鬼ヶ島に住む鬼
初めて投稿してみます。和風退魔ものです。正直文章や描写の拙さ、表現の難しさに苦悩しております。
最後まで何とか書き上げたいお話です。
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恐ろしく不気味に赤く染まった月明かりの夜。濃い闇に埋め尽くされた森の中を、
2つの黒い影が目にもとまらぬ速さで駆けていく。
僅かに漏れた木々の間から月明かりが2つの影を照らす。
影の正体は、暗闇と同じ黒装束を着た男と女であった。
2人の表情はとても険しく、息も上がってはいたが、足を止めることなく
風のように真っ暗な森を駆け抜ける。
だがその二人の男女を追うように、多数の気配が後方から迫っている。
木々の間をギリギリかわしながら、男が女に声をかける
「皐月、隠れ家まであとどれぐらいだ。」
皐月と呼ばれた女の方は、一瞬だけ片眼を閉じて精神を集中させる。
「あと一里のところまでは来てるわ。でも……。」
皐月は自身のわき腹に染まり広がる赤い染みを、手で押さえた。
黒装束の中に着こんだ鎖帷子が破れ、皐月の白く透き通るような玉のような肌が露わになっているが、
脇腹には臓まで届くほどの深い傷から、止まることなく鮮血が流れ出ている。
いつものように凛とした表情の皐月は、長年の訓練の成果により、苦痛の表情は
おくびにもださないが、先ほどから脂汗が止まらずにいる。
意識を手放さないよう、ギリギリのところで耐えているのだ。
「くそ、あの時俺が皐月の忠告を聞いていれば、お前が怪我をすることはなかったのに。
本当にすまない」
「颯、反省はあとからいくらでもできるわ。今はこの場をどうやって切り抜けるられるか、それを
考えることに集中しない」
男の方、颯はもう一度心の中で皐月に謝罪をし、一旦思考を切り替える。
普段の二人であれば、一里程度の距離など歯牙にもかけず逃げ切れるだろう。
しかし、颯は隠れ家までの距離を正確には覚えておらず、皐月も満身創痍の身だ。
顔には出していないが、体に激痛が走っていることは、颯にも分かっていた。
急いで隠れ家にいき、皐月に治療を施さなければならない。
颯と皐月が目指しているのは、二人が所属する機関、暁が各地に用意している民家に擬装した
隠れ家だ。古い民家ということしか颯は聞いていないが、皐月曰く武器や薬もあるそうだ。
彼女は以前の任務で、向かっている隠れ家を利用したことがあるそうで、方向は彼女にまかせている。
しかし、いつもは簡単に颯を置いてけぼりにできるほどの速さをもち、神足とまでうたわれた
皐月と肩を並べれるこの現状だとどうだ。
加えて、二人の焦りや、汗と血の匂いは、確実に奴らに嗅ぎつかれている。
特に奴らは、生娘や血の匂いに敏感であり、獲物を見つけた奴らは凶暴性が増したり素早さが
あがったりするのだ。
颯は後ろの気配を探る。移動速度は自分たちと同じぐらいか、奴らの方が速い。
しかも血の匂いにつられてか、先ほどまでは数体だった気配が、十数体にまで膨れ上がっている。
状況は刻一刻と悪化していく。この状況を整理すると、とても隠れ家まで逃げ切れるとは思えない。
ならば、せめて皐月を逃がし、俺はこの責任をとらないとな。
「皐月、隠れ家まで持ちこたえれるか?」
「余裕といいたいところだけど、実際はギリギリね。いい案は浮かんだかしら」
「ああ。皐月お前は逃げろ。俺が奴らをここで抑える。僅かしか時間は稼げないから死なない程度に
死ぬ気で逃げてくれ」
俺は足を止め、後ろを振り向いた。木々の間の暗闇から目をそらさずに
腰から相棒の太刀を抜いて、切っ先を奴らの方に向ける。
あと僅かな時間で視認できる距離までやってくるだろう。
俺は、振り返らずに皐月に早く行けと叫ぼうとするが、
隣に並ぶ気配がして思わず、横を見る。
月の光を反射してまばゆく光る刀の切っ先から視線は動かさず
向こうを見つめる皐月の姿があった。そして、颯に告げる。
「馬鹿言わないで。逃げるも戦うも一緒よ。むしろ足手まといになる私を囮にしなさい」
「出来るわけがねえ。俺のせいでこうなったんだ。大体俺は隠れ家の場所は知らない。俺だけ行っても
奴らに追い付かれて終わりだよ」
「そう……じゃあ、ここで奴らを倒して一緒に帰るわよ?」
暗闇の向こうから獣の匂いやうめき声が近づいてくるのがわかる。木々にぶつかる音や
倒れる木々の間に怪しく光る赤い目。
とうとう奴らが現れたのだ。
今度は必ず彼女を守る。そう胸に誓いを立た颯は、
刀を構えなおして、鬨を上げ奴らに切りかかっていった。