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30話


 城内の廊下を突き進むウール達。道中、敵兵に行く手を遮られるが獅子粉塵に突き進む彼らに恐れる者はない。敵兵は勇気を振り絞って挑むが簡単に蹴散らされて終わるだけだった。


 こうして突き進むウールは頃合いを見計らい、率いている数十人の兵達に他の場所を調べるよう指示を出す。兵達がそれぞれ別々に走りだすとウール達もまた彼らとは違う道を走りだした。


「奴はどこだ?」


 焦りをみせるウールにベルムは「さっきのことが気になりますか?」と訊ねる。まだ他に罠があるかもしれない、ウールが不安を口にすると先頭を行くリリーが急に立ち止まり背中に背負ったハルバードを構えた。


「どうしたリリー」


「……ようやく会えました」


 戦いが始まってからリリーはピリピリとした緊張感をにじませている。しかしその言葉を機にがらりと変わる。


 殺気。


 それも息が詰まるほどのものだ。リリーが異常なほど深呼吸をしているのにウールとベルムは気づき前を見ると、その原因がはっきりと分かった。


 目の前に立ちふさがる存在。それが因縁以外に言い表せない存在、白騎士だったからだ。


「やはり来ると思っていたわ、黒騎士」


「貴様こそ死んでいないと思っていたぞ、白騎士」


 リリーの呼吸が乱れだし手が異常なまでに震えている。ウールがそばに寄り平気か訊ねると精一杯のほほえみを見せながら「平気です」とささやいた。


「魔王も一緒なのね。なんて好都合なのかしら。……と言いたいところだけどあなたを相手にするのは残念ながら私じゃないの」


 すると白騎士は道を開けウールだけ先に行くよう促した。リリーは静かにこみ上げてくる怒りをにじませるがウールになだめられる。


「なぜ私だけだ?」


「スペンサー様が生きた状態であなたに会いたがっているの。それなのに私がうっかり殺してしまったらダメでしょ?」


「ッ! 貴様――」


「落ち着けリリー。……分かった、奴はどこにいる?」


「この先を行ったところにある謁見の間よ。ああ心配しないで、後ろからあなたを殺すなんて姑息な真似はしないから」


 さあ、とキャロルはもう一度促す。リリーとベルムは不安を隠せずにいたがウールは二人を安心させ、キャロルの横を警戒を解かずに通り過ぎる。そして距離が十分に離れたとみるとウールはスペンサーの待つ謁見の間へ続く道を走りだした。


「さて、では始めましょうか。でも私が戦いたいのは黒騎士、あなただけ。そこの骨に用はない」


 するとキャロルの失った腕から炎がふき出し炎は腕を形作った。そして彼女が炎の腕を天高く掲げるとたちまち炎がリリー達の頭上を覆う。轟轟と燃え盛る白い炎、その中から熱風と共にボトリボトリと体が炎でできた人の形をした亡霊達が姿をみせ生まれたばかりの虫のように床に落ちる。亡霊達は起き上がるとのろのろと歩きベルムを取り囲んでいく。


「だから死んでもらうわ。いえ、もう死んでいるようなものかしら?」


 ベルムが背中に背負った大剣で炎の亡霊の一体を真っ二つに斬ると亡霊はあっけなく消えた。しかし倒してもまた別の亡霊が迫ってくる。どころか次々と炎の中から新たな亡霊がボトリと落ちその数を増やしていく。


 リリーはキャロルを無視してハルバートに氷をまとわせ床を力いっぱい叩いた。たちまち床をえぐるように氷柱が次々と生え、ものの数秒でベルムを取り囲む亡霊達を貫いた。消えゆく亡霊達の中からベルムが感謝しているとリリーの後ろを指してキャロルが迫ってきていることを伝える。


 リリーは攻撃に備えるため振り返る。そこにキャロルは確かにいた。しかし彼女は距離を詰めていたが攻撃の意志をみせていない。


「あなたの相手はそんな雑魚じゃない。私よ」


「白騎士!! 貴様はどこまでも私の大事な人を!!」


「彼が大事? だったら私を倒して守ってみたらいいわ。でも――」


 キャロルの炎の手の中から新たな炎が吹き出しそれは純白の剣へと姿を変える。


「私は死なない。正義を背負う以上、あなたのような復讐に身を堕とした愚か者に殺されるわけにはいかないの」


 気づくとリリーは狂ったような叫び声をあげながらキャロルに肉薄していた。振りかざした大振りの攻撃。それをキャロルは軽々と避けリリーのわき腹を蹴りを入れた。その威力は絶大で、リリーは成す術も無く窓の外へと体を飛ばし外の庭へと落ちていく。


 しかし見えなくなる直前、リリーが彼女を睨んだまま体勢を戻している姿をキャロルは目撃した。するとキャロルはベルムに一切目もくれず、リリーの後を追うため窓の外へと身を投げた。


 残されたベルムは次々と生まれてくる炎の亡霊達に対処せざるを得なかった。一体一体はそれほど強いわけでなく雑魚と言っても過言ではない。


 しかしいずれ数で押されるのは目に見えていた。くわえて外から響き渡るリリーとキャロルの戦闘によるものと思える音がベルムを不安に陥れる。それでも彼はひたすら解決の糸口を見つけようと亡霊達を切り倒し続ける。


「キリがありませんねえ……。誰か助けがいればいいのですが」


 そう都合よくいかないのが普通だが、この時の彼は運がよかった。うっかり注意が向けられていなかった背後の亡霊が唐突に姿を消したのだ。何だと思い振り向くと、ウール達の後を追っていたレオと彼の率いる兵士達がいた。


「ベルムさんを守れ!」


 レオが叫びながら斬りこむと兵士達も後に続く。ベルムは彼らの雄姿に安堵のため息を漏らしながら共に亡霊達を倒すため大剣を振るい続ける。しかしいくら倒してもキリがない状況に変わりない。


「ベルムさん、これはどういうことですか?! そもそも何があったのですか?!」


「何があったかは後で説明します。それよりあれをどうにかしなければなりません」


 ベルムは天井を覆う炎を指し炎がある限り無限に亡霊達が湧き続けることを伝えた。レオは険しい顔をしながら亡霊達を数体切り捨てると「俺に時間をくれれば何とかします」と申し出る。


「本当ですか? 遠距離で魔法を?」


「セドさんに教えてもらって見よう見まねですが一応は。でもあれほどのものだと効果があるかどうか……」


「ですが可能性はありますよね?」


 それは託すような声だった。レオはベルムの思いを受け取ると力強く頷きどっしりと剣を構える。そして瞑想するように目を閉じ剣に魔力を集中させ始める。ベルムはそれを見るや兵士達にレオを守るよう指示を出した。兵士達もレオがこの状況を打開しようとしているのに鼓舞され声をあげながら亡霊達へと斬りこんでいく。




♢

 謁見の間


 ウールが蹴破るように扉を開けて中に入ると奥の方で灰色の椅子に座り、黒と金の鎧を身に着けたスペンサーが剣を支えに座って待っていた。ウールは剣を抜いて警戒しながら彼へと一歩一歩近づいていく。


「ようやく来たか魔王よ」


 彼の低く威厳に満ちた声が静まり返る部屋中に響き渡る。薄暗い部屋にスペンサーの醸し出す怪しい雰囲気、しかしウールはそれに飲まれることなくキョロキョロと辺りを見渡すと鼻で笑った。


「これではお前が魔王で私が勇者みたいだな」


「フフフ。言い得て妙だな。どうやら同じ世界征服を企てる者同士、似たところがあるのだろう」


「かもしれんな。そしてやり方は違えど望むことが同じもの同士似てしまっているのだろうな」


 スペンサーは何を言っているのだと顔をしかめる。


「マリーといったか。あいつからお前が何のためにこんなことをしているのか聞いた。人類の繁栄と平和、それがお前の望みらしいな。随分とお前は理想に生きる者なんだな。それが事実ならどうやらお前はただの征服者ではないらしい、いやむしろ人間達に語り継がれるべき者なのだろう」


「……余計な事を」


 スペンサーはふらふらと立ち上がりイダの剣をウールに向けた。張り詰める空気、これが最後。ウールはここまでの事を胸に刻みながら重々しく剣を構える。


「剣を交える前に聞きたい。魔王よ、お前は世界をどうしたい?」


「みなが共に生きられる世界にする。そうすれば我が同胞たちも、私達を信じてくれた者達も死なずに済む」


「あくまで優先するのは身内、ということか」


「分け隔てなく平等になどと非現実的な事を本気で思うほど私は馬鹿じゃない。だが救えるものなら救いたい。それが私の意志だ」


 するとスペンサーは一瞬警戒を解いた笑みをこぼす。しかしすぐに悲しげな表情を浮かべ、ウールは彼の心境を察しながらも終止符を打つため一歩一歩距離を縮める。


「……もっと早く知るべきだったかもしれんな。だがもう私は引き下がれぬゆえ、お前と剣を交えよう。さあ来い魔王!! 正々堂々戦い、お前の意志を私に見せるがいい!! そしてどちらが正しいかを――」


 不意にイダの剣から黒い稲妻を放たれた。しかしそれはウールに向かってではなくスペンサーに向けてだった。稲妻をまともにあびたスペンサーは絶叫し、白目を剥いてバタリと倒れる。体から煙を出す彼に対しウールが距離を取ったまま呼びかけるも反応がない。


 しかし突然、彼の体から黒い液状のものがドクドクと漏れ、それは何か巨大なものを形作っていく。やがてグチュグチュと鳥肌の立つような不愉快な音を立てながら、それはイダの剣が封印されていた場所で姿を見せた漆黒のドラゴンへと変貌したのだった。



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