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48話


「口の利き方がなっていないな。可愛らしい見た目が台無しだぞ?」


「そういうお前は見た目通り(しゃく)に触る口の利き方だな」


 ヘンリーは「ムカつくガキだ」とウールに聞こえない小さな声で吐き捨て、手を高々と掲げ指輪を見せつける。ウールは身構えるとすぐに「魔法具(マジックアイテム)の類か」と聞き、真剣な様子に満足してか彼はうんうんと嫌味な笑みを浮かべる。


「それを使って魔物を使役していたのか」


「さすが魔王だ、魔法の事をよく知っている。その通り、この指輪を使って魔物を召喚し使役した。ここに貴様をおびき寄せるためにな」


「ほう? それはまたなぜ、いや答えなくても分かる。私を殺すためだろう?」


 ウールはどうだ? と挑戦的な笑みを浮かべたまま答えを促す。だがヘンリーは「それでは無粋だろう」と言い首を横に振る。その時の彼は気味の悪い、粘りつくような笑みを浮かべていた。


 ウールはその顔に見覚えがあり、ああまたかとうんざりする。それは捕らえられた自分を見ていた領主と全く同じものだったからだ。


「殺すにはもったいない。そうだな、貴様を奴隷として()()()可愛がってやろう。ああ、その物騒な武器を持った女も一緒にな。文句は無いだろう?」


「大ありだ」


「はっ! 強がりを。だがこれを前にそういられるか?」


 ヘンリーが歪んだ笑みを浮かべたまま指輪をはめた手を強く握りしめた。すると眩いばかりの青い光が地面に放たれ、彼とリリーの間に巨大な魔法陣が描かれていく。


「まだ魔物を呼び出すつもりか、厄介だな……。リリー! 何が出るか分からん! 一旦距離を取って――」


 だがリリーはヘンリーを睨みつけたまま微動だにしない。ウールが呼びかけるもぶつぶつと何か言っているだけだった。


 そうしている間に魔法陣は完成してしまい、歪に曲がった黒茶色の角が姿を見せはじめる。


「リリー!! 命令が聞けないのか――」


「…………ころす――」


 心臓を捻りつぶせそうなほどドスの聞いた声。リリーの吐息が白くなり、ハルバードには霧が渦巻き始める。


 しかしリリーの憎しみの言葉は誰の耳にも届いておらず、ウールは腕をだらりと振りお手上げ状態のようにしている。


 一方のヘンリーはよほどこれから召喚する魔物の強さに自信があるのか余裕の笑みを崩さない。


「何をしようが無駄だ!! この魔物はさっきのやつよりもつよ――」


 地を割るほどの轟音。


 ヘンリーの傲慢な言葉は容赦なくかき消された。土煙と霧をまとった風が辺りに吹き荒れウール達を容赦なく襲い、立っていられなくなると地面に這いつくばって風をしのぐ。


「なッ?! 何をした!!」


 荒れ狂う風がおさまり視界が晴れてくる。そこには地面から上半身だけを出していた巨人の類であろう魔物が、頭から真っ二つに叩きつぶされていた。


 大層な魔法陣は跡形も無く消え去っていた。リリーの一撃は文字通り地面を割っていたのだ。


 敵味方問わず、居合わせた全員が口をあんぐりと開けたまま震えあがるほどのプレッシャーを放ちながら立ち尽くすリリーを見ている。


 当のリリーは獣のように口から白い息を吐き、血と肉片がこびり付いたハルバードを持ち直すとゆっくりヘンリーに近づいていく。怒り、蔑み。ドス黒い感情に満ちた目には口をパクパク動かして怯える彼の姿が映っている。


「ば、化け物め……!! 一体何なんだその力は?!!」


()()


 反論さえ許さないほどキッパリ言い放つ。ヘンリーにはそれが死の宣告のように聞こえた。


 彼の自信や威厳、ついさっきまで醸し出していた何もかもが粉々にされすっかり尻込みしてしましまう。そして兵士達に時間を稼ぐよう指示を出すと慌てて逃げ出した。


「愛が重すぎるぞ……」


「物理的に?」


「……どっちもだ」


 怯える兵士達を次々なぎ倒していくリリーをウール達はドン引きしたまま眺めている。


 やがてヘンリーの思いは虚しく、兵士達がものの十数秒ほどで全滅してしまった。リリーは「邪魔だ」吐き捨てるように言うと目の前に倒れていた死体を蹴り飛ばし、ヘンリーとの距離をずんずん詰めていく。


「クッ、クソッ!! ここで死ぬわけにはいかんのだ!!」


 叫び声と共に指輪を付けた手から赤い光が放たれ、彼の体は光の中へと消えていく。リリーは鬼の形相でそばまでくると魔物に放った、いやそれ以上の一撃を放つ。


 離れていたウール達にまで届く突風が吹き目を閉じる。そして風が落ち着き目を開くと、ヘンリーはこつ然と姿を消していた。彼を包んでいた赤い光も消え、灯りと呼べるものは月の光だけだった。


 その月明かりに照らされたリリーはハルバードを振り下ろしたまま動かない。だが微かに体を震わせていた。ウールはそれに気づくとそばに駆け寄り肩を抱き寄せる。


「すみません魔王様。あのクズを取り逃がしてしまいました」


「そう気負うな。魔物を退けただけで十分だ」


 リリーが弱弱しい返事をするとウールは背中を優しく叩く。そしてすぐにエイリーン達に指示を出すと広場へと戻って行った。





 戦いが終わって数日間、ポルーネは勝利の歓喜に沸いた。街のあちこちで宴が開かれ、魔族も人間も互いを称え合い喜びの酒を交わした。


 ウールははじめこれについては「呑気なことをしている場合か」と乗り気ではなかった。だがベルム達に「こういうのもまた士気を高めるのに効果的」だとか「イメージアップにもなる」と言いくるめられ結局付き合うことにした。


 そしてウールは、何だかんだ言いつつベッドに入って数秒で夢の中に行くほど宴を楽しんだ。


 そうした歓喜の日々は風のようにあっという間に過ぎていった。そして戦いが終わってから四日後、ウール達は館にある会議室にいた。


 ウール達が互いに礼を言って形式ばったやり取りを早々に切り上げると、ウールは渋い顔をして椅子にもたれかかった。


「さて、ひとまず敵を退けられたのはいいとして。まだ戦いは終わっていないのもまた事実だ」


「確かに、モタモタしてたら兵を集められちまう。それでどうする? いよいようってでるか?」


「しかないだろうな。だが真っ向からというのはやはり気が乗らん」


 ベンが重々しい口調で「魔物のことか」と訊ねるとウールは何かがのしかかったように頷く。


 戦力の差は以前よりはマシになっているがワイバーンの対策はほぼ間違いなくされている。それほど今回の戦いでワイバーンの果たした効果は大きい。加えて魔物の使役。並みの人間が一朝一夕でできるようなものではなく、強力な魔法使いの存在が敵にいると考えられる。


 ウールの懸念は他にもあるが、主にこの二つが悩みの種だった。


「だけどよ、リリーは魔物を瞬殺したんだろ? ちょっと考えすぎじゃないのか?」


「あの時は相手が私よりも格下でしかも集中できる状況だったからだ。それにいくら私でもどんな魔物でも瞬殺というわけにはいかない、相手によっては時間がかかってしまうことも当然ある」


 リリーは「もちろん魔王様に鍛えられたこの私に敵う者はいない」とウールの方を見ながら付け加えて言葉を締める。


 ベンは「あんたほどのやつが言うならそうなんだろうな」と天井を見上げ困り果ててしまう。困っているのは彼だけでなくこの場にいる全員もそうで、どうしたものかとあれこれ案を出すが納得できるものはでてこない。


「いっそ親玉を暗殺するか? なんてな」


 リチャードは冗談っぽく笑うがウールに「それができれば苦労しない」と呆れられてしまう。


 だがベルムはウールと真逆の反応だった。顎をさすりながら思いつめたような表情をしたかと思うと「意外とありなのでは」と呟く。


 これには全員が耳を疑い、言い出しっぺのリチャードにいたっては驚きのあまり目を丸くしていた。


「ああもちろん、大将を倒すだけではダメですよ。ですがこれって挟撃をするってことですよね」


「いや……そこまで考えてなかったな」


「……まあどっちでもいいです。それでこの挟撃に際して聞きたいのですが、王都の奴隷達はよほどひどい目にあっているのでしょうか?」


「だろうな。俺は実際見た事無いが仲間から話を聞く限り相当らしい。というか王都での暮らしについては奴隷に限らずいいという話を聞いたことがねえな」


 ベルムは「ならよかった」とつい口を滑らすとリチャードの痛い視線に気づいた。まるで正気を疑われているかのようなもので彼は不服そうに眉をひそめている。


 ベルムはクレアの父であるオリヴァーと世話になったカスマ村の人々を思い出した。「語弊がありました」と慌てて謝りなんとか彼をなだめ話を続ける。


「策の細部はこれからですが吾輩の考えた大まかな事を言いますと、彼らの力を借りるのです。そしてそのために――」


 ベルムは申し訳なさそうにウールを見る。当のウールは意味が分からなさそうに首をかしげている。そして彼が深々と頭を下げると相当な賭けをする気だなとウールは察しがついた。


「魔王様には王都に潜入してもらいます」

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