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4話


 その日、様々な魔族がセド達と共に王都にやって来た。数は五千程度と王都に住む人間に比べると少ないが種類は様々だ。肌の色が違ったり角や羽が生えている程度で人間と大差ないものもいれば、四足歩行で歩くものや人の頭ほどの大きさのものもいる。


 家ほどかそれ以上の大きさの魔族もいたが、いきなり彼らのようなものが王都に入のは危険だとセド達は判断した。なのでそういう者達はとりあえずウールに来たことを報告するまでは王都の外で待機することにした。


 それでも大所帯だ。そして人々は唖然としたままゾロゾロと通りすぎる彼らを見守っていた。好奇の目で、あるいは歓迎するかのように見つめている人がいる。しかしそういった人たちは少数で、多くの人々は怯えていたり不愉快そうにしたりしていた。


「ウールのやつ、まあまあ頑張ってるみたいじゃのう」


 その言葉にホーナーはスタークの戯言だろうと人々を見渡しながら思ってしまう。実際、彼と目が合った人間が短い悲鳴をあげていたからだ。彼は少し気が引けながら一応スタークに真意を訊ねる。


「そんな者達が少しでもおるのが証拠じゃよ。以前のままだったら睨まれるどころか糞や唾をかけられてたじゃろうな」


「野蛮ですねぇ……」


「人間なんてそんなもんじゃ。人間であるわしが言うのじゃからな」


「今のあなたを人間と呼ぶのは少し抵抗があるのですが」


「ん? そうかのう? まあ魔法の腕はピカイチじゃし、人間と思えないのも無理はないか」


 スタークが髭をなでながら人懐っこい笑みを浮かべると、ホーナーはすっかり聞く気力を失った。そのやりとりをすぐ前で聞いていたイーラが「能天気な奴じゃ」とぼやいているとセドが何かに気づいたかのように声をあげた。何だと思い彼らが覗き込むように前を見ると、遠くからこちらを見ているベルム達がいた。


 するとセドが大げさに手を広げながらベルム達へと早足で近づいていった。「相変わらず坊やは馬鹿みたいに元気じゃのう」とイーラはめんどくさそうに彼を追う。


「フハハハハハ!! 久しいなベルム!!」


「あ、どうも……」


 道をふさぐ岩さえぶっ飛ばしそうな勢いのセドを前にベルムはよそよそしく、まるで何かを隠しているかのようにしていた。だがセドはそんなことを一切気にせずリチャード達に自己紹介をしていく。そんな彼にすっかり人間達は目を丸くしたまま圧倒されてしまっていた。


「なあベルム。魔族って皆こんななのか?」


「いいえ、彼ぐらい――」


「んなわけあるか人間。坊やが特別おかしいだけじゃ」


 割って入るようにイーラが呆れた様子で答えた。リチャード達はウールよりも幼く、大人びた振る舞いと身なりの彼女に驚いてしまう。しかし彼女は慣れているのか彼らの視線を一切気にしていない。


 すると「お前さんも特別、つまり同類じゃ」と後ろでからから笑っていたスタークの言葉がイーラに降りかかる。彼女は反論せずごまかすように手に持ってる煙草を吸った。


「ところでベルム。魔王様はどこに?」


 見た目は一番インパクトがあるが最もまともなホーナーがキョロキョロしていると、ベルムはリリーの方を指さす。彼らは一斉に彼女の方を見た。


 そこにはリリーにくっついたままほわ~っと顔を赤らめてセド達を見つめているメイド姿の少女がいた。彼らが彼女をウールだと認識するのに少しばかり間があった。


「会えてとても嬉しいわ!」


 ウールは感極まり流れてくる涙を拭いながら満面の笑みをみせた。思いもよらぬことにイーラは吸っていたパイプをポトリと落とし、ホーナーは石像のように動かなくなった。後ろにいた大勢の魔族も似た反応をみせている。


 だがセドとスタークは違っていた。スタークは興味深そうにウールを眺めている。そしてセドはジッと彼女を見たまま「ウール……」とささやいた。


 グイグイとしているが人懐っこい彼の雰囲気が明らかに変わっていた。誰もがゴクリと息をのみ緊迫した空気が流れる。沈黙の時間が少し続くと、彼はそれを打ち消すかの如く笑みをみせる。


「なるほど、イメージチェンジをしたのか! ウール、以前の姿もよかったがそのメイド姿も中々似合っているな! それに可愛らしくもなっているし俺はいいと思うぞ!」


「イメージ……チェンジ? よく分からないけどありがとうセド!」


 すっかりベルム達は肩透かしを食らった。だがウールは気にせず顔を赤らめながら嬉しそうにセドを見上げている。一方セドは彼女の容姿や服を褒めたり、こういう仕草をすればもっとよくなるなどノリノリでアドバイスをし始めていた。


 二人だけの空間が一瞬のうちにできあがっていた。


 ウールは彼につられてパァッと表情が明るくなり、様々な仕草やポーズを試している。ベルム達はそれを口を開けたまま眺め、リチャードは自分の頬を何度もつねって夢かどうかを確かめていた。


 そしてリリーはというと、ウールが「どうでしょうか?」とみせてくる暴力的なあざとさを前に意識を保つのに必死だった。いつもの凛々しい彼女の姿は遠く彼方へと消え「あぁ……これは……」と手で口を抑えたまま悶えている。


「久々にセドさんの恐ろしいまでのマイペースっぷりを見ましたよ……」


「わらわ達は旅の間ずっとだったぞ。まあそんなことは後じゃ。つもる話は色々あるがまずはベルム、そしてリリー。この醜態がどういうことか説明してはくれぬか?」


「イーラ、これがウール渾身のイメージチェンジだとなぜ分からん? 見ろ! とても可愛くなっているではないか!」


「んなわけあるか阿呆!! 分かっとらんのは坊やの方じゃ!」


「ではイーラ様は今の魔王様のお姿が可愛くないと仰せられるのですか?! なぜです?! この言葉ではとても言い表せない素晴らしさ、そして尊さ……。自らの語彙の無さを恨むほど――」


「やかましいわ!! わらわが言いたいのはそうではない!!」


 イーラは二人に黙るよう叱りつけるとウールをちらりと見た。すると「……可愛くは、なっておるぞ」と顔を少し赤らめながら絞り出すような声で彼女を褒める。


 まじまじとイーラを見つめていたウールは上目遣いのままもじもじし、そして「なんだか恥ずかしい……。でもありがとう」と初恋をした少女のようにはにかんだ。


 その初々しさにイーラはすっかり調子を狂わされ声にもならない声を出してバッと背を向ける。するとちょうどニヤニヤと成り行きを見ていたスタークとばったり向き合う形になった。彼女はムッとするとパイプを思いきり彼にぶん投げた。スタークは「あがぁッッ!!」と意味不明な声をあげながら鼻を抑えている。


「いやしかし、以前の魔王様では人間達にとってはとっつきにくい。そこで親しみやすくするためにこのような――」


「ホーナー、おぬしまで何言っとるんじゃ……。ああもう、わらわまでそんな気がしてきたぞ……。ベルム! 実際どうなのじゃ? まさか本当にこやつらの言う通りなのか?」


 当然ベルムは否定する。それもかなり大げさに。セドとホーナーは「そうか……」となぜかとても残念そうにしていてイーラから「阿呆」と注意される。


「となるとわらわの勘じゃが、魔法じゃな。それも高度な洗脳の類じゃろう。そしてそんなことができ、なおかつこうなることで最も得する者といえば」


 イーラはそれがリリーであると示すようにパイプをクイッと動かす。リリーはすぐに否定するが彼女は自分の考えに自信があるようで主張を曲げようとしない。


「リリーは確かお嬢を愛しておったな。それでおぬしは弱体化したお嬢を我が物にしようとこのような真似を。まったく、今のおぬしなら少し誘惑すれば容易くお嬢と交われたろうに。なぜ段階を間違えてしまったのじゃ?」


「な、なななな何を仰るのですか!! 私が魔王様にそんなふしだらな真似を――」


「これの方がよっぽどふしだらだとわらわは思うのじゃがのう」


 見透かすようにイーラはリリーを見つめ続けるがリリーはくじけずに否定する。すると突然、スタークが高笑いをあげながら前に出てきた。


「イーラの言っとることは半分正しいが半分間違っておるぞ」


 どういうことだとその場にいた全員が彼に注目する。スタークは視線をものともせずにウールのメイド服を見ながら「懐かしいのう」と呟いた。そうして彼は「失礼」と服を隅から隅まで眺めだす。


 傍から見れば不審者だ。しかもスタークの世捨て人に近い見た目のせいでそれが余計に際立っている。やがて満足したように頷くと「間違いない」と彼は何日もかけて解いていた問題がようやく解けたような笑みをみせた。


「ウールの着ているこの服はな、わしが王都にいたころ作った物なんじゃよ」

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