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ここはぼくらの秘密結社  作者: たかはしうたた
ここから始まるぼくらの秘密結社
26/38

ストリートチルドレンは空腹に滲む月を見上げ

 砦が阿鼻叫喚に包まれている一方で、砦に囲まれたこの町にも異変が起きようとしていた。


 その異変に最初に気付いたのは……




 〜〜〜〜〜〜〜〜〜




 この町にはホームレスやストリートチルドレンが数多く存在する。囲う壁の安心感も、雨露をしのぐ屋根もなく、当たり前のように路地の裏で寝食を賄う者が。

 限りある私財。

  それを際限なく搾り取られては生活が出来ない。そんな者が達が身を寄せ合い、手に入れた食料を分け合い、時には奪い合い…かろうじて息をしている。


  今夜は満月だった。

  眩しい位の月明かりが、睡眠の邪魔になることだってある。

  そこに空腹が加われば、眠気なんて吹っ飛んでしまうことも。


「ま、ぶしい」


  細い、細い手だった。

  月を遮るように寝惚け眼で翳した手は、月の明かりさえも遮れないのか、翳した手の方が月に隠れる。



 ___ぐぅ



  お腹が鳴る


「お腹…減ったなあ」


  月の眩しさにも慣れた頃に、今日は何も食べられなかった事を思い出した。

  せっかく手に入れた食料を取られてしまったから。

  よくある事だ。でも…


「私…何してるんだろう」



 己の置かれた境遇に1人呟く。

  生まれて、物心がついてからずっと路上で生活をしていて、毎日毎日必死になって食べるものを捜して。それでも何も手に入れられなくて……


「あったかいところで、寝てみたいなあ」


 凍てつくという程でもないが、風が否応なしに体温を奪う。モゾりと体を丸めて暖をとる。


「あったかいご飯を食べたいよ…」


  夜だからか?あまり考えないようなことまで考えてしまう。

  涙で視界がボヤける。

  着古した服の裾で涙を拭い、顔もわからない両親を思い声を出す少女。


「おどーさ゛ん…おがーざん。たずけで」


  涙がとめどなく溢れる。

  鼻声で希うその声は、ただ虚空に消えた。


「ひっぐ、ひっぐ」


 ___ぐぅ


「 ああ、こんな時でもお腹はなるんだな」と現実に引き戻され、もう一度涙を裾で拭う。

  鮮明な視界にまたもや月が輝く。空腹から意識を逸らそうと、月をゴロンと眺めた。


「え?」


 少女は不意に声を漏らす。先ほどの独白なような呟きではない。驚愕に彩られた声。


()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()



「なに・・これ」


 そこから、シミが広がるように、寄り添う星達も徐々にその姿を隠していく。

  眩い夜空が、闇に染まっていく。


 ふいに背後から声がした


「ほう、運が良い。お前が1番最初か」


 急に聴こえた男性の声。

  驚きつつも後ろを振り返るが…そこには誰の姿もなかった。





 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜






「クリス嬢も成長したものだ。ああ言うものは何度見ても良い……昂ぶる」


  男は夜空を眺めながら呟く。

  空に浮かび、月と町の丁度中間に位置するその場所で。

  クリシュの成長を肌で感じ、それを歓ぶ感情が全身を震わせる。


「…ああ、堪らない。あんなに楽しい声を聴いては、抑えきれないじゃないか」


  常人には聴こえないであろう距離だが、男は聴いていた。

  砦から発せられる叫びを、恐怖を、彼らの断末魔を。

  協奏曲でも聴くようにその声に耳を傾ける。重なり合う命の最後を聞くたびに、高揚を抑えられず……


「私も、()()()()()()


 両手に禍々しい何かが纏う様、魔力を練る。

 そして発せられるキーワード。


「『ブラックシンクまれ』」


 小さな…ビー玉よりも小さな黒が掲げた両手の先に現れる。


フォールちろ」


  黒が広がる。小さな黒が根の具を塗りたぐる様に徐々に広がる。飲み込む様に黒は町を覆い尽くす。


「ふむ、殊勝な少女だ。こんな夜更けまで月を見上げるとは。だが、その幸運を喜べ」


 男が発動した能力を驚愕の表情で見る少女の背後に立ち、男は声をかける。


「ふむ、運が良い。お前が1番最初か」


 声はかけてやった。後はこの状況が終わった後に何を望むか。

 愚かな人間が下す決断に想いを馳せながら、男は狩りを楽しむ事にした。

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