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23話


♦ ベルゴーニアは語る


 自分の娘に嫌われるのは死んでしまうくらい嫌だからなるべく長くならないように努めるよ。え? ごたくはいいから早くしろ? ……分かったよ。


 さて、聞いたところイダが僕を倒して英雄って感じになってるらしいね。全く心外だよ。いや、彼は勇者だし英雄であることは間違っていないよ。だって僕達と一緒に災王を倒し世界に平和をもたらした仲間だからね。


 ん? 災王も初耳なのかい? まったくどうなってるんだ。歴史は勝者によって作られるというけどここまでねじ曲げられているとは。


 そんなことはいいや。災王について簡単にいうと僕や魔族を生み出した存在、そんな感じかな? 正直僕も彼がどこからやって来て一体何者なのか分からないからね。それで災王は世界征服を狙って僕達を生み出して生きる者全てを消し去ろうとしていたんだ。


 なんで? と言われてもわからないよ。災王を倒すときに聞いたけど「世界を破滅してやる」くらいしか言わなかったし。災王自身よく分かってなかったんじゃないかな?


 ま、そんなだから生んでもらってなんだけど僕は災王をよく思っていなかったんだ。他にも僕みたいな魔王が三人いたけど皆何の疑いもなく災王に忠誠を誓っていたよ。だから僕だけが異質な存在であの時はこのままでいいのかなって悩んでいたよ。


 そんなある日、僕を討伐するためにイダとリンネとメアリスが来たんだ。最初は戦ったけど僕は負けてイダに殺されそうになったんだ。でもリンネが彼を止めてね、しかも僕に対して仲間になってくれないかって聞いてきたんだ。


 もちろん驚いたよ。でも彼女がそう言ってくれたおかげで僕は災王を裏切る決心がついたんだ。そして僕は配下の者達と共に彼らに協力することにした。後で何であんな事を言ったのかリンネに聞いてみたんだ。そしたら彼女「何となく」だってさ。そんな理由で僕を仲間にしようとするんだからまったく大したものだよ。


 まあそれから災王討伐に向かうのだけど苦労は色々あって多くの血が流れてしまった。でも僕達は誰一人後悔していなかったよ。いろんな出会いを通して魔族と人間は分かり合えるって分かったから。


 それに皆、明日に向かって生きようとしている。そして争いを嫌っているのも同じだった。種族や生まれが違っても根幹は同じ、だから共に生きていける世界をいつか作りたい。僕はリンネ達との5年に及ぶ旅の中でいつしかそう思うようになったんだ。


 そして三人の魔王を倒し、僕達はついに災王の前へとたどり着いた。


 災王は強かったよ。でもここまで信じあってきた僕達の方がもっと強かった。


 必死の思いで戦って、皆はボロボロになって。そんな中ついにイダが災王にとどめを刺したんだ。


 胸に剣が刺さったまま災王は苦しみながら死んで僕達はその場でへたり込んだ。今でも覚えているよ、ぼろぼろになったイダが座っている僕に手を伸ばしてくれて、そして肩を貸しあって笑ったよ。


 ようやく、ようやく終わったんだ……。選んだ道は間違っていなかったんだって。あの時はそう実感したしようやく平和が戻ってきて嬉しかった。



 でもまさか、彼がリンネを殺すとはね。



 ……ごめんね、ちょっと思い出してしまって。


 うん、もう大丈夫。それで何が起きたかなんだけど……。彼がそんなことをしたのは旅が終わってから12年後くらいのことなんだ。


 僕とリンネは旅が終わってからすぐに結婚した。その1年後にウール、君が生まれたんだよ。魔族と人間の間に子供ができるなんて前代未聞だったからちゃんと生まれるか不安でしょうがなかった。でも元気に生まれた君を見てその不安が無くなるどころか僕は泣いてしまったよ。目は僕に似て赤く他はリンネによく似ていて可愛かった。ああ、可愛いのは今もだよ。


 え? 泣くな? 僕今泣いてるの? ……うわぁほんとだ、相変わらず僕は涙もろいな。


 それでウールが生まれてからしばらくは平和な時代が続いた。もちろん魔族と人間が共存するとなると色々問題が起きるし大変だったよ。


 それでも皆生き生きしていた。メアリスも旅が終わったというのによく僕達の仕事を手伝ってくれたんだ。本当にあの時はありがとう。


 だけどね。さっきの話に戻るけどある日突然、イダがリンネを殺したんだ。


 それも災王にとどめをさした剣で。とても許せない事だよ。でも僕は何もできなかった……。


 イダはいつの間にか魔族に懐疑的な人間達を味方につけていたんだ。イダは彼らを率いて魔族と魔族と親しい者達を次々に殺していった。そして僕達は追われる身になった。


 僕とメアリスはウールを連れて必死に逃げ続けた。絶対に死なせてはいけない。ウールは僕達の希望なんだ。その思いを胸にずっと、何か月もね。


 だけどイダの影響力は僕達が思ってた以上にすさまじくてね、どこへ逃げても強力な追手が来たんだ。そうして逃げ続けているうちに僕達は僕がリンネ達と初めて出会った地下迷宮にやって来たんだ。


 もう逃げられない、そう思って僕はウールだけでも助けようと僕の知っている範囲で最強の防御魔法を使うことにしたんだ。


 だけどそれは命を犠牲にするほど大掛かりなもので発動までに時間がかかる。その時間稼ぎを何が何でもしてもらうためにメアリスには禁術を使ってもらった。


 そして彼女の助けもあって僕は魔法を発動させることができた。でも僕はウールとメアリスを置いて死んでしまった。


 もっといい方法があったかもしれない。


 でもあの時は他に。……これ以上はよそうか。


 これが僕の知ってる全てだよ。


 ウール、辛い思いをさせてごめんね。





 語り終えたベルゴーニアはしばらく無言のまま下を向いていた。彼の代わりにメアリスは「これが本当の物語よ」と悔しさが入り混じった声で言う。


「残った私は追手を全て殺した。その後ほとんど狂人になった状態でイダを殺す旅に出て、二年後に彼を見つけて殺したの。怒りと嫉妬に狂った死にゆく彼の姿と消えていくリンネを殺した彼の剣。それが我を忘れて長い間さまよい続ける前に私が見た最後の光景だった」


 メアリスは目をおさえたままふらふらと座る。これ以上話したくないといいたげな様子だ。


「……消えるまで後どれくらいだ?」


「まだ余裕はあるよ」


 そうか……とウールは呟くと魔法を今すぐ教えるよう頼んだ。レオは少し不機嫌になるもウールの思い詰めた表情を見て口を閉じる。


「じゃあ二人とも僕の前に来てくれないかな?」


 ウールとレオはベルゴーニアの前に並んで立った。彼は手を二人にかざす。


「いいかい、この魔法は発動すること自体は簡単なんだ。だけどどれくらい持つかはその人次第。それと魔法が切れたらしばらく動けなくなるからここぞという時にだけ使うこと」


 分かったかい? とウールとレオを交互に見て頷くのを確認するとベルゴーニアは詠唱を始めた。たちまち二人の足元に何重もの魔法陣が浮かび上がり光が二人を包み込む。目をつむったまま流れに身を任せると儀式は数分ほどで終わりを迎えた。


 もう終わり? と拍子抜けな様子を見せるウールとレオ。二人はベルゴーニアが「お疲れ様」と言ったところで本当に終わりなのだと実感する。


「あんまり変わった感じはしないけど……」


「どうやって発動するんだ? 詠唱は?」


「えっとね、そういうのはないんだ。なんというかこう、感覚で発動するんだ」


 レオは「また感覚か……」と落胆する。


「土壇場になると興奮状態になっていつもより力が出せるよね? あれをさらに強化した感じなんだ。だから全身に流れる魔力を一気に解き放つ、そんな感じ?」


「要するにやけくそってことか。本当に大丈夫なのか?」


「大丈夫。思ってるより簡単だから。どうしても不安なら発動するときに掛け声とか技名とか、自分で詠唱を作ってみたりするのはどうかな? 気持ちの切り替えが上手くいって発動しやすいかもしれないよ」


「めんどくさそう……」


「いやアリだな」


「は?」


 レオは何言ってんだといった顔でバッとウールを見た。ウールはもう既に腕を組んで考え始めている。彼はふとウールと初めて出会った時の事を思い出し、今の彼女の態度に納得してしまう。


「さて、これで僕のやるべきことは終わった。もう悔いはない――」


「いや待て」


 急にウールに呼び止められベルゴーニアは驚いてしまう。


「まだ時間はあるだろ?」


 ベルゴーニアは戸惑いながら頷く。するとウールは全員にこの場から立ち去るよう指示を出した。なぜだとレオ達が問いただすと――


「二人で話がしたいんだ」


 てこを使っても曲がらないほどはっきりとした意志をウールはみせる。それを聞くとベルム達は納得し何も言わず広間を後にした。急に静けさが訪れ、残されたウールとベルゴーニアは近くの椅子に並んで座った。


「……さっきまであんな態度を取ってすまなかった。皆の前ではなるべく魔王らしく振る舞うよう心掛けていて、それで」


 ウールの手は震えている。しかしベルゴーニアにはどうすることもできない。彼はただ見守るだけだ。


「いいよそれくらい。むしろよく頑張っていて誇らしいよ。それよりもウール、話がしたいんだよね? いつまで話せるか分からないけど付き合うよ」


「うん……ありがとう、お父さん」


 二人は時間を忘れて他愛のない話をした。ベルゴーニアはウールと過ごした日々やどんな風に成長していったかを嬉しそうに語った。話の途中によくリンネやウールへの惚気を出すものだからウールはとても恥ずかしい思いを何度もした。それでも彼からは確かな暖かさを感じる。記憶がなくても関係ない、それが彼女にとって何より嬉しいことだ。


 ウールもまた仲間たちとの日々を語った。たくさんの出来事、出会い。ベルゴーニアは興味深そうに、そして微笑ましそうに耳を傾けていた。


 特に彼が興味を示したのはウールが自分と同じように愛する者がいたということだった。しかもそれがリリーであることを知ると彼は意外そうな反応をみせる。しかし彼はそのことを心から祝福した。


「変だって言わないのか?」


「どうしてだい?」


「だって女同士だから……」


 ベルゴーニアはなんだそんなことかと静かに笑う。


「そんなの関係無いよ。愛することに性別も種族も関係ない。相手の事を心から愛している、それだけで十分なんだ。それにウールは僕とリンネの間に生まれた子だ」


「? どういうことだ?」


「愛することに理由なんていらない。誰を愛するかに制限なんてない。ウールが今ここにいることが、それを示す何よりの証拠だよ」


 そしてベルゴーニアはウールに向き合う。


「ウール、君はそのリリーという女性を愛しているって胸を張って言えるかい? 彼女の幸せを願っているかい?」


「もちろんだ。それとその質問は愚問だな――」


 ウールは立ち上がり体を彼に向ける。真っ直ぐ見つめる赤い目が朝陽のように輝いている。


「私は心からリリーを愛している。それは今も、そしてこれからも、決して変わることはない」



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