ダンジョンに根を張る
「ここがダンジョンか、初めてきた。ちょっと森と雰囲気違うな」
ジルはダンジョンの洞穴前でキョロキョロと周りを見渡す。ここだけが違う空間の様な雰囲気を感じ取って、物珍しいのか興味の色をのせた瞳で。
「うわっ、お前が来たかったのってダンジョンかよ。……じゃーな俺は帰る」
「最初っからダンジョンに行く予定だったろうが! これ博士からのオーダー!」
「え? これ夜のピクニックじゃなくて旦那のオーダーだったの?」
「最初からそういう話でここに来てるっつーの!」
「まじかよ、ならやらない訳にはいかないじゃんか。うへー。光合成はしばらくお預けかよ。あーやだやだ」
「はあ、分かったら入るぞ」
片方は溜息をつきながら、片方はトボトボと……今からが本番なのに、やる気を感じさせない選手入場を果たし、月夜に照らされた二人は、暗闇に溶けるようにダンジョンの内部へと入った。
「こっからは地図も何もない。しらみつぶしだぞ」
「まじかよ、ジルお前何とかして秒で終わらせろよ」
「出来るわけねーだろ! ……あ、そういえばペテクベルディが言ってたな。「ダンジョンに入れば後はオッドが何とかしてくれる」って。あれどう言う意味だ?」
オッドの事を全く知らないジルはそう聞く
「うわ、ペテクベルディ俺頼みにするつもりなのか? やだよ疲れるから。お前末っ子だろ? お前が末っ子らしく頑張ればいいだろ」
「だから出来ねーって! つーか任せてもいいけど俺一人なら何日かかるか分かんねーからな」
「おい、それは困るぞ。俺の日光浴何日削るつもりなんだよ」
「1週間? もしくは1ヶ月かもな。はんっ」
そう言って投げ捨てると、オッドはプンプンといった感じ
「だから末っ子と一緒に来るの嫌だったんだよ。ザコ」
「そんな事一回も言ってなかっただろーが!てかてめーのがザコだろ木屑にするぞ!!」
何があるか分からない、と言われているダンジョンで声を大にして2人は歩く
…だが
「仕方ない、背に腹はかえられぬなんて言葉があるけどこういうことか。確かに背と腹はかえられねーわ。だから俺は背も腹もいらねーって言ったのに背も腹も作られてしまったせいでこうなったんだ。あー俺の背と腹のない人生をかえせ」
とブツブツ文句を言いながら魔力を練り、発動
「『共鳴』」
根をダンジョンに刺す。地中深くへ根を下ろし 投げやりに言い放つ。
「振興のダンジョン? そんなもんが俺を止められるわけねーだろ。全部乗っ取ってさっさと終わらしてやる。『侵食の根魄』」
そう言うと、オッドは糸を切られた操り人形の如く、意識を急に途切れさせた。
「なんだなんだ? よく分かんないけど待ってればいいのか」
よく分からないが待つこと十数分
のそっとオッドが動き出した。
「新興のダンジョンじゃねーじゃんココ。無理だったわ」
「よくわからないけどお帰り。何がダメだったかもわからないけど」
「とりあえずここの10階までは完全に俺のもの」
「え?」
「よし行くぞジルサンダー、案内してやる」
そう言うとジルの背中に張り付くオッド
飲み込めないまま背中に張り付いたオッドに問いかける
「だからどういうことか説明しろよ!」
「俺の能力だよ。知らねーのか?俺の能力。ダンジョン特化。ダンジョンの情報に侵入、侵食。新興のダンジョンくらいなら全部平らげられるおもったんだけどな。ここは新興じゃねーよ。気付かれずに育ったまともなダンジョンだ。流石に一階層はまだ浅い、無理。とりあえず10階までは頂いた。トラップも魔物も全て俺のもんだ」
「なんちゅー能力…」
ダンジョンというシステムに侵入し、ウイルスの如く食い散らかすオッドの能力を初めて知ったジルは、非戦闘員でありながら何故ここに駆り出されたかを悟った。
「一階層から一気にやったから流石に疲れた。だから、そのほか全ての些事はお前に任す。気張れよジルサンダー。では出発だ。さっさと帰るぞ。ダッシュだダッシュ。10階までダッシュな」
ダンジョンの侵食に力を使ったオッドはそう言う。ジルもそんな大掛かりな事をしたオッドに「勝手に歩け」とは言いづらく、仕方なしに背負って歩き出すのであった。
背中に張り付いたオッドをチラリと見る。
「くそ、俺…全然じゃねーか」
ボソリと呟いたその言葉は、オッドの無駄にうるさい独り言にかき消された。
『侵食の根魄』
一体化した対象を侵食し支配する。存在を食らう魔法。
侵食された対象は、術者の意識の支配下となり、自我は完全に消滅する。術者が支配から手放した後も自我が戻ることはない。
侵食時、術者が侵食される可能性も有り。術者の精神力依存。
広範囲の侵食で自我が飽和し消え去る危険有り。術者の精神力依存。
 




