山の中の崖の木。
使用したお題:『設計』『異世界』『アヘ顔ダブルピース』『カボチャ』『暖色』
はい、これは僕の経験した実体験です。
僕は建設会社に勤めていまして、入社直後は色々なところに派遣されていました。使いっパシリってやつです。
本当は設計や企画の方をやりたかったのですが、入社直後のペーペーにそういう責任のある仕事なんて当然やらせてもらえませんでした。本当に最初のうちは挨拶回りとか、荷物持ちとかそういうのばっかりだったです。
その仕事も僕が最初やらされていた仕事でした。燃料の給油です。
鉱山を崩すために設置されていた重機がありまして、その重機に定期的に燃料を供給する仕事でした。3日に一度、ポリタンク10杯のガソリンを軽トラで運んで給油していました。
山に登るまでの間は森でした。グネグネ曲がった狭い道で、他に車は一台も通らないようなところでした。
昼に行っても薄暗いほど、鬱蒼と樹が茂った森でした。右手が森で、左手が崖。今考えても結構怖い道だったと思います。雨の日とかは滑って落ちないように十分注意していました。
ただ、その道不思議でして。左手の崖の方に一本だけ、やたら突っ張った木があったんです。
その木は他の木より一回り細いくせに、妙に背丈が高くて一本だけ目立っていました。途中からぐねりと曲がっていて、夏でも葉が少なくて枯れかけていた木でした。
おかしいというのは車のハンドルでして、その木の近くを通るとき、妙に左側に引っ張られるんです。
右手が山に面していて、左手が崖になっていたら、普通の人なら右側に車を寄らせると思うんです。うっかり落ちたら最悪ですからね。
もちろん僕もそうしていました。なのにその妙な木の近くに来ると、まるで磁石に引かれるかのように左側に車が寄っていくんです。崖が近くなるのがすごく怖かったですよ。
しかも一回や二回じゃないんです。毎回、行きと帰り、その木の近くを通ろうとするとやっぱり木の方に車体が寄っていくんです。
まあハンドルを少し多めに傾ければ簡単に元の路線に戻れるんですが、ずっと気になっていたんですよ。妙に引っ張られるなぁって。
職場の人にそのことを聞いてもまともに答えてくれる人がいないので、ちょっとその山の地主の方に話をする機会があったときに聞いてみたんです。
妙に引っ張ってくる木があるんだって。そこだけ道路がゆがんでるのかなぁ、って笑いながら。
地主のお婆さんは「そうか、やはりか……」とだけ答えてくれました。
「そうか」はなんとなくわかったのですが、「やはりか」の一言が引っかかりました。当然ですよね、意味深な言い方ですもの。
でも地主のお婆さんはそれ以上何も答えてくれなかったので、地道に近所で聞いてみました。別に急いでなかったのでゆっくり調べたので、聞き込みだけで半年近くもかかってしまいましたけど。
結論を言いますと、その木の下で首つり自殺をした女性がいたらしいです。
まあ、薄々感づいていたので「怖い!」というより「やっぱりかぁ」という感想でした。地主のお婆さんと同じ反応ですね。
それ以来その木の下を通るときちょっと怖いなぁって思うようになりましたが、基本的に霊感なんてない僕なので、気にせず3日おきに燃料給油を続けていました。
給油の仕事を始めて1年ほど、もう慣れて例の木のことも気にならなくなり始めたころ、あるイタズラを仕掛けました。
彼女の友達に自称霊感少女がいるらしいのです。なので、僕と彼女はその女の子のことを騙して例の木の真横を通り抜けようとしました。
本当に霊感があるなら首つり自殺の女性が見えるだろう、嘘だったら何も見えないでただドライブを楽しむだけだろうというイタズラを。
「まるで違う世界に来たみたいね……」
予想外なことに、その霊感少女は気づいた様子でした。山に登る直前に急に震えてそう言いました。
どうせ霊感なんて嘘だろう、と思っていた僕と彼女は結構驚きました。本当にわかるんだ、と僕と彼女は驚いてその霊感少女のことを褒めました。
「いや、わざと連れてきたのこんなところに? 結構ヤバイところじゃない? ねぇ、早く引き返しましょうよ!」
僕たちが褒める言葉なんて全く無視して、早く帰ろうと促す霊感少女。後ろの席から僕の運転席をぐらぐら揺らす。危ないのでやめてほしい。
隣で座る彼女が霊感少女をおし宥めるけれど、霊感少女は全く聞きはしない。その鬼気迫る表情に、僕は割と本気でヤバイのかもしれないと思い始めた。
しかしここは狭い一本道、もうちょっと先の車体交差用の脇道があるところまでいかないと引き返すことも難しい。
それに霊感少女が怖がっているとはいえ、いつも通っていて特に何も問題なかった道だ。今更無理に戻らなくても……。
「ひぃっ、やっぱりここ幽霊の出るところじゃん! く、首つりの女の人が何か言いながらこっちを手招きしてたわよ!?」
あらぬ虚空を指さし悲鳴をあげる霊感少女。イタズラを仕掛けようとしていたのだ、当然幽霊の話なんてしていない。
そのことを見抜いた霊感少女に僕の彼女は「よくわかったわね、本当に霊感あるのね」と素直に称賛する。僕も称賛しようとしてふと違和感に気づいてしまい、少し戸惑った。
霊感少女は、右側の木を指さしていた。
しかもよくよく考えてみると、まだ例の木は見えていない。まだ少し距離がある。だというのに首つり女性の霊がもう見えたという。なんで、どうして?
もう1年近く通った道だ、ただの山道でも今自分がどこら辺にいるのかわかる。霊感少女が騒いでほんの10秒ほど運転したあと、例の引っ張ってくる木の見える場所まで来た。僕はハンドルをいつものように少し右に曲げる。
直後、悲鳴が上がった。
僕は運転していたので何が起こったのかわからなかった。ただ、霊感少女が何かとんでもない悲鳴をあげた、と思ったらその後急に静かになった。僕の彼女が涙目になりながら必死に気絶しているらしき彼女を揺さぶっていることと、鼻をつんざく異臭がすることだけがわかった。
そして、その時の僕は実を言うとそれどころではなかった。いつもより左側に引っ張ってくる力が強い。ハンドルをほぼ右に全力で回しているのだが、それでも車体が崖の方へ寄っていくのだ。何が何だか全く分からない。ガードレールと例の曲がった木がフロントガラスに近づいてくる。
危ない!
……しかし幸運なことに、僕たちは崖から落ちずに済んだ。すんでのところでハンドルから妙な力が消えて、車体は普通に真っすぐ走るようになったのだ。
その後、山の頂上にある広場になっているところで車を止めて、ようやく後部座席の惨状がわかった。
霊感少女が気絶していて、ほら、エロ本とかでたまにあるような見事な白目を見せて気絶していた。あのダブルピースをしているようなあれだ。白目をむいて泡を吹いている女性というのは、エロさより気持ち悪さの方が先だった。
それに彼女は盛大に嘔吐していた。お昼に食べたカボチャパイの綺麗なオレンジ色が床に広がっている。いったい何が彼女にそうさせたのか、よくわからなかった。パニックに陥りつつも、吐しゃ物が喉に詰まらないように懸命に吐き出させていた僕の彼女の冷静な医療行為に尊敬した。
僕はこのことがあって、あの道はマズイということにようやく気付いて、職場に配置換えを要求した。そうしたら上司が「よく1年ももったな」と結構多額のボーナスと好きな部署への転属を約束してくれた。
やっぱり前例があるほどにヤバイところだったらしい。いくら何でも酷いと思ったので、転職先が見つけてからすぐにやめた。
また、後に霊感少女に会うことがあって、彼女と話をしてみた。彼女は良いことを教えてくれた。
道中にいた首つり女性の霊が手招きしながらブツブツ呟いていたそうだが、それが「そっちへ行っては危ない、戻りなさい」という内容だったそうだ。なんというか、そういうことなら先に教えてくれと思わなくもない。
イタズラを仕掛けた僕が言うのもなんだけど。




