ヤバイ人たち
使用したお題:『スケルトン兄弟』『秋』『「では、そろそろ始めましょうか」』『お月見』
うちの妹はおかしい。
「では、そろそろ始めましょうか」
そう言って妹は手に持った十字架を掲げた。天に祈るように小さな十字架を握りしめ、目を閉じる。
我が妹ながら見た目はなかなか可愛いらしいし、静かに祈る彼女の姿はまるで敬虔なシスターのようだ。ただ、やってることはおかしかった。
妹は目を瞑ったまま、オレに指示をしてきた。
「お兄ちゃんは何もしないでいいから。ただ、見てて」
オーケーと返事をする。まあ、正直何をすればいいのかわからないし、これ以上は何かやりたいとは思ってない。
だから可愛い妹に見ててと言われたら、願ったりかなったりだ。後ろからぼんやり見るだけにする。
妹は、いわゆる厨二病に目覚めたのだ。男のそれはよく耳にするし、自分もなったことがあるけど、我が妹がそうなるとは思わなかった。ビックリしたものだ。
妹は天使の生まれ変わりの春を超え、右手に封じられし獣の夏を超え、今は悪魔教の秋だった。黒いローブと黒いマニュキュアとスケルトンの兄弟のアクセサリーが痛々しいけど妙に似合っている。
妹の自称・悪魔召喚の祈りは続いていた。だんご状の生贄を乗せた台を前に、まんまるの月に向かって、悪魔に何か言葉を送っている。
ただ……妹よ、それは「お月見」と呼ばれるイベントじゃなかろうか?
後の黒歴史確定だろう。だが、オレは妹のその行為を否定しなかった。
妹が「お兄ちゃんに頼みたいことがあるの」と言われて、今日がんばってその準備を手伝ったからだ。おそらく反抗期だから素直に誘うわけにもいかず、でもオレと一緒に月を眺めたかったからこんな回りくどいことをしたのだろう。
いつまでもお兄ちゃんっ子だなぁとオレはほっこりしながら、天に何かを祈る妹と一緒にお月様を眺めていた。
…………
うちの兄はおかしい。
「お兄ちゃんも他に何かしようか?」
開始の合図をした私に向かって、兄がそう聞いてきた。私はビクリとしつつ、何もしないでいいと返事をした。
兄が後ろから私を見ていることを意識しつつ、私は天に祈りをささげた。
兄は、何かおかしい。昔から私の面倒を見てくれて、いつも私の味方になってくれて、すごく優しい兄だけど最近その行動がおかしいところがある。ビックリしたものだ。
兄は私の願いを叶えるためならどんな不法も犯してしまう。春に私が天使のようなアイドルになりたいなぁと言ったら嗤った同級生の顔を何十回も殴った。人をそんなに殴らないで、とお願いしたら夏の暑さを物ともせず右手を包帯でぐるぐる巻きにして封印してしまった。そして今回もちょっとしたお願いをしたら、これだ。酷すぎる。
神への贖罪へと思って手に血がにじむほど十字架を握りしめ、喪に付すという意味で黒い布を頭からかぶり、お気に入りの骨の人形を手に祈りを捧げる。
私は兄の蛮行の謝罪を天に祈る。だんご状になった生贄を用意したのは兄だが、用意させた原因は私の不用意な一言だ。だから、お月様に向かって真摯に謝罪をする。
傍から見ればお月見にも見えなくないが、そんなことはどうでもいい。
お兄ちゃんが変なことをしないように見張ろうと思い、余計なことをしでかさないように「おだんごを用意して」とお願いし、そうしたらまさかこんなことになってしまった。
お兄ちゃんは本当に困った人だ、そう思いながら私はお月様に「兄が普通になりますように」とお願いしていた。
…………
うちの子たちはおかしい。
何のやり取りをしているのかわからない。でもおかしい、おかしすぎる。前々から気付いていたけど、今回は酷すぎる。
後ろから隠れて見守る分には、仲のいい兄妹だ。一緒にお月見なんてして、可愛いもんだ。
普通この年代だと反抗期で喧嘩ばかりと聞くけど、この子たちはいつも一緒にいて本当に仲が良い。それは良い。だけど、それ以外が問題だ。
春は妹がバカにされたって言って同級生を半殺しにした。夏には自らの手の筋を斬った、何かを封印するためだとか言っていた。
そして今回は、これだ。大量の猫の首がお月見のお団子のように積み重なっている。
おかしいのは兄だけではない、妹もそうだ。同級生が半殺しにされたのに彼女たちの心配はせず、兄の手ばかり心配していた。兄のギブスのついた腕を見てニコニコ笑っていた。
今は大量の猫の生首に見つめられながら祈りを捧げている。おかしい、絶対におかしい。
いくら母親とはいえ、ここまでおかしいとわかったら見逃すわけにはいかない。警察、はさすがに可哀想だけれど、その手の病院に連れて行くべきだろう。
内科ならいいところを知っているけれど、精神科なんて聞いたこともない。いったい私はどうしたら……。
私はお月見なんてする心の余裕なんてなく、電話帳を探しながらオロオロしていた。
…………
この人間はおかしい。
大量の動物の首と血を贄に捧げ、満月に祈りを捧げる。珍しく正しい悪魔召喚をしている者を見つけたからその様子を確認してみれば、どう考えてもおかしい。
召喚主の心の中を読んでみると「兄が普通になりますように」という願いが占めていた。別にそれは構わないのだが、この兄は妹に依存しているようだった。
悪魔への願いの対価は契約者の魂である。妹が死んだらこの兄は普通に発狂すると思うのだが、それはいいのだろうか? よくわからない。
……まあ、いいか。儀式は正しいものだし、願いを聞き入れるのは私の役目だし、願いを叶えた後の結果は私の知るところではない。望みを叶えてやろう。
ああ、それにしても良い月だ。あの供え物も美味しく食べられるだろう。仕事はさっさと終わらせるか。




