夜も更けてきたし会議を開こうか、忘れてたわけじゃ無いんだけどね
「えーー。ごほん。早速会議をはじめる」
先ほどまでのやり取りはなかったことになったのか、みな、ラボで各々に寛ぐ姿勢を取りメイデイの話しを聞く態勢を取っている。
普段は作戦ルームを使うのだが、ラボで制作に取りかかっていた魔具の制作を急いでいたこと、緊急収集という理由。
その二点の理由から作戦ルームでの集合はせずにラボでの作戦会議となった。
そう、今回はあくまでも緊急収集だったのである。
ゴホンと、咳払い一つで全てなかったことにするには、かなり無駄な時間を費やしたが‥‥‥今そのことを追求するのは更なる浪費。
みながみな、心を一つにし、なかったことにした。
「集まってもらった理由はペテクベルディから聞いているか?勇者が行動を起こそうとしている。何かを見つけたらしい。それで、何を見つけたかだが‥‥‥ペテクベルディ」
「はい、映像化致します」
そういうとラボの壁にホログラムが映し出される。
「これは、密偵から得た情報を整理し、私の方で少々手をくわえましたが、勇者一行が向かうと思われる方向を地図に反映したものでございます。」
大陸が映し出される
勇者が拠点としている国、イリスタ法国。其処を中心に据えた世界地図だ。
勇者のデフォルメキャラがピョコンと出てくる。牙をはやして、法国に滞在している様子。酷い笑顔である。
「うん分かったわ、あの赤く光ってる方向に行こうとしてるのね」
法国から、南東に広がる赤く光るデンジャーゾーン。クリシュは、それが勇者の行動範囲だと予想した
「その通りです、クリシュ様。勇者は南東に行くようです。密偵からの情報によると、法王からの命で。との事で。」
「ふむ?法王?それはまたなんとも。彼奴は只の飾りな筈だが」
「さすが引きこもり……その情報古いわよ、去年、法王の座に息子がついたわ。何でも、かなり面白い性格をしてるらしいわ」
「面白い?と言うと」
「まず、上層部の入れ替えから始まり、国教以外の首都での布教の禁止、国教であるイエスタ教の司祭、大司祭も総入れ替えされたらしいわよ。だけど流石に神託の巫女迄は入れ替えにならなかったみたいだけど。更に国政の見直しという名の改革に、他国からの輸入、自国からの輸出の制限。それに伴う国内で新事業の立ち上げで新しい雇用を作り出してるわ。その反面、国外からの人員の受け入れは積極的にやっているわ。国を移す、という条件を受け入れるのなら全面的にバックアップしてくれるって話もチラホラ聞くわね。まだあるわ・・・法王自らが・・・」
「待て、クリス嬢」
「何よ」
「それをたった1人の人間が、一年でやったと言うのか?」
「ええ。残念ながら、そうよ。面白いでしょ?」
フェスパイアは眉を顰める。
明らかにおかしい。人間の限界を超えている。今までの体制を崩すだけでも至難である。
それを当たり前のようにこなながらそれ以外の改革を同時に進めるなど、どれだけの器量があろうとも土台無理である。
これは、裏がある
フェスパイアは、新しい法王が要注意人物だと心に刻む。
「その者の情報は?」
「残念ながらないわ、名前と年齢、性別なんかそんな表面上なものでいいならあるけど?ほしいのはそうゆうものじゃ無いわよね?」
「これは……急ぎ調べた方がいい。必ず、我らの活動の邪魔になる」
そういうフェスパイアにメイデイが同意する。
「やっぱか?俺もそう思って法王の情報はかなり力を入れてはあるんだ。だが今は法国に入国すること事態が難しい。今の所、元からいる密偵以外の外部からの接触は全て門前払いときたもんだ。入国さえ出来てないんだわ」
また、フェスパイアは眉を顰める
「それは、まさかだが・・ふむ」
「うん、多分審査の時点でバレてる。だがそのカラクリさえまだ分からん」
「今ある法王の情報、これは何年も法国に住む物から仕入れた情報よ。実は民でも仕入れられるレベルの情報なのよ。これ」
「情報に力を入れていたのはあくまでも勇者に対するものでなあ、法王関連となるとコミュニティが若干ズレる、というか……ぶっちゃけ法王なんてどうでも良かったから、その周辺に仕込みを入れてなかったってね。こんなことになるなんてなあ」
クリシュの説明を受け継ぐ様にメイデイが続きを喋る。過去の自分を悔いる様に。
だが、目線を伏せがちだったメイデイがニタリと笑い、皆のいる方へと目を向ける。
「まさかだろ?思いもしなかった」
楽しそうに……ほしいものが手に入った子どもの様に目を輝かせる。
「こんなん、テンションあがらね?」
皆がメイデイを見る。
「壊れないおもちゃだよ。勇者だけじゃなかったんだ。俺が、俺たちが全力をだしてもまだ何も出来なくて、どうするか迷って、悩んで・・・まだあるんだよ。本気を出していい相手が」
語りかける様に、それでいて力強く。
「それって最高じゃね?コイツも、壊す気でやってやろう」
ニヤリ
メイデイは嬉しいのだろう。
それがありのまま出ているその笑顔に、ペテクベルディが、フェスパイアが、クリシュが、オーズが、ヒタキが、メイニーが、ネイシーが、心を震わせる。
皆が頷き、口々に言葉を紡ぐ。
「メイデイ様のいう通りだわ! やってやるし!」
「うむ、まさかこんなに面白い事になっていようとは、腕が鳴る」
「メイニー頑張る!」
「ネイシーも負けない!」
「ぜん・・・ぶ・・たいお・・う・・する」
「俺の手の数を見ろよ、コレだけあれば寧ろ何が出来ないのってな。王様って言えばそう言えば・・・」
「マスター、あなたの……仰せのままに」
ちなみにジルは鼻ちょうちんを作って寝てる。
ヒタキが気付き、ポカりと小突くまで後5秒
……ぽかっ
「イテッ」
「テンション上がったろ?話を戻そう」
大声でメイデイが話を戻すように手を叩く。そして、話の急所を突く。
「そんで、その噂の法王の命で勇者は何をしに、どこへ行くと思う?」
「それは……ヤな予感しかしないわね」
「ふむ、なんともまあキナ臭い話だ」
「メイシーね!きな粉大好き!」
「ネイシーはね!ネイシーはね!あれが好き!甘いヤツ!」
「俺?やめてくれよ。俺に質問を振るな、質問で返ってくるだけだぞ」
事の重大さを理解した者や何も分からないもの。きな粉が食べたくなった子がいたがその中で、ペテクベルディが口を開く。
「それについては方角から、予測をつけておきました。法国から南東にあるもの、すなわち勇者一行が向かう方向には捨て置けないものが2つありと、調査が上がっております。」
「やるな、それは何だペテクベルディ」
「はい、申しあげます。1つは、最近になって発見されたと言われる振興のダンジョン『浮世の迷宮』。もう1つは、『時計の森』にある、神代の時代に作られたと言われている最大の遺跡都市『空白の棲家』。それ以外では調べ尽くされたダンジョンなどが数種ありますが・・・そちらに勇者が向かう確率はかなり低いと言えるでしょう。」
「成る程。確かにどちらもキナ臭い」
「その2つに絞った方が良さそうね」
「そうだな。当てもなく動くなど下の下。その2つに焦点を絞ろう。ペテクベルディ、『浮世の迷宮』と『空白の棲家』の情報を出来るだけ集めろ」
「既に」
皆の手元に資料が配られる。
「流石俺のペテクベルディ」
「はうっ!ももももももったいなきお言葉!」
急に身体をとろけさせるペテクベルディにメイデイは首をかしげるが、そのまま話を勧める。
「この情報が生死を分けるかも知れない、お前ら頭に叩き込んどけよ。あ。覚えられないものは周りの人に頼る様に!」
覚えられないものが多数出席したこの会議の為に一言付け足したメイデイ。
そりゃそうだ、終始寝てるヤツにもらった資料を逆さまに持って「なるほど!」とうなづく2人の妖精、「うげ、ミミズの絵じゃん。俺ミミズってあんま好きじゃないんだよね」と文字を認識していないものが居たのだから
それ以外の者はみな頷き、資料を懐に仕舞う
「勇者の出立はいつかわかるか?ペテクベルディ」
「申し訳ございません、ですが民にも流布されている情報です。近日中であることは間違いないかと」
「なるほど。いや、気にすんな。出来ることをやっていこう」
一瞬の間、メイデイは思考する
「……よし、妨害だ」
1人で頷くメイデイ
「今回、実行部隊は3つに分ける。」
ピッと指を3つ立てる。その1つずつを折りながら説明していく。
「まず1つは『空白の棲家』の探索。探索でめぼしいものを見つけて、回収。判断はこちらでする。遺跡から発掘された物は片っ端から回収して奴らに何も渡すな。総取りだ」
「もう一つは『浮世の迷宮』の進入と、踏破だ。振興のダンジョンなら、オリジナルのダンジョンマスターがいる可能性が高い。そいつを殺し、権限を奪え。殺戮だけの簡単なお仕事だ。」
「もう一つは妨害。ペテクベルディ。勇者は今回も徒歩だな?」
「今までの行動パターンは全て徒歩です。今回もその可能性が極めて高いでしょう」
「よし、先回りする。『空白の棲家』と『浮世の迷宮』どちらに行くにせよ通らなければならない経路に、あのお人好しのガキが無視を出来ない仕掛けを作る。ペテクベルディ、その経路を割り出せ、弱者が虐げられているという情報が出回っている都市はあるか?」
「条件検索をします・・検索中。検索を終了致しました。ラッキーですマスター。一箇所だけ、適所を見つけました。」
「よし、そこに罠を張ろう。やる気出てきたわ、テンションが上がるううう」
条件が整うに連れてメイデイのテンションが上がっていく、さてやろうか。と息巻き更に言葉を続ける。
「メンバーを発表する、己が力を存分に使って完遂しろよお前ら。『空白の棲家探索チーム』ヒタキ、メイニー、ネイシー。」
「ま・・かせ・・・て」
「メイニーがんばるからほめてね!」
「メイニーより頑張るからネイシーの方いっぱいほめてー!」
「もちろんいっぱい褒めてやるぞ、頑張れよ」
「「がんばるー!」」
「……続いて『浮世の迷宮討伐隊』ジル、オッド」
「はああ?なんで俺が、博士が行けよ。1人で行って1人で死んでこい。」
「えー、光合成できる場所ないと俺結構キツイんですけど。聞いてる?旦那めっちゃ聞いてない感じなんだけど俺の声届いてる?」
文句は受け付けないメイデイは続けて話す。
「では最後に『通せんぼチーム』クリシュ、フェスパイア」
「喜んでお受け致しますわ、マイマスター」
「ふむ、クリス嬢と同じか、楽な仕事になりそうだ」
そう言うとチーム分けを終えたメイデイは「以上! 質問は?」と続けと、オドオドと言った感じで挙手をするクリシュが「あの…」と自分の不安を口にし始めた。
「ねえメイデイ様。私たちとヒタキのところは分かるんですけど、ジルのところは結構危ないんじゃ……その……戦力的な意味ではなく」
クリシュの言いたいことは分かると頷くメイデイ。どう考えても危ない。この2人を野放しにしていいのか?と誰だって思うだろう。クリシュの言うことは至極もっともだと、頷く首は大きく振れる。
「ああ、大丈夫だ。ちゃんと手は打っているさ。もう1人、ここには来てないが……いるだろ?」
「ーーあっ!」
ニタリと笑うメイデイ
「他に質問はないか?なら以上で解散とする。各自準備をし、早速行動に移せ。ペテクベルディは俺とお留守番な? お前が居なきゃ俺が楽しめない」
「勿論でございます。貴方のペテクベルディなのですから……」ぷるんっ
「よし、解散!では検討を祈る!……行ってこい!」




