屋の隅にしまわれている状態だ。その部屋に今、メイデイとペテクベルディは来ていた。

巨大なスクリーンは三分割され、今回ミッションに当たっている3チームが映し出されている。

そのスクリーンの前に堂々と胸を張り、メイデイは仁王立ちで立っていた。その偉そう態度のままペテクベルディに声をかける。


「ペテクベルディ、勇者の動向は追えているのか?」

「はい、周囲に常に目を光らせております」


キラリ、と無いはずの目を光らせてペテクベルディが言う。


「わっはっは! 最強だか超越者だか知らんが、世界の法則を破らない奴程度の行動くらい見失う訳もないか! わっはっは!」


腰に手を当てて高笑いをするメイデイ。

 高笑いを止め気を取り直しラボに映し出された3つのスクリーンを見る。


「魔王シャルロ。アイツが死んでから初めて動いたな。やっと勇者も完治と言ったところか」


そんなことを呟きながら、メイデイは勇者と魔王の戦闘を思い出していた。

命からがら勝利を収めた勇者。

その身体中に刻まれた傷を、砕けて使い物にならなくなった四肢を、四肢や顔等に刻まれた、火傷と言うには生易しい、炭と化した身体を。

火の粉舞い散る、焼け落ちた魔王の城の残骸の中、剣を突き刺し、柄で身体を支え、何とか身体を支えていたその黒いシルエットを。


その姿を思い出し、「あの怪我を1年で治してんじゃねーよ」と、心の中独り言ちりながら、ペテクベルディに指示を出す為質問を投げかける。


「分体との接続状況は?」

「問題ありません。いつでもサポートに回れます」

「いや、それは良い。映像と音声のみオン。それ以外、分体との接続は切っていい」

「よろしいので?再接続には時間と、それ相応の魔力が必要となります。いざという時に…」


「構わん。接続している魔力が勿体無い。いざという時にはお前にもやってもらうことがある。それに、あいつらはもうお前に頼らなくてもやっていけるさ。ここが俺たちの本当のスタートだ。その大いなる門出に、ナビなんかあっちゃつまらねーだろ?」


「畏まりました。接続をオフに致します」

「何かある場合はあっちから繋いでくるだろう。無いと思うがな」


フェスパイアがまさか人間を拾うことになるなんて予想だにしていないメイデイはそんな指示をペテクベルディに飛ばした。


「万全な状態ではないが…仕方ない。後一年は治療にかかると思っていたんだがなあ。流石勇者と言った所か」


未だに腰に手を当てたまま、スクリーンを見ながらメイデイは1人呟く 。


「万全を期していたら何も出来ん、魔王も居なくなり混沌した世だ。天秤は傾いている。最善が今だ…それに、もう俺が我慢出来ん」


何年耐えたかと1人オイオイと心で泣いていたら、スクリーンで動きがあった。


左端のスクリーンでは、クリシュが砦の前に立っている。近寄ってきた門番の腕をネジ切った。

「綺麗な金髪が夜に映えるなあ」等、どうでも良いことを考えながらメイデイは次のスクリーンに目を通す。


「今まで世界中を回ってきたな、何度こいつらは死地を超えてきたんだろうな。ペテクベルディ」

「記録を照会致します。クリシュ様、283回。ヒタキ様315回、フェスパイア様、12回。メイニー様ネイシー様、27回。オッド様、40回。ジルド、0回」


スクリーンではちょうど、ヒタキがナイフでシャドウウルフをサクサクと片づけていた。メイニーネイシーを守るように、己の役目を全うするその姿を、メイデイは感慨深く見る。


「ヒタキもクリシュも、最初は泣きながら命からがら俺の無茶苦茶なオーダーをこなしてたなー。あんな弱かったのに、10年もしない内によくここまで強くなってくれた」


三つ目の画面を見る。ジルとオッドが蟻から隠れている。が、オッドが騒ぎ初めた。

「あー、こりゃ見つかったな」と思いながら見ていたら、案の定見つかった。

オッドは走る気もないようだ。ジルに肩車をさせ、楽しそうだ。


「オッドは本当に変わんねーな、良い意味でぶれねーよホント。命の危機もあっけらかんと、いつの間にか乗り越える。戦えないのにな。なのに強い奴だよ」


思わずふっと笑みをこぼしながらオッドの姿を目で追う。

 なんだかんだジルの面倒も見ている様だ。本人にとってはだが。敵が迫るのをチクチクと報告している。

だがオッドが口を開く度に、ジルは体力を奪われる様ゲンナリしているのにメイデイは面白そうに目を細める。


「やっぱりジルとオッドは相性がいい。仲良くやってんじゃん」


楽しそうにジルの背中から声を上げるオッドを微笑ましく思いながら、目を移しフェスパイアを見る。


「コイツは元々強かったな。元の素材が良かったんだろう。そのせいか周りの面倒を見ることが多くなったな」


フェスパイアは今回、クリシュを立てて動くようだ。クリシュが行動方針を決める度にコロコロと表情を変える。心配そうに、嬉しそうに。

 クリシュの行動を縛らず、尊重し導こうとする姿は完全にパパである。


「絶対クリシュに父性芽生えてるだろ。変わったなお前、元は自由気ままな性格だったのにな。だが、今の方が幸せそうだぞ?フェスパイア」


 聞こえないと分かっているがスクリーン越しに語りかける。そう言うメイデイの表情も親が子を見る様であるが、それを口に出すものはここにはいない。


「マスター。椅子をお持ちいたしました。宜しければ」


座ることも忘れ、立ちつくしたままスクリーンを見ていたメイデイは、ペテクベルディにそう言われて「サンキュ」と軽く声をかけ、用意された椅子に腰掛ける。

 だが、視線はスクリーンに釘付けだ。今日という日を目に焼き付けるように、メイデイは息も忘れて見入っていた。


 メイニーレイシーが地図を見ながら「あーでもない、こーでもない」と話しをしている。

 逆さまに持った地図で何を見ているのか、とりあえず正確な道を選んだので良しとしよう。


「ヒタキが居なくてもほら、メイニーもレイシーも自分たちだけでなんとかしようとしてるぞ。何をしていいか分からなくて、2人で遊び始めることもなくなった」



 うんうんと頷きながらにこにこと妖精たちを眺める。

全てが愛おしいのだろう。メイデイは彼らの行動一つ一つを感慨深く、慈しむように。声に出して成長を喜んでいる。


 黙って独り言を聞いていたペテクベルディにふいに声がかかる。


「なあ、ペテクベルディ」

「如何様でしょうか、マスター」


スクリーンから目を離すことはない。意識さえも向けてはいないのだろう。が、メイデイは何かを確かめるように言葉を続ける。


「俺たちが培った物は決して無駄なんかじゃないよな。目標さえ朧気な、雲の上に手を伸ばすような」


画面は見つめたまま、高く右手を掲げた。

メイデイは、掲げた右手で何かを掴むように握る。


「強くなることが無駄だと思えるような高み。決して届かないと言われるだろう、バカが描くような目標。それを掴む為に俺たちがしてきた努力は決して……無駄なんかじゃない。無駄だと、誰にも言わせない」


コブシを握ったまま、メイデイは誰にでもなく言う。ペテクベルディに話しかけている訳ではなく、きっと自分のしてきたことは間違いではないと、声に出したかったのであろう。



スタートとは…言わずもがな、『始まり』である。

してきた全てがここに集約される。結果とは、始まる前にしてきた全て……即ち、メイデイが人生をかけたと言ってもいいその全てが、この瞬間から試されるのだ。

間違いがあってはならない。と、不安に駆られるのは自然であろう。メイデイもその例に漏れず、自分の今までを思い起こし、不安を隠すために自己肯定して、不安をひた隠していた。



その独白を聞いていたペテクベルディも、メイデイが私に言っていないと、自分自身に言っているのと感じていた。

だが、その言葉を耳にして、返さずにはいられなかった。

ペテクベルディは言わずにはいられなかったのだ。好意を、思いを、心の内を……


「はい、マスター。私も、いえ私たちも、同じ気持ちです」


その声を聞いたメイデイが、今まで画面を見ていた視線を外し、ペテクベルディへ顔を向ける。

少し驚いた顔をしていた。メイデイが今、何を思っているのか……その感情が読み取れぬまま、ペテクベルディは言葉を続ける。


「私は、いえ…私たちは…マスターがマスターで良かったです。私たちは、マスター以外の人がマスターなら、きっとこんなに好きになれなかった」


抑揚のない声でそう言うペテクベルディ。だがその声には何故か、嘘はないと…本心であると確信させる何かがあった。


「マスターの力になれることが、夢を一緒に追える事が、私たちは何より嬉しいのです」


メイデイはそれを聞いて黙して語らず

ペテクベルディが気持ちを語る。

今までにないその行動を、言葉を、彼は黙って聞き入る。


「私たちを産んでくれて、ありがとう御座います。私たちを信じて下さって、ありがとう御座います。必ず、私たちがマスターの夢を叶えます。だから、だからどうか・・・」


一度言葉を区切る。続ける思いを言葉に出来ず、ペテクベルディは形にならない言葉を探す。

歩んだ道を信じてほしい。私たちを導いてほしい。

どれも正解な様で、どれもその一言では間違っている様な気がして。

続ける言葉はそんなに陳腐なものでは無い。だがその全てを表す言葉は霧の中に包まれたかの様、姿を見せずにいる。


()()()()

「…マスター」


少し俯きがちのメイデイがそんなことを言う。スクリーンの逆光でその表情は見えない。

言葉を続けられずにいたペテクベルディは、敬愛する主人から出た否定の言葉に、心を砕いた。


「もういい、よくわかった・・・()()()()()()()()()()()()()()()()()


そう言うと顔をあげた。嬉しかったのだろう。少し照れた様に。だけど、歯を見せてニッと笑う顔は、気持ちが他者に寄り添ったであろう…優しい笑顔であった。


「マ、マスター」


初めて見るメイデイの笑顔に、当然の如く内心で鼻血を流しながらペテクベルディは、案の定とろけた。


「少しセンチになっていたわ。だが、うん。良かった。お前達を創れて。お前は、いや……お前達は俺の誇りだよ」

「マ、マスタ〜」


スクリーンに向き直りながら、溢れた本心の様にそんな台詞を落としていったメイデイに、内心ドバドバと涙を流すペテクベルディ。


「こうじゃねーよな。すまん、俺が間違っていた」


画面を向いている為、ペテクベルディにその顔を見えない。が、いつもの様に不敵に笑いながらメイデイは言う。


「さあ、スタートだ…楽しんでいこう」

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