砦は、夜を楽しむ
ふぃー。まさか砦番程度の俺たちにも酒が毎夜の様に振舞われるなんてなぁ。宴を催したその残りらしいが、こうやって週のほとんどを酒を飲んで仕事が出来やがる。
「おう兄弟、今日もやってるか?」
砦の上で月を見ながらしっぽりやっていた俺に、そうやって声を掛けてきたのは、良く一緒に酒を飲む相棒だ。
「当たり前じゃないか、こんな上等な酒が毎日タダで飲めるんだぜ?ここで働きゃ毎日が天国ってもんよ」
民はその度に全てを搾り取られてるかもしれないがな。私兵にはこうやって毎晩の様に甘い蜜をすすらせてくださる領主様にゃほんと頭があがらねーぜ。
「ハハッ、ここで働けて毎日がハッピーじゃねー奴なんかいないわな。それにしても今日の酒はまた格段と美味いな」
「知らねーのか?今日は何だか首都からお偉いさんが来ているらしくてな。お偉いさん用に出された酒の残りが俺たちにも回ってきたらしいぜ」
「だからか、毎日お偉いさんが来てほしいものだ、ハッハッ。なら今頃はお楽しみ中ってやつか?」
「そうじゃねーの?噂でしか知らんが、まあ俺には分からん趣味だし、民がどうなろうと、どうでもいいだろ」
「それを砦番のお前が言うのか?」
「実際、お前も思ってるんだろ?」
「実は俺もだ。毎晩こうやって酒を運んできてくれるならそれでいい」
ハッハッハと2人は笑い合う。砦の上でどちらからと言うわけでもなく、持っていたグラスを傾けあった。
ふと、門を見た。夜も更けているというのにこちらに歩いて来るものが見える。
「おい、誰か来たぜ。酔ってるせいか良く見えない」
「ん?あー、女か?多分ガキだぜ。大方どっかの村で食い扶持減らしで捨てられたガキだろ」
「そうか、どうせ入れないのにな。いや、でも今夜の門番は・・・へっへ。あのガキも可哀想なもんだ。助けを求めにやってきたその場所で、また助けを求める事になるだろうよ」
「おい、俺たちも行こうぜ。せっかくだ。頂けるもんはいただかねーと」
「ったく・・・なら急がねーとな。アイツに壊されちまう」
2人は顔を見合わせ、我先にと門へと走った。
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はあ、今日はいい酒が振舞われてるのになんで俺が門番なんてやらにゃいけねーんだよ。ったくやってらんねーよ。仕事?酒飲んで女かっくらって……その為に生きてるのにその酒も、女もねーこんな事にやる気でるわけねーだろ。死ね。全員死ね
品の良い酒を飲んでる非番の仲間の事を考えると、どうしても卑屈になってしまう。不機嫌を顕に、彼はブツブツと独り言ちる。
そこへもう1人の門番が話かけてきた。
「何眉間に皺寄せてんだよ」
「ああ?うっせーな何でもねーよ」
「わかる、分かるぞ。アイツらが酒飲んでんのに門番なんかやってらんねーよな」
「ッチ。分かってんなら一々聞いてくんな」
八つ当たりをする男に、ニヤニヤともう1人が語り掛ける。
「おい、これ見ろよ」
「おまっ、それ」
男はニヤニヤと、懐から今日皆が飲んでいる酒を二本取り出した。
「くすねてきたんだよ。今日お前と門番だって知って一緒に酒を飲もうと」
その酒を見た途端一気に上機嫌になる男。
「やるじゃねーか! おい一本くれよ」
「ほらよ」
投げる様に渡された瓶をキャッチすると、お礼もそこそこに飲み始める
「カーッ、やっぱ良い酒は違うぜ。酒精も強い。こりゃ良い感じだ」
「だろ?感謝しろよオイ。お前が不機嫌になるのを見越してかっぱらってきた俺のファインプレーに」
「勿論だぜ、おいお前もやれよ。今日は楽しい仕事になりそうだ」
そんな話をしながら、2人は乾杯をして瓶のまま酒を煽る。
打って変わって楽しい時間になった事で、酔いも手伝い、男は更なる欲望を口にする。
「あー、これで女でもいたらなあ」
「おいおい、流石にそれはくすねてきてねーぞ」
「分かってるって。ただの願望だ願望」
「まあまあ、今日の所は酒で勘弁してくれや」
「まあな、女の方からこっちに来てくれるんなら未だしも、俺たちから行くことはできねーからな」
2人は酒を飲みながらそんな話をしていた。グビリともう一口飲み込む。
「プハーッ」と息を吐くと強い酒精が喉を通り抜け、後味をもう一度楽しませてくれる。
カーッと2人で喉の熱さを声に出し、生きているこの瞬間を楽しんだ。
___ジャリ、ジャリ
誰かが歩く音が耳をかすめた
___ジャリ、ジャリ、ジャリ
大きくなる足音。なんとなしにそちらへ振り向く。
金髪の美しい少女が歩いていた。




